【十話】『笹倉桜side』 私の一日と明日からの楽しみ
私はお風呂に入りながら今日の出来事を思い出さずには居られなかった。
今日の始まりは、ウーバー〇ーツのバイトをしていたことが一つの転機になったんだと思う。
朝からバイトで配達をして居たけど、昼前にたまにいる嫌な客にねちねち言われて正直結構萎えていた。
駅前で少しイライラしながら待機していると一つの注文が入った。
注文先の住所を見た瞬間に最近駅の近くにできた超高層高級マンションであることは直ぐに分かったし、空君には言えないけど注文が入った時点でやる気はマイナス以下だったと思う。
駅前のファストフード店で注文の品を買ってそのマンションに着いた時にはあまりに自分が場違いな人間に思えてそこでさらに萎えた。
エントランスめちゃ広いし、エレベーターは私の部屋ぐらいのサイズだし、しかも注文先は最上階。
なんか室内のはずなのに庭とかあるし、男の人なのはインターホンで分かっていたけどそこがまた憂鬱に感じた。
そうして玄関から出てきたのが空君。
最初は凄い綺麗な女の人かと思った。家主の彼女さんかな?って。でも違った。
声は間違いなく男の人の声だったし、よく見たら体ががっしりとしているのにも気が付いた。最初は余りに容姿が整っていて目が合わせられなかったなぁ。
でもそこからが私にとって今日という日の本当の始まりだったんだと思う。
急にお財布から札束を出して一万円を渡そうとしてきて、びっくりして断ってしまった。正直その時の自分が何を言っていたのかは記憶にない。
本当にそのぐらいびっくりしたのだ、セレブといってもいいお金持ちが住んでいるだろうマンションの更に最上階に住んでいる人。
何処か親しみやすい雰囲気の男の人。
急にナンパしてくる変な男の人。
いつもなら断るはずなのに、ついOKしてしまったのは、私が面食いだからではない…はずだ。
正直連絡先を交換して家に帰っているときに一万円もらっておけばよかったなんて思ってない。ほんとに思ってない。配達何件分だろう何て考えてない。本当だよ?
家に着いた時にはつい友達の恵美ちゃんにどんな服を着ていけばいいか相談しながら服を決めた。
二人で悩みぬいて決めた服を着て駅で集合した時にLINEで連絡するまでもなく空君を見つけることが出来た。だって凄いラフな格好なのにそれが許されるほどカッコいいんだもん。
電気屋に向かっているときにもいつも少し視線は感じるけど、いつもの比じゃないくらいに視線を感じた。それも空君が居たからだと思う。
実は少し優越感を感じた私は悪い子なのかも。
電気屋では私が調子に乗って手を繋いでしまい、店員のお姉さんにカップルだと間違われてしまった。
私は空君のせいで変な子になっちゃうのかも、そんなこといつもならしないし…
空君も少し照れていてすごく嬉しく思ってる自分が居た。
おかしいかな?今日初めて会った人にそんな事を思っちゃうのは…やっぱり私は空君のせいでおかしくなっているのかも。
少し調子に乗っては空君に返り討ちにあってしまった、やっぱりおかしい。私そんな事する子じゃないのに。
サクサク高い買い物を決めて行っちゃうしどうやらゲームもするらしい。少し意外だなって思ったんだよね、あんまりそういうのやる風に見えなかったから。
でもパソコンを見ているときの空君は凄く楽しそうにしていて、ちょっと可愛かった。大人みたいに落ち着いた雰囲気だったのに好きなもののことになったら目がキラキラしてて、やっぱり男の子なんだなって。
電気屋の用事を済ませた後は最近の一押しのairでお茶をした。
その時に少し嫌なことを言ってしまった。空君も嫌な顔はしていなかったけど、眉がハの字になっていて困っていたんだと思う。
その困り顔が可愛いと思ってしまう私が居て、少し自己嫌悪した。
それでもやっぱり空君は優しくて本当に年下なのかが不安に思ってしまった。
ベリーのパンケーキはとても美味しかったからいいけど。
後は空君に初めて勝てた!耳まで真っ赤にしてすっごい可愛かった。今度遊ぶ時も空君に勝ちたいし照れてる顔が見たい。私ばっかり照れてるのは不公平だ!
生活用品の買い物ではスキンケアも見たし、洋服とかも見た空君はどんな服も似合っていて、私が褒めると空君がそれを端から買っていくから途中で禁止したっけ。
お風呂セットは私のおすすめブランドって嘘をついちゃった。小さい嘘だから空君も許してくれると思う。男の人からして欲しい理想の匂いのものを選んじゃった。全然使ったこともないブランドだけどサンプルを嗅いで一目惚れした匂いなだけだ。
その後も空君はいつも笑顔で私も楽しかった。給料日前だから私の買い物が出来なかったけど今度は一緒に私の物も空君に選んでもらったりして!
「うーん。やっぱり空君も大きいほうがいいのかなぁ」
私は今日の振り返りを辞めて自分の薄い胸をもみながらそう呟いた。中学時代から毎日お風呂でマッサージもしてるし、豆乳も飲んでるのに一向に大きくならない私の胸を睨みつける。
「そもそもこの子供みたいな体がいけないよねぇ…私自身自分の体に興奮しないし…」
自分で言って悲しくなってきてしまった。やめよう。
何時か努力は報われるはず!多分
――――――――
「あ、そういえば恵美ちゃんが連絡しろって言ってたなぁ」
お風呂から上がって寝る準備が完了した時に、恵美ちゃんが協力する代わりにLINEで今日の報告を要求されていたのを忘れていた。
「うわー恵美ちゃん起きてるかなぁ?」
桜『恵美ちゃんごめん!!忘れてた!』
恵美『おっっそい!報告楽しみにしてたのにさぁ』
桜『ごめんごめん笑』
恵美『それで?どうだったの王子様とのデ・エ・ト』
桜『言い方変だよ~うん。楽しかったよ!』
恵美『よかったじゃん!!。ついに桜にも春が…桜って名前のくせしてあんた枯れてたからね』
桜『まだ早いよ~それに余計なお世話!』
恵美『まあまあ。そう言えば写真とかないの?桜の王子様のさ』
桜『んー。一枚だけあるけど恵美ちゃん好きになっちゃうかも?』
恵美『え~いいじゃん。別に好きになっても私桜とならうまくやれる気がするし!』
桜『私も恵美ちゃんとならいいけどさぁ…これairで一枚だけ二人で撮ったやつ』
写真
恵美『ん?桜好きなの女の子だっけ?確かに、この人女優さんみたいに滅茶苦茶綺麗だけど…私ノーマルだよ?」
桜『あはは。分からなくもないけど空君はちゃんと男の子だよ~』
恵美『うわ~マジかぁ、すっごい綺麗だから女の子かと思ったわ!』
桜『でしょ~体もすっごいがっしりしてたから、多分ムキムキ?』
恵美『ほほう?それは良いですな』
桜『でしょ~?』
恵美『で?好きになっちゃったん?てかいくつ?空君とやら』
桜『ん~まだわかんないけど、一緒にいて凄い楽しかったんだよねぇ~。あ、そうだ!聞いてよ空君15歳だって!』
恵美『マジ!?見えないなぁ。道理で桜が彼氏作らないわけだ…結構大学でもあんた人気なんだよ?年下好きかぁなんか以外』
桜『年下だから気になるってわけじゃないけどね~空君が気になる…かな?』
恵美『はっはっは。完璧に好きになり始めてるじゃん!頑張んなよ!』
「えぇ!!やっぱりそうなのかなぁ~?」
つい恵美ちゃんとLINEしながら大きな声を出してしまった。
確かに空君の事気になるけど…今日初めて会ったばっかりなのにすきになっちゃうのってやっぱり少し変だよね…
「いや、でも一目惚れって言葉もあるし……ん~~~~!!!」
自分で言っておいて恥ずかしくなってしまってバタバタと枕に顔を埋めてベットの上で足をバタ足してしまう。自分の顔の温度がどんどん高くなっていくのがさらに恥ずかしくて5分ほどバタバタしてしまう。
まだ恥ずかしいけど枕から少しだけ顔を出して恵美ちゃんのLINEに返信する。
その自分の返信が自分の気持ちを一つの単語へと確定させているようで直ぐにバタ足に戻ってしまう。目を閉じても今日は直ぐには眠れそうになかった。
『うん。私頑張ってみる。』