【三十六話】明星さんは着々と力をつけてきている。
それからと言うものの、明星さんとは何度か軽くVPEXのコラボ配信をするたびに、俺とミラーさんのようつべのチャンネル登録者はうなぎのぼりだった。
二万人で伸び悩んでいたことが嘘みたいにどんどん増えていき、現在は、俺とミラーさん、明星さんとで、空鏡のチャンネル登録者が三万人に到達するまで終われません配信をしていた。
一応俺とミラーさんは明星さんに付き合ってもらわなくても大丈夫とは言っていたが、明星さんがどうしても一緒に配信したいということで、俺たちは三人そろってVPEXのカジュアルマッチに潜っていた。
俺達のチャンネルでの配信も見に来てくれる人は、少しずつ増えてはいるが、明星さんのチャンネルの視聴者は俺達とは文字通り桁が違った。
空鏡の視聴者が1000人弱のところ、明星さんの視聴者は二万人ほどだ。
明星さんもVPEXの配信をするようになって視聴者が増えたと喜んではいたが、俺とミラーさんは単純に明星さんの実力だと思っている。
もともと、明星さんは機械音痴と言うこともあり、雑談配信ばかりだったそうだが、少しずつ俺たちが教えている甲斐もあって始まったゲーム配信での明星さんのプレイを楽しみにしている層が居るのは確かだった。
まぁそれもほとんどは明星さんのまだまだ可愛らしいプレイと急に敵に撃たれた時の悲鳴を見るために来ているようだが……
「一人ダウンさせたよ~」
「じゃあ、俺達も行きますか。」
「は、はいっ!」
ミラーさんが敵のパーティーの一人を遠距離武器でダウンさせたようだ。その報告が上がると俺は残りの二人を倒しに行くために準備を始める。
明星さんはまだ、俺たちの動きについていくのが精いっぱいのようで少し緊張した様子だが、確実に初めてVPEXをやったときよりも実力は上がってきているので、そこまで心配しなくても大丈夫だろう。
「ジブに40当てました!」
「了解!」
今だって明星さんは既に得意武器となっている、R-311で敵のジブに少なくないダメージを出した報告をしてくれた。
初めて明星さんのプレイを見た時は少し不安になったりもしたが、ずっとR-311とショットガンのムスティフの2つの武器に絞って練習させたおかげで、その2つの武器に限っては、それなりの腕前になっているのだ。
「ジブやり!あと一人だよ!明星さんがんばって!」
俺は明星さんの報告を聞いてジブを先にダウンさせ、後の一人は明星さんに戦わせてみることにした。
勿論俺もミラーさんも別のパーティーが来ないように警戒はしているが、明星さんに自分でも撃ち勝てるという自信をそろそろ付けたかったのだ。
「えぇ!?……分かりました。」
俺の言葉に明星さんは最初こそびっくりしていたようだが、覚悟を決めたようだ。最後の一人はライフラと言うダウンした仲間をシールドを張りながら、起こせるという回復キャラだったので明星さんがライフラと一対一が出来るようにダウンした二人は確殺を入れておく。
明星さんは20メートルほどの距離感で大きな岩を障害物にしてライフラと撃ち合いを始める。今はカジュアルのマッチなこともあって、特別相手も撃ち合いが上手い様子は無かったので大丈夫だろう。
「明星さん!落ち着けば大丈夫だよ!」
「他のパーティーが来ないように僕たちが見とくから~」
「は、はい!頑張ります!」
明星さんはそれだけ言い残して集中するためか、黙ってしまったので、俺とミラーさんは敵と明星さんのタイマンを見守る。
最初にダメージを与えたのは、敵のライフラだった。敵の持っている銃は銃声からして重弾のアサルトライフルのヘムロだ。バースト銃で全距離に置いて使いやすく人気の銃だ。
ワンバースト分が明星さんに当たり、明星さんのシールドが半分ほど削られてしまったが、明星さんは俺達と射撃訓練場で一対一の撃ち合いの練習を数え切れないほどこなしているので、その程度のダメージには怯まない。
きちんとR-311の照準をライフラに合わせて、発砲した。
「……よしっ」
その弾丸はきちんと敵の体力を削った。そのことを明星さんも確認したようで小さな声を上げているのが聞こえた。
明星さんはアーマーを割ったのを確認して、武器をムスティフに切り替えライフラとの距離をきっちりと射線を切りながら詰めていく。
「うまいね……」
ミラーさんはそう呟いた。確かに明星さんはVPEXのセンスがなかったかもしれないが、俺たちの教えをきちんと守る真面目さと、一人の時でも動画などを見て勉強する勤勉さが分かるくらいに、基本的な動きを守ると言ったことに徹したプレイをしている。
今だってムスティフに切り替えて詰めるときに射線を切りながら詰め、銃を撃たないときは敵からの射線を切ることを徹底しているおかげで、ライフラは詰めてくる明星さんにできることは何もなかった。
ムスティフの有効射程に入ったことで、明星さんはムスティフを撃つ瞬間のみ体を出し丁寧なエイムで一発で60ダメージほど出している。ライフラは既に虫の息になってしまって、引くために後ろに下がろうとするが、近くの遮蔽物に行くまでに明星さんに撃たれてデスボックスになってしまった。
「……やりました!!」
明星さんはライフラの死亡を確認して喜びの声を上げた。
「完璧な動きでした!何も言うことは無いですね……」
「そうだね。それを常にやれるならプラチナの上位ぐらいにはなれるかな?撃ち合いならだけど」
俺とミラーさんは素直に明星さんの成長に驚いていた。だって最初は動かない的にですら弾を当てれなったのに、今の戦闘では無駄弾はほとんどなくムスティフも完璧な当て感と言っても過言ではなかった。
『あれ……なんか涙が』
『俺もマジで泣きそう』
『ここ二週間ぐらい頑張ってたもんな……』
『空鏡の二人のおかげで俺たちの綺羅ちゃんがまともなプレイが出来るまでに……』
ちらりと明星さんの配信のコメント欄を見ても視聴者の皆さんは感激しているようだ。
「じゃあ、このままチャンピオン取っちゃいますか!」
「そうだね~」
「わ、分かりました!頑張ります!」
俺がそう言うと二人とも返事をしてくれた。それからの試合は明星さんが絶好調なこともあり、ミラーさんが削り、明星さんがカバーする。俺が残りを処理するという作業のようになってしまったが、無事にチャンピオンを取ることが出来た。
「なんか、私のプレイが霞むくらいに無双してないですか?」
「……い、いやぁ。ほら明星さんが頑張ったから、俺も頑張んないとって思って……」
「カジュアルに僕たち二人がいる時点でこうなるって分かってたというか」
俺達二人はさっきの試合が終わった後に明星さんに責められていた。確かに明星さんのプレイに感化されて少し本気を出したら予想以上に無双してしまったのは確かだ。
「なんか、お二人との差が一生開いたままな気がします……」
「ま、まあまあ。俺達は一応プレデターだし……」
「……ねぇ?」
「それでも!私も二人に頼られたりしたいんですが!」
明星さんがそう言うが、俺達も最近初めた人に負けるつもりは無い。
俺達が明星さんに頼るときは来るのだろうか……
『てか、空鏡の登録者三万超えてね?』
俺は明星さんの追求から逃れるようにコメント欄を見ると、ひとりの視聴者がそうコメントしていた。
そのコメントを見て、自分でも空鏡の登録者数を見ると確かに三万人を超えていた。
「それに……お二人は強すぎるんですよ!」
「……ちょ、ちょっと二人とも空鏡の登録者三万人超えてますよ!」
「ホント!?……うわ、ほんとだ!」
「えぇ!!いつの間に!?おめでとうございます!!」
未だに明星さんは言いたいことが有るようで話を続けようとしていたが、俺のその一言で直ぐに話を終えて自分のことのように喜んでくれた。ミラーさんもまさか既に三万人を超えているとは思っていなかったようで驚きながらも喜んでいた。
「これで、ARカップ出れますね!」
「そうじゃん!僕完璧に忘れてたよ……勝手に出れる体だったけど、今まで出場権持ってなかった。」
「とにかくこれで、もっとARカップに向けた戦略とか、練習をしなきゃですね」
三人で興奮しながらもARカップに向けて色々と準備しなければいけないことを思い出す。
「とにかく!ARカップの事は後で考えよう!」
「ですね!三万人おめでとう会しますか!?」
明星さんは何かしらの催しものがしたいらしい。
「おめでとう会って、配信でもしますか?」
「そこは、ほら、ARカップに向けて、オフ会とか?」
「あーそれは僕がパスかな。とりあえずARカップ優勝するまでは気を抜きたくない」
「……そうですか……」
明星さんがまさかのオフ会を提案したが、直ぐにミラーさんに流されてしまった。まあ確かに一番ARカップで雪原と戦うということに執心しているミラーさんらしい発言だった。
「ま、その辺はARカップ優勝するまで取っておきましょうか」
「そうだね。僕だってオフ会が嫌って訳じゃないから。今はってだけで」
「そうですね……とりあえず今は、ARカップに集中しましょうか。」
三人で意見をすり合わせて、オフ会はARカップの優勝後にするということに決まった。さすがに優勝前提で話を進めるのは慢心と言われてもしょうがないが、正直この三人で他のチームに負ける気がしないのは皆が思っていたことだ。
その後時間もそろそろ遅くなってきたので、解散する流れになった。
「とりあえず、僕が出場の申請しておくから、また今度チーム名も考えないとね」
ミラーさんが解散する直前に言った言葉で俺と明星さんは返答に詰まった。確かに大会に出るのであればチーム名も大事だろうが、俺と明星さんはそんなことを考えていなかったからだ。
「……あーそう言えばそうですね」
「……また、配信で決めますか」




