【閑話】ガスト、サイゼ、悩ましい。
「ファミレスでなんか食べながら話そうよ!」
学校生活にも慣れてきて、なんだかんだ夏や黒木とも仲良くなってきた今日この頃、いつものように放課後三人で話していると、夏が急にそう言った。
「いいんじゃない?」
俺がちらりと黒木の方を見ると黒木も賛成のようだった。
「この辺ってどこがあったっけ?俺引っ越してきたばかりだから、あまり詳しくないんだよね……」
「サイゼとかガストかなぁ」
俺が聞いたことに答えてくれたのは夏だった。
そうして出てきた候補は前の世界でもそれなりに有名どこのファミレスだったので、俺も久しぶりにファミレスで食事をとりたくなってきた。
勿論桜が用意してくれているご飯に飽きたというわけではないけれど、それでもたまに外食がしたくなるのは人の性だろう。それに桜の料理はいつも栄養バランスも良いし、完璧な夕食なのだが、たまにはファミレスでご飯を食べたいと思うのは許してほしいと思う。
「あ、でも空君お嫁さんがご飯作ってくれるんだっけ?」
「そいや、そうだね」
夏と黒木は思い出したように言う。
一応学校の中ではこの二人と加賀見君には俺が桜と結婚している事を伝えているのだ。勿論二人は祝福してくれたがこの年で結婚したと言ってもそこまで三人とも驚かないのは、何となく違和感を感じたがそれもこの世界に来たことによることが大きいのだろう。
「あー、一応LINEで聞いてみるね」
俺は二人にそう言って桜にLINEを送ると直ぐに了承の返事が返ってきた。桜も俺が友達とご飯に行くということで、友達の恵美さんとご飯に行くようだ。
ついでにファミレスは学校から近いようなので、等々力さんにも歩いて帰るとLINEをしておいた。
「大丈夫そう。桜も友達とご飯にするって!」
俺は桜からのLINEの返事を確認して二人にそう言うと二人も少し喜んだようにどこのファミレスに行こうか相談し始めた。
「やっぱり、サイゼかな?」
「いや、ガストのハンバーグも良くない?」
「えーでも、サイゼのドリア食べたいなぁ」
「うーん……硯はどっちがいい?」
二人は相談しても意見が割れてしまったようで黒木が俺に意見を求めてきた。
正直俺はサイゼのたらこパスタが食べたくなってきていたのでサイゼにしようかなぁなんて思っていたけど、ガストのポテトも捨てがたい。
「うーん……どっちに行っても食べたいものがあるんだよなぁ」
「……実は、私も」
「えーマジか……」
俺がそう言うとサイゼ派だった夏が少し恥ずかしそうにそう言った。
ここにきて三分の二が実はどっちでも良いということになってしまった。そうなるとガスト派の黒木も悩んでいる様に見える。
黒木としてはガストに行きたいのだろうが、何となくここでじゃあ、ガストともいえないのだろう。
「……じゃんけんでもする?」
三人が揃って考え込んでしまったので、恐らくそこまで角の立たない選択肢であるじゃんけんを提案してみる。
「まぁ、それが良いかな~」
「じゃ、じゃんけんしようよ。誰がする?」
「夏と黒木でしていいよ!俺はマジでどっちでも食べたいものあるし。」
俺の意見に二人とも賛成のようでじゃんけんをすることになったのでその役目は二人に預けた。正直自分のこの体は運も神様スペックなのでこんな大したことの無いじゃんけんでも絶対に勝てるのだ。
どちらでもいい俺が勝つと結局悩んでる今と変わらないので大人しく辞退して二人の運勝負の方がいいだろう。
「ん。おっけい!」
「りょーかい」
二人も納得してくれたようでじゃんけんを始めた。
「「最初はグー、じゃんけん」」
「「ほい」」
その使い古された掛け声で二人は手を前に突き出した。
夏がグー
黒木がチョキ
じゃんけんの勝者は夏だった。
「よっし!じゃあ、今日はサイゼで!」
「うわ~、負けたかぁ……」
夏が小さくガッツポーズをして喜んでいた。黒木はサイゼに決まったという事よりも夏にじゃんけんで負けた、と言うことが悔しいようで納得いかないように自分の出したチョキの手を恨めし気に睨みつけていた。
「じゃあ、また今度ファミレスに行くときは、ガストにしようよ」
「だね!」
「りょーかい」
俺達はそう言って、鞄を肩にかけもうすでに人のいない教室から出て行く。
――――――――――――――――
「そろそろ学校には慣れた?」
三人でファミレスに入り、テーブル席で注文を待っていると夏がドリンクバーで入れてきたジュースに刺さったストローを咥えながらそう聞いてきた。
夏の隣には黒木が座っており黒木も夏と同様に少し俺たちの会話を興味深げに耳を傾けながらストローを咥えていた。
「流石にね。二人以外にも話す人は出来たし、あーでもまだ高城さんには嫌われてるかも……」
俺はそこまでコミュニケーション能力が高いわけではないが、さすがに半月ほど学校に通っていれば話す相手も出来る。
ただ俺の後ろの席の高城さんには何か質問しても、いかにも面倒くさげに返答してくれるだけだ。まあ俺の質問に答えてくれるだけマシなのかもしれないが。
「てか、高城は大体の奴にそんな感じだよ」
ストローを咥えていた黒木がそう言った。
夏もそれには同感のようでうんうんと頷いていた。
「菫ちゃんはね~まあ、あーゆう子だから……別に空君の事が嫌いとかではなくて、他人に興味無いっていうか」
「あ~高城はそんな感じするよね」
「そうなんだ?」
どうやら高城さんは俺だけに冷たいわけではない様だ。
「そうそう。私もまだ菫ちゃんに面倒くさそうにあしらわれることあるし……何というかクールだよねぇ」
夏がそのことを思い出したのか少し体を震わせていた。コミュニケーション能力お化けの夏でもあの高城の絶対零度の態度は余り慣れている者ではないのだろう。
「でも、高城と夏は結構普通に話してるよね?なんで?」
「あ、確かにそれは俺も気になる」
黒木が夏に対して聞いたことは俺にとっても気になるところだった。
高城は基本的に他人に冷たいのだが、何というか、夏と話しているときはほんの少しだけ柔らかい対応な気がするのだ。
「ん―それは多分私が受験の時に菫ちゃんの隣の席だったんだけど、私が消しゴム忘れちゃって困ってる時に、隣の菫ちゃんが消しゴム貸してくれてから私がずっと纏わりついてるからそう見えるだけかも?」
どうやら氷属性の高城にも困っている隣の生徒への優しさはあったようだ。
「てか、夏受験の時消しゴム忘れてたなら、私に言ってくれれば貸したのに」
「いや、それがテスト始まってから消しゴム忘れたことに気付いちゃってさぁ~」
黒木の質問に夏はえらく軽い調子で答えていたが、受験の時に消しゴム忘れるって結構大事な気がするのは俺だけだろうか。
「まぁ、そんなことがあってずっと菫ちゃんには感謝しているのです。……だから、菫ちゃんには冷たくされても話しかけに行くし、本当は優しい子なのも知ってるって訳ですよ」
「へぇ~。高城がねぇ……でもなんか良いな、そういうの」
「でしょ!?だから菫ちゃんとはもっと仲良くなりたいんだけど、なかなか、ね」
「まあ、高城ちょっと受け答えがキツイ時あるしね」
黒木がそう言うが俺からすると黒木もなかなかにキツイときがある気が……
「なんか言った?」
「いいえ。言っておりません。ハイ」
黒木は俺の考えでも読んだかのように睨みつけてくる。
その後は注文した料理が来たということもあり、会話はほどほどにして久しぶりのファミレスの食事に舌鼓を打った。
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ファミレスで食事を終え、俺は二人を家まで送り届ける。
「じゃあ、また明日~!」
「じゃ、」
夏は大きく手を振りながら俺を見送ってくれるが、黒木はどこぞのサラリーマンが電車から降りるときのように空中に軽く手を上げているのみだった。
俺は二人から見送られて夕暮れが終わり、少しずつ暗くなっていく帰り道を一人で歩いて帰る。
たまには車で帰るんじゃなくて、歩いて帰るのもいいかもな、なんて思った。




