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【三十四話】真面目に話しちゃった……

「すいませんでした!!私、あまり機械が得意ではなくて……」


明星綺羅さんは、グループに入ってくると直ぐに謝ってきた。別に俺もミラーさんも遅れたことに何も思ってはいないが、明星さんはマイクの前でぺこぺこと頭を下げているのが、声が近くなったり、遠くなったりしていることで何となく察した。


「いやいや、気にしなくて大丈夫ですよ?」


「そうですって!」


「……でも、私のせいで、二人の時間を無駄にしてしまったので……」


明星さんの謝罪を聞いて、俺とミラーさんが揃って明星さんに何も思っていないことを伝えるが、明星さんは自分自身が許せないとばかりにしょんぼりとしてしまった。


「ほんとに僕たち気にしていないので!」


「大丈夫です!ほんとに!」


「……ですが、」


「大丈夫です!」


俺達がしょんぼりしてしまった明星さんをどうにか慰めようとする。

俺達の慰めを聞いても明星さんはまだ納得できていないような口ぶりだったが、俺たちの勢いに負けてそれ以上は何も言わなかった。


とりあえず明星さんの雰囲気を少しでも変えようとミラーさんが口を開く。


「とりあえず、ARカップの話をしませんか?」


「……はい」


明星さんも何とかたちなおったようだ。勿論まだ少し俺たちに対して、申し訳なさそうな様子だったが。


「えっと、明星さんはARカップに向けて、VPEXの技術とPC関係の知識を教えて欲しいという事でしたよね?」


とりあえずミラーさんが話を進めるようなので、俺は特に何か言うこともなく黙って二人の会話を聞くことにする。


「そうです。SNSで言ったように私は、どうにも機械関係のことが苦手で、ARカップにも出て見たかったのですが、同期の子達には一度私のプレイを見てもらったのですが、匙を投げられてしまって……」


PC関係のことは先に聞いていたので特に言う事は無いが、同期の子に匙を投げられるほどのプレイがどんなものなのか気になってしまった。


「……ちなみに、匙を投げられたというと、どんな感じに……?」


俺はミラーさんに明星さんとの会話を任せたが、匙を投げられるほどのプレイが気になってしまい、明星さんに聞いてみる。


「えっと、はい。Wで前に進むのは教えてもらったのですが、どうにもキーボードを触りながら、マウスを動かせなくて、結構練習したのですが。」


……まぁ、まだ慌てるような時間じゃない。うん確かに、視点移動とキャラ操作を同時にするのはゲーム初めての人には少し荷が重いだろう。


「あーなるほど、確かVPEXが初めてのゲームなんですよね?なら仕方無いと思いますよ?」


「……そうですかね、そうだと良いんですが。」


「でも、そのぐらいなら、初めての人あるあるだと思うんですが……?」


それは俺の本心だった。明星さんが言ったことはゲームをあまりやらない人が初めてキーボードとマウスでキャラを操作するのが難しいのは人によってままある事だからだ。


「ほかにも、その、同期の子が言っていた、りこいるこんとろーる?と言うモノも全然できませんし……あと、止まっている的には二割ぐらいは、当たるのですが、動くものになると……」


……ま、まあ初心者の人が止まっている的に二割当てれれば、大したものだ。うん。そうだったらそうだ。後は動くものも当てるの難しいもんね、分かるよ。……ほんとだよ?


「ま、まあ俺たちが教えれば、多分ARカップまでにはそれなりにできるようになると思いますよ?……やってみないと何とも言えませんが」


「ですかね……やっぱりゲームもやった事の無い私が、大会に出るのはやめたほうが良いんでしょうか……」


「それは違うよ。」


明星さんがまた、ブルーな気持ちになってしまっていると、それまで沈黙していたミラーさんが急に真面目な様子でそう言った。


「そもそもの話、ゲームなんてものは娯楽なわけで娯楽に経験なんてものは関係ない。大会と名前が大仰だから、しり込みする気持ちも分からなくもないけどARカップはそもそもカジュアル大会なんだから楽しんだもん勝ちだよ。そこにゲームを楽しむのに技術も、経験も必ずしも必要じゃない。明星さんがどれだけARカップと言うイベントを楽しめるか、が重要だと僕は思います。」


ミラーさんが珍しく熱く語っていた。最後には敬語を使い忘れていたことに気が付いたようで、取ってつけたように敬語で〆てはいたが、俺もミラーさんの意見には同意だ。


ゲームは遊びじゃない。


なんて言う人がいるが、それは遊びじゃなくなるほどに遊びに真剣にのめりこんでいるから出た言葉なだけでどこまで行ってもゲームは遊びに過ぎないのだ。勿論賞金が絡んでくる競技シーン等は例外だが。


「……でもそれは、お二人がお上手だから……」


「あーそれは違いますよ。」


ミラーさんの語っても明星さんがまだネガティブな思考から言った言葉に俺もつい口をはさんでしまった。明星さんは俺の参戦に俺の言葉を聞くためか口を噤んだので、俺はそのまま話すことにする。


「そもそも、ミラーさんも言っていたと思いますが、VPEXはゲームと言う娯楽です。センスは関係ないとは口が裂けても言えないですが、基本的にゲームと言うモノは、知識、経験がものを言う分類の娯楽です。

勿論、センスはあるに越したことはありませんが、そんなものはスタートダッシュが上手くいくかどうか程度にしか関係してきません。俺は自分で言うのもなんですが、センスがある方です。……それでも最初の知識が乏しいときはミラーさんと一対一で戦っても全く勝てませんでした。なんでだと思いますか?」


「ミラーさんがSKYさんより上手だから……ですか?」


「まぁ、大枠で言えばそれも間違いではないですが、ミラーさんの方が、VPEXやFPSをやってきた経験があって、経験や、豊富な知識による読み合い、キャラの操作技術があるからです。決して悪口ではないですが、センスと言うモノだけで言うと幸運なことに俺はこの世界で一番センスがあると思っていますが、それでも全世界40位付近が今の限界です。」


「懐かしいね~あの時のSKYは僕に一度も勝てなかったもんね」


「……そうなんですか?」


ミラーさんが懐かしそうに言うとそれに明星さんは食いついたようだ。


「そうですよ~。あの時のSKYはただセンスでエイムは桁外れに良かったけど、読みだって浅いし、顔を出すタイミングも読みやすいし、正直カモでした。それが今や、短時間で僕といい勝負してくるからセンスだよね~」


「あはは、まあそれは置いておいて、結局VPEXは知識と経験が大事なゲームと言うのは分かりますか?センスがどうのって言うのは、最上位層の人たちが100点のプレイを当然のようにしてくる中で、それに勝つための1点でしかないわけですよ。だから気にしなくて大丈夫です。センスが僕より無くても僕より強い人もいます。」


「それに、明星さんはまだVPEXをほとんどやっていないので、ある意味伸びしろは俺達二人よりありますよ。明星さんがどれだけVPEXのことを集中して勉強できるかも関係ありますが。まあ何が言いたかったのかと言いますと、俺たちが上手いのは長くこのゲームをやっているからで、そこにセンスはあまり関係ないってことです。」


俺は言いたいことを何とか言い終わったので明星さんの反応を伺う。


「あと、僕とSKYは日本人でVPEXの最上位だから。僕たち二人にARカップまでの期間教われば、VPEXなんて簡単だよ?」


俺が明星さんの反応を伺っていると、ミラーさんからも援護射撃が飛んできた。




「……私頑張ってみます。もし本当に努力で上手くなれるのであれば、私でも頑張れそうです」




少し俺とミラーさんが黙って明星さんの返答を待っていると、明星さんが覚悟を決めたようにそう言った。

そこに先ほどまでのネガティブな様子は少しも感じられなかった。


「なら、契約成立かな?ちなみに、努力して必ずうまくなるとは確約できないよ。僕たち二人の役割は正しい努力を教えるだけだから。そこから先の上手くなれるかは、明星さん次第。」


ミラーさんは少し冷たく言い放ったがあながち間違いは言っていなかった。


「それでも……やります。やらせてください。」


明星さんはミラーさんの冷たく感じられるような言い方にも負けず、確固たる決意を持って言っている様に思えた。


「じゃあ、僕たちはようつべの登録者を増やしてARカップに出るため、明星さんはVPEXを上達してARカップに出るためとPCの使い方を覚えるための共同戦線だね?」


「はい!私、頑張ります!私を応援してくれる皆の為にも。」


そうして無事俺達と明星さんは共同戦線を張ることになった。


その日のうちに、明星さんはSNSで俺たちとコラボしてARカップに出るためVPEXのコーチングをしてもらう旨を報告した。


その報告に明星さんの視聴者の俺たちのことを知っている人達はそのコラボに興奮し、俺たちのことを知らない人も俺たちのチャンネルの動画を見て俺たちが日本人の中でもランク最上位層だと知り、

明星さんのその報告は直ぐに拡散され、VPEX界隈、バーチャルヨウツーバー界隈が少し騒がしくなった。


勿論少しその拡散は明星さんのSNSのフォロワー数の多さと層の厚さによるものが大きかったのだろう。

俺達のようつべの登録者も明星さんの報告が拡散されたおかげで二千人ほどポコンと増えた。



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