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短編

思い出はモノクローム

作者: 山本大介
掲載日:2021/08/18

 思い出はモノクローム、もう一度鮮やかに色をつけて。


 叶和(とわ)とはじめてあったのは、高校2年の夏の頃だった。

 夏休み、ちょっぴり背伸びしたい俺らは、友人と女友達を誘って郊外の市営プールへ遊びに出かけた。

 その時に、親友響奏斗(ひびきかなと)について来ていたのが、彼の妹、叶和だった。


 蝉時雨が五月蠅い、七月の盛夏。

 路面は前日の雨が熱によって気化され、もわっと熱く、アスファルトの焼けた匂いがした。

 陽炎が揺らめく道を俺たち7人は、わいわい言いながら歩いた。

 後ろから、ちょっと離れ来る叶和をちょっぴり気にかけながら・・・。


 夏はプールに限る。

 海パン一丁に着替えた俺は、我先にと25mプールへ飛び込み泳ぎ出す。

 ま、本来の目的は男女の親睦を深める・・・恋愛に発展させるぼんやりってのが、今回のテーマらしい。

 若者ならではの本懐か。

 が、来年受験だぜ・・・それに俺は恋愛なんて・・・まだ早いと思っている。

 これが奥手、さらにはむっつり奥手と言われる理由だろうな。

 クロールをしながら、ぼんやりとそんなことがふと頭を過ぎる。

 息継ぎは1回、中間でぷはっと大きめに息を吸い込み、全力で泳ぐのが、俺のスタイルだ。


 水中で目を見開く、眩しく揺らめく水面の奥にプールの壁が見えた。

 一気にスパートをかける。

 水飛沫をあげながら壁にタッチする。

「ぷはっ!」

 顔を水面に出す俺。

 ふぁさっ。

 タオルが俺の頭にかかる。

 振り返る。


 飛び込み台の上に立ち、微笑む叶和の姿があった。

 白のフリルのワンピースに、白のブラウスを着て、じっとこちらを見ている。

 陽光の眩しさと重なり、あどけない笑顔が心に飛び込んできた。

 俺はどきりとして、しばらく彼女から目が離せなかった。

 そんな動揺を見せまいとしてタオルを右手に持ち、上げて見せた。

「まだ、いらないよ」

「しってるよ」

 無邪気に笑い続ける叶和がいた。



 それから俺は、気になって仕方のない叶和に告白し、付き合うことになった。

 さんざん、奏斗のやつには冷やかされたが・・・しょうがない、好きになったもんは。

 大学生になった俺は先輩の車を借りて、彼女と海へやって来た。

 叶和と出会って3度目の夏だ。

 青い空に大きな入道雲。

 光りは海に照らされ乱反射し、降り注ぐ陽光に白みがかったハレイションを帯び、目を思わず細める。

 俺はダッシュボードからレイバンのサングラスを取り出すと、眩しい世界を遮った。

「似合わないね~」

 叶和はころころと笑った。

「うるさいなー」

 俺は口を尖らす。


 白い肌に華奢な叶和の美しい身体。

 無理をしているか、俺に見せたいのか白のビキニを纏い、顔を赤らめ恥ずかしそうにしている。

 そんな彼女だけど、夏の陽気に照らされると、幾分健康そうに見える。

 決して不健康とは思わない・・・けど、俺はその時、彼女に薄幸の美少女という言葉が似合い過ぎるほどあっていると思った。

「さあ、いきましょう」

「ああ」

 俺たちは、どちらからともなく手を繋ぐと一気にビーチへと駆けだす。


 誰かが言っていたな「若い時は短い」・・・ならば、俺たちは今を満喫しよう。

 若さと未熟さを持って、尊大に怖いもの知らずで、この時を謳歌しよう。

 海に入ると、散々真夏の太陽によって照らされた身体が少しだけクールダウンする。

 とはいえ、海水も生ぬるく塩気がべっとりと肌にくっつく。

 俺は、さほど快適ではないなと思った瞬間、そんな俺を見透かしたのか、ばしゃっと顔に海水がかかる。


 ばしゃり。

 二度目の海水をかけられる。

「あはははは」

「やったな」

 俺は仕返しに大量の海水を叶和にかける。

 寄せては返す波間に、水飛沫の応酬。

「ちょっとタンマ」

 彼女が両手で制する。

「だめ~」

 俺は容赦しない。

 彼女は飛沫を浴びながら、少しずつこっちへ近づいて来る。

 そしてジャンプした。

 それはスローモーション、叶和の若く瑞々しい輝き。

 俺の首に彼女の細い腕が絡みつく。

「もう」

 拗ねる叶和。

「仕掛けたのは・・・そっち・・・」

 俺は不意に唇を唇で塞がれた。


 太陽が波間に沈むサンセットタイムの静かで熱い口づけ。



「ふふふ」

 受話器から聞こえる叶和の屈託のない笑い声。

 俺はつい嬉しくてふざけて何度も冗談を言ってしまう、気づけは二時間喋りっぱなしだ。

 電話を切る前に来週のデートの約束をしようと話しかける。

「来週だけど・・・」

「あっ、ごめん~、来週、友だちと買い物行くの」

「そっか」

 俺は何気に電話を切った。


「ふふふ」

「でさ~」

 受話器から聞こえる彼女の笑い声、叶和の笑顔が思い浮かぶ。

 話は他愛のないことで盛りあがる。

 頃合いか、俺は最高潮の時を狙い、叶和に告げる。

「明日、誕生日だろ。お祝いするよ」

「・・・・・・」

 しばらくの無言、どうしたんだ一体・・・。

「会いたいよ」

「うん、でも、今、就職活動中でしょ。邪魔しちゃ・・・」

「邪魔なんかないよ」

「うん」

「会いたい」

「わかった」

 心なしか、彼女が嬉しそうに上気する心根が伝わったような気がした。


 そう、気がしただけだったんだ。

 叶和の誕生日、待ち合わせ場所に彼女はこなかった。

 俺は電話をかけてみる。

 彼女は、

「ごめん、忘れていた」

 けらけらと笑って答えた。

 俺は怒りにまかせて、電話を切った。

 それから、どちらからも連絡をとらず3ヶ月が過ぎた。


 そう、冬の夜中のことだった。

 電話にでると、奏斗の重い声、

「あのな・・・叶和が・・・死んだ」

 えっ?

 どういうことだ?

 意味が分からん。

「・・・・・・・・・・・・は?」

 一言がやっとでた。

「だろうな・・・呆然となっているところすまない。俺も妹に頼まれていたから・・・よく聞いてくれ。まず叶和から、ごめなさい、そして、ありがとうと・・・」

「・・・???」

「あいつは元々病弱で、重い病に侵されていた。お前と付き合いはじめ頃に、自分の命が余命がいくばくもないことを知ったんだ。でも、それからあいつは本当に幸せそうだった。お前のおかげだよ・・・・・・でも、最後の方は・・・自分の弱っていく姿を見せたくなかったんだろうな・・・苦しかったろうな」

「・・・・・・・・?」

 何もない真っ白な思考の中、ぼんやりと耳に入る奏斗の言葉に、かろうじて叶和のあの行動が腑に落ちた。

 その後、奏斗が何を喋ったのかは覚えていない。



 俺は夏を感じる度、夏が来る度、世界がモノクロームに見えるようになった。

 今年で幾度目だろうか。

 夏が俺の目で色づく日がまた来るのだろうか。

 俺は眩しくもないのに、思い出のレイバンのサングラスをかけ、あいつとドライブした海岸線を車で走らせる。



 読んでいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悲しい話ですね。 気づいてあげられなかったのが、なんとも言えないですよね。限りあると知っていれば、もっと取れる選択肢はあったのに。いつまでも続くと思っていたものが、急に……。まぁ、よくある…
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