死神エドゥー
死神エドゥー
砦は山に囲まれた渓谷に作られていた、何千個と言う石を積み上げて作られた石垣を幾重にもつなげては道を作り内部は迷路のように通路を作ってあった、数メートル進むと部屋のような空間があり。
多くの場合扉は作られておらず、確認するのはさほど難しくはなかった。
最初の転移魔法陣があった部屋には扉があったので、多分大切な部屋には扉を設けてあるのだろう。
移動する先々で部屋のような空間には帝国兵や奴隷兵もいたが、歯向かってくるのは帝国兵のみ、奴隷兵は指揮官の命令がないと攻撃してこない為手出しはしないはずだったのだが。
新米聖女のラポーチは片っ端から奴隷兵の腕に刻まれた奴隷紋を消し去っていく。
「じゃあ消しちゃうね」
「あ ありがとうございます聖女様!」
「全くあんたって」
奴隷紋を消され解放された奴隷兵たちはラポーチに一礼するとすぐに部屋の外へと走っていく。
武器は持たされていないがラポーチのおかげで足枷を外されると礼を言ってその場から立ち去る彼ら。
「早くしないとどんどん帝国兵が集まってくるぞ」
「う~だってかわいそうでしょ」
「聖女様大丈夫です、彼らは逃げるだけではないはずです」
そうすでに解放した奴隷兵は10人を超す、逃げて行く時に転がっている帝国兵から剣や盾を手にドーンたちとは反対側に逃げ出したので、追っ手は彼らが対応してくれるだろう。
それからは背後から近寄る敵はなくなっていた、まさか逃げながら味方を作り出すことができるとは思ってもみなかったうれしい誤算だが。
この先にある転移魔法陣の部屋ではそうも行かないだろう、だが誰が立ちはだかろうともその先へと進まない訳にはいかない。
いくつかの部屋を過ぎて、ようやく扉のある部屋へとたどり着く、果たしてそこは目的の部屋なのだろうか。
「ここか?」ドーン
「待って中に人が4人いるよ」ラポーチ
砦の地図ではやや大きめの部屋だと言う事しかわからない、ラポーチは得意の鼻と心眼を使い中を探ってみる。
「3人は女の人で奴隷かも、一人は男の人だよ」
「どんな奴かまでは分からないのか?」
「男の人は変な感じがする、もやがかかったように何を考えてるのかわからないけど、危険な匂いがするよ」
「まあやるしかないな、少し下がっていてくれ」
そういうとドーンは目の前にある扉を足で蹴り壊した。
「バゴン!」
扉に付着していた埃がブワッとあたりに広がる、部屋の中にはうっすらと灯りが燈っていた。
「やっと来たか」
そこには奴隷と思しき女性をはべらせたイケメンの男性がベッドに腰掛けていた。
そしてその床には少し大きめの転移魔法陣が書かれていた。
男はゆっくりと腰を起こしベッドから立ち上がる、その上半身は裸なのだが皮膚にはいたるところに魔法札のような刺青が書かれていた。
髪は金髪だが目は赤く下半身には皮の腰当てだけ、この男が死神なのだろうか?
「誰だお前は?」
「それを聞くのはこちらだと思うがな」
「俺はドーンボルカノだ」
「俺の名はラファエラ・エドゥー、死神とか言われているけど一応神官騎士だ」
そう言われてみれば彼の胸には十字架の刺青が彫ってある、但しそれ以外は悪魔のような刺青や骸骨のような刺青や呪文が彫られており、その刺青自体も何らかの魔法がかけられている事は一目で分かった。
「神官騎士がなんでここにいるんだ?」
「ここに神の名を騙った悪魔の使いが来ると聞いたのでね」
「どっちが悪魔の使いだ、見た目ならお前の方が悪魔っぽいがな」
「俺の顔を見てそういったのはお前が初めてだ、まあ男に何を言われてもなんとも思わないがな」
「それでどうするんだ?」
「もちろん男は退場してもらう、女性とはゆっくりと語りあうのが俺の流儀だ」
「何言ってんだお前」
「と言う事で男には消えてもらう」
「そうか、なら戦うためにいるってことでいいのか?」
「もちろん、まずはお前からな」
ベッドの上には裸で寝そべる3人の女性、その様子から今まで何をしていたのかはおおよその想像がつく。
ラポーチは興味深そうに匂いを嗅いでいる、そして頬を赤らめるがそれを見てドーンはラポーチの目を覆う。
「ラポーチ、お前にはまだ早い」
「え~どうして?」
「う、それは…」
「聖女様あの男は人間ではありませんよ、その証拠にあの入れ墨そして女性を眠らせてぞんざいに扱うなど聖職者と言うのも嘘です」
「そうなの?じゃああの子たちは魔物にやられちゃったのね」
「はい聖女様はそうならないように気を付けてください、私もお守りしますので」
「おいおい、勝手なこと言うね~、それに聖女だって?ふ~ん面白そうだな俺が勝ったら味見でもさせてもらうかな」
「誰が勝つって?お前は負け決定だ!」
「なんだ、でかいだけしか能がない奴に負けるわけないだろ」
「ちょっと待ってドーンは下がっててくれない」アリスリア
今まで目の前の男の裸に目をやられ、黙って見ていたアリスリア。
彼女はいまだにそういう経験もないのだが、だからと言って興味がないわけでもない。
ただじゃじゃ馬な彼女に釣り合う男がいなかっただけだ。
何故かこの男には自分が相手した方が良いようなそんな気がしてドーンを下がらせた。
「お…おう」
「勝手なこと言ってるのはそっちの方、誰が負けるって?」
「なんだでかぶつじゃ負けるからって今度は女が出てくるのか?」
「このやろ~許さん」ドーン
「だ~か~ら、ごら勝手にゆでだこになってんじゃないわよ、誰が負けるって?あんたに決まってんだろ勘違いのイロキチ神官、何が死神だ」
「あ~おれは女とは戦わないと決めているんだけどな~」
「戦わないんじゃなくて女が怖くて戦えないんだろ、もしかしてそこの女たちも催眠術かなんかで操ってんじゃないのか?ん~?」
「…」
「本当なのか?」ドーン
「あららもしかして図星?」
「ゆ 許さんぞ、知られたんじゃ仕方ないお前ら全員俺の術の虜となれ!」
「なるか!」
「う うるさい、エクストラチャーム!」
だが、彼の魔法はラポーチの前では魔法にすらならなかった。
もちろん勇者となり聖槍を手にしたアリスリアも魅了系の魔法などかかるはずもなかった。
ちなみにマーベルもレジスト系の魔法を事前にかけてあり魅了系の魔法には耐性がある
「…今のは魔法か?」
「何故効かない?」
「え~とお前もしかして死神っていうのは魅了魔法で植え付けた嘘情報 はったりか?」
「どうして俺の魔法が…」
「聞いちゃいないか、あ~心配して損した、そいじゃ懲らしめますかね」アリスリア
シュシュシュズシュ!
「ぐあ~痛い~~」
「なんだ、武術の方はからっきし?」アリスリア
「神官だと言っただろう」
「いやそれでも騎士なら戦うだろう普通」ドーン
「お前もしかして魅了魔法のみで何とかなると思ったのか?」ドーン
「…」
「そうみたいね」
「いや 俺もあきれている」ドーン
「じゃさっさと奴隷にしちゃいましょ」アリスリア
死神エドゥーこと、はったり神官のエドゥーはその場でアリスリアの奴隷となりベッドで寝ていた奴隷の女性達はラポーチの願いにより解放された。
エドゥーの体に彫られた各種魔法効果のある刺青だが、多くは安全祈願や幸運のタトゥーであり、中には女性を虜にする効果があるタトゥーも含まれていた。
「まさか刺青まではったりとは」ドーン
「よく見ると骸骨がバラを咥えていますね」マーベル
「怖がって損した気分だわ」アリスリア
「魔族なのに弱すぎ」ラポーチ
「ぽーちゃんさっき魔族って言ったのは言葉のあやよ」
「どういうこと?」
「彼はそのぐらい嘘つきだっていう事」
「そうなんだ、でもそうしないと女の子に相手にされないってこと?」
「そういう事」
「聖女様簡単に人を信用してはいけません、その男はその典型的な例です」
奴隷から解放された女性たちには服を着せて、逃げ道を教えてあげることに。
彼女らはお礼を言うとすぐに立ち去って行った、この砦から外に出るとエイジアル王国までは少し歩かなければならないが、まだ帝国には王国が裏切ったことは伝わっていないため、近くの村へ逃げ込めば何とか助かる道もあるだろう。
そこからは自分たちの力で生き抜くしかない、連れて行くには危険が大きすぎるからだ。




