見回り姫
見回り姫
アリスリアは日課である見回りに出ていた、特に港は夜になると荒くれ者たちの喧嘩やマフィアの粛清によって一般市民や漁師がズタぼろになって殺されているなんて事は日常茶飯事。
どうせ自分達が管理を任されたのなら、少しでも良くしようと夜見回りに出ることにしていた。
これは夫であるアジリアーニの了承も得ていた。
港町の大通りから港にある桟橋近くに差し掛かると、大きな声で争っている人影を見つけた。
「おらこっちへ来いって!」
「いやよ!何するの約束が違うわ」
「おまえの父親はこの船に乗る事を了承したんだ、諦めて帰るかそれともおまえが代わりになるかしかないだろ」
「そんなのおかしいわ」
「おかしかないさ、親は金のため船に乗るそれは家族の為なんだろ、それがいやならおまえが体使って働くしかないだろ」
「ミラよせ」
「どうする?親を助ける為働くか?」
父親はすでに奴隷として手首と足首には鎖をつけられていた。
騙されたのか自分から進んで申し出たのかはわからない、たとえ騙されたと言ってもこの場では誰も助けはしないだろう。
そこへアリスリアがやって来た、だがアリスリアは直ぐに手出しはせず少し離れて成り行きを見守っていた。
(今の状況だと事件とはいえないんだよね)
下手に手出しをすればただのおせっかいで、マフィアの言い分が優先されてしまう。
もし嫌がる娘を無理やり言う事を利かせるようなことがあれば、助けに入れるのだが…
遠巻きに見ていると案の上男が娘の腕を取り羽交い絞めにするのが見えた。
「おら観念しなおまえの父親を解放するにはおまえが金を稼ぐしかないんだよ!」
「いや 止めて助けて!」
「暴れんじゃねーよ」
「あんたらそこまでだ」
「だれだ?」
「正義の味方だ」
「なんだと~」
「ン 女か?」
「お~なかなか色っぺ~じゃね~か」
「それでお嬢様がなんの用だ?」
「それ以上理不尽を重ね領民を苦しめるなら私が許さない」
「おいおい 領民?理不尽?何言ってんだこのアマ」
「どうやら言葉が通じないようだな」
いつの間にかアリスリアの周りに荒くれ者たちが取り巻き逃げ場を無くしていく。
それでも彼女は凛として、その場を動かなかった。
「どうやら痛い目を見たいようだね」
「痛い目だと…おめーらやっちまえ」
ウオー
アリスリアは女流騎士だ、剣技も使えるが彼女の操る武器は槍しかも短槍だ、彼女は最初剣術を学びたかったが彼女の父はそれを許さなかった。
それは女だからと言う理由、だが何故槍術の取得を許したのかと言うと、彼女の父親は槍が剣より劣ると感じたからに過ぎない。
戦場では前衛は剣士、後衛が槍術士、その立ち位置から守りに近い武術と思ったからだ。
護身術に近い武術ならば男より前に出る事は無いだろう、そう思ったフィールホフ侯爵はアリスリアに槍術を教えることにしたのだ。
だが、彼女の武術に対する考えを父親は見誤っていた、槍術を教えること半年で師を越え1年で周辺の槍術自慢をうならせるほどの腕になった。
いつの間にか彼女に勝てるものがいなくなり、力をもてあました彼女は義勇軍に参加する事になった。
その時期にちょうど侯爵家にも出兵の話が舞い込んでいたので、アリスリアはこの時とばかりに参加する事にしたのだ。
アリスリアが出兵しなければ父かもしくは長男が出兵するはずだったが、2人共に出兵に対して臆してしまったのだ。
それにじゃじゃ馬の厄介払いもできて、自分達は安全に暮らせて、更に面子もつぶさずに済む。
そんな理由でアリスリアは王国の派遣軍として参加する事になった、それが今から10年前。
ドーンが前線から逃げ僻村に隠れ住むようになった頃だった。




