ボルケール対アルダリオ
ボルケール対アルダリオ
食糧庫からキッチンへと続く通路は石作りで、ひんやりとしていたがそこへものすごい異臭が漂ってくる。
「なんだこの臭いは…」
「お鼻が曲がる~」ラポーチ
通路へ出たとたんラポーチに異変が、あまりにも臭い空気に頭痛がしだしたようだ。
「大丈夫か?」
「あたいの背中につかまりな」
そういうとレドラは少ししゃがみラポーチを背中におんぶすることにした。
「お姉ちゃんありがとう、クシュン!」
「いいってこと、それよりこの臭いはなんだい」
「これは魔人アルダリオ」ジャクライン
「怪獣と言われている魔族か?」ドーン
「まさか奴らまで帝城に来てるとはね」
「やばい相手か?」
「ふつうの人族では相手にならないわ」
【わしの出番か?】
「え~今度はアタイの出番かと思ったのに…」
「この臭いに耐えられるならなんとかなるかも」ジャクライン
「もしかして近寄るとさらに臭いがきつくなる?」
「多分耐えられないわよ」
臭いも度を過ぎれば毒ガスのようなものだ、中にはせき込んだり涙が止まらなくなったりする、そんな臭いもこの世には存在する。
相手の体臭も食べ物によって違ったりするため、体臭でその人の食生活までわかる場合もある。
レドラにも多分この臭いは耐えられないだろう、背中に背負ったラポーチはすでに気を失っていたりする、彼女の唯一の弱点かもしれない。
ボルケールを先頭に食糧庫から厨房へと進むと、そこには一仕事終えたとばかりに料理長が椅子に腰かけていた。
「なんだお前ら、ここはキッチンだ出ていけ!」
【おおそうしたいところだが、うまそうなにおいがするなもう作らないのか?】
「なんだあんたら」
「私らは勇者一行さ」レドラ
「へ?」
「本日帝王をやっつけに参りました」マーベル
「??おお~、で黙っていればいいのか?」
「あんた話が分かるね」レドラ
「手向かわなければ何もしないよ」アリスリア
「じゃあさっさと行ってくれ、どうせこの臭いだ俺の仕事は無いからな」料理長
「少し暴れるが、まあ気にしないでくれ」ドーン
【大丈夫すぐ終わる】
厨房から食堂へ出ると一人残った給仕はただならぬ気配に気付き、どこかへと消えていく。
そして食堂には魔人アルダリオだけが残った。
そこへボルケールが近寄って行く、その間に他の仲間は次の通路へと進んでいく、そしてボルケールは一人テーブルに向け座っているフルプレートを着たアルダリオに近寄ると話しかけた。
【旨いか?】
ボルケールが声をかけると魔人アルダリオがその兜から覗く4ツ目で目の前に立つ人物を眺める。
「誰だお前?」
【俺の名は竜王ボルケール】
「ああエイジアルに派遣された竜族か?それが何でここにいる?」
【きまっておろう、取り返しに来たんだよ】
「取り返す?何を」
【虹の王卵だ】
「それは無理だ、俺が許さない」
【そうか、では仕方ない】
グオー
それはボルケールの変身の合図、人型から竜人型へと変身すると身長が1・5倍になり顔もトカゲのように口が裂けていく。
「フン、食後の運動にちょうど良いか」
椅子が乱暴に引き倒され、テーブルに置いた手が一気に振り下ろされると分厚い一枚板のテーブルがたやすく折れ曲がる。
バキバキ
そしておもむろに力比べが始まるとフルプレートが徐々にひしゃげていく。
【柔いな】
「フルプレートは私の着物にすぎぬ、壊されたとして何の問題もない」
バキン ガキン
殴り合いが始まるが、ボルケールには傷も何もつかないが相手の魔人アルダリオのフルプレートは徐々にベコベコに凹んで行き、ついに体から崩れ落ちていく。
その中からは真っ黒い蛇腹が現れ背には昆虫の羽のようなものが現れた。
今度はアルダリオの兜が吹き飛ぶとその瞬間、彼の口からは針のような食管が飛び出してきた。
ビシュ!
【そんなものでわしの体に穴は開かぬぞ】
「ふふ、ではこれでどうだ?」
その管の先から今度は液体が噴出した、強酸性の液体だった。
瞬時にボルケールの皮膚から焼けるような硫黄臭が漂う。
【消化液か、甘いな】
竜人に変身した体でも再生能力は失わない、焼けただれた皮膚はすぐに再生していく、全身に強酸性の液をかぶればある程度のダメージを受けるが、少しぐらいなら何の問題もない。
だがアルダリオの着ている甲冑の意味はそこではない、そう彼は一応魔人でありながら戦士であり剣を持っている。
そして今まで出さなかった3つ目と4つ目の腕からは剣が抜かれると、ボルケールに向かって振るわれる。
ビシュザシュ!
とっさに腕を出し剣をよけるが、その斬撃はボルケールの腕に刻まれた。
【浅い】
「ほう、ならばこうだ」
いつの間にかその手全部に剣を持ち、アルダリオはボルケールに向かっていく。
食堂とはいえ彼らが戦うにはやはり狭かった、時に壁に穴をあけ天井にあった灯りも無残に壊されて行く。
わずかに残る壁のかがり火がゆらゆらと揺れながら2人の戦いに影を作る。
厄介な相手だった、力はボルケールの方が勝るが手数はアルダリオの方が上だった、4本の腕から振るわれる剣をよけるのは至難の業だ。
ボルケールの腕にある硬い鱗状の皮膚でもその剣を受ける度に血が噴き出してしまう。
いくら再生能力が有ろうとも徐々に失う血液は戻らない。
同じ場所を何度も剣で傷つけられればその痕は深くなって行く。
【グウ】
「まだ音を上げるなよ」
【何のこれしき】
そう言うとボルケールは床に転がるテーブルの足を手に取り、アルダリオの剣を受け流す。
「なんだ、剣も使えるのか」
【見様見真似だ、何年生きてると思っている】
「さすが年寄り」
【ぬかせ!】
竜族の戦い方は前にも書いた通り肉弾戦が80%だがそれは全く変身していない竜の姿の場合に限る。
わざわざ竜人型になったのに道具を使わないことは無いし、彼はそれほどバカではない。
今までには剣士や槍術士とも戦ったことはある、自らの肉体が強いためにほぼ相手の剣をそのまま皮膚で受けることが多いボルケールだが。
同じ剣を持って戦った場合彼には少々小さいのだ、彼の手に合う剣などドーンが持つ聖剣のような大剣ぐらいなければ意味がない、だが過去に木の棒を持って戦っていた時のことを思い出した。
材質は黒魔壇か又は鉄硬樫の木から作られる混棒は剣さえしのぐと言われている。
その棍棒を手に戦った時の事を思い出す、その時は相手の剣さえこの身に浴びることなく相手に勝つことができた。
今その棍棒と同じ武器は無く、あるのはテーブルの脚が数本、太さは棍棒の数倍だが持てば中々しっくりくる。
そしてボルケールはその棒を両手に取りアルダリオの剣をさばきながら、剣を折る術を思い出す。
(確か相手の剣を受けたまま交差するように…)
不用意に出したアルダリオの剣を受け流しながら木の棒は相手の剣を上下から挟み込んだ。
「何!」
バキン
ついに捉えた相手の剣を木の棒で挟み込みその膂力で思いっきり捻ると、アルダリオの持つ剣が中ほどからぽっきりと折れた。
「ふん!まだ3本ある」
だがすぐに2本目が同じように折られると、そこからはボルケールの棒術の方が上回っていく。
剣で切られるよりも魔人アルダリオの体は鈍器でやられる方がダメージが大きかった。
徐々に木の棒がアルダリオにヒットしていく、その数が増え始めると剣の動きがどんどん落ちて行き、終いには先ほどとは攻守が真逆になりとうとう立場が入れ替わった。
【腕が上がらんか】
「クッ!」
剣を使っている間はアルダリオも強酸液を吐くことができない、剣まで溶けてしまうからだ。
しかも木の棒にはあまり効果がない、木は表面が少し焼けるぐらいで特に今ボルケールが持つ棒は太すぎる。
【さあこれでどうだ】
ドンッドンッバキン!
続けざまに太い棒がアルダリオの顔面や肩に叩き込まれる、まだ兜をかぶっていれば少しは抵抗できたのだろうが、生身に振り下ろされた太い棍棒はアルダリオの脳天を直撃した。
「が~~~」
バタン
【ようやく倒せた】
「あら、私がいないのにやるじゃない」ジャクライン
あまりの臭さにジャクラインは食堂の入口の影から覗いていたが、食堂入口の影からでは正確に味方へバフを掛けられないため隙を窺っていたのだが、その前に勝負はついてしまったようだ。
負けたアルダリオは首から上が胴体の中へと陥没し片方の肩はこそげ落ちていた。
「もしかして棒術、向いてるんじゃない?」
【そうか?とっさだったからな】
「さあ傷を治しちゃいましょう、ヒーリング」
どうやら食堂にはジャクラインだけが待っていたようだ、後の5人はすでに先へと進んでいた。




