【十四話】テストは無かった。いいね?
「はい終了。筆記用具机に置けー。」
その声掛けを聞いてなんの心配のない転入試験が終了したことにため息をついてしまった。
分からない問題なんて一つもないし、おそらく全教科満点だろう。
「どうよ硯君受かりそうか?」
筆記用具を筆箱の中にしまっていると、俺の試験監督の有馬先生が話しかけてきた。正直有馬先生には悪いけど受かることは神様スペックの頭脳が教えてくれている。
「まあ。はい。受かると思いますよ。多分」
「ほう?自信満々だな。結果は週末にメールで通知されるからたのしみにしている。以上帰ってよし」
有馬先生はそれだけ言い残して、試験会場の教室から出て行った。帰宅許可が下りたので等々力さんに連絡して学校の前まで迎えに来てもらう。
俺は携帯の電源を落とし、筆箱を桜さんの選んでくれたトートバッグにぶち込んで校門に向かった。
――――――――
「ね。あれ…君の迎え?」
等々力さんを待つために校門で待機していると、等々力さんが徐行しながらこちらに向かってきていた。
――やっと来たか……
何て思っていると急に後ろから話しかけられた。
急いで振り向くが後ろには誰もおらず、首をかしげてしまった。
「下」
すると下の方からまた声を掛けられた。後ろに誰もいないのではなくて話しかけてきた相手が小さすぎて視線が合わなかっただけの様だ。
「…あ、うん。俺の迎えだよ」
視線をだいぶ下に下げると一人の女子生徒が立っていた。イヤホンを片耳外しながら俺の方をジッと見つめてきていた。
よく見ると眼鏡をしているがその淵からこぼれてしまいそうなほど大きな目、病的なまでに白い肌が不健康さを俺に知らせてくるが非常に可愛らしい顔立ちをしている。雪のように煌めく白銀の髪をハーフツインにしていて、その背丈と髪色のせいでまるでお人形の様だった。
「……いい趣味。」
「どうも?」
その子はそれだけが言いたかったようで、言い終わったら直ぐにどこかに歩いて行ってしまった。
確かに今日は等々力さんはパナメーラに乗ってきていたが、まさか急に女の子に車の話題で話しかけられるとは思っていなかった。
「お待たせっス!誰かと話してたけど、知り合いっスか?」
俺の立っているすぐ隣に車を停車した等々力さんが車の窓を下げそう聞いてきた。
「ありがと。…いや知らない子に急に話しかけられた。」
「そっスか。ま、乗ってほしいっス。確か今日はデスクが届くんすよね?まだ届いてないスよ」
直ぐに等々力さんは興味をなくしたようで、俺が朝言っていたことを思い出したかのように言っていた。
確かに今日デスクが届くからテスト中に届いたら困るかと思って等々力さんにスペアキーを渡していたがどうやらまだ届いてないらしい。等々力さんから家のスペアキーを預かり、車に乗り込んだ。
「どうかしたんスか?」
「いや、さっきの子どっかで見たことある気がして…」
「白峰学園は芸能科もあるっスから、テレビで見たんじゃないスか?」
「うーん…そうなのかな?」
車に揺られていると等々力さんが話しかけてきた。俺がさっきの女の子のことを思い出そうとしているのが伝わったみたいだ。
考えては見るものの、どこで見たかはついぞ思い出せなかった。
「まあいいや。そう言えば今週の土曜日出かけるけど運転お願いしていい?」
「いいっスよ~仕事っスから。」
俺はさっきの女の子のことは頭から追い出し、桜さんと昨日の夜約束したピクニックの送迎を等々力さんにお願いした。
「あ、そういえば、一緒に出掛ける子がお弁当等々力さんの分も作ってくれるらしいけど、何か食べれないものあるかって」
「えぇ!ウチの分も作ってくれるんスか?その子いい子っスね~まあ食べれないものは特にないっスね」
「だと思った。」
「だと思ったってなんスか~!」
言葉通りの意味だよ。とは言えなかった。
――――――――
「いえいえ。ウチは駐車してくるので先に帰っていいっスよ~」
「ありがと!」
マンションの前について等々力さんがそう言ってくれたので俺は車から降りてさっさと家に帰るとしよう。
「硯さん!先ほど配達の方がお見えになりましたよ。家具の搬入をしたいそうなので、現在駐車場の方でお待ちしてもらっています。」
エントランスを素通りしようとしたら、エントランスにいた従業員さんに話しかけられた。
どうやらグッドタイミングの帰宅だったらしい。
「あー、ありがとうございます。俺の部屋までお願いしておいてください。先に帰ってます。」
「かしこまりました。そう伝えておきます。」
軽く従業員さんに会釈をされながらエレベーターに乗り込んだ。
――――ピンポーン
部屋について少しすると、インターホンが鳴った。デスクを運んできてくれたようだ。
「どうも!お世話になってます。どちらに運べば宜しいですか?」
玄関の扉を開くと、三人いるうちの一人のガタイの良いお兄さんがはきはきと挨拶してくれた。お兄さんの後ろの二人は、帽子を取って俺に会釈をしていた。
「あ、こっちにお願いします。」
「了解しました!…せーの!」
俺が玄関の扉を限界まで開くとお兄さんたちがデスクを持ち上げて、少しずつ家の中に入ってきた。
「ここで、問題ないですか?」
「あ、はい。有難うございました。」
お兄さんたちは流れるような動きで俺のゲーム部屋にデスクを運び込んでくれた。
「じゃあ、ここにサイン貰って良いですか?」
お兄さんはそう言って上着のポケットから、受取表を渡してきたので、俺はそれを受け取りサインをした。
「「「有難うございましたーー!」」」
「どうもー」
玄関先で、三人そろって帽子を取ってお辞儀して、去っていった。凄く礼儀正しい集団で今度家具を買うときは同じところで買おうと思わしてくれる接客だった。
「おーやっぱ、デスクがあると雰囲気変わるなぁ」
お兄さんたちが帰った後のゲーム部屋で、マウスパッドや、キーボードを机の上に並べていった。そうしてPC以外を並べ終わるとゲーム部屋っぽさが出てきて、興奮してきた。
「確か、PCは明日届くんだよな?うわ~早くやりたくなってきた!」
ゲーミングチェアに座りくるくると回りながら明日来るPCの期待で大きな声を出した。
「あーそうだ。桜さんに連絡しないと。」
くるくると回って遊んでいると等々力さんに嫌いな物がないか聞いたことを思い出して桜さんにLINEを送った。
空『昨日は途中で寝ちゃってごめん』
桜『いいよ~こっちこそ夜遅くまでごめんね!』
――――――新しいメッセージ―――――――
空『等々力さん食べられない物無いって!』
桜『分かった!聞いてくれてありがとう!』
「明日はPCが届くし、土曜日は桜さんとピクニックだし…転生してから楽しみが多すぎるよ」
俺は万感の思いでそう呟いた。
車はポルシェ以外の二大は黒です。ポルシェは白。
異論は認めます。