【六話】ドラム型洗濯機ってカッコよくない?
「さ、さあ買い物しましょう!買い物!」
「う、うん」
俺が桜さんに大げさに声を掛けると桜さんもまだ照れてはいるが何とか返事をしてくれた。
いまだに耳は真っ赤だが。
「……それで今日は何の家電を買いに来たの?」
店のエスカレーターに乗っていると桜さんも少し回復してきたようで、そう聞いてきた。
「とりあえずは洗濯機と電子レンジ…あとはパソコンぐらいかな」
「ふーん?洗濯機とレンジは分かるけどパソコンはなんで?あ、ノパソ学校で使うとか?」
「いや、デスクトップのパソコンが欲しいんだよね」
「ふーん?」
桜さんは前者二つは理解してくれたがパソコンに関してはいまいちよく分かっていない様だった。
まぁそれも無理もないだろう。今時わざわざパソコンを買わなくても大体のことはスマホで片が付く時代だ。
けれど前の世界でも俺は馬鹿みたいに金をかけてパソコンを買っていた。それはゲームをするためだしかもFPSゲームが特に好きだった。
新しい世界に来たとは言ってもFPSゲームをやらないという選択肢は俺にはなかった。
「じゃあ、取り敢えず洗濯機から見に行こうよ!」
「そうだねー。いまいちどの洗濯機がいいとか俺には分からないけど…桜さん分かる?」
「ん?いやわっかんない!店員さんに聞けば分かるでしょ!」
「ま、確かに。じゃあ洗濯機のエリアに行こっか?」
「うん!私家電買うの久しぶりだから、少し楽しくなってきたよ~」
「え、ちょ」
そう言って桜さんは洗濯機エリアと思われるほうへと俺の手を引きながら小走りで向かって行く。
俺も少し桜さんにはびっくりしたが、桜さんも楽しんでくれているのならと思いされるがままに付いていくが、少しだけ周りの生暖かい視線が恥ずかしかった。
――――
桜さんに手を引かれて洗濯機エリアに来たのはいいものの、俺も桜さんも家電に詳しくないとこともありうろうろと歩き回ることしかできなかった。
その最中も桜さんは僕の手を繋いだまま、「ほー」とか「へー」とか言いながら並んでいる洗濯機を見まわし、見るからに高性能そうな洗濯機の値段を見てはに少し小声でたっか!なんて呟いていた。
神スペックの聴覚の良さが俺の事を難聴系にはしてくれない様だ。
何というか、桜さんの柔らかい手の感触もそうだが、洗濯機を見ながらも呟いている様子が俺にはとても可愛らしいものに見えて、今度は俺がさっきの桜さんのように照れてしまってただ桜さんに連れまわされているだけのお人形さんみたいになってしまっていた。
「あのー何かお探しですか?」
俺が桜さんの手の感触を楽しんでいると、店員さんらしき女性に話しかけられた。
遂に俺たちの救世主が現れてくれた。服屋とかの何かお探しですか?には陰キャ的な性格のせいで煮え湯を飲まされ続けてきたが、こと今回に至ってはありがたい声掛けだった。
「あー洗濯機を探してるんですけど、どれがおすすめとか有りますか?」
「……はい!ございますよ?予算はどの程度ですか?」
俺が店員のお姉さんにそう返すとお姉さんは俺たちの繋いでいる手に視線を移して、途轍もなく生暖かい物を見るような目で見て完璧な営業スマイルで返事をしてくれた。
――コレ絶対俺たちの事勘違いしてないか?
恐る恐る桜さんのほうを見てもまだ近くの洗濯機のスペックの書かれている紙を見ながら「ほえー乾燥機付きなんだ…いいなぁ」とか呟いていた。
桜さんはもう最新型の洗濯機のとりこになってしまったので、俺がお姉さんと話すことにする。
「予算は特には決めてないですね、一番おすすめのものであればいいです。」
「…分かりました。洗濯機は結構お値段しますが大丈夫ですか?」
お姉さんは俺の返事を聞いて少し納得のいかないような表情をしていた。俺たちの事は贔屓目にみても大学生だろうし、そこまで自信満々に幾らの洗濯機でもいいなんて言うようには見えないのだろう。
「ドラム型と縦型どちらが良いとかはございますか?」
「できれば、ドラム型が良いですね。」
どちらが良いかは俺には分からないが、何となくドラム型の洗濯機に憧れていたのでドラム型にした。
「分かりました。ご案内します。」
お姉さんはそう言って僕たちを案内してくれるようだ。桜さんはまだ洗濯機のとりこになっていたので声をかける。
「桜さん行きますよ。店員さんが案内してくれるそうです。」
「えっ。あ、はい行きましょう」
俺が声を掛けると桜さんは意識がこちらに戻ってきたようで少しびっくりしながらも、返事をしてくれた。
「こちらはいかがでしょうか。ドラム型洗濯機としては最新の型になります。一応洗濯容量が10㎏のモデルなので、お二人分のお洗濯も簡単ですね。乾燥機能もヒーターポンプ式なのでお洋服へのダメージも少なくできるかと。」
お姉さんはそう言って俺たちに説明をしてくれるが、途中で少し気になる発言が聞こえてしまった。
「お値段が少し張りますが…」
「ちょ、ちょっと待ってください、二人分ですか?なぜ?」
「?えーっとお客様は同棲する際の家電を選びに来た物だと思ってましたが…」
「え、ち、ちがいますよ~私たちはただの知り合いですよぉ」
桜さんも少しテンパりながら否定してくれた。
どうやら、何かお姉さんは勘違いをしているようだった。同棲も何も俺と桜さんは、今日初めて会ったばかりの関係だ、仮に男女二人で家電を選んでいるからと言って別に同棲とまではいかないだろうに。
……あ、
俺は右手に感じる他人の体温を今になって思い出した。そう言えば桜さんに手を繋がれたままだったな、と。
「あ、」
桜さんもそのことに気が付いたようで、二人そろってぎりぎりと音が聞こえるぐらいに繋がれた二人の手を見つめてしまった。
「「……!!あ、あはは、は」」
俺と桜さんは勢いよくバッと繋いでいた両手を話して、乾いた愛想笑いをしてごまかすことしか手段が残されていなかった。
「?」
お姉さんが俺たちのやり取りを不思議な物を見るような顔をして居る。
「……もう、それでいいです。」
俺も居たたまれなくなってしまって、お姉さんの視線から逃げるように俯いて小さく呟くことしかできなかった。
「ほかにお探しのものはございますか?ないのであれば、この紙を持ってレジのほうまでお願いします。」
お姉さんは俺たちの事を置いておくことにしたようで俺に向かってそう質問をしてきた。
俺としてもまだ電子レンジとパソコンが欲しかったのでその事を伝える。
「……えと、電子レンジとデスクトップのパソコンを…」
「かしこまりました。パソコンは担当が異なりますので私の方で引き継いでおきます。」
「…お願いします。」
俺はお姉さんにそう言うとお姉さんは胸元についている小さいマイクに連絡しているようで、それが終わるとまた電子レンジの方へと案内を初めてくれた。
因みに桜さんはやり取りの間羞恥が許容範囲を超えてしまったようで、先ほどと同様に顔も耳も真っ赤にしてくりくりもじもじしていた。