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領主の館

領主の館


町の中央にそびえたつ領主館、高さは10メートルほどあり作りは洋館の様だが中は3階建て。

一階には数人の魔族が待機しており、領主である伯爵は2階の事務室にいた。


「そろそろお呼びがかかるころだな」

「はい御館様」マーベル

「早めに恭順を示したおかげでこの町も、さらに隣の町までわが配下にすることができた、全てお前の申し出のおかげだな」

「はい、御館様の幸せは私の幸せでございます」


マーベル・フォレスタは魔族ではない、この伯爵に昔から使える奴隷であり秘書だ。

彼女は幼いころ妹と二人村へやってきた奴隷商人につかまり売られてきたのだ。

それは15年前のこと当時12歳、妹はまだ6歳だった

伯爵は昔からゴッゾニア帝国とつながりがあった、それは奴隷の売買や珍しい宝石類への興味。

帝国では奴隷の売買を推奨している、傘下の国へ行き珍しい動物や奴隷を捕獲し帝国内で競売にかけるのだ。

マーベルはそうして伯爵に買われてきた、彼女は特異なスキルを持っていたそれはホークアイ、数キロ離れた場所からもそこに何があるのかわかるという能力。

そしてそのスキルが彼女の出自の理由でもある、そう彼女と妹はエルフという人種。


エルフ族はゴッゾニア帝国とエイジアル王国の間にある小さな国だ、今は帝国の傘下になっており、過酷な労働や搾取を強いられていると聞く、そういう意味では彼女ら姉妹は運が良かったと思われるが、それは違う 彼女が伯爵に恭順しなければ妹が殺されてしまいかねないという理由からだ。

彼女の妹は現在病気のため働くことができない、マーベルが妹の分まで働いて稼がなければいつか死んでしまうだろう。


「おうそうだこいつをやろう」

「何でございますか?」

「薬だ、なんでも治ると言う特効薬だぞ」

「ありがとうございます」

(本当に治るのかしら、妹の病状は悪化するばかり)

「それではお前は又見張りに付けこの町に変な輩が入ってこないようにな」

「はいかしこまりました」


町で一番豪奢な建物の屋上へ向かう、そこには物見やぐらのような屋根付きの見張り台が設けてあり。

そこがマーベルにとっての仕事場だ、伯爵が出かける時には同行するがこうして屋敷にいる間はマーベルが見張りにつく。


「私はエルフ族森の番人、今は御館様を守るのが仕事」


その手には簡素な弓が握られていた、作りはごく普通だが魔法が欠けられた弓だった。

作者はエルフ族の細工師、伯爵がオークションで競り落としたものだ。

だがその弓はエルフ以外が使用するとほとんど武器としての役に立たなかったからだ。

だがマーベルが射ると狙った獲物まで100発100中という魔法の弓。


「あの建物ね」

「屋根の上に見張りがいるよ」

「まずいわね」

「待っててお話してくる」


そういうとラポーチは走り出す、彼女のスキルで屋根の上にいる狩人の考えが分かったからだ。


(御館様の命を守るのよそれが一番、早く妹の病気を何とかしないと)


ラポーチはスキル俊足を使いあっという間に中央にある領主の館へとやってくる。

そして館の裏手から塀を上りだした。


「よいしょ」


マーベルには最初ラポーチの姿がネコか犬ぐらいにしか映っていなかった、まさか敵でもない動物をいたずらに弓でいるわけにもいかない。

だが館の壁を上ってくるのは、いつの間にか人に代わっていた。

ラポーチが登り切った時、ようやくそれが犬ではないことが分りマーベルは目をこすりながらも弓を構えたが、その時はすでに遅し。

ラポーチは物見台にいたマーベルへとびかかるとそのまま押し倒した。


バタン!

「お姉ちゃん攻撃しないで」

「攻撃したのはあなたでしょう」

「だってそうしないと遠くから弓で攻撃してくるんでしょう」

「当り前じゃない私は見張りだもの」

「でもそうすると妹さんを助けられなくなる」

「妹、私の妹のこと?」

「そう、私が助けてあげられる」

「嘘よ、そんなことできるわけない」

「本当だよ、じゃあ見せてあげる私の力」


そういうとマーベルの腕に刻まれた奴隷紋をラポーチは聖女のスキルで消し去って見せた。

ラポーチが手をかざすと淡く光り、腕に刻まれた奴隷紋がみるみる消えていく。


シュワワ…スー

「なな…」

「これでもう貴方は主の言う事は聞かなくて済むよ」

「でも、それでも私はここから先へあなたを通す訳には行かない」

「ねえ、あなたの妹がなんで病気なのか知ってる、全部あなたの主人と言われているやつのせいなんだよ」


ラポーチには半径30メートル以内にいる生き物の考えが手に取るように分かっていた。

そのスキルで領主であるトマス・コートマン伯爵の考えを読み解く。


(それにしてもいい拾いものだった、あのエルフの娘それに妹の方は薬の実験台に使えるからな、だがあと少しで死にそうだまあその時は一緒に処分するか フハハ)


「その御館様と言うやつから受け取った薬を妹に飲ませてはいけない」

「なんで?」

「それは毒よ」

「そんな…私が妹に毒を飲ませていたと言うの?」

「早くしないと妹さん死んじゃうよ、良いの?」

「じゃあ先に妹を直して!そうすれば信じる」

「わかった、どこにいるの?」

「こっちよ」


マーベルは3階の物見台から飛び降りると走り出した、もちろんその後をラポーチもついていく。

館から約2分走った薄汚れた建物に入っていくと、そこにはベッドが置かれ、女性が一人横たわっていた。

すでに生気はなく、その息はかなり小さい。

時折手をぴくっと動かすが目は空を見つめるだけで、誰の目にも彼女が助からないと思わせるほど弱り切っていた。


「助けて!」

「任せて」


ラポーチはベッドに駆け寄るとまずは手を女性の体の頭とおなかに置いた。

そして頭の中で祈る、自分に備わった力だが昔はここまでできるわけでは無かった。

彼女は成長するにつれ生き物の生き死にを生活の中で知り関わっていく、そして彼女の力は徐々に大きくなって行きそれは癒しの力と思われていたが。

その力は他の聖女とは明らかに違う力も備わっていた、全てが異質でありながらすべてを兼ねる。

そう彼女の力は願いそのもの、ラポーチが願えばそれがかなう、神は彼女にそういう力を与えたのだ。

剣も壊れていれば直したい、針も錆びていれば直したい、人も怪我をしていれば直したいという願いの力。

それはこの世で最強の力だった。

女性の体に乗せられたラポーチの手のひらから今までにない光が漏れだす。


ワワワワーー

「な」


そして今まで土気色だった妹の顔色がみるみるピンク色に変化していくそしてあれほど痩せこけていた腕も足もみるみる弾力が戻っていく。

その間約3分、あれほど直したいと願っていた妹が健康な姿となって目の前に現れた。


「お お姉ちゃん」

「アスカ!良かった」

「私…」

「なんとお礼を言ったら良いのでしょう」

「お礼はいらないよ、私聖女だから、ああそうだ味方になってくれればいいよ」

「わかりましたあなたの味方になりましょう」


妹は元気になると同時にラポーチの願いの力で奴隷紋も消し去られていた、これで主とされている伯爵の命令も聞かずに済む。


【お姉ちゃん見張りは仲間になったよ】

【ポーちゃんありがとう、後は任せてね】

【うん】


と言っても3人に任せて見ているだけなんてできないラポーチ、マーベルとアスカを伴い領主の館へと歩き出す。


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