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ジャクラインとボルケール

ジャクラインとボルケール


いっぽうレドラとジャクラインそしてボルケールは苦戦していた。


「あの部屋はトラップだって言ったでしょー」

【そんなこと聞いてはおらんぞ】

「またそんなこと言って、この先どうすんのよ」ジャクライン

「まあまあ2人ともおちついて」


逃げる最中に見つけた扉を片っ端から壊していくボルケール、最初の部屋は奴隷部屋だったが、次の部屋は倉庫だった。

中には少しお宝もあったため時間は少し食ったが、お宝に目がないボルケールは調子に乗り次々と扉を壊していく、だがその中の一つの部屋はいわゆるトラップ部屋。

持って来た地図にもドクロ印があったため開ける前にジャクラインが止めたのだが、言う事を聞かないボルケールのせいでトラップ発動、部屋の中から現れたのは最弱ではあるが最も面倒なクラスタースライムが出てきた。

そのスライムは敵を確認すると自ら爆裂し小さな粒を敵に付着させ衣服を食べつくすと言う。


「どうすんのよこれ~」


すぐにジャクラインが水魔法で洗い流したが着ていた服は穴だらけ、3人は大事なところ以外の着物はほぼ溶かされてしまっていた。


「まあ仕方ないよ、あたいは特に気にしないから」レドラ


いつも乳バンドと腰巻で過ごしているレドラにとってはさほど影響がないと言えばその通りだが。

ジャクラインが着ていたのは先日手に入れた少々お高い着物だった、こういう役得でもなければ魔王の命令など聞いてはいられないと、地位を利用して少し散財していたのだが。

それが相棒のせいで水の泡になったのだ、ボルケールももとはと言えば裸族系のため、変身してはいても服などいらないと思っている竜人族。


「又服をかわないといけないじゃない」

【分かったお宝で着るものを買う、それでいいじゃろ】

「もう、絶対よ!」


そんなおおよそ戦いとは程遠い会話をしながらも、次の扉付き部屋が目の前に現れた。


「今度はあたいが開くよ」

「ちょっと待って、扉に魔法がかかっているわ」


よく見ると取っ手の鉄輪が淡く輝いている。


「看破!」


ジャクラインが魔法を唱える。


「どうやら麻痺の魔法が掛けられているようね」

【わしが蹴破った方が早いじゃろう】

「良いわ、やって」

バギャン!


壊された扉が埃をたてる、部屋の中には人とは思えない容姿をした魔族が一人。

その性別などは黒い霧のような靄に邪魔されてわからなかった。


「ようやく来たか」

「転送部屋で話してたやつだね」レドラ

「おおよくわかったな、その通りだ」魔術師

「それで床の魔法陣は次の町へ行くやつよね」

「それはどうだろうか?」

「まあ素直に話すわけはないわよね」

「知ったところでお前たちはここまでだからな」

【わしがお前にやられると?】

「3人まとめてな」

「それじゃあたいから行くかね」

「最初はデカ女からか」


部屋はそこそこ広いが魔法陣が書かれた床は石でできている。

男がいる場所には椅子が置かれており、横には木製のテーブルもあった。

テーブルの上にはオイルランプが置かれ、そこにはペンとインクそして謎の石が置かれている。

レドラがこぶしを合わせてその魔術師に襲い掛かかろうと近づくと、それは突然目の前に現れた。


「なんだ!」

「カカカカ」


目の前に現れたのは骸骨、それも1体ではなく5体。


「死霊術師か」

「そう呼ばれて久しいがな」


骸骨は手に剣や盾を持ち向かってくるが、骸骨相手にレドラがひるむわけがない。

向かってくる骸骨に対し聖拳をたたきつける。


ガキャンバキャン!

「おお~やはり打撃にはこっちか」


死霊術師は次にレイスを呼び出した、いくら聖拳でも実体のない幽霊では攻撃ができないと踏んだのだ。

さらに死霊術師は魔法を唱える、今度は床から黒い手が出てきてレドラの体にまとわりつく。


「なんだこりゃ」

「まずいわ」


黒い手はボルケールとジャクラインの方へも向ってくる。


【フンッ!】


ボルケールはもうじっとしていられなかった、先ほどの失態から少し遠慮気味に行動していたが。

目の前の仲間が敵に翻弄されているのを見て、気持ちを抑えておくことができなくなったのだ。


【わしも戦う】

「いいわ私も援護する」


そういうとジャクラインが補助魔法をかけていく。


「プロテクション、リジェネレーション、パワーアシスト、レジスト」


さすがに血の魔女と言われたことはある、全ての魔法を短縮詠唱で掛けていく。

ボルケールの体が魔法の力で淡く光りだす。

呪縛魔法で身動きを封じられたレドラの横から骸骨戦士を叩き壊していく。


バギャンゴギャン!


だがレイスにはやはりそのこぶしや爪は傷一つとして付けることができなかった。

まるで空気を相手にしているようだ、だがレイスがこちらに触れる度に腕が足が凍り付くように動かなくなって行く。

レジストの魔法もレイス相手だとその力は半減するようだ。


【くそっ動かない】

「仕方がないやるしかないか」レドラ


そう言うとレドラは拳を合わせ意識を集中する、すでに骸骨戦士は叩き壊され目の前にはレイスが4体、そして死霊術師は追加の呪文を唱える。

現れたのはオークゾンビ、しかも大きさはレドラを超えていた。

オークゾンビが迫ってくる、このままだと2人共にやられてしまう。


【くっ!なぜ動かん】

「よしこれでどうだ!」


レドラの聖拳が光り輝く、そして今まで動かなかった足からようやく呪縛が解けてきた。


「これで終いだ!」

ブオン!


今まで空を切っていた拳がレイスに叩き込まれると、その光に飲まれ次々に消えていく。


「なんだと!だがこいつはそう簡単にやられないぞ」

「言ってロ!」

「ブフォーー」


今度はオークゾンビとレドラが衝突する、ようやくボルケールも呪縛を解除し何とか重い足を動かす。


【わしの出番が】


目の前ではオークゾンビの体にたたきつける聖拳が見える、その瞬間こぶしを中心に肉の塊が爆ぜる。


「ブフォー」

「くそっ・これは最後に置いておきたかったが、仕方ないお前たちはこれでおしまいだ、いでよ地獄の魔物よわが敵を滅ぼしたまえ」


死霊術師は奥の手を使った、呼び出されたのは地獄の支配者、だが今度の魔法はそんな生易しいものではなかった。

その形は悪魔そのもの、だがその禍々しい魂は呼び出した本人へと向かっていく。


(呼び出したのはお前か)

(そうだ私だ)

(願いを言え)

(そこにいる敵を滅ぼしてくれ)

(たやすい願いだ、では対価としてお前の魂をいただこう)

(な なんだと!それは違う生贄はそこにいる奴らだ)

(愚かな)

(うお~やめてくれ~)


死霊術師の体はみるみる闇に飲まれていく、死霊術師の顔はまるで声にならない叫びをあげているかの様、すべてが闇に飲まれると徐々に変化していく。

その姿は魔物の王としか言えない姿へと変化していた、黒い靄が収まると角を生やした魔族の王が姿を現す。


「あらら懐かしい顔だわね」

【呼び出されたのはジオルクか!】


死霊術師は自らを犠牲にして先々代の魔王ジオルク・ガイオウその魂を呼び出したらしい。


(グアオ~世の下に膝まづけ)


その雄たけびは普通の人ならば立ち上がることなど出来ないぐらいの恐怖を植え付けるが、目の前にいるのは聖拳の保有者と竜王、そして血の魔女ジャクライン。

3人は恐れることなどない、だがその姿を見てボルケールが興奮を隠せない。


【今度は俺が相手する】

「まずいわいったん離れましょう」

「え?」


そう言うとジャクラインはレドラの手を取り部屋の入口へと引っ張る。

訳も分からずジャクラインの跡を追うレドラ、だがその意味が数秒して分かった。

そう普段変身魔法で人サイズになっていた竜王ボルケールが変身を解いたのだ、その姿は全長20メートル以上はある火竜であり。

狭い石作りの部屋などにその大きさが収まるはずもなく音を立てて崩れだす。


ガラガラ ゴン ドン…


(貴様はボルケール)

【久しいな魔王ジオルク】

(まだ生きていたのか)

【当然だ】

(だがその姿、そうかまだ新たな竜王は生まれていないようだな)

【貴様こそ先代の魔王にまんまとやられて死んだと聞いたぞ】

(やられたわけではない、自ら魔法をかけたのだいつでも蘇られるようにな)


先々代の魔王ジオルク・ガイオウは表向きには死んだことになっているのだが、どうやらそれは彼の思惑だったようだ。

魔族の魔法には転生魔法と同じような呪いの魔法も存在する、自分の魂を封印して配下の魔族にいつかよみがえらせてくれるように頼んでおいたのだ。

そうすることで再生後はより長生きをすることができ魔力も上げられると言う。

但しそれが今なのかと言うとどうやら違うらしい、予定だと封印してから500年後にこの世に復活する予定だったはずなのだが。


【おぬし早まったな】

(まあ少し違っただけだ、だが仇敵が目の前にいるとはなかなかこの場面は楽しめそうだ)

【もう一度あの世に送ってやる】

(お前にできるかトカゲの王よ)

【ぬかせ!】

ズガン!ドシン!


変身後の大きな体を数回揺さぶり狭い瓦礫の中から這い出ると、蘇った魔王めがけて突進し前足で踏みつぶそうとするが、魔王ジオルグは軽々受け止める。

だがボルケールはそこから自分の特性である炎のブレスを魔王に吹きかける。


グオ~~~

(ぐっ…)


転生してすぐの体ではボルケールのブレスをまともに受けるには負担が大きかったようだ、焼けただれた皮膚は徐々に回復はすれど、次の攻撃を受けるには少々きつかった。


ドシン!

(うおっ!)

バキン!


その重さを受け止めたとたん焼けただれた腕はその重さに耐えきれず骨が折れてしまった、そして魔王は急遽魔法で弾き返そうとする。


【どうだ!】

(まだ早いか、重力反転グラビディリバース)

【うおっ】


10トン以上もありそうなボルケールの体、魔王が魔法を唱えたとたんに浮き上がる。


(分が悪そうだ、ここはひとまず仕切り直すとしよう)

【なんだと!】

(またいずれ相まみえようぞトカゲの王)


そういうと黒い靄をまとい空へと舞い上がる、いつの間にかそこには瓦礫だけが残っていた。

少し離れた場所から成り行きを見ていたジャクラインとレドラがボルケールに近づく。


【くそう 逃げられたか】

「まさかここでジオルクが出てくるなんて」

【済まぬ】

「仕方がないわ、それにいい機会じゃない、虹の王卵を取り返したら次は」

【そのようだな】

「あ~お取込み中すまないけど、いつまでもここにいるのはまずいんじゃない」

【そうだな、メタモルフォーゼタイプヒューマン、わが姿を人族へ変えよ】


壊されて瓦礫となった砦の一部は50メートル四方にも及んだ、砦の真ん中に位置する部屋と回廊は無残な姿に。

だがそんな状況になっても帝国の兵士が集まってくる。


「いたぞー」


一応3人共に無傷だが衣服はボロボロ、レドラは良いとしてジャクラインはかなりきわどい恰好をしていた。

まあ走るには前より楽な恰好ではあるのだが、御年2千歳とは誰も思わないだろう。


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