ステマ、シテマせんか?
六本木にある超高層オフィスビルは、もうすぐ終電の時間だというのにリサーチ会社が入るフロアだけが明るい光を放っていた。そのフロアの会議室では、マネージャーが今まさに二人の社員を叱責しているところ。
「こんなんじゃ、広告を打ってもらえないだろ!」
スクリーンに映し出されたレポートには、「ターゲット層への広告効果+0・3%」と書かれている。
彼らが働くマーケティングリサーチ会社は大手広告代理店の子会社で、マーケティングリサーチ部門に特化し、広告出稿した際のシミュレーションや広告効果を調査する業務を請け負っていた。が、もちろん「広告を打った方がいい」という結論ありきだったため、常に良い数字を並べる必要があった。
「こんな数字、クライアントに見せれると思うか?これじゃ、広告は無意味ですと言っているようなもんじゃないか!」
「すみません」
「期限までに、見られる数字に『お化粧』しとけ!」
マネージャーの怒りがピークを迎えたと思ったところ、新入社員の戸部が思わずプッと吹き出す。
「『お化粧』ってなんですか?」
怒り狂うマネージャーの顔面と、その言葉とのギャップが可笑しかったのだろう。が、彼女のトレーナーである星川は青ざめて、慌てて止めにかかる。
「あとで説明するから」
ジロリと星川を睨むマネージャーの顔には、「新卒の指導も出来ないのか」と書いている。マネージャーは怒気を帯びたまま、星川に尋ねる。
「エーアイ・ロボ社への報告はいつだ?」
「来週の火曜です」
「じゃあ週明けの朝一にまた報告しろ。それまでの時間をどう使ってもいいから、調査結果の数字をおけしょ、見られるモノにしとけよ」
「分かりました」
会議が終わった時には終電が過ぎ、星川は折れ曲がってしまった心を元に戻すために戸部を飲みに誘った。彼女は今時珍しく、飲みには百パーセント応じるタイプの大型新人だ。
会社近くにある居酒屋チェーンに入りテーブル席に座るや否や、星川は戸部に小言をいう。
「マネージャーにあんな質問しないでくれよ。こっちに全部降りかかるんだから」
「あ、そうなんですか?すいませーん」
先輩の注意も右から左で、戸部はタッチパネルで自分の注文を勝手に入れていき、それが終わるとタッチパネルごと星川に渡して満足げな表情を浮かべている。
「でも先輩、どうするんですか?あと二日でなんとかなります?」
「それを考えるんだよ、一緒に」
と、星川は持ち帰って来た自分のレポートを見直す。
「でも、三十万円の掃除機なんて誰が買うんですかね?」
「買わせるために広告を打つんだろ?」
「不必要な物を売って、広告会社って社会の役に立っているんですかね」
「今そんな事考えなくていい。俺たちがやるべきことは、明後日までの調査期間中に、あと一人でいいからエーアイ・ロボ社の新商品“マンボ”を買わせる事だ。モニターが一人でも買えば、良い感じにお化粧出来るから」
「あ、出た、お化粧!」
また噴き出す戸部。
「反社みたいな顔をしたマネージャーにお化粧したらどうなるだろうって想像したら、可笑しくなっちゃって」
「条件反射で笑わないでくれよ。とにかく来週に良いプレゼンをしないとエーアイ・ロボ社から広告出稿してもらえない。そしたら親会社にも目を付けられる。だからこの二日間でなんとしてでもマンボを一台売るんだ」
「どうやって?」
「・・・、戸部も入社してもう三ヶ月だろ?」
「そうですけど」
「ついに来たんだよ」
「え、何がですか?」
「お前が言うように、物は勝手には売れない。売ろうとする気合いがないと」
「え、なんか怖い」
「この会社に合うかどうかは、この二日間の踏み絵を踏めるかどうかで決めてくれないか?うちの社員は皆、踏んできた側の人間なんだ」
「踏み絵って、私に何をさせようとしているんですか?それに、みんな、何をしてきたっていうんです?」
「それはな・・・、例えば、モニターを恣意的にピックアップしたり、調査結果を盛るために人気の有名人のSNSに商品を投稿させたり」
「それってステマじゃ?」
「調査っていうのは、思惑がなければしないんだ」
「・・・。でも、研修で、不特定の人間をピックアップして、インタビューとかアンケートを取らなかったら調査結果の客観性が取れないって」
「純粋な調査なんて存在しない、ビジネスの世界には」
「じゃあ、うちも大規模な思惑に加担しているってことですか?」
「広く考えれば、そういうことだ」
戸部はもう、げんなりしている。わたし、と言いかけたところで星川が言葉を上書きする。
「踏み絵をするかどうかは、絵を置かれた瞬間に決めたらいいから」
強引に言いくるめられた戸部は、続けざま、明日からの作戦会議に参加させられる。今日は長くなりそうだ。
「確実に一人に買わせたいんだ」
そう言うと、星川はモニターの一覧を眺めながら、誰をターゲットにするか思案している。戸部もそのリストを眺めこむと、また条件反射的に声を上げる。
「この人なんか、どうですか?衝動買いしそうなタイプですよ」
岡野敢、三十八歳独身。音楽会社に勤務し、先月プロデューサーに昇進、年収は一千四百万円。品川にマンションを購入し、悠々自適な生活を送っている。
「確かに。商品のペルソナには合致しているな」
「ぺるそな…、イライラする。その次々出てくる広告用語もぜんぶ覚えなきゃダメなんですか?」
「雰囲気出るだろ」
「やっぱ合わないわ、この会社」
「それじゃあターゲットは岡野さんに決定だ。明日の昼、掃除機を買わせる為に岡野さん家に集合な。ストラテジーは考えとくから」
「えー、早すぎません?土曜日は昼まで寝るって決めてるのに」
お互いがジェネレーション・ギャップに辟易しながら、ハイボールでそれを押し流している。
翌日の昼前。
岡野の住むマンションの前には、星川だけがぽつんと立っていた。そこへ、角を曲がって星川の存在を確認してから走り出した戸部が、バタバタと走ってくる。
「先輩、早い」
星川は全てを分かっていたが、この後に課す重労働を考慮して何も言わない。
「あれから岡野さんの行動履歴を調べて、土日の動きは全て把握したよ」
「わ、すごい!」
時系列にリストアップした行動履歴の紙の束を見て、戸部はわざと大きなリアクションを取る。十五分の遅刻を本能的に挽回しようとしているのだろう。
「土曜は昼まで寝て、起きたら近くのイタリアンにウーバーイーツを頼むらしい。ちなみにアイドマって覚えた?」
「あー、一応」
休日に広告用語を耳にして、条件反射で不機嫌になる戸部。
「じゃあアイドマのAはどういう意味?」
「“アテンション”、知ってもらうってことですよね」
「そう。ちなみにウーバーイーツの配達ってしたことある?」
「ありますよ。大学の時、体育会で体力づくりにちょうどよかったから」
「それはいい。じゃあ、もうすぐ岡野さんがウーバーの依頼をする時間だから、注文をキャッチしてくれ。近所のイタリアン『ポーコ・ア・ポーコ』って店だ」
戸部にスマホで配達員専用のアプリを開かせている間、星川は電柱の脇に置いた、大きなバッグの中に隠していた折り畳み自転車を広げる。黒いバッグには、何やら他にも大量の荷物が隠されている。
「どういうこと?」
「詳しくは後で説明するから。お、店から配達依頼が来てるぞ!」
アプリを見ると、岡野の行動履歴の時間に合致した通り、ポーコ・ア・ポーコからの依頼が来ている。
「もう、よく分かんない」
「商品をピックアップしたら、ここに戻ってきてくれ。全速力で頼むぞ」
と、肩を叩き送り出す。
それから五百メートルほど離れたイタリアンに行って、帰ってくる戸部。額には大量の汗。
「持ってきましたよ」
ゼエゼエ言いながら、星川にビニール袋に入った商品を見せる。
「ありがとう。それじゃあこれを底に忍ばせて、と」
マンボのチラシを二、三枚、袋の中に入れる。
「え、それだけ?そんなのポストに入れたらいいじゃないですか」
「埋もれるだろ、それじゃ。“アテンション”には印象づけが必要なんだよ。それにマンボが売っているオンラインショップのQRコード付きだから」
「しょぼくないですか、そんなの。とりあえず渡してきますけど」
大きな悪事に手を染めてしまうことを昨日から心配していた戸部は、事の小ささに内心ほっとしながら、マンションのエントランスでインターホンを鳴らす。「ウーバーイーツです!」と、元気よく挨拶すると、ほどなくしてエントランスが開く。その隙間を縫って大きな荷物を抱えた星川もすっと入っていく。
「何やってるんですか、先輩!」
「こっちも配達があるんだよ」
二人は誰もいないエレベーターに乗り込み、七階で降りる。不思議そうな戸部は、注文通り、岡野の部屋の前に商品を置き配する。星川はといえば、エレベーターの前で一人なにやらゴソゴソしている。戸部は素知らぬ顔をしてエレベーターに乗り込み、先に一階に降りる。五分ほど経ち、ようやく星川が降りて来たところに戸部が詰め寄る。
「何やってたんですか?明らかに不審者ですよ」
「後で分かる。全ては計画の上だから」
と適当に返し、今度は電柱脇の黒バッグから中型のドローンを二台取り出す。戸部は目の前の安っぽいヘリコプターを見て、嫌な予感しかしない。
「今度は何です?」
「ターゲットは晴れた日は必ずベランダでパスタを食べる。702号室は南向きだよな?」
「たぶん」
「南に回ろう」
「休憩させてください」
「ダメだ、ターゲットはもうすぐにベランダに出るぞ!」
不満をいう戸部を無理やり連れていき、途中でドローンを一台手渡す。
「今度は何をするんです?」
「アドバルーンならぬアドドローン作戦だ。ベランダの景色をマンボの広告で埋め尽くすんだ。よし、上げろ!」
「ちょっと待って。使い方が分からない」
「適当にコントローラーを触ってみろ。あ、ターゲットが出て来た。早く!」
岡野がドアを開けた瞬間、二機の飛行物体が勢いよく飛んで来る。彼は驚き、その場で固まる。しかし一台のドローンがベランダから二メートル離れたところで急減速すると、突然、細長い白い布を垂らす。
「エーアイ・ロボの高級掃除機が、いまなら!」と書かれた布が空を泳いでいる。もう一台のドローンは、まだ辺りをフラフラしている。
「おい、早くしろ!二つで完成なんだから」
「分かってますよ、もう。なんでこんな事…」
戸部はブツブツ文句を言いながら、必死でコントローラーを左右に動かしている。岡野は“いまなら”の続きが気になり、横目で確認しながらベランダのテーブルの上にウーバーで注文したパスタとサラダを広げ、カトラリーや飲み物を取りに部屋に戻る。再び岡野がワインを片手にベランダを出た時には、もう一台の不安定なドローンが白い布を垂らし、“いまなら”の続きを示している。
「お買い得!」
岡野はずっこけそうになりながら、ランチを始めようとする。が、ベランダから緑地公園が眺められるいつもの光景が、異物によって邪魔をされていることに不快を感じ始めている。岡野は手を伸ばして捕まえようとするが、ドローンはちょうど手の届かない位置でふわふわと漂っている。星川は、ターゲットの苛立ちを確認すると戸部に指示を出す。
「撤収だ、撤収! 不快指数が上がってきたぞ。ギリギリで止めないと広告効果が下がる!」
「分かりましたよ」
その号令とともに、二台のドローンはピューっと別の方向へ飛び去っていく。星川は戻ってきたドローンを手にして満足げ。
「よし、アテンションは大成功だ。これですぐ購買に繋がったら本当は良いんだけどな。ん、どうした?」
戸部はマンションの茂みに落下したドローンを、身を乗り出して取っている。
「こんなバカみたいなこともマーケティングなんですか?身体がボロボロになりますよ」
「体力仕事の方が向いているって言っただろ?」
「こういう意味じゃないんですけど」
「じゃあ次は“インタレスト”、興味を持ってもらうことだ。今のでターゲットは完全にエーアイ・ロボから新商品が出たことを認知した。次はどんな商品か、実際に見て興味を持ってもらうことだ。その為に、さっき忍び込んだんだよ」
と、スマホのアプリを開き、何やら操作し始める。
「何してるんですか?」
「マンボを七階の廊下に三台設置して来たんだよ。スマート家電だから遠隔操作出来るんだ。よし、作動したぞ」
「だからあんな大きな荷物持ってきたんですね」
「一日中、マンションを掃除させてたら流石に気付くだろう」
「でも不審に思いません?急に」
「掲示板に張り紙をしてきたよ。“お掃除ロボットのモニタリング調査中”って」
「用意周到ですね」
「昨日から寝ずに考えてるから。それじゃあ次は“ディザイア“、欲しいと思わせることだ」
と、バッグから取り出したマックブックを開く。そこにはエーアイ・ロボ社の新商品の特設サイトが映し出されている。
「このサイトなら何度も見てますけど」
ニヤッと笑う星川。
「そう思うだろ?それがちょっとだけ違うんだよ。購買意欲を高める為に、岡野さん用にカスタマイズしたんだ。とりあえずこのリンクを岡野さんに送る」
「どうやって?」
「電話番号は入手してるから今からSMSで送る。“エーアイ・ロボ社から品川区にお住まいの方限定で割引のお知らせ”ってタイトルで。よし、送信完了、と」
ベランダを眺めると、受信音に気づいた岡野が携帯を触り出している。
「よし、釣れた。彼がリンクを開くと、見ている画面が遠隔で覗けるんだ」
「それってハッキングじゃ…」
「あくまで消費者がどう反応するかを調べるリサーチの一環だ。お、反応してる、反応してる」
岡野が閲覧しているページが星川のパソコン上に映し出されている。すると、消費者の感想のページで画面が止まっている。
「先輩、今度は何を仕掛けたんですか?全く分からないんですけど」
「名付けて『超絶・リコメンド機能』だ。商品を買う場合って口コミが重要だろ。それを岡野さん用にカスタマイズしたんだ」
「どういうこと?」
「岡野さんの身近な三人の口コミを用意した。尊敬する会社の上司、高校時代の恩師、幼なじみの三人だ。この人のオススメなら絶対に買うと思う三人を選んだんだ。文章はもちろん捏造だけどね。何せこっちはパーソナルデータを持っているから、閲覧履歴から導く大まかな興味・関心ごとなんて邪魔くさいものを使う必要はないんだ、ハハハ」
“高校時代の恩師、竹下先生もオススメ!”の表記が、画像と吹き出しを使ってポップに踊っている。
「先輩、大丈夫ですか?相当お疲れみたいですけど」
「大丈夫だ。このミッションは絶対にクリアする、絶対に」
壊れていく先輩を心配しながらも、ベランダにいる岡野と映し出されたパソコン画面を交互に見比べる。岡野はやはり竹下先生の登場に驚いているようだ。もし、この偽サイトにクレームが入ったらすぐにサイトを消そうと思っていたが、岡野はブランチのほろ酔い加減もあって、「フェースブックと連携でもして、そのパーソナルデータが新しい広告に使われているのだろう」と勝手に納得しているのかもしれない。
「ここで決めてくれると助かるんだけどな」
サイトの一番下には、普段よりひと回り大きい購入ボタンが、デカデカと光を放っている。このボタンを押せば、本当の商品購入サイトにジャンプする。そうすればミッション完了だ。星川と戸部は固唾を飲んで画面を見つめる。が、岡野は残念ながらブックマークに入れ、次の瞬間、画面が消えた。
「携帯、置いちゃったみたいですね」
岡野の様子を眺め、戸部が報告する。
「ちくしょー、あと一歩だったな。まあいい、アイドマのDまでは成功だ。その後もちゃんと用意しているから、それは後でせつめ…」
と言いかけた瞬間、星川がその場に倒れこんでしまった。昨日からの疲労と睡眠不足がたたったのだろう。
意識が戻ったとき、星川は自宅のベッドの上にいた。脇に置いた携帯を手に取ると、日曜の昼十二時。あれから一日経ってしまっている。慌てて飛び起き戸部に電話をかける。
「マンボは、マンボは売れたか?」
「先輩、まずはお礼でしょ。あの後大変だったんですから」
「何があったんだ?」
「先輩が急に倒れたんで、家まで連れて帰ったんですよ」
「ああ、そうなのか。ありがとう、で、マンボは?」
「そればっかりですね。まだ売れてないですよ」
言葉に感情が乗っている。
「あと半日あるんで、何かしなきゃとは思ってたんですけど」
彼女は、知らないうちに踏み絵を踏んでいたらしい。
「岡野さんは、日曜は一日彼女と遊びに出ていて、帰って来るのはだいたい夜十時らしい」
「それまでに何か仕掛けないとですね。一応ブックマークには入れてくれたから、買いたい気持ちを燃え上がらせましょう!」
「戸部、お前もやる気になってくれたのか?」
「はい、広告ってスポーツですから」
「それはよく分からないけど、またマンション前に集合しよう」
「はい、分かりました!」
日曜日の夜十時。
岡野は駅から五分の道のりを、ほろ酔いで帰っている。道中にはイチョウ並木が立ち並び、イルミネーション装飾がされ、クリスマスシーズンにはカップルの観光スポットになっている。が、いつもは綺麗なはずのその光景が、ギラギラしたネオンサインに変わり、マンボのキャッチコピーが並ぶ。
「これ一台で掃除不要!」
「長時間労働も嫌がらない!」
「炊事・洗濯・あとマンボ!」
やかましい広告がギラギラと汚い光を放っている。岡野の目にそれが入ると、一瞬驚いたものの、また不快そうに目をそらし、歩く速度を上げている。
「先輩、これ、逆効果かもしれないです」
「せっかく時間をかけたのにな。しょうがない、次だ、次!」
汚れたジャージ姿の二人は、気づかれないように岡野の後をついていく。彼の自宅マンションは、並木道を抜けて通りから一本脇に入ったところ。そしてマンションの前に立ち、建物を見上げる岡野は何やら異変を感じている。
「先輩がいない間に仕掛けておきました」
マンションを見ると、てっぺんには屋上広告でマンボの大きな看板が設置され、壁面にも所狭しとポスターが、パチンコ店の開店のようにのぼり旗がずらーっと並べられている。
「これ、お前が一人でやったのか?」
「はい、体力だけは余っているので」
後輩の自発的な行動に感動する星川。それをよそに岡野はマンションに入っていく。
「あ、すぐ入っちゃいました。見てくれたかな」
「あ、そうだな。でも、やることはやった。あとは明日の朝まで待つだけだ」
「あと私、考えたのは選挙カーを使って商品名を連呼とか、パトカーに扮して商品名を叫ぶとか。色々考えたんですけど」
「もう大丈夫だ、あとは信じて待とう」
「分かりました」と言い終わる前に、今度は戸部がその場に倒れ込む。
翌日、会社を休んだ戸部が目が覚ました時は昼過ぎだった。すぐに星川に電話を入れる。
「先輩、結果はどうなりましたか?」
「それが、買ってくれたんだよ!岡野さん。そのお陰でさっきのエーアイ・ロボ社へのプレゼンは大成功だったんだ」
「そうですか、それは良かったです!」
「ただ、マンションの管理会社からクレームが入ってね」
「え、あ」
「騒音やビラの残骸で街中クレームの嵐。今すぐに片付けに来いって言われて、今現場に来てるんだよ」
戸部が現地で合流した時には、星川は茫然と立ち尽くしているだけで、全く片付けは進んでいなかった。その光景を見て、戸部はブツブツ文句を言っている。
「掃除機一台買わせるのに、こんなに広告が必要なんですね」
「こんな大量のゴミが出るなんて知らなかったよ」
「広告をきれいにするマンボを出したらいいのに」
「そしたら真っ先に俺らが片付けられるだろ」
おしまい