【十一話】株もFXも知識ゼロだよ!
――ピピピピ……
携帯でのアラームが寝室に響いた。この体は寝起きが滅茶苦茶良いようで、直ぐに起き上がれる。
「ふあ~あ。…よし!現実だな」
体を起こして、寝室を見渡し昨日寝る前に見た景色と同じことを確認して安心した。目が覚めたら実は……なんてことがなくてよかった。
「とりあえず今日は白峰学園関連の事やらないとなぁ」
起き上がってからキッチンで水を飲みながらそんなことを呟いた。昨日神様からもLINEを貰ったように、白峰学園に直ぐに転入できるようにしてくれたようだし、早めに資料出しちゃうか……
「へぇ…ネットから手続きできるんだ…適当にやっちゃうか。」
スマートフォンを開いて白峰学園のホームページに飛ぶとホームページで転入の手続きができるようだった。
転入手続きのページにとんで、最初から項目を埋めていくが途中で俺に分からない項目が出てきたので神様にLINEで聞くことにする。
空『おはようございます。白峰学園の転入についてなんですけど、出身中学と在学中の高校はどうすればいいですか?』
神『おはよー。えーとそうだね、中学は赤井中学で在学中の高校は家の事情で通ってなかったってことにしてあるからその通りに入力すればいいよ~』
空『あざス』
「相変わらず軽いな…」
神様に確認したところ中学には行っていたと言うことになっているようで言われた通りに入力しておいた。
その二つ以外は特に戸惑うこともなくすべての項目を埋め終わった。少し緊張しながらも送信のボタンを押した。
「よし。いってこい!」
転入手続きの送信を終え、昨日と同じくテレビを見ながら時間を潰すことにする。同時に俺は料理が出来ないのでウーバー〇ーツで適当に朝食を頼んでテレビを見始めた。
――――――――
「まぁ昨日みたいにイベントは起きないよねぇ」
俺は届いた弁当を食べながらテレビを見ていた。
普通に出前は届いたし、昨日みたいに可愛い女の子が配達してくれるということもなく、普通に男の配達員だった。
「あ、雪原セツナだっけ?へー本当に有名なんだなぁ」
弁当のから揚げをつまむと同時に、テレビではCMに入っており昨日店員さんが興奮しながらも教えてくれた雪原セツナがゲーミングデバイスのCMに出演していた。
雪原セツナのVPEXのプレイ画面も一緒に流れていた。俺も前の世界ではそれなりにやっていたゲームではあるけれど雪原セツナのプレイは次元が違う。
エイムはすべて敵に合っているし、撃ち合いのセンス、タイミング等すべてが完璧で、正直前の世界のVPEXプロゲーマーよりも上手いように思えた。
「すげー上手いなあ」
こういうのを見ると俺もVPEXをやりたくなってくるが、確かPCや家電が家に来るのは五日後なので今すぐにやれないのが少しもどかしかった。
――ピコン
弁当を食べ終わってゆっくりとテレビを見ていると携帯が通知を知らせた。
「早いな…」
届け元を確認すると白峰学園からだった。先ほど送った転入手続きの返信がもう帰ってきた。文を確認するとどうやら今日転入手続きを学校で済ませたいとのことだった。
「早いな!?」
俺はびっくりしてしまった。時間を確認するとまだ時間までは余裕があった。夕方に学校まで来てほしいと書いてあったので、それまで何をしようかと悩む。
「とりあえず夕方までにいろいろとネットで買っとくか…」
昨日の買い物で必要なものは大体買い終わったがまだ必要なものは沢山あるのでそれを前世からの御用達ジャングルで買うことにした。
「こんなもんかな?結構時間使っちゃったな。」
ジャングルで大量に物を買ってしまった。ゲーミングチェア、マウス、キーボード、マウスパッド、ゲーミングモニター等基本的にはPC関連の物が多かったが細かい買い物もあるので相当な量になってしまったが、これで特に○○が無いという事にはならないだろう。
「あとは、デスクは家具屋さんで買った方がいいかな?」
俺はそう言いながら時計を確認するとまだまだ白峰学園に行く時間は残されているのを確認して、家具屋に出かけることにした。
俺は寝室のクローゼットを開いて昨日と同じようにシンプルな服装で出かけることにした。何となく桜さんが選んでくれた服を最初に着るのは桜さんと遊ぶ時のほうが良いように思えたからだ。
――――――――
「ありがとうございました~」
俺は家具屋さんの声を背後で感じながら家具屋を出た。デスクはとにかく大きい派なので大きくて頑丈そうなデスクを選んだ。デスクは持って帰れないので家電たちと同じように後日配送をお願いした。
「そろそろ、白峰学園に行く時間か。」
俺は家具屋を後にし、携帯を開いて白峰学園に指定されている時間が迫っていることを確認して、歩くのも疲れたのでタクシーを止めてタクシーで白峰学園まで連れて行ってもらうことにした。
――お金はあるんだし、楽しないとね。
そうしてタクシーに揺られて白峰学園に到着した時には、予定の時間の10分前で自分の時間配分が完璧だったことに一人で感動していた。
「あ、ありがとうございました。これ代金です。」
タクシーの運転主にお金を払い、俺は白峰学園の正門前に降り立った。
「さすがにマンモス校なだけあるなぁ。でかいし、綺麗だな」
目の前に鎮座している校舎を見上げながらそんなことを呟いた。俺が前世通っていた高校とは比べ物にならないほど大きくそして綺麗だったからだ。
校舎の前には夕方とは言えまだたくさんの生徒が談笑したり、校庭で部活動に励んでいる様子が見て取れた。
「相変わらず視線がおおいなあ」
校門に歩いていく間にも、男女両方の視線が俺に突き刺さってきた。
女子生徒たちの「だれ?芸能科の生徒?」「いや、知らない」という呟きや、男子生徒からの少しの嫉妬と好奇心を感じる視線にさらされて、俺は少し俯きながら校門から校舎の中に入った。
未だに二日目ということもあり多数の視線に慣れることは出来なさそうだ。
「えーっと……ここか。」
その後事務室で要件を告げ、職員室に行って欲しいと言われたので借りたスリッパをペタペタと音を立てながら職員室を探す。
俺は校舎の中が広すぎて少し迷ってしまった。正直学校全体の地図を見ても棟もたくさんあるし、一つの棟が広すぎて迷うのもしょうがないように思う。やっとの思いで職員室を見つけて扉の前で少し躊躇してしまったが、この世界に来たからには青春するために頑張ると決めたので直ぐに覚悟を決める。
「失礼します。転入手続きの件で事務室から、第一職員室の有馬先生を訪ねろと言われました。有馬先生はいらっしゃいますか?」
俺は職員室の中に入りちゃんと通る声を意識して挨拶をすると職員室の中にいる先生が一斉にこちらの方を向いてきた。
――あれ、間違えたかな?
何て思っていると一人の先生がこちらに歩いてきた。首から下げているネームプレートを見る限り有馬先生で間違いないようだ。
「どうも、有馬です。確か今日転入の手続きをしに来た硯空君だったよな?」
その先生はモデルの様なスタイルをした女性だった。長い黒髪をポニーテールのように一つにまとめていて、俺はテレビに出ていても不思議じゃない容姿を見て少しこの世界の顔面偏差値の高さに慄いていた。
「……あ、そうです。どうも、硯空です。」
「ん、了解。とりあえず応接室に行くから付いてきてくれるか?」
有馬先生は小さくうなずいて俺を応接室へと案内してくれた。
「確か、家の事情で高校に行ってなかったけど、通えるようになったから、高校に通いたいんだったか?」
応接室に二人で向かい合って座ると有馬先生が口を開いてそう言った。
「そうですね。中学は行っていたんですが、高校は事情があって…」
嘘だが
「了解。こちらでも君の事情は把握しているから気にしないでいい。」
「そうですか…」
神様の手回しが完璧すぎて怖い。
「転入試験さえ受かれば問題はないから、そう緊張するな」
「そうなんですか?」
「ああ。基本的にこの学校は一芸に秀でていれば学力などはあまり関係ないが、それでも転入の際には少し面倒でな」
「まあ多分学力に関しては大丈夫だと思います。」
「そうか?ならいいが。」
有馬先生は胡乱げな表情で頷いてくれたが本当に心配していない。なぜならこの体には神様から頂いた頭脳を持っているのだ、少し前世の復習とこの世界の勉強をすれば転入試験は楽勝だろう。
「でだ。転入試験はいつにする?」
「とりあえず三日後とかでもいいですか?」
「了解した。とりあえず三日後の9時に校舎でテストを受けてもらうが、いいな?」
俺は自分で言っておいてもう少し時間をかけたほうがよかったか?と不安に思ってしまったが、この神様スペックの体を信じよう。
「問題ないです。」
「じゃあとりあえず、この書類を書いてくれ。」
有馬先生がそう言って取り出したのは、転入に伴って必要な教科書や、制服、上履き等の注文書だった。
「まあ君が受かるかどうかは分からんが、自信もあるようだし今書いてしまえ」
「あー、頑張ります…」
自信満々で三日後で。と言った手前素直に書類に書き込んでいくことしかできなかった。
「とりあえず今日はこんなもんかな。転入試験に受かったら入学金関係のもっと金のかかる書類もあるが君なら問題ないだろう?」
有馬先生がそう言ったがなぜそこまで俺の事情を知っているのか不思議に思ってしまった。
「……なんで、そんなに僕の事情に詳しいんですか?」
「あぁ。実はわが校の理事長の知り合いが君の事情を理事長に伝えたようでな。びっくりしたぞ急に理事長に呼び出されて今日転入手続きをしに来る君のことを説明されてな。君の資料の中にある写真を初めて見たときは私も少し見惚れてしまったぞ?」
「ははは、それはどうも」
有馬先生は冗談でもいうように少し口角を上げながらそう言った。どうやら神様が上手い事説明してくれたようだ。その写真とやらが何時撮られたものなのか気になるとこではあるが。
「確か、株とFX両方で大金を稼いでいるそうだな?ならば入学金なんて大したことないだろう?」
どうやらそういう事にされているようだ。確かにこれからなんでそんなに金持ちなのか聞かれたらそう答えたほうが良いかもしれない。株もFXも全く知らないけど。
「…はい、まあ」
俺は少し小さな声でそう言った。その後は解散になったので再度タクシーを呼んでマンションまで送ってもらうことにした。
俺はタクシーの良さを覚えてしまうと歩くのが億劫になってしまいそうだな、そもそも前世でも免許を取ってから歩くことはめっきり減ったな。なんてことを考えながらタクシーに揺られていた。
――お金はあるんだし、運転手さんでも雇おうかな?
マンションの前について支払いをしているときに不意にそんなことを思ってしまった。