【三十七話】へ~神様やるじゃん?まあ普通に頭おかしいと思うけど
仕事、APEXと忙しくなかなか更新が出来ずに申し訳ございません。
……APEXは取材のためにやっているのです。許してください。
本当ですよ?取材のためにやっているのです。決して、遊びでAPEXをやっているわけではないのです。取材です。ハイ。
ARカップの出場権を手に入れ、ミラーさんの伝手で出場が無事に決定したこともあり俺たち三人はVPEXの練習こそそこそこの頻度で行っているが、前ほどの熱意を持ってVPEXをしているというよりは、ほのぼのと話しながら明星さんの練習に付き合う形の配信が増えていた。
ありていに言えば俺たち三人は燃え尽き症候群のような状態になっていた。まぁそんな中でも明星さんのVPEXに対する熱意は相当の物だが。
そんなこんなで、今日は明星さんとのコラボも、ミラーさんとの配信の予定もなく家で桜さんとイチャイチャしながら時間を潰している。
「そういえば、今日はピコピコしないんだ?」
ソファーで二人座りながらぼーっと映画を見ていると桜が首を傾げながら聞いてきた。
勿論今日は何の予定もないので今こうして、二人で並んで何もせず話しているわけだが。
「まあね……最近ゲームばっかりで、桜さんと二人きりってのもあんまりなかったし、今日ぐらいはね」
「確かに~。なんか最近こうやって空君と二人で話すことしてなかった気がする……」
桜は少し不満そうに頬を膨らまして、恋人つなぎをしている俺の左手をぎゅっと握ってきた。
別に桜の事をほっといていたわけではないが、明星さんとの配信でのVPEX練習の比率が高いのも確かだった。
「ははは、ごめんね?」
「まぁ、いいけどさっ」
俺が少し桜に寂しい思いをさせたかと思い、申し訳なくなりそう言うと、桜は手を握ったまま体をぴたりと俺にくっつけてきた。
桜が俺にくっついてきたおかげで、桜の体温とか、ちょっとした体の起伏とかがありありと分かってしまう。
二人きりでまったりとした時間は過ごせなかったがやることはきちんとやっている俺達ではあるが、俺は未だにこうした普通のいちゃつきと言うモノに対して耐性が出来そうにない。
何というか、少し気恥ずかしいのだ。多分前の世界でろくに学生生活で青春のようなものを味わってきていない所為もあるのだろう。
「急にどうしたの?」
「……ん」
俺が急に体をくっつけてきた桜にそう聞くが、桜は俺の問いに何か答えるわけでもなく、もっともっとと言わんばかりに体をくっつけるだけでは足りないのか、頬と頬をすりすりと擦り付けて俺の左腕を先ほどよりももっと強く抱きかかえた。
――まるで猫だな……
俺はそう思いながら、桜同様に何か言うわけでもなく、久しぶりの二人きりのゆっくりと流れる時間を楽しむことにする。
そうして俺達二人が密着してどれだけの時間が過ぎただろうか、体感は何時間も過ぎたような気がしていたが、壁に掛かった時計をちらりと見ると二人で密着し始めてからまだ三十分ほどしかたっていなかった。
「あ、そういえばさ、今度恵美ちゃんが家に来てみたいって」
今まで沈黙を貫いていた桜がふと思い出したかのように、口を開いた。
確か、恵美ちゃんは桜の大学での親友だったはずだ。桜の親友が遊びに来るのに何か言うこともない。そもそも俺もたまに夏や黒木とこの家で遊んでいるのだ。一応家主でもある俺が友人を連れ込んでいるのに、桜はだめなんてことはあり得るわけがない。
「おーいつ?てか、そんなことわざわざ聞かなくても好きに呼べばいいのに」
「まぁ一応だよ、一応ね。まだ日にちは決まってないけど、私の夫が見てみたいんだってさ」
桜は笑いながら言う。
「……えーっと、確か恵美ちゃんには伝えたんだっけ?」
「うん。とりあえず大学の子では恵美ちゃんにしか伝えてないけどね。というか、前に言ったじゃん」
「あれ、そうだっけ?」
「うん。そうだよ~」
俺が何となく前に聞いたような、聞いてないようなことを質問すると、やはり聞いたことが有ったみたいだ。
桜は笑いながらそう言ってくれたので、そのことを忘れていたことに関しては特に何も思っていない様だ。
「ま、俺はいつでもいいよ?基本学校が終わったら暇だし。」
「おっけい!じゃあ恵美ちゃんにもそう伝えておくね!」
「うん。俺も桜の恵美ちゃんが桜の親友ってことは知ってるけど、あったことないから、少し気になるかも?」
「そういえばそうだったね~。……恵美ちゃん可愛いから、目移りしないでね?私の親友だからね?」
桜は少しふざけたように言っているが、瞳の奥からは本気と書いてマジの気配がひしひしと伝わってきた。
「……善処します。」
俺は桜のその言葉に平身低頭の思いだった。
割合で言えば俺の知り合いは女性率が圧倒的に高いこともあるし、俺自身桜レベルの美少女に迫られて我慢できるか、と聞かれたら我慢できないというほかないほどの精神力の低さは自覚している。
俺がははーッとでも効果音が付きそうなほどソファーの上で正座をしていると、桜が俺のその姿を見て堪え切れずにに噴き出した
「ふッ……あはははは!!冗談だよ~。恵美ちゃん彼氏いるし!」
どうやら俺は桜に揶揄われていただけのようだった。まさか揶揄われてるとは微塵も思ってなかった俺はポカンと間抜けに口を開いてしまった。
「……え?」
「……ふ……ふふ、ふぐッ。恵美ちゃん彼氏ラブだから、心配してません~」
未だに桜は笑いが収まらないようで我慢しようと固く結んだ口から笑いが漏れ出ていた。
「なんだよ~。あーびっくりした」
頑張って笑いを堪えようとして、我慢できずに笑う桜を見て俺はやっと平常心を取り戻した。
「それに、もし新しい子が出来たら、私に教えてね?」
「……ん?」
俺は桜がひどく軽い口調で言ったその言葉が聞こえはしたが、理解はできなかった。
こんなことが前にもあった気がするな、デジャヴ。
「ん?二人目のお嫁さんが出来たら真っ先に私に教えて欲しいなって」
「……いや、え?」
「だから、どうせ空君は惚れっぽいんだから、またすぐに女の子連れてくるでしょ?……可能性がありそうなのは、夏ちゃんとか、響さんもかな?」
桜はびっくりして壊れたおもちゃみたいになってしまっている俺を心配そうに見ながらも俺の理解できないことをあたかも常識と言わんばかりに言う。
「ちょ、ちょっと待って!二人目って、桜はそれでいいの?」
「……?まぁ。すこぉし悔しいけどね。私ひとりじゃ満足できないんだって」
片頭痛になんてなった事は無いが今ばかりは何処か頭の遠くが痛みを発していた。
「それだけ?浮気じゃないの?」
「浮気じゃないでしょ?経済能力がきちんとあれば重婚なんて普通の事だと思うけど?男女問わずだけどね?」
ますます頭が痛くなった。どうやら桜さん曰くこの世界は複数の配偶者を養うだけの経済能力があると認められれば、ハーレムも、逆ハーレムも法律上問題は無いらしい。それに経済能力は普通に俺はクリアしているとも。
「へぇ~。そんなもんなんだ……」
「と言うか、私たちが籍入れた時に市役所で貰った書類にも書いてあった気がするけど?」
俺が前の世界と今の世界とのギャップに間抜けな声を出すと桜が続けてそう言った。
「……俺、それ見てない……。書類読むの苦手なんだよね」
「も~ちゃんと見といてよね。案外大事なこと書いてあったよ?」
「マジか」
「マジだよ」
俺は気軽にこの世界の不思議さ具合を桜に叩きつけられた。高校生でも結婚できると知ったときにはこれより驚くことは無いだろうと思っていたが、まだまだこの世界は不思議に満ちていたようだ。
そもそも、神様が適当に都合のいいように作ったようにしか思えない。まぁ俺としては有難い面もあるので何とも言えないが。
結婚系の法律を作るときに神様は酒でも飲んでいたのだろうか?
――素面でこの法律を作ったのだとしたら普通に頭おかしいと思う。




