兎人族
兎人族
男は小柄だった、顔はマスクのようなものを付けマントで身を隠し足は爪先立ちと言うスタンス、その懐から変わった形のナイフを取りだす。
「こいつから逃げられたやつは今まで一人も居ない、行くぜ!」
一瞬誰もが彼の姿を見失う、そして薄暗い倉庫の中で音だけがこだまする。
バシュ
タシュ
シュン
タシュ
ガキャン!
何回かのジャンプしかも彼は壁や天井を足がかりにしてまるで跳弾のように勢いをつけレドラの懐へと持っていたナイフを突き入れる。
だがその独特な形をしたナイフは彼女の腹へは届かず、彼女のこぶしに装着された聖拳で防がれた。
タシュ!
「中々すばしっこいね」
「さすがに1発目は防がれたか、だが今度はどうかな?」
そう言うと先ほどの倍、跳ぶ音が聞こえ出した。
ババシュ
タッタシュ
シュバシュバ
まるで一人ではないかのように、音が二重に聞こえ出す、魔法を使ったのか、それとも彼のスキルなのか。
ギャキキン ダン!
「おっと手を出すなとは言われて無いからな」
「あらありがとダーリン」
最初は一人だったはずがいつの間にか用心棒の兎人族は2人に増えていた、まるで魔法で2人に増えたように見えたが、最初から一人は隠れていたようだ。
「よく見破ったな」
「人数の気配は最初から一人余分に感じていたからな」
レドラの後ろからもう一人がナイフを突き刺すところをドーンがけりを入れたのだ。
あわててもう一人の兎人族は回避したようだ。
「やるね」
「これで曲芸は終わりかい?」
「ぬかせ」
「あれをやるぞ」
「おう」
兎人族2人はその場で踊りだした、その動きはまるでスローモーションのように見えたが。
その動きは相手を幻惑魔法に掛けるためのおとりだった。
「ん?魔法だね」
それはハイディングと俊足の魔法を使った、いわゆる分身魔法と言うやつハイディングをストロボのように使い早く移動する事で一人が3人になったように錯覚する、そして2人の兎人族が同じ様に動けば合計で6人にまで増えたように錯覚するのだが。
普通の人間ならばその魔法も効果があったかもしれない、だがレドラはあえてその状況で目を瞑り5感を研ぎ澄ませ敵が何処から攻撃してくるのか待った。
腕は胸の前で交差し脚はわずかに開くと腰を落とした、聖拳は彼女の意思を感じたのか淡く光りだす。
「死ね!」
ギャギャリン!
「ななんだと!」
バキャダキャ!
「ゴフ ブフ」
ドン バン
それは一瞬の出来事、分身が解けたかと思った瞬間、2つの方向からレドラめがけ飛び掛ったはずが、2人共に防がれそのまま聖拳を顔面に叩き込まれた。
小柄な兎人族の暗殺者は顔面に聖拳の直撃を食らい壁から外へ頭から突き刺さる。
そして彼らは2人共に血を吐き動かなくなった。
「くそ!」
「もう一人は?」
「…いねえ」
もう一人居たはずの用心棒はこっそりと逃げ出した、こちらもハイディングの魔法を使い壊された裏手の壁からすでに一人抜け出していた。
(命あってのもの種じゃ)
彼はすでに60歳を越えたいわゆる年季の入った暗殺専門の用心棒。
彼の持つ武術はさほど強くは無い、元々闇に紛れて攻撃する暗殺術、暗殺ならばお手のものだが、面と向かって戦えと言われては暗殺も何もあったものじゃない。
あの場所で次に戦ったとして勝てる見込みは皆無、巨人族2人を相手に勝てるわけがない、引き時が肝心 それが彼の座右の銘であった。