昔からの宿
昔からの宿
レドラとラポーチの下へ戻ると出航までの間寝泊りする宿を探す事にした。
「おじちゃんどうだった」
「3日後の船に乗る事にした」
「結構ぼられたんじゃないかい?」
「ああそれなりにな、領主からもらった金が役に立ったな」
「それより今日は何処に泊まるんだい」
「ああそれなら町外れに良い宿屋がある、まあ中はぼろいがな」
港から丘へ向い数分歩いていくとかなりくたびれた港町の宿屋がそこに有った。
きしむ戸を開け中に入るとそこには、今にも天国に召されそうな皺しわのおばあちゃんが座っていた。
「3人かい?」
「ああ、空いてる部屋はあるか?」
「あるよ~」
そう言うと棚においてあった呼び鈴を持ち一振りする。
(ちりん)
すると奥の部屋から使用人と思しき男が現われランプを手にこちらへ来いと促す。
ここの宿は平屋だ、母屋と宿泊客が泊まる部屋は別々になっており、今で言うコテージと同じタイプ。
傭兵時代にもドーンはこの宿を使った事がある、よく戦乱の中生き残っていた物だ。
「ここだ、一人20ジールだ」
一人約2千円ぐらいだがここの宿屋は食事がつかない、食事をするには港手前の食堂へ行くか自炊するしかない。
ここの宿屋は自炊する事ができる、部屋の右手には井戸とその隣にかまどらしき物が設置してある、といっても土と石を組み合わせて作った簡単なものだが。
それでも使えるだけありがたい、問題なのは薪だがそれは少し山の方へ行くと結構手に入る。
「よし早速飯を作ろう」
レドラに預けた干し肉と堅くなったパンを取り出し、井戸から桶で水をくみ出し置いてある石の鍋に水を注ぐ、持ってきたズタ袋から干し肉と干し芋を取り出し鍋の中に細かく千切って入れ込む。
そして調味料として塩と小麦粉を少々、そう作っているのはスープ。
コンソメ味とは程遠いが干し肉の味と塩そして干し芋の甘さが溶け出し中々の味に仕上がる。
勿論これだけではなくレドラはドーンが帰ってくるまでに食料を少し買い込んでおいた。
固焼きパンが3つそれと魚が大小合わせて8匹さらに干物が5枚、そして貝が数枚。
辺りには良いにおいが立ち込める。
「そろそろ良いか」
「貝は直接焼いた方がいいね」
鍋を台座に移し代わりに違う石を載せる、そしてその石の上に貝と魚を乗せ炙るのだ。
「おお旨そうだ」
「魚は結構安かったよ」
港町ならば魚は安く購入する事ができる、それも結構大型の魚が。
すでに内臓は取り出されており焼くだけになっている、その魚に木の枝を突き刺しかまどの周りに突き刺す。
魚の大きさが結構大きいため、焼けるのに少し時間がかかるが。
表面さえ焼ければ皮をはぐのも楽になる為、中まで全部焼く必要は無い。
新鮮な物は生でも食べられるのだから。
こんがり焼けた魚に持ってきた塩をふりかけナイフで切り分ける、いわゆる魚のタタキに近いがそれよりは焼きを強くした感じだ。
「おいしそ~~」
「沢山有るからじゃんじゃん食べな」
竈の回りには50センチクラスの魚が5本刺してあり順次焼ければナイフで切り分けられる。
だがラポーチ達がそうやって夕食を取っていると、いつの間にか回りに人が集ってきた。
「なんだいあんたたち」
「食べたいの?」
「よせ!」
ラポーチが切り身をそのうちの一人に差し出すとそこからははっきり言って手がつけられなくなった。
「うら!」
ドン!
ドーンが大きな声で威嚇し足をドスンと踏み鳴らすとようやく乞食達は動きを止めた。
「おまえらふざけるな、誰がくれると言った!」
「お…お慈悲を」
「食い物が欲しいなら働け!」
「あんた達にあげたらうちらが食べる分が無くなるじゃない」
よくみると乞食は10人を越えていた、殆どが人族だが中には獣人も混じっており半分は子供だった。
「何処から集ってきた」
「あんた達何処から来たんだい?」
「おねえちゃん、言ったら食べ物くれる?」
「…」
「あげるよ~」
「こら ラポーチ!」
「まったく…但し嘘ついたら承知しないからね」
この港町には周辺の町からも出稼ぎにやってくるのだが、仕事という甘い誘いに乗り奴隷になってしまうものも多い、家族で仕事を探しに来て、親が罠に嵌るとその子供達はこうして乞食になるかまたは奴隷として売られるかの2択しかない。
大人の乞食は仕事もできないぐらい弱ったものが殆ど、そしていずれ死ぬのを待つだけだ。
そこからは一人ずつ並ばせてラポーチは魚の切り身を、一人ずつにひとかけらずつ分け与える。
そして彼らから情報を引き出し始めた。




