ドーン対氷狼
ドーン対氷狼
魔族が呼び出したのはフェンリルではなくその下位魔物である氷狼、その姿はフェンリルとほぼ同じようだが大きさは5分の1ほど、魔族の魔法力がフェンリルそのものを呼び出すには足りなかったようだ。
だがそれでも巨人族のドーンと比べて2倍ほどの大きさがある、時折襲い掛かってはすぐに離れる、まるでこちらの能力を測っているかのように。
「なかなか素早いな」
「ガアウ」
「こちらの言葉が分かるのか」
「ハッハッハッ」
まるでこちらの言葉が分かるかのようにじっと見てはその牙を見せてよだれを垂らす。
対するドーンはすでに背中から剣を抜いて構えているのだが、素早く動き回る氷狼に対して決め手に欠けるようだ。
数回氷狼の胴体にその大剣を叩き込んだのだがまるで刃が滑るように躱されている。
しかも必ず凍らされると言うおまけがつくのだ。
だがドーンが持つのは聖剣ブレイブロック、ラポーチが最初に作った聖剣でありその力はいまだ未知数だ。
普通なら氷狼に少しでも触れれば体まで凍り付くはずなのだが、凍らされたのはわずかに刃先のみ、ドーンの体には何の影響も出ていないようだ。
だから氷狼もうかつに近付けないでいるのだ、もしむやみに近寄って弱点を突かれたなら氷狼もただでは済まない。
呼び出した魔族は社の前で杖を両手で持ち片膝を着き呪文を唱えている、彼女の頭には氷狼から念話が届いていた。
召喚魔法には呼び出した魔物によりその数や大きさそしてエレメント別に魔力の使用量や使用方法が異なる。
呼び出した魔物の大きさ、そしてクラスさらにエレメントの種別(地水風火雷氷光闇聖無冥神など)で分かれている。
氷狼を召喚するにはまず呼び出すのに100MP、さらに1分10MPを消費する。
術者のMPに依存するのだ、この魔族の召喚師が持つMP容量は500MP、呼び出しに100MP使用したので400MPがあるのだがすでに10分が経ち現在は300MPが残されている。
これならまだ余裕だと思うのだが、呼び出された魔物が帰る時に又100MP必要になるのだ。
現実には100MP残っていないと魔力の枯渇現象で気絶してしまうからだが、この計算だと後20分で氷狼はその召喚期限が切れてしまう。
だから術者は集中して魔力の使用量を抑えている、それに相手がドーンと言う事で聖剣の所有者が相手、普通の相手ならすでに片が付いているはずが、ここまで手こずるとは思ってもみなかった。
【どうするのだ、このままだと我は勝てぬが返答はいかに?】氷狼
(もう一体呼ぶか、いやそうすれば4分で方を付けなければその後は何も召喚できなくなる)
氷狼2体を始めから召喚することは彼女でも難しい、だから時間差で呼ぶことを考えたがすでにその時間を過ぎている、今現在で呼べる魔物はせいぜい通常の魔狼だ。
通常の魔狼ならば1体10MPでありその後にかかるMPは必要無い、要するに氷狼は魔法を使える魔物だから召喚後もMPを必要とするが、そうでなければ召喚時に使うMP以外は消費しない。
魔族の考えはすでに詰んでいた、通常の魔狼を召喚した場合ドーンの持つ聖剣に太刀打ちできない、氷狼の攻撃時に牽制としてならば使えなくもないが、それだと今度は逃げる時に使う魔力が枯渇してしまう。
そうこの魔族はやられる前にこの場から逃げることを考えていた。
自分の後ろには帝城へ行く魔法陣があるのだ、最後の手段として帝城へと転移魔法を使って逃げることができれば自分だけでも助かる可能性がある。
転移魔法に使われるMPは一人50MP、逃げることを考えると魔狼を呼ぶことはできない。
MP回復ポーションは持ってはいるが、最下級の物で使用してもすぐに回復するわけでは無く1分で10MPと言う品物だ、彼女はそれらを目を閉じ集中しながら考えていた。
(もう打つ手がない、ケチりすぎた付けかも)
考えている間にも刻々と時間は過ぎていく。
ついに氷狼はドーンのすきを突き斜め後ろからとびかかった。
「ガウッ!」
坂道をうまく使い本来ならば剣の軌道上になるはずがはるかに上へと飛ぶ氷狼、そして着地すると同時に今まで使用しなかったブレスを吐く。
「ヒューー」
地面は凍り付き必然的にドーンは足を滑らせ片膝を着き半身の状態で氷狼の攻撃を受けることに。
だがその時聖剣ブレイブロックが光りだした。
「シュワワワー」
聖剣が与えたのは冷気を撥ね退ける太陽の力、凍り付いた足はいつの間にか解き放たれ、全身に力がみなぎっていく。
そこへチャンスと見てとびかかる氷狼、だがわずかに早く氷から解放されたドーンの聖剣が迎え撃つ。
ザシュ!
「キャウ~」
氷狼は頭から真っ二つにされ、氷のかけらとなってはじけ飛んだ。
そして同時に魔術師の魔力が残り100MPとなった。




