【二十三話】あー泣かせた~!先生に言っちゃお~。
携帯の微妙にうるさいようで、実はそんなにうるさくないアラーム音で俺は起こされた。
目ボケ眼をこすり時計を確認すると七時だった。
こんな早い時間になんで昨日の俺はアラームかけてんだよ……
「あ、今日から学校か」
俺は今日から学校の登校があることを完璧に忘れていたが。直ぐに思いだし、既に動くモードに移行している体に感謝しながら学校に行く準備を始めた。
「思いのほか早く終わったな……教科書も全部鞄に入れたし、持ち物も完璧」
急いで準備したはいいものの、直ぐに終わってしまって登校時間まで一時間を残して完璧に準備が完了していた。
――一応少し早く学校に行くつもりだから、まあいいか
俺は等々力さんに一応LINEを入れて、俺はテレビを見て時間を潰すことにした。
そうして三十分ほど時間を潰してから、駐車場に降りると、既に等々力さんが待機していた。
「お~!制服似合ってるっスね!こうしてるのを見るとほんとに15歳なんスね~」
等々力さんが俺の周りをくるくる回りながらそう言われたが、そもそも俺は何歳だと思われてるんだ。
「いや、15歳ですし」
「聞いてはいたけど、嘘っぽいじゃないスか。普通の15歳は運転手付きで登校しないっスよ」
「確かに」
等々力さんの言うとおりだった。
「んで、今日はどれに乗るんスか?」
等々力さんにそう聞かれて少し考える。
正直なところ、DBXとパナメーラの使い勝手が良すぎてロールスロイスに乗った回数は片手で収まるほどしかなかったので、ロールスロイスにしようかと思ったが、ロールスロイスで登校する高校生を想像すると滅茶苦茶嫌味な気がしたので、大人しくパナメーラにしよう。
「パナメーラで」
「うっス。」
俺と等々力さんパナメーラに乗り込んで学校に向かって出発した。
「てか、正直ロールスロイス腐ってるっスよね」
「言わないで……」
「うっス」
信号待ちをしているときに、等々力さんに非常に痛いところをつかれてしまった。
いいじゃないか!ロールスロイスっていう響きがさぁ!!
――――――――
「お、来たな、硯。待っていたぞ」
俺が車の中で少なくないダメージを受けた後学校の校門で車から降りたが、登校している白峰学園の生徒の視線がすごかった。
ロールスロイスだろうが、パナメーラだろうが、普通の高校生からしたら珍しい車なのだから視線が集まるのも少し考えれば分かることだった。
そんなこともありながら、職員室に入ると有馬先生が俺に声を掛けてきた。
穴がふたつ空いた紙袋を片手に持ちながら。
「有馬先生、なんで僕に紙袋をかぶせようとするんですか!やめてください!」
「ははは、いいではないか。いいではないか」
「ちょっマジで」
「こら!動くなよ硯!これはお前の為でもあるんだぞ!」
「……どういう事ですか?」
有馬先生が急に真面目に話始めたので俺も止まってしまった。
「それは、お前の顔を他のクラスの奴が見ると、大変なことになるからだ!」
「……は?」
「こ、怖い……じゃ、なくて!お前顔いい。女子高生肉食。怖い。男の嫉妬醜い。わかるか?」
「いや、片言で言われても……てか、にしたって紙袋かぶるの嫌なんですけど」
「お願いっかぶって?」
憎たらしいほどの上目遣いと少し頬を染めながら有馬先生がジッと俺のことを見てきた。
「いや、キッツ。……キッツ」
「あれぇ?これでイチコロって本で読んだんだけど……てか!キッツて言うな!」
その本に書いてあることが少なくとも先生の歳がやっては良いことではないことは分からなかったのだろうか、先生なのに。
「いや、マジでキツイっす。正直ゲボ」
「ゲボぉ!?お前先生に向かって生意気だぞ!!」
有馬先生は直ぐに眉を吊り上げて詰め寄ってきた。
「いや、先生に可愛いっていうのも生意気でしょ?」
「あーん?先生だって女の子だぞ?女の子はいつでもお姫様になりたいんだぞ?そんなことも分からないのか?……童貞がよ」
「は、はぁ!?ど、童貞ちゃうし!彼女……予定いるしぃ!!」
「予定じゃ、付き合ってないのと一緒ですぅ!バーカ!バーカ!童貞ー!」
有馬先生は地獄みたいな語彙力で俺の事を馬鹿にしてきた。
ここじゃ物が壊れる……屋上へ行こうぜ……久しぶりに…キレちまったよ……
「あはは、そうですよね。先生は素敵な大人の女性ですから、結婚とかもしてるんですよね?どう見ても左手の薬指に指輪が見えないのは、学校だからわざと指輪外してるんですよね?素晴らしい心がけだと思います!尊敬しちゃうなぁ~。……まさか先生がフリーなんてことは無いんだろうなァ?」
「…………生意気言ってすいませんでした。」
「え~聞こえないなァ?ええと?顔とスタイルは良いけど、性格が終わってるせいで恋人はいません?」
「…………そこ、まで言ってないもん。私お姫様だもん」
「ん~~?魔法少女アニメが大好きな、いい歳したお姫様の有馬ちゃんは恋人の一人や二人いるんですよねぇ?」
「………………ヒグッ……もう、ゆるして…」
「硯君、そろそろ有馬君を許してあげてくれないか?この子泣いてるから」
俺が気持ちよく敬語もどきも忘れて有馬先生の精神を破壊していると、いつのまにか後ろに立っている教頭先生に止められてしまった。
「あ、はい。そろそろ可哀そうですよね……大人なのに泣いてますし。」
「硯君。」
「すいません。」
「ほら!早く有馬先生も泣き止んで、硯君をクラスに案内してあげて!ホームルームが始まりますよ」
まさかの教頭先生は 有馬先生と比べ物にならないほどの常識人だった。
有馬先生は教頭先生に言われた通り、目元をぐしぐしと拭い、ティッシュで鼻水をかんで、少し目は赤いがもとの表情に戻っていた。子供かな?
「……じゃ、じゃあ案内するから付いてこい」
――あ、そのキャラで通すのね。