青の洞窟
青の洞窟
6千メートル級の山々が連なる帝国領の北に位置するノースランド山脈、この山を越えるには本格的な登山の装備が必要となる。
魔族ならば飛龍を使い飛び越すこともできなくはないが、それには魔族でさえかなりの覚悟が必要だと言う。
最近この山を越えたのは、先のエイジアル王国解放の際逃げ出したジオルクガイオウのみ。
但し彼はこの山を空間転移魔法を使用して越えたため、さほど苦労はしていない。
通常ならば港町にある転移魔法陣を使用して移動することもできるはずなのだが、今はすでに港町トローレが占領されている頃、そこに転移できたとしてもすぐにやられてしまうだろう。
ならばその手前の町に転移し向こうからやってくる敵を迎え打ち、しかる後に町を取り返すと言うのが一番被害を出さずに済む作戦だろう。
「では皆魔方陣の中に入って」アリスリア
「はーい」ラポーチ
「2陣は私が受け持つわ」ジャクライン
「3陣は私に任せて」コッテロール
「最後の部隊は私が送ります」宰相
総勢120人近くだがそれを4組に分け山岳都市アルパスまで転送する。
すでに向こうへは斥候が数名転移しており諜報活動を行っているが、その情報では港町トローレからの連絡が現在は途絶えていると言う話だった。
ラポーチとその仲間たち、さらには王直属の近衛兵を連れて山岳都市アルパスの転移魔法陣に移動する。
帝都から北に千キロ近く離れた山々標高は最高で7千メートルを超える、一番低い山でも3千メートル。
そんな山々が目の前に何千キロメートルという壁の様に立ちはだかる、山々の中腹から上は白く雪で覆われている。
「これがノースランド山脈か…」ドーン
「宰相の話だと山脈の付け根から反対側に抜けられる洞窟があるってことだけど」アリスリア
「全長100kはある洞窟よ、途中ドワーフの町があるわ」ジャクライン
「魔族もあちらから攻めてくる可能性があるわね」コッテロール
【100kもあればそうたやすく行軍できないと思うがな】ボルケール
青の洞窟、直線距離は128kだが当然のことながら中には坂もあり何本もの坑道が迷路のようになっている場所も含まれる。
先へ進むにはいくつかの分岐点を正しく選択する必要がある、間違えれば迷って何年も洞窟で過ごす可能性もある、実際迷路のような洞窟で10年近く出られずに過ごした者もいるのだから。
中にはドワーフの町が5つ以上あり、彼らは今も洞窟内で鉱物資源を得る為掘削作業中だと言う話だ。
「それが地図か?」ドーン
地図をのぞき込むドーン、その羊皮紙には細かい坑道ともともとあった洞窟の道が書き込まれている、町の位置も書かれてはいるが地図に書かれた道の線は黒いインクだけではなく時折赤いインクや青いインクも使われている。
しかも何かの魔法陣が書かれている為、一目でこの地図が魔法の地図だと分る。
「色違いの線はおそらく階層を表しているのでは」マーベル
「そうみたいね」コッテロール
山岳都市につくとすぐに町の調査をしていた斥候がやってきて、最新の現状を教えてくれた。
「ではまだ洞窟は使えるのね」アリスリア
「はい、警備兵の話だとまだ向こう側に一番近い街には魔族の兵は来ていないそうです」斥候
「ならば早く用意して洞窟に入った方が良いな」ドーン
「そうだね」レドラ
「よし行こう!」ラポーチ
「ちょいまち、まだ用意しないといけないものがあるわ」アリスリア
洞窟の中を100k以上旅をするのだ、手ぶらで進めるわけがない。
兵士たちはすでに洞窟行軍の用意でこの町にある軍の施設へと足を運んでいる、ラポーチ達はこの町で同じように行軍の用意をしなければならない。
食料やキャンプ用品はこの町でも手にはいるがラポーチ達の人数だけでもかなりの量になる。
保存食はこの時代固焼きパンや肉の干物などになるが、他にも塩や砂糖などの購入もしておきたいところだ。
勿論持ち運ぶための背負子も手に入れなければならない。
最初の洞窟都市までは12k、だがその町では食料を手に入れることはできないと言う。
一行はアルパス市内にある雑貨屋に足を運んだ。
「いらっしぃませ」店主
「背負子はあるか?」
「はいこちらに」
見ると壁一面に様々な形をした背負子がかけられている、ズタ袋のようなただ紐でくくった袋から、本格的な木製の背負子まで。
大きさも様々で、一応全員分を用意することになった、まさか荷運びのため人を雇うわけにはいかないと思っていたが、店主からこの町で決められている規則を聞くことになった。
「ええそうです、ご自分で荷物を運ぶこともできますが必ずこの町の運搬夫を雇わないといけないのですよ」
「それは一人でもいいのか?」ドーン
「通常5人に一人ですがストレージ持ちならば一人でも良いみたいですよ」店主
ストレージ持ち、いわゆる空間収納魔法による荷物入れを持っている者の事を言う。
誰でも使えるわけでは無いが、ストレージ持ちが一人いれば大抵のキャラバンはたくさんの荷物を持ち歩かないで済む。
但し信用できる人夫を探さないと、裏切られて中身ごとドロンされてしまう事もある。
「それはどこかで紹介してくれるのかしら」アリスリア
「この町の人足紹介所で頼めますよ」
「ならば旅の買い物をする前に荷運び人を雇ってからの方が良いと思うが」
「そうしましょう」アリスリア
一行は雑貨屋を後にして、先に人足紹介所へと行く事にした。
町の中ほどまで進み、役所や宿屋の多い地区へと入っていく、すると正面右側に数軒の人足紹介所が見えて来た。




