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奇跡

奇跡


聖女たちの作戦会議から2日目、本格的に作戦が動き出す、まずは魔法陣の作成。

奴隷化した魔族に命令し帝国内へと侵入する魔法陣を作成する。

この作戦に参加するのはドーン・レドラ・アリスリア・ラポーチ・ジャクライン・ボルケールそしてマーベル。


「どうしてもついてくるのね」

「聖女様が行くのならば私が必要です」


王城が奪還された次の日、一度アリスリアはバラン領アルミナス市へと戻ることになった。

領主が不在の状態を何日も作っては魔族に怪しまれると思ったからだ。

領主館には元秘書兼見張りだったマーベル姉妹がいた、留守の間彼女たちが対応してくれていたのだ。

そして領主に命令をしてマリアがこれからの計画を話すと、自分もついていくと言いはじめたのだった。


「う~ん困ったわ…」

「それならば一度聖女様ラポーチに聞いていただければと思います、聖女様が連れて行かないと言われればおとなしく言う事を聞きます」

「分かったわそうしましょう」


そしてマーベル姉妹を王城へ連れてきたのだが、案の定ラポーチは二つ返事でマーベルの参加をOKしたために彼女も連れて行くことになった、確かに伯爵について帝国へ何度も訪れていた彼女の土地勘は奴隷にした魔族に聞くより詳しく教えてくれる。

だが妹の方は体が治ったとはいえ病み上がりみたいなものだ、そのため妹のアスカはマリアルーナの側付きとしてトッツアレーラが教育係となり侍女の仕事を教えることになった。


「お姉さま、ご武運をお祈り申し上げます」

「あなたもしっかりやるのよ」

「はい」


王城奪還の知らせを受けやってきたのは仲間だけではない、もともと隠れていた爵位持ち達や兵士も沢山やってきた、そして辺境の魔族を退けた公爵もやってきたのだが。


「ラポーチちゃん、少し良いかしら」

「なあにお姉ちゃん」

「頼みがあるの」


それはこの日の朝に転移魔法陣で訪れたシュベリオール公爵の弟の事だった。

すぐにマリアは二人を城へと招き入れたのだが、彼の弟ショーンの姿を見て絶句した。

腕だけでなく両足の足首から下はどんな拷問を受けたのか、普通では考えが付かないぐらい無残に切り刻まれていたのだ。

そして顔はわずかに残る面影がようやくわかるぐらいに焼けただれ、胸には魔族の呪文により呪いまで受けていた。

すぐにマリアは魔法と自分のスキルを使い治療を試みてみたが、1割程度しか治療することができなかったのだ。


「時間が経ちすぎていて私には直すことができなかったの」


ベッドに寝かされた若者はマリアの幼馴染でありかつての恋人、それは20年前にさかのぼるブリタス聖王国へ嫁入りの話が出た時はお互いの気持ちを知っていても流れに逆らうことなど考えもしなかった。

王族と公爵家の次男、かなわぬ恋だったがお互いの幸せだけを祈っていた。


「彼を 彼を助けて!」

「分かったやってみる」


そしてラポーチはいつものように目の前に横たわるショーンを見ると、その腕と足に両手を掲げた、今までも何度かラポーチの力は見てきたが掲げられた両手はいつになく光を帯びていた。


「わが願いを聞き届けよこの者の未来に祝福をパーフェクトレストオール」


その言葉はラポーチの口から自然に出てきた、誰に教わったわけでもない。

だがその呪文は今まで誰も知らないものだった、完全治療いや元通りに戻すと言う意味だが 他の者では行う事はおろか唱えたとしても何も起きないで終わるだろう。

掲げた手の光が一層まぶしくショーンの体を覆うと同時に失われたはずの彼の腕が足がまるでもともとあったかのように再生していく。

いや再生なんて生易しいものではない、まるで何の怪我も欠損も無かったと思わせる。

目の前には完全な人の形を取り戻した幼馴染の姿がそこにあった。


「ショーン!」

「マリアルーナ!」


大人になり久しぶりに再会した2人はお互いを強く抱きしめあった、そしてラポーチや侍従のトッアレーラその他数人がそこにいるのもはばからず熱い接吻をしたのだ。

数人は顔を手で被うが指の隙間からしっかり見ていた。


ブチュ

(あ~)ラポーチ

(おいおい)兄

(姫様!)トッツイー涙


それはお互いの気持ちが抑えきれなくなった二人には仕方のないことだった。

何分そうしていただろう、多分5分以上は見せつけられたと思うが、ラポーチにはかなりの刺激を与えたと言わざるを得ない。

兄のカルマインもやれやれと言う風だがその顔は優しく微笑んでいた。

そして2人はようやく腕を離しお互いの体を見回す。


「本当に 本当に心配したのですよ」

「すまないこんな姿で君に会うとは思わなかったんだ」

「もう二度と心配かけないでくださいまし」

「それじゃ一生僕の側にいてくれないと約束できないよ」

「そ それは…」

「分かってる今は無理でもいつか一緒に暮らそう」


そしてまた抱き合う


「おいおい当分ここにいるから、その続きは又今度にしてくれ」

「ああすまない兄上」

「まあ わからなくもないからな」

「今のは?」

(今のは接吻と言うのよ)トッツイー

(なんで声を小さくして話すの?)

(恥ずかしいからよ)

(なんで?)

(なんでと言われても…)


ラポーチもキスのことを知らないわけでは無い、街を歩くと何度か見かける行為だが。

単純にあいさつの一種だとしか感じていなかった、生前の彼女ならばよく飼い主の顔を舐めまわしていたこともある、考えてみると唇を合わせることがそれほど不思議な行為だとは思えなかったからだ。

だが王女の心を読んでみるとそれだけでは無かったのだと考えを改めた、それにショーンの思いも知ることができたからだ。

ショーンの体はラポーチの願いの力で体は傷一つ残らず元に戻すことができたようだ、もちろん魔族に刻まれた呪いの魔法さえきれいさっぱりなくなっていた。


「ありがとう君のおかげだ」

「ううん私聖女だから当たり前の事なんでしょ」

「彼女は聖女になってまだ日が浅いみたいなのです」

「そうなんだ、でもお礼はちゃんとするからね」


その後も彼と同じようなけが人が数人訪れてその日は過ぎて行った。


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