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総崩れ

総崩れ


4時間後予定より数分早く着いたラポーチ一行、斥侯を出すと案の定、洞窟の出口では魔王国軍の兵士が待ち構えていた。

前衛500人からなる盾と槍を手にした屈強な魔族の兵士が隙間なく並び、その背後には同じく500人の魔法師と弓兵。

そして横には魔獣兵が敵が出て来るのを今か今かと待ち構えていた。


「なんか聞こえないか?」

(ずずん)

「なんだ?また鉄砲水か」

「ズズン!」


その姿は火竜、赤い鱗状の皮膚に覆われ鼻の先には角が有り、胴体の大きさは洞窟をどうやって通って来たのか分からないほどの大きさ。

勿論その大きさのままでは洞窟を通ってこれないことぐらい魔族にもわかっているのだが。

それではなぜ火竜がそこから出て来るのかは、彼らには理解できなかった。


「ブフォ~」

「で でたー」

「なんだあれは!」

「将軍どうします?」

「もちろん戦う、全軍突撃!」

「オー」


敵兵が火竜に代わったとして逃げることなどありえない、魔王からは港町を落としそこから帝国を再度支配下に置くための攻略を始めるのだから。


「何やの?あれは」フエン将軍


デラウエア将軍と共に港町攻略を任されたフエン・トリトニ―将軍、女性でありながら将軍職についてすでに10年が経つ。

彼女は魔女協会出身の将軍でありコッテロールの上司でもある。


「こげなこと聞いてへん」

「将軍!」

「味方に支援魔法や!」

「かしこまりました」


フエン将軍の兵もデラウエア将軍と同じ数の兵士を配置していたが、この状況から考えて嫌な不安がよぎっていた。

(あれはたしかボルケール、だとしたらジャクラインは?)

考えればすぐにわかる事、帝国はすでに魔王国から解放され。

味方だったボルケールもジャクラインも今は敵に回ったと言う事。

先読みの魔法で先日占っていたことが現実になってしまった。

それは自分たちが敗走するかもしれないと言う事。

占いと言っても確率は60%、遠い未来ほどその確率は低くなる。

相手は洞窟を通って来ると言う事で向こうの兵は少数だと、少し甘く見ていたことも有るが。

こちらは総勢5千の兵を連れて来た。

1000人は町の警備に当たらせており2千は海と他のルートの封鎖に当らせている。

先日までの斥侯の話だと敵は100人だと言う事だったのだが…


「どうします?将軍」

「なんしか支援魔法と攻撃魔法を使うて馬鹿竜を倒さなあかん!」

「ですがどう考えても難しいかと…」

「時間 30分や」

「30分?」

「30分戦きばんでデラウエアの兵が半減しはったら撤退しながら応戦や、町を盾にしなんし」

「はっ!かしこまりました!」


だが、ボルケールがデラウエア軍と激しい戦闘を始めるとその背後からさらにでかい竜が姿を現した。


「グアオー」

「今度はなんだ!」


そこからは早かった、巨大な竜2匹が敵となり戦うなどと言う事が、普通サイズの魔族の軍隊(一応身長は2メートルある)にできるはずは無かった。

だがデラウエア将軍はそれでも戦斧を振るい続けた。


「逃げるな、戦え!」

「ウオー」


2匹の巨大竜が足並みをそろえて暴れまくれば、約2000人いた兵士もなすすべなく敗走を始める。

フエン将軍が最初に30分持つと考えていたことが、まるで聞いていないとでも言うかのように目の前はパニックになった兵士達でごった返した。

(む むり~)


「撤退!」

「撤退 撤退」


この戦いでデラウエア将軍は巨大竜の下敷きとなり戦死、フエン将軍はすぐに逃げ出し一度町の入口で兵を立て直す。

(まずいまずい、どうしろっていうのよ!)


【こんなものか?】

「お~さすがにやり過ぎたか?」

「うわーでも仕方ないよね」ラポーチ

「この後は」

「やはり逃げ出したか」ドーン

「ここからはあたしたちの出番でしょ」レドラ

「私もいますので」マーベル

「おらも」マリー


ボルケールとラーサーは人型に戻るとドーンとレドラ、そしてマリーと近衛隊隊長が先頭に立ち警戒しながら町の入口へと進んで行く。

約5kの道程だが少し坂になっているのと道自体が少し谷になっている為、急ぐと転げ落ちてしまいそうになる。


「見事に逃げたな」ドーン

「ここに一人二人残ったとして勝てる道理は無いからな」ラーサー


洞窟前の広場から谷合を抜け、港が見える開けた場所へと進んで行くと、そこからは少し畑の広がる地域になって行く。

この時期はすでに刈込も終わったらしく、畑には隠れる場所も無かったのだろう、待ち伏せもなにもないまま一行は進んで行く。

町の入口には高い塀とその手前には堀が有り、塀の上には魔法師と弓兵がずらっと並んでいた。


「射程内です、攻撃しますか?」

「攻撃開始!」フエン

「シュンヒュン」

「ブシュブシュ」


弓矢と同時に火弾魔法と風魔法が飛んでくるが、何故かラポーチ達の目の前で全て軌道がそらされてしまう。


「母上?」ラターニャ

「風の守りよ、貴方もいつか使えるようになるわ」エアルータ


エアルータ妃の守護魔法により空からの攻撃は全て弾かれてしまう。

だがそれだけでは攻撃を防げるだけ、町を取り戻す決定的な打撃を与える事はできない。


「さてどうする?」ラーサー


元国王は何故かラポーチの方を向き質問して来る、まるで聖女がこの状況をどうするのかお手並み拝見とでも言うような感じだ。


「話してみる」ラポーチ


ラポーチは肩に聖竜を乗せると一人で歩き出した、もちろん誰もそれを止めはしないがその後ろをマリーとマーベルが付いて行く。

先ほどまでこれでもかと言うぐらい飛んで来ていた矢も魔法も止まり、塀の上は静まり返っていた。

手前には川の水を引き入れた堀、そこには跳ね上げ式の橋が有った。


「話がしたいの、橋を下ろして」

「貴様は誰だ!」

「私は聖女ラポーチ、話し合いに来たの」


勿論この状況に困惑するのは一人残ったフエン将軍。

(聖女…)

話をすると言うのは我々魔王国軍にこの町からいなくなって欲しいと言う事だろう。

魔王の命令は帝国の再支配化、それをこの町から始めると言う計画。

将軍として退くわけには行かない、だが目の前の堀から20メートル離れた場所にいる聖女だと言う少女の顔を見ると。

何故か話をしなければいけないような気がしてくる、話して見てどうするかを決める。

(いやいやそれは悪手)

だが戦って勝つことができるのか?あの巨大竜はどう考えても聖女の配下。

聖女を攻撃すればあの巨大竜が2匹も町を襲ってくる、そうなれば魔王軍は全滅するだろう。

それに巨人族まで居るのが遠くから見えている。

ジャクライン、ボルケール、聖女、と言う事は勇者もいるのだろう。

あの巨人2名は勇者の確率が高い。

他にも、いかにも勇者然とした風貌の人物が数人いる、この窮地を乗り切るには…


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