【十六話】攻撃力が限界突破してないか?
今日は桜さんと約束していた自然公園でのピクニックの日だ。きちんと桜さんが選んでくれた服に袖を通して、いつもなら、そのままにしている髪の毛をヘアアイロンとワックスでセットしてデートの為に完璧に仕上げる。
「よし。こんなもんかな…」
俺は脱衣所の鏡の前で髪の毛を弄りながらそう呟いた。せっかくの桜さんとのピクニックデートなのに失礼があってはいけないと前世を含めてもここまできちんと髪を整えたことは無かったと思う。
等々力さんには既に連絡してマンションの駐車場で待機してもらっているので下に降りるだけで駅前の集合時間に間に合う。
「ほんとに大丈夫だよな…?」
俺は何度も確認したはずだが、不安でしょうがなくて再度鏡で確認するが、別に鏡を何度見たところで変わりはしないのでいい加減に諦めて玄関に置いてある家の鍵をバックに入れて等々力さんが待機している駐車場に向かった。
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「ごめん。遅くなった。」
「いやいや全然大丈夫っスよ。…バチバチにキメて来たっスね。今日デートする子の事好きなんスか?」
駐車場に着くと待機していた等々力さんににやにやしながら肘で脇腹をつつかれた。
何となく馬鹿にされている気がして無視してDBXに乗り込む。
「うるさいなぁ。」
「いやぁ、でもやっぱり硯さんいつもカッコ良いっスけど、きちんとするともっとカッコいいっスよ!女の子はイチコロっス」
「よく言うよ」
車に乗り込んできた等々力さんはまだ俺のことをからかうつもりのようで、一層笑みを深くしていた。
「じゃ、出ますよ~」
等々力さんはそう言って俺の返事を聞かずに車を発進させた。
俺は車が動き出したのを確認して桜さんにLINEを送っておいた。
空『今、家出たよ』
桜『了解!私もう駅で待ってるから着いたら教えて!』
どうやら既に桜さんは駅前に到着していて。俺のことを待ってくれているようだ。
空『そろそろ着くよー』
俺が駅前付近に差し掛かったのでLINEをしてみると、いつもなら直ぐに返事が来るのに返事が来なかった。
「等々力さんちょっと、ここで待ってて」
「了解っス。その子から返信ないんスか?」
「うん。いつもなら返ってきてるはずなんだけど…何かあったのかも」
駅のロータリーに到着して、携帯を開くが桜さんからの返信がなかったので等々力さんに少し待っていてもらうように頼んで車から降りて桜さんを探しに行くことにした。
「降りたはいいものの…どこにいるんだろ」
一応車から降りてぱっと辺りを見渡したが、休日と言うこともあり人が多く桜さんを見つけることは出来なかった。
「しらみつぶしに探すしかないか…」
ロータリーの付近にいないのは見て分かったので分かりやすいところを中心に探すことにした。
「あ、いた。」
そうして桜さんを探すこと10分ほど、駅前のベンチに桜さんが座っているのを見つけた。
「ねぇいいじゃん!遊び行こうよ~」
「いやです。今人を待っているので」
「でも結構待ってるけどその人来ないじゃん」
「いや、ほんとに人を待ってるので、困ります!」
桜さんの方に歩いていくとそこで初めて桜さんが座っているベンチの隣に大学生らしき男が陣取っており、嫌がっている様に見える桜さんに話掛け続けていた。
――こってこてのナンパされてる…!
俺はその光景を見て最初に心配ではなくそんな感想が浮かんでしまった。
心配してないわけではないが、あまりにも予定調和というかまあ桜さんほどに可愛い人ならそういう事されるのもいつもの事のようで、桜さんは話しかけてくる男を視界にも入れないように目を逸らして冷たい対応をしていた。
「桜さん。ごめん待たしちゃって」
俺が桜さんが気付くように少し大きい声で声を掛けると桜さんは直ぐに俺に気が付いたようで、ぱあっと冷たい表情を止め、花が咲くような笑顔でこちらに向かってきてくれた。
「え、ちょっと待ってよ」
桜さんが俺の方へと少しずつ小走りで走ってくると、話しかけてきた男が再起動したようで、桜さんに向かってそう言った。
「何か?」
「え…あ、いや。なんでもないです」
こちらを向いた男は俺の顔と直ぐに俺の後ろに隠れた桜さんを見て勝ち目がない事を察したのだろうか、直ぐに気勢がそがれたように呟いてどこかに行ってしまった。
「ごめんね。俺が遅れたせいだよね?」
「大丈夫!割といつもの事だから」
桜さんはそう言ったが確かにいつもの事なのだろう。断るのが慣れている断り方をしていた。
「ま、それでもいい気分しないでしょ?だからごめん」
「…ありがと。」
「じゃあ等々力さんがロータリーで待ってるから」
俺がそう言って振り向いてロータリーの方に歩いていこうとすると、無言で桜さんが俺の背中の裾をつまんできた。
桜さんが何か言いたい表情をしている様に見えたので、言ってくれるまで俺も待つことにする。
「…それ、私が選んであげた服だよね…?…似合ってる」
桜さんは顔を真っ赤にしながら小声でそう言った。
「…それは桜さんがセンスがいいからだよ」
俺は照れている桜さんが可愛すぎてどぎまぎしながらもどうにか当たり障りのない事を返せた。
俺が桜さんにそう返すと桜さんが急に裾を強く引っ張ってきたので少しバランスを崩して仰け反ってしまった。
「………すきになりそう」
桜さんは仰け反った俺の肩を右手で抑えて耳元に口を近づけて限りなく小さな囁きを残して耳に近づけていた顔を放した。
俺が振り向くと桜さんは顔を火が出るほどに真っ赤に染めて俯いてしまった。その俯いているときに髪の毛の間から覗く耳は真っ赤に染まっている。照れている桜さんを見て俺も遅れて何を言われたのか理解して自分でも分かるぐらいに顔が熱くなるのを感じて俯くことしかできなかった。
その時の俺たちは、はたから見れば二人で顔を真っ赤にして俯いている変な二人組に見えていたことだろう。
――二人のピクニックデートはまだ始まったばかり。