【一話】おいおい死んだわ、俺。
自分で言うのもなんだかなぁ、とは思うけど自分は客観的に見ても主観的に見ても所謂『クズ』と言われる人間というのを理解している。
それを理解したのは中学校の頃だった。
いじめとか、家庭環境が悪いとかそんなこともなくただ、惰性で学校にまともに行かなくなった。
給食を食べるために給食の時間には学校に行くようにしていたが朝から学校に行ったことなんて片手で数え切れるほどしかない。
勿論母親にも泣かれたし、姉にはゴミを見るような目で見られた。当時の中学校の先生にテストの日だけでも学校に来なさいと言われもした。
別に当時の先生のことを嫌っていたわけでもないので言われた通りテストの日以外は基本的に家で過ごした。
母方の祖母が自分を滅茶苦茶に甘やかしてくれて、本屋で好きなだけ本を買ってくれたので、学校に行かない間は馬鹿みたいに本を読み漁って、本に飽きたらアニメ、ゲームをするそんな生活が中学卒業まで続いた。
生意気にも高校には行きたいなんてほざいてみたら母親は思っていたより自分に優しく「高校から頑張りなさい」と言われ、そのまま何となく全日制の市立高校に進学した。
そして高校にも最初の方こそ真面目に通っていたが結局卒業は出来なかった。一年の夏休み前に学校をサボりすぎて単位をすべて落とし途中で学校を自主退学した。
その時ばかりは母親から叩かれ泣かれてしまった。
母親の泣き顔を見て「ちゃんとしなきゃ」なんて思った。
そして結局立派な警備員になった。
勿論自宅のだ。
中学時代の焼き直しのように、本、アニメ、ゲームに溺れていった。ちゃんとしなきゃなんて思ったのはその時ばかりでバイトをしてもろくに続かず、就職してもすぐに辞めた。
実家で母親の脛をガジガジと齧り立派な寄生虫として生活すること一年半。
流石の自分も「あれ?俺やばくね?」なんて思い始めて通信制の高校に再入学した。俺の高校再入学の際には母親は泣いて喜んでいた。
その時ばかりは自分が初めて母親を喜びで泣かせたのだと、根拠のないナニカが自分の心に湧いてくるのを感じた。
通信制の高校は一週間に一回だけ学校に行けばいいと言うこともあり長く続いた。学校で友達もできたし、なんだかんだ上手くいっていたと思う。
「バイト興味ある?」
学校で授業を受けた後の校門で仲のいい先輩にそう話しかけられた。その時の僕は何となく高校生活を送れている自信があったし、その問いに頷いた。先輩は俺の返事を聞いて大いに喜んでくれた。
先輩に連れられてバイトの面接を受け、ほぼ顔パスで履歴書も書かず採用され、バイトを始めた。
それは飲食店でのバイトで、人間関係も良好。シフトの融通も利くという。
まあいいバイトだったのだと思う。
そして学校とバイトの比重が偏り始めるのは自分のクズさからして当たり前だった。
金の発生する一時間としない一時間だったら自分は前者を選んだ。
勿論学校に行くこととお金を自分で稼ぐことのどちらがいいかなんて言いきれないけれど、その時の自分は立派なバイト戦士になっていた。
飲食店のバイトを続ける事、早二年。責任者にもなってバイトの後輩がたくさんできた。
そして18歳になろうかとするときに店長に「ウチで就職しないか?」と聞かれた。
確かに自分は責任者として結構頑張っていたし、店長は勿論エリアマネージャーからも妙に気に入られていたので特に躊躇うこともせず、18歳になってから就職することが決まった。
就職するからには高校に通っていられないし、人生で二度目の高校の退学をした。その時ばかりは母親も泣かなかった。就職することが決まったのだし、前とは違い二年続いているところで就職するのだから直ぐに辞めることもないだろうと思ったのだろうか?
まあ人の気持ちなんて分からないから俺はそうだったのだろうと思っている。
そこまでの人生はそれなりに回り道をしたけれど中卒の18歳にしてはそこそこの給料をもらって、そこそこにブラックな仕事量に追われながらなんとかやってきたと思う。
就職してから二年たったころそれが崩れる音が自分でも分かるぐらいの大事件が起きた。
……まあ起きたと言うより起こしたの方が正しいのかもしれない。
店長として二年何とかやっている中で忙しい事もあり外での出会いなんてものは無かったし、勿論自分に人並みの性欲があるのは知っている。
バイトの高校生に手を出してしまったのだ。その子は若いながら頑張っている俺のことを良く褒めてくれたし、俺が少し甘えても許してくれた。そして何より可愛かった。
自分の好みの肩に掛からない程度のボブヘアー、スレンダーな体系大きな瞳プルンとした唇。
正直俺の理想の女の子だった。
勿論店長がバイトに手を出すのはご法度なことを知りながらもズルズルと関係を持っていた。
ただそれがバレただけだ。
そこからの転落は自分でもびっくりするぐらいに早かった。店舗に俺達の関係がバレるとその子がバイトに来なくなって、連絡が取れなくなった。
自分はクビにはならなかったけれど、その子の喪失が思っていたより精神的に大ダメージで交際がバレてから少しずつ、仕事のストレスに耐えきれなくなって数か月後に仕事を辞めてしまった。
それからは寄生虫に逆戻りだ。
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煙草を切らしてコンビニに買いに行った帰り道、信号待ちの横断歩道の前で女子高生が二人で話しているところをぼーっと見ていた。
パーーーーーーーーーー
急に車のクラクションがドップラー効果を伴って聞こえてきた。
辺りに視線を移すと乗用車が少しふらふらとしながら他の車線の車と比べても明らかにスピードオーバーで俺と女子高生二人が待つ交差点の方へと向かってくるのが見えた。
――あ、俺死んだくさい
そんな事を思ってしまうぐらいには一瞬の中でも思考が凝縮されていくのが分かった。
俺は今から死ぬのだと理解しながらも、凝縮された思考の中前にいる女子高生二人を思いっきり突き飛ばした。
急に後ろから突き飛ばされた女子高生二人はぎょっとしたような顔をしていた気がする。
俺は車の進路よりも前に突き飛ばした二人の女子高生の驚いた顔を見ながら、自分みたいなクズでも人を助けれたんだと思いながら体がぐちゃぐちゃになるのが何となくわかった。
遠くで女子高生二人の叫び声を聞きながらも俺は宙を舞っていた。
そして冒頭に戻る。終わらない思考の中、所謂走馬灯を見ていたんだと思う。体の感覚がすでにないことから自分が死ぬということは分かっていた。
――あぁ。まともに青春を送りたかった……
そんなことを最後に思いながら地面に叩きつけられ、俺は死んだ。