昔話(第三王妃)
昔話(第三王妃)
王はもちろん最初は反対した、それは国境線にいたゴッゾニア帝国の兵の半分がリューゲル魔王国の魔物たちにより守られていたからだ、時の聖王国の国王は第一王子の意思とその言葉に根負けしエイジアル王国の国王奪還にゴーサインを出す。
だが第一王子の作戦を聞き誰もが絶句した。
それは彼一人での単独作戦、誰もが反対する中その時訪れていたエイジアル王国の公爵ナリス・ドラグーリが陽動作戦を請け負うことでなんとか第一王子は作戦を決行する。
魔族の兵士達へナリス公爵率いる兵士が突貫そしてその隙に変装した第一王子はゴッゾニア帝国内へ潜入。
その数日後、どうやったのかは語られていないがエイジアル王国の王の救出に成功する。
そしてその時の盟約がエイジアル王国の姫を嫁がせると言う事。
これにより2国間は同盟国としてより強く結ばれることになった、その後はお互いの国がピンチな時はどの国より先に協力するという形になった。
だが第三王妃はまだ若く、それを憂うブリタス王は彼女を王妃としてではなく、友軍の証として宰相と同等の位を持ってその待遇に充てた。
要するに表向きは第三王妃だが、エイジアル王国の外交官(大使)として勤めてもらうことにしたのだ。
その為王と彼女の間には子供もいない、実は彼女故郷に好いている人がいるという話も出回っている。
ここまでが過去の話だが、その第三王妃が何故ドーンたちの船に乗らなければならなくなったのか。
それは元エイジアル王国の第5王女であるマリアルーナ・ブリタス・エイジアル・クルスローは、この時故郷から送られてきた密書を受け取り、是が非でも国に帰らなければいけないという状況だった。
密書の日付はすでに3か月前、今から帰京して間に合うかはわからないが。
それでも帰らないという選択はなかった。
そしてその内容は…
「今エイジアル王国は滅亡の危機にあります、私の兄弟である現王はハバウル・エイジアル・ローハイルがゴッゾニアと密約を結んで今までの盟約を破棄したという話です、すでに私の姉や第二王子のムルスク・エイジアル・ローハイルが幽閉されてしまいました、残念ながら第三王子は殺されてしまったとのこと」
「ふむ、そうするとこの旅、ただでは済みそうもないな」
「帰ったとたん捕まる可能性もありそうだね」
「なんのお話?」
「お前にはまだ早いか」
「いいえこれは運命でしょう、今エイジアル王国の王は密書によると操られているという話です」
「ふ~ん、じゃあ直しちゃえばいいんだね」
「それができればの話なのですが」
ラポーチはしっかり話が分かっているわけではないが、すでに第三王妃の手助けをする気でいる。
彼女のスキルでは第三王女王妃がこう考えていると感じている。
(誰か助けて、私の故郷が悪い奴らに取られてしまうわ、私の兄(現王)さえ正気に戻すことができればみんなが不幸になるのを防げるのに、それに彼まで囚われてしまうなんて)
実に簡単な解釈だが、要約すればこうなるのだから便利なスキルである。
まあ彼というのも少し気になる、第三王妃は若いころに嫁いだがすでに三十路は超えているので彼というのもすでに30は超えていることになる、そういえばドーンが昔一緒に戦ったエイジアル王国からの応援に来ていたカルマリン・ダハシュタイン・シュベリオールという公爵がいたが、まあこの話はエイジアル王国につかないことには続けられない話でもある。
「あなた」
第三王妃はおもむろにラポーチの顔を両手で挟む。
「わが心の願いをその身に…」
それは魔法だった。
「おい何してる」
【どう聞こえる?】
【あ お姉ちゃん】
「え お姉ちゃんの声、頭の中に聞こえる」
「今彼女に私とのテレパシー回線をつなぎました、やはりあなたが聖女なのですね」
「うんそうだよ」
(あ~自分からばらすなんて)ドーン
「ドンマイ」レドラ
「大丈夫です、彼女の身の安全は私が保証します」
「そういわれてもな…」
そう船には軍隊が乗っているのでも屈強な用心棒がいるわけでもない、確かにドーンとレドラは用心棒と言えなくもないのだが。
「もしかしたら彼女を私の故郷にいる誰かに預けるための旅ですか」
「そこまでわかるのか?」
「はいブリタス聖王国も今は長い戦争で疲れています、彼女の存在はそんな人たちにとって薬にも毒にもなりえます」
「俺の見立てではブリタス聖王国でポーチを預けられる人間はいない、だがこれでエイジアル王国もあまり安全とは言えなくなったな」
「大丈夫です、私が今までに何もしなかったわけではありません、私の母は西のローデリア共和国出身です」
「エイジアルで問題があればローデリアの中に逃げ込むと言う事か?」
「それもありますが、私を慕ってくれている仲間がいます、実は私も聖女と呼ばれていたのですよ」
「そういえば昔そんな話を聞いたことがあるな」
「聖女を信じる教会かい?」
「はい聖女は何も初めから聖女で生まれてきた訳ではなく、何らかの能力を身に付けた女性がそう呼ばれるのです、私も魔法や数々の奇跡を使えます」
「そのようだな」
「私の力は癒しと先読みそしてテレパス(思考共有)、ほかにもありますが」
「私の力は再生と解除とお鼻と聖剣作りとえ~と…」
「ラポーチちゃん、良いのよその話はあまりしないでね」
「お姉ちゃんもおじちゃんと同じこと言うんだね」
「私たち聖女の力は求められてはいますが、その力を持たない国からは疎ましがられています」
「要するに敵にわたるなら排除してしまえってことだ」
「自ら聖女だと話してしまえば悪い人たちがお金にしようと寄ってきてしまうのです」
「そうなんだ…」ポーチ
「なんか俺の教育じゃここまでの様だな」
「いいえよくぞここまで守ってきてくださいました、これも運命でしょう私もポーチちゃんに色々教えて差し上げます」
「ほんと!」
「ええ、どうせエイジアル王国までは1週間近く船の上で過ごすのですし、その間だけでも色々と教えてあげられるでしょう」
「やった~」
「現金なやつだ」
「だって~今までは剣術や算術ばかりなんだもん」
確かにドーンには女の子に教えられることなど少ない、特に挨拶や言葉使いそして歴史などはそれほど詳しくないため、基本的に教えられるのは生活に最低限必要なことと生きるために必要なことだけだ。
「そりゃ仕方ないさね、あたしらは戦士だからね」
そこに船長であるアリスリアがやってくる。
「あら?いつの間にか仲良さそうだね」
「こちらは第三王妃のマリアルーナだってさ」
「え~、お初にお目にかかりますアリスリア・フィールホフ、いや違ったアリスリア・フローゼル子爵夫人でございます」
「戦場の貴婦人アリスリア」
「今はそう呼んでんだ、昔は戦場の赤いバラとか暴風花とか言われてたよね,こないだなんか赤槍姫なんて呼んでたし」
「仕方ないでしょいつの間にか二つ名付いてんだから」
「それでなんで王妃様がこんなところに?」
「もちろん故郷に帰るためです」
そこからはアリスリアも話に加わり細かい話は外海に出てからすることになった。
「後の話は帆を広げた後でね、くら~そうじゃないってちゃんとロープをひけー」
アリスリアは船の傾きを感じて甲板へと走り出す、舵は新しく雇った船員が操るが羅針盤はまだ見ることができない。
その部分はアリスリアしか使い方がわからないからだ、魔法を使用した羅針盤のため現在地はすぐにわかるのだが行先は細かく計算しておかないと潮流や風向きで常に帆の向きを変えないと行けないからだ。
魔法による推進力を得るためには常に風を吹かせるのではなく風向きを計算して一番揚力を得ることができる時を見計らって魔法を使用する形になる。
帆船の進み方はほとんどの場合ジグザグに進むのだが、魔法で揚力を得ることができればジグザグに進むのが少しなだらかになり、結果として進む距離を短くすることができる。
それに全く風がないときでも進むことができるのだ、アリスリアは魔法を書いた用紙を数十枚、そして魔法陣を船の操舵室に書き込んだ。
操舵室には魔石を設置し、魔法の効力を上げることができるようにした。
今は風魔法のみ利用することで推進力を得る形だが、そのうち水魔法まで使えれば風がなくても進ませることができるようになる。
但し水魔法での推進力は風魔法より高度になるため今のアリスリアには難しいようだ。