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【八十話】名探偵黒木「真実はいつも一つ!」

久しぶりの登場人物が多いです。

物語の畳みかたを考えながら書いているのもあって投稿が遅れてしまって申し訳ありません。

「……ふざけんなよ」


 津奈ちゃんからの誘いを受けた次の日、学校があることもあって、煩わしい目覚まし時計の鳴り響くベッドの上で目を覚まし、枕元にちょこんと置かれたパスポートが目に入って、そんな恨み言をどこぞのコーギーに送り髪の毛をがりがりとかきむしる。


 まるで「逃げられないよ」と神様じきじきに言われているようで癪に障る。


 一先ずこのパスポートの事は置いておいて、俺は軽く体を伸ばしてからベッドから起き上がる。


 とにかく有馬先生にそれじゃあ駄目だと言われるために如何に雑に津奈ちゃんに誘われたということを説明するべきかと考えながら。


 ――――――――


「おう、良いぞ。頑張ってこい」


 桜の用意してくれていた朝食を食べ適当に準備を済ませ、登校した俺が面倒なことは先に済ませようと思い、職員室に久々に顔を出して相変わらずスマホを横に持って魔法少女の世界にどっぷりと潜り込んでいる有馬先生に登校中に頑張って考えた出来る限り適当で、あたかも遊びに行くためですよ~と伝わるような説明をしたところ有馬先生から帰ってきたのはそんな言葉だった。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!なんでそんな直ぐに許可が下りるんですか?ほら普通公欠ってもっとめんどくさい物じゃあないですか。ダイバー活動だって俺は別にどこか企業からスポンサードされているわけでもないし、言ってしまえば趣味ですよ?趣味!」

「……お、おう?行きたいから公欠の申請に来たんじゃあないのかよ……そもそもウチの学校は基本的に生徒の行ってる活動に対して寛容だし、それは芸能科とかがある時点でよくある事だしな。てかそもそも、硯はここ最近AR関係で午後は早退とかしてたからウチのそこら辺の緩さはしってるだろ」


 有馬先生は俺がイギリスに行きたいから公欠を取りに来たと思っているのだろうし、至極当然のことを言ってくる。


 いや、勿論有馬先生のいう事は尤もだし、俺が公欠の申請をしに来ていてそれの許可が下りたことに対してキレているのが不思議でしょうがないのかキョトンとした言いようによっては間抜けな表情で首を傾げているのも分かる。


 しかし、逆切れと言われようとも俺のこの複雑な男心を分かってくれない有馬先生にこう言わずにはいられない。


「正論うるせぇ!!そんなんだから彼氏の一人も出来ないんだよ!」

「……んあ、っはぁ!?おい!ふざけんな!普通に暴言だろそれ!う、う、訴えるぞ!」


 俺は有馬先生の咆哮を聞きながらデスクの上の有馬先生のサインが書かれた公欠届を半泣きで乱雑に奪い取って職員室から逃げ出した。


 ――――――――


「なんか空君今日ずっとむすっとしてるけど何かあったの?」


 有馬先生から何事もなく公欠届を受け取れてしまったことで、機嫌の悪さが漏れてしまっていたのか昼休みの時間を知らせるチャイムが鳴る教室で夏にそう話しかけられた。


「いやあね、ちょっと所用でイギリスの迷宮に行かなきゃいけなくなってさ、公欠届を有馬先生に貰いに行ったんだけど、普通に貰えてさ……」

「……ん?ちょっと待って情報が多いよ!?というか、最近空君がダイバー活動してるのは知ってたけど、なんでイギリスに?って言うか公欠届を貰いに行って、無事に貰えたことになんで嫌そうにしてるのさ!?」


 大雑把に夏に説明したところで夏も意味が分かっていないのかワタワタと少し慌てたように手をばたつかせながら言う。


 改めて第三者から内容を整理されると俺も意味が分からなくなってくる。


 そもそも有馬先生にした逆切れも普通に申し訳ない事をした。


「夏、落ち着けって。硯の意味が分からない行動は今日に限った事じゃない」


 流石に慌てる夏を見かねて黒木も会話に入ってきた。

 いつもであれば黒木に内心恨み言を漏らす俺も今回ばかりは百パーセント俺が悪いので口を噤む。


「要はそんなに行きたくないイギリスに行かなきゃいけない理由があって、公欠が下りなければイギリスに行かなくてもよくなるって思ってたのに普通に公欠が下りたから拗ねてるんでしょ?ガキかよ」

「お~なるほど。そういう事かぁ……」


 俺の内心を除いているかのような簡潔な黒木の説明で夏も俺の状況が分かったようで頷いている。

 理解した二人は俺を可哀想な物を見るような目で見つめてくる。


「いや、違うんだよ。……い、いや違くも無いんだけど」


 言い訳を口にしようとするも、どうあがいたところで悪あがきにしかならない。


「どっちだよ」


 白けた黒木の視線に晒されて体が縮こまってしまう。


「……ほら、最近仕事も忙しいし、学校もあるからイギリスに行くのはなあ、って」

「嫌なら行かなきゃいいのにわざわざ断る理由の為とは言え公欠を取ろうとするポーズは取るってことは、直ぐには断りずらい人からの誘いってことでしょ?」

「だろうね」


 黒木どころか夏までも、俺を諭すように訳さえ分かっていれば直ぐに思い当たることをなんてことの無いように言う。


「まあ、そうなんだけど」

「それじゃあ公欠も取れたんだし、頑張んないとね?」

「……そうなんだけどぉ」

「高校生にもなって駄々こねんなよ」

「もう!加奈ちゃんそれは言いすぎだよ」


 黒木と夏によるコンビでの飴と鞭を受けて俺は何も言うことが出来ない。


「そもそも、硯がそんなめんどくさい立ち回りをしてるってことは、完全に行きたくない訳じゃなくて、他に要因がある気がするんだよね、ほら例えば誘われた人のいう事は聞きたいけど、イギリスの迷宮は怖いから行きたくないとか」

「うんうん」


 黒木!貴様どこまで俺の思考を……?


 つらつらと十割がた当たっている仮設を並べる黒木に少し恐怖してしまう。

 夏も黒木の仮説の筋が通っているのは分かるのか興味深々の様子で黒木の話すその先を促すように相槌を打つ。


「それで、どうせ硯の事だからそのイギリスの迷宮って言うのも相当高難易度で、こいつはこの前いつの間にか雪原と結婚してるのよね。ほら夏?そろそろ分かるんじゃあない?雪原セツナ、イギリスの高難易度迷宮、硯の女子に対する節操のなさ」


 おい、辞めろ。俺の内心で推理を楽しむな。


「えっと、セツナちゃんと知り合いで、イギリスの高難易度迷宮に潜ってる人で、女子……あ!渡邉津奈!」


 流石にそれなりの頻度でメディアに露出している津奈ちゃんの事は知っていたのか、夏は黒木に与えられたパズルのピースを見事にそろえて答えを出して見せた。


「そうそう。渡邉津奈からの頼みで可愛い女の子の言うことは聞いてあげたいけど、世界でも未だに順調に攻略出来てるのが、天才渡邉津奈しかいない迷宮に行くのは怖いからあがいてたってのが一応私の仮説なんだけど、そこんところどう?」

「……いや大体あってるけど……なんなん?黒木怖いんだけど、探偵?」

「ん?いやほら、色々な物語とか映画とか見てると何となく、あ、こいつ犯人ぽいとか分かるじゃん」

「流石加奈ちゃん!」


 言われてみればわかるような気がする黒木の説明を聞いて、夏は目をキラキラと輝かせている。

 確かに黒木の仮説はおおむね当たっている。強いていうのであれば俺も津奈ちゃんのことは可愛い人だとは思っているが、それが理由でいう事を聞いて挙げたいのではなく、ダイバー活動の師匠として少しは恩を返したいからなのだが、そんなことは黒木が知る由もない事だろう。


「まあ、てわけで、当分学校休むわ」

「うん、今度はリアルで会うのより、テレビのニュースで見る方が早そうだね?」

「言いようによれば、あの渡邉津奈との泊りがけの旅行に行くだけでしょ」


 黒木ィ……


 俺のインターネット関係の仕事や迷宮探索とかを素直に応援してくれている夏とは反対に、俺も出来るだけ気にしないようにしていたことを言葉にする黒木にいつものような恨み言が漏れる。


 そんな報告がてら、意外な黒木の特技が判明した、なんてことの無い昼休みの時間はゆるゆると流れて行った。



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