【十三話】やっぱり神スペック
昨日車を購入してマンションの駐車場に並んでいる三台の車を見ながら俺は少し興奮していた。本物の高級車が自分の物になったという事と、好きな車が並んでいる光景があまりにも素晴らしかったからだ。
ディーラーに少し無理を言って直ぐに納車してもらったおかげで、この光景が見れていると思うとディーラーに無理を言った買いがあったというものだ。
「それで、どれに乗るんスか?」
そうして横一列に並んでいる車たちを見ていると、等々力さんに話しかけられた。
今日は高校の転入試験のために本屋に行きたかっただけなので、わざわざロールスロイスに乗る必要もないだろう。
「DBXでお願い。」
「お、ロールスロイスに比べたら、まだマシっスね」
等々力さんはそう言ってスーツのポケットから、車のキーを取り出してドアを開けてくれた。
車の中はSUVと言うともありそれなりに広い空間でシートに乗るときは革のシート特有の感触を感じさせてくれた。
「えっと、本屋でいいんでしたっけ?」
等々力さんが車のエンジンを掛けながら、話しかけてきた。
「うん。とりあえず参考書が欲しいから。」
「了解っス。…それにしてもこの車凄いっスね~さすがって感じっス」
「まぁ、ね。高いだけあるよね」
車を発進させながら等々力さんがそう言った。
俺もその感想には同意した。前世では軽自動車しか乗った事の無い俺でもどれだけこの車が素晴らしいものなのかは、デザインはもちろん動き始めた時の、静粛性で直ぐに分かった。
「なんかワクワクしてきたっス。ほかの車も早く運転してみたいっス~」
「あはは、直ぐにお願いすることになるよ」
「すよね~。まあロールスロイスはまださすがに怖いっスけど」
そんなことを話しながら本屋に向かっている途中も、外の通行人の視線をビシビシと感じた。俺の容姿とは関係なく、ただ珍しい車が走っているからだとは思うが、これも高級車に乗っている特典だと思った。
「ついたっス」
そうして車に揺られること10分程度で、この辺で一番大きい書店に着いた。
「ありがと。とりあえず本見てくるから、車の中で待っててよ」
「了解っス。」
俺は等々力さんにそう言い残して、車から出て書店の中に入っていった。
――――――――
書店の中は、この辺りで一番大きいうこともあり他のお客もたくさんいた。
他の客を横目に参考書コーナーに向かった。参考書コーナーは高校入試の参考書や、大学入試用の参考書が所狭しと並べられていた。
俺はその中から、一つの分厚い参考書を手に取って中を開いて読んでみる。
「あーそういう感じか」
参考書を開いてまず最初に思ったことは、神様が力を入れて作ったこの肉体のスペックを見誤っていたということだ。
その参考書は色々な教科の問題などが載っていたが、ぱっと見た感じでは分からない問題が一つもなかったのだ。問題の答えを確認しながら、問題を脳内で解いてみたが全て正解していた。
数学に至っては暗算しかしていないのに全て答えは合っていた。
一応他の参考書を見たり、大学用の問題集を開いたりしてみたが全て答えが分かってしまった。
「コレ、本屋に来た意味なかったかな…」
俺は参考書を閉じさっさと本屋を出ることにした。
「あれ?早かったっスね?」
駐車場に戻り車の中に入るとシートをリクライニングして寝そべっていた等々力さんにそう話しかけられた。
――この人、遠慮って言葉知ってるのかな?
「…それが、必要なかったかなって。」
「?まあ。いいっすけど」
俺がそう言うと等々力さんは納得していない様子で首をかしげていた。
「ほかに用はないっスか?」
「うん。なんかごめんね、せっかく運転してくれてるのに…」
「気にしなくていいっスよ。仕事なんで!」
等々力さんはグーサインをして車のエンジンをかけマンションへと向かってくれた。
「あ、そういえばウチもこのマンションに引っ越してきたんで、何か車運転する用事あったらここに連絡してください。」
マンションに到着し、エントランスに入ったときに等々力さんがそう言うと同時に、LINEの連絡先を教えてくれた。
「あぁそう言えば連絡先交換してなかったっけ」
俺は等々力さんとLINEを交換して、挨拶を済ませ部屋に戻ろうとしたら、従業員さんに配達物が届いていることを知らされた。
既に配達物は俺の部屋の前に運んでもらっているらしい。
「お、色々届いてるなぁ、」
エレベーターに乗り最上階に着くと俺の部屋の玄関の横には大量の段ボールが積みあがっていた。
大きい段ボールもあることから、おそらくゲーミングチェア等も届いているようだ。
「ふいぃ~疲れたぁ」
大量の段ボールを部屋の中に運び込んで、少しずつ開封しては、空いているゲーム部屋にするつもりの部屋にどんどん入れていった、デスクは明日配達してくれるらしいので今のところはゲーミングチェアのみが部屋の中にポツンと置かれている形だ。
その他PC関連のデバイスはダンボールからは出したものの、開封したところで置き場所が無いので部屋の隅っこに箱に入ったまま放置だ。
その後も細かい必需品をそれぞれ食器棚や風呂場の置き場所に配置していくと、結構な時間が掛かってしまった。
「まあ、だいぶ形にはなったかな?」
初日とはだいぶ変わった我が家に少しずつ愛着がわいてきた。
「とりあえず今日は疲れたから風呂に入って寝よ」
俺はそう呟いて、寝るための準備を始める。風呂から上がって少ししたら桜さんからLINEが来たのでそれに返して話をしているとどんどんと眠気が襲ってきて話の途中で寝てしまった。
――――LINEの様子
桜『こんばんは、起きてる?』
空『起きてるよ。どうした?』
桜『遊ぶ予定立てようと思って!』
空『なるほどね。俺は明日と明後日以外なら多分大丈夫。桜さんは?』
桜『えっと、今週の土曜日バイト無いから遊ぼうと思ったんだけど大丈夫かな?』
空『土曜日なら大丈夫!どこ行きたい?』
桜『えっとね、ちょっと遠いんだけど電車に乗って自然公園に行きたいなって、私お弁当作るし!』
空『いいね!あ、そういえば運転手さん雇ったから車でも行けるけど、どうする?』
桜『へぇ~!お金持ちって感じだね笑。どうしよお願いしちゃおっかな?』
空『おっけ!じゃあ運転手さんに伝えておくよ!』
桜『うん。有難う!じゃあ土曜日の8時に駅前集合でいい?』
空『いいけど、もしあれなら家まで迎えに行こうか?』
桜『いや、それは恥ずかしいから大丈夫!笑。私実家暮らしだから。』
空『分かった。じゃあ土曜日楽しみにしてる!』
桜『うん!私も楽しみ。あ、食べられないものとかある?もしあれなら運転手さんの分も作るから聞いておいて!』
空『俺は特に好き嫌いは無いよ!等々力さんは分かんないから聞いておく!』
桜『あ、等々力さんっていうんだ~?』
空『うん。同性だし、多分仲良くなれるんじゃない?』
桜『え、女の人なの?』
空『言ってなかったっけ?確か桜さんの三つ上の22歳の女の人』
桜『…綺麗?』
空『?うん。』
桜『ふぅ~~ん?やっぱり空君って女の人大好きだよね。私の事ナンパするし』
空『ま、まあ嫌いではないけど…桜さんナンパしたのはほんとに可愛いなって思ったから』
桜『ふ~ん?どうだか』
桜『あれ、寝ちゃった?』
桜『寝ちゃったぽいね、空君おやすみなさい。』