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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ジャンガジャンガジャンガ邪眼ーー。静まれ俺の右目

魔法使いアンガが見つけた居場所。 @短編その28

魔法使いになりたいと、私は7歳の時にとある魔法使いの弟子になった。




それから10年。


ようやく師匠である魔法使いから太鼓判を押して貰え、魔法使いデビュー。

だが、魔法を極める日々、私は呪いにかかってしまったのだ。

呪いを解く旅に出た訳だが、10年も下界を離れていたので、本当世間知らずだ。

師匠から餞別を貰ったので、暫くは生活出来るだろうが、金を稼ぐために仕事を探そうと思った・・

のだが。


ああ、まだ私の名を教えてなかったな。私はアンガ・ルゥズ。

右目を包帯で隠す銀髪の魔法使いだ。チャームポイントだと思ってくれれば良い。

この右目が呪われているワケだが、今のところ悪さをするわけでは無いので放っている。


これはまだ問題では無いのだ、右目(これ)は。


とりあえず、自己語りは終わらせるとにしよう。




**************************************



7歳の頃歩いたきりの地元の街を、久々歩く。

何だか初めての場所に来た感じだ。


私の家族は兄だけだが、兄は遠くに行くと手紙があったきり、音信不通だ。

だからまあ、気楽な独り者だ。


「さて、ギルドで仕事をもらうのも良いし、どこかの魔法研究所に勤務もいいな」


この世界には魔法使い、魔道士、魔術師とか色々な肩書きがあるけれど、簡単に区分すると、


魔道士   魔法陣や魔道具で術を繰り出す。 魔導士とも言う。魔術が出来なくてもなんとかなる。

魔術師   呪文で術を繰り出す。魔力が少ない人でもなんとかなる。魔術の技術が必要。

魔法使い  無詠唱で術を繰り出す。魔道も魔術も出来る。←私はこれ。


そんなわけで、魔法にはちょっと自信がある。

もちろん、まだまだ半人前だと自覚しているので、魔法を勉強出来る職場が良いかと思うのだ。


とりあえず手っ取り早く路銀を手に入れるなら、やはりギルドだろう。

冒険者ギルドで加入手続きを終え、早速末端依頼を受けた。

キウイ草を取ってくる簡単なお仕事だ。


キウイ草は朝方に実を膨らませる。そして完全に膨れたら30分以内で回収しないと弾けてしまう。


宿屋を朝5時に退出し、キウイ草が群生している場所へ向かう。


宿から30分歩いた所に草原があり、キウイ草らしき草の群生を見つけた。

キウイの形に似ているからキウイ草。今はまだ半分ほど膨らんだ状態だ。

あともう少し膨れたら回収しよう。膨らみ足らずや膨らみ過ぎは商品にならないので、きちんとした品を持っていかなくては損だから。


「そろそろ良いかな」


ふわりと体を浮かせ、ヒョヒョイ。

軽く手を動かして術を放ち、ぷっくり膨れたキウイ草を刈り取った。

刈り取ったキウイ草を一つに束ね、細いロープを術を使って動かし、括る。

おおよそ2分。刈り取るとキウイ草は弾けないのだ。不思議。自然の神秘。

キウイ草の束をずだ袋に入れ、担いでギルドへ戻る。


のんびり歩く事30分。

街の入口まで来ると、門番がいた。おや、昨日はいなかったんだが。


「何を持ち込むんだ」

「ギルド依頼のキウイ草です」


すると門番らしき男は手を出した。


「?」


私はキョトンと男と掌を見比べる。

男はイラッとした顔をすると、大声で怒鳴った。


「ほれ!出せ!」

「何を」

「分かるだろうが!」

「ですから、何を」

「通行料だよ!」

「昨日あなたはいませんでしたが」

「良いから寄越せってんだよ!」


男が殴ろうとしたので・・・ひらりと横に逸れると、男は空振りして倒れました。

私の後ろにいる人に、尋ねます。


「通行料は払うべきですか?」

「・・・渡さないと面倒だから」

「払わなくて良いのですね?」

「・・・そうですね」

「これ、国王とか騎士も知ってるんですか?」

「騎士の誰かが・・・ね」

「ほう」


思い切り転んで膝とか怪我をしたようです、男がノロノロ起き上がりました。

すごくすごく怒っています。


「このやろう・・俺を怒らせたな」

「このやろう!私を怒らせたな!」


男の真似をしてみました。すごくすごくすごく怒っています。

私と話した男の人が青い顔をしています。


「そ、そんなに煽っちゃ」

「良いんですよ」

「こっち見ろや!クソガキが!」


バキッ!

男が私を殴りました。防御強化を掛けているから痛みは少ないです。痛く無いとは言っていませんがね。


「先にそちらが手を出したと。では、今から私は正当防衛をします」


知ってます?私は基本術式を詠唱しません。でも、術を強化したいときは詠唱します。

あと、びびらせる為、とか。


「「闇より沸きし泡沫よ、目の前の寄手に纏い、潰せ」」


私の影から黒いシャボン玉がぼぼぼ、と湧き出し、男の体に張り付いた。


「この泡沫はね、お前の体力を吸って弾けるよ。どう?だんだん体が怠くなっただろう?」

「う?うわ・・何?」

「さあて、最後の一踏ん張りも、吸ってあげましょうか。どうなるか、分かりますよね?」

「ひっ・・」

「おいで」


私はしゃぼん玉を呼び寄せ、一つ、指先に乗せます。


「あなたの体力は、もう僅か。このシャボンで吸わせたら・・ゼロになります。まだそんなバイト、しますか?」

「ひひええええ」


男は慌てて逃げようとします。あ。教えて差し上げないと。


「貴方!今転んだら即死しますよ!歩いて行きなさい!」

「ぎゃあああああ」


早く逃げたいけど、転ぶのが怖い、男はよろよろ歩いて去って行きます。


「あ!貴方!またバイトしているのを見た時は、容赦無くシャボンの刑ですよ!」

「ウヒャアアア」


大急ぎで逃げたいけど、死にかけだもんね。さっきよりも慎重に歩いて進んでいるね。

まあ、罰としては良かったかな?明日までびびって生きるがいい。

後ろにいた人が、振り返るとかなり遠くにいて、こっちを恐る恐る見ている。

怖がらせましたかねぇ・・・



ギルドで精算を済ませるついでに、魔法関係の職がないか聞いてみる。


「どのくらいのレベルかを計測してからになります」


だそうだから、早速測定して貰う。


「あ!言い忘れましたが、私、『魔法使い』ですから!」

「あ、はい」


受付の人の表情・・・信じてません。

魔法使いは魔道、魔術を極め、魔法を鍛錬した人がなれる職種だから、私のような年齢ではなれないらしいです。でもなっているでしょう?私ですよ!ほら、ね?見てわからないのがなんとも言えませんが。


「準備ができました、こちらへどうぞ」


受付嬢が呼ぶので、そちらに行くと・・・ん?

だだっ広い・・闘技場みたいな所です。

あれ?魔法をぶっ放せと?普通測定器とかで魔力の量とか、資質とか見ません?


「どうぞ。この位置に立って、この用紙の術をあの的目掛けて放ってっください」

「ああ・・そういうやり方ね」


紙を見ると・・・馬鹿にしてるのか?


1/ 水魔法 何でも良し

2/ 火魔法 大火力は不可

3/ 雷魔法 何でも良し

4/ 土魔法 ゴーレム作成

5/ 光、闇 出来なければ無しで可


「ほぉ・・で、試験官は?」

「私です」

「君?」


受付嬢。意外に能力があるのかな?

スタータス、スキャン・・・・え。普通の人だけど?


「じゃあ、貴方!しっかり見てなさいよ。一度に出しますから!!」

「え?」


どごおお、ズバン、ガラガラガシャーーーン!!のそっ・・ピカ・・もやっ・・


「????」

「これでいい?」

「声が」

「魔法使いは無詠唱が基本でしょう?」


私の隣には、5メートルのゴーレム。『のそっ』と起き上がりました。


「これより大きなゴーレムが見たいなら、平原で見せましょう」


そして的3本はビシャビシャだったり、コゲコゲだったり、弾けて砕けてたり。

信じろよ?もう一回とか言ったら・・


「も、もう一回」


言ったわ!!


「だからちゃんとした試験官連れて来いと言ったよな?」

「は、はいいい!!」

「私はね?間抜けや仕事が出来ない奴が、一番嫌いなんだよ。どこの誰が、君に試験管をしろと言ったんだい?もしや、ギルドマスターなんて言わないよね?」

「え、と・・忙しそうだったので、わたしが勝手に」

「権限はあるの?」

「ある程度は」

「あのね?私は魔法使いと言ったはずだ。魔法使いは、誰でもなれないくらいわかってるよね?」

「は、はい・・申し訳ありません・・・」


私は大きく溜息を吐いた。


「もういい。このギルドは使わない。次の街で入り直す」

「お、お待ちください!!」

「じゃあ、貴方責任持って辞めるんだね。貴方のしたことって、それくらい重大な事だから」

「え、ええ・・・でも」

「誰だ!お前は!うちの従業員に何を」


誰か来た。おっさんだから、ここの偉い人かな?


「ああ、役立たずの親玉か」

「なっ」

「私は魔法使い。魔力とか、資質とかの鑑定をして貰うはずが、こんな紙切れの実技を、この役立たずが試験管とか。笑う。貴方、ギルドマスター?」

「そうだ」

「普通、魔法使いの鑑定などは、ギルドマスターがするんだよね?」

「・・本当に、魔法使いか?その年齢で」

「だから。もう結構、次の街のギルド行くから」

「え!」

「魔法使いを邪険に扱うギルドなんか、こっちがお断りだ!じゃあ」


私は風の魔法を起こし、部屋の窓全部を開放、風の流れに乗って楚々に飛び出した。

フワッと体を浮かせ、青空を飛ぶ。


さあて、次のギルドはマシかなぁ?




「さあて、お嬢さん。大人しくしてもらおうか」

「い、いや・・」

「なーに、何もしませんよ。お父上が身代金を払ってくれればね」


10数人の男に囲まれ、少女は涙をポロポロ溢し、震えている。

少し離れた所には、彼女が乗っていた馬車があるが、一緒に乗っていた侍女は血だらけだ。

御者も、護衛も地面に血だらけで横たわっていた。まだ息はあるようだが・・

いつも付き添ってくれた、顔馴染みだった。誰か、彼らを助けて・・!!


「あらら」


急に声がした。


「酷いな」


彼が手を翳すと、騎士の体がピク、と一瞬動き、傷がじわじわと塞がった。

そして御者にも同じく手を翳すと、傷が塞がって、まるで眠るように緩やかに呼吸で体が上下する。

侍女を見て、男は顔を歪めた。

優しく抱き起こし、そっと地面に下ろし、彼女の目を手で閉じて、祈る。


「かの御霊よ、安寧の淵で安らかに眠れ」


どこからか清涼な風が吹き、薄ぼんやりとした精霊が現れ、侍女の体を撫でる。


「精霊の祝福を」


侍女の体から光の球が現れ、精霊が包むように持って、消えた。


突然現れた男のする事を、少女も、盗賊たちも、呆然と見つめていた。


ふぅ、と男は大きな溜息を吐いた。


「さあて。そこのおっさん達が、このかわいそうな侍女さんを殺したのかな?」


私は包帯のピンを外すと、まるで生きているように泳ぐ包帯。

そして、右目が現れる。


『悪い奴は、やっちゃっていい?アンガ!』

「いーぞ。腹減ってるだろう?」


右目がある場所には、女の口があった。

艶ぷるの唇は、ニヤリと笑うとずるりと彼の目から出てきた。

血管で出来た体が、窪んだ目の穴からずるずると出てきて、人の形になった。


「殺れ。リップ」

『はあぁ!!』


手が伸び、一人捕まえて頭からかぶり付き、足を伸ばして二人絡めとり、貪る。

その隙に逃げようとした奴らは伸びた手を鞭にして、首と落とした。


「お嬢さん。見ないほうがいいよ。リップは久しぶりだから全部食べる気だから」


だが何か返事をする間も無く、少女は気を失った。


「そりゃそうか」


まだ倒れている護衛と御者を起こし、早く立ち去るように言う。

亡くなった侍女を私のマントで包み、荷物入れに入れる。可哀想だが、お嬢さんも寝させなければならない。いくら親しくしていた侍女とはいえ、並べて横たえる事は無理だろう。

そうするうちにリップのお食事タイムは完了したようだ。

私の目にジュルッと吸い込まれるように戻り、不思議な事に包帯もスルスルと私の顔に巻かれる。

盗賊達に襲われた事を主である侯爵に説明するので、付いて来て欲しいと言われて素直に応じる事にした。

悪党とはいえ、皆殺しをしたのだ。説明しておかないとまずいかも知れない。




リーンルゥン侯爵家当主であるアルファード様は、盗賊の事を聞いても・・・あまり揺らがなかった。

どうやら年中だそうだ。お嬢さんの誘拐は。


「本気で来ましたね、今回は。グラディスが殺されるとは」


あの侍女さんの事か。


「君、魔法使いだそうだね。我が家は魔術の書物が多く蔵書にある。娘の護衛をしてくれるなら、貸し出しをしよう。どうだい?」

「どんな書籍があるのか確認させて頂いてから」


見た。

凄い。

師匠も持っていない本がある。


「他にも蔵書を多く持つ貴族にも口利きをしよう。引き受けてくれるかい?」

「是非!!」


こうして私はリーンルゥン家の賓客となった訳だ。

お嬢さんの行きたいところは、私が浮遊&滑空で行けばいい事だ。


雇われる上で、大事な事をアルファード様に伝えておいた。

右目のリップの事だ。

あいつの食えるのは、盗賊などの罪人と、人を襲うモンスター。

たまに食べさせなければならない。


「丁度この領地北は、魔物が出る。退治ついでに食べてくれれば良い」


あらあっさり了承。

意外に居心地良いかも?


さて、このリーンルゥン侯爵だが・・


当主アルファード様35歳。、娘のレオリア様14歳。奥方は死去されている。

この間助けた騎士のタナッカ、そして御者のヤマネンはちょいちょい会う事になる。

家人は10人ほど。執事長オードリさんは渋い紳士だ。

アルファード様は美男で、寡だから再婚目当ての女性が姿絵や釣書を送ってくるが、丁寧なお断りを送るのが仕事の妨げとなっているので、お手伝いをするとこれが大層喜んで貰えた。

うん。

こんなに送ってこられたらねぇ?

私は自動筆記の術で、次々お断り状を作成する。ちゃんと侯爵様の字体を真似てるんだよ。

そしてサインの横の印だけ執事長に任せる。その後は封筒に入れ、住所を書いて、投函。

侍女さん2人でやってる。お茶を飲みながら、アルフォード様はご満悦だ。


「これだけで、アンガ君を雇った意味があるよ」

「そんなに喜んで貰うと恐縮です」


本当に簡単な術なんだよね。私にとっては。

そして作業中は読書タイム。

本当にいろいろあるな!魔道書を貪るように読む。時々、自動筆記の具合を確認しながらね。


「アンガ」

「おや。お嬢さん。どうしました」

「目、大丈夫?」

「目?ああ。大丈夫です。今は寝てます」

「アンガは怖くないの?」

「いやあ、怖くないですよ。慣れたと言うか」

「どうしてそんな事になったの?」

「呪われたんです」

「どうして?」 

「内緒です」

「教えられないの?」

「はい」

「・・・・・」


ショボンとするのは何故か。

知らなくてもいい事は、世の中には多いんだから・・


「では、お嬢さんは」

「レオリア」

「・・レオリア様は、よく拐われると聞きましたが」

「何故か拐われるの」

「理由は?」

「お父様は言わなかった?」

「苦笑されてました」

「あのね。理由がたくさんあるの」

「はぁ?」

「説明するのが面倒くさいくらいあるの」

「・・そうですか」


どう言う事でしょうな?意味が分からん・・・




理由は一月しないうちに分かった。


その1 娘を殺し、傷心する公爵に取り入る作戦。


本気か?と言う作戦を考えた公爵令嬢がいましてな?

自分の子供だけでいいから、お嬢さんを殺すと。

まあ、私がコテンパンにして差し上げましたが。リップは出しません。


その2 裕福な侯爵から身代金をせしめる。


今の所成功していない。でもこの間、侍女が殺されて、ようやく対処する気になったようだ。


その3 この国の王子の婚約者に選考されそう。


未来の妃と言う事で、攫ってやばい事して、落選させる。

おい。まあ拐われた時点で、貞操が怪しまれちゃうんだよね。


その4 お嬢さんが可愛いので、欲しい。


アルフォード様よりも年上の紳士が嫁にと言って来たらしい。もちろん断った。

そしたら何度も誘拐まがいの事をするようになったとか。


その5 お嬢様はなんかの能力持ちらしい。


どこかの研究機関が連れ去ろうとしているようだ。

私が見たところ、そんな能力はない感じだが・・間違ってないか?


その6 アルフォード様の気を引く作戦が、お嬢様を殺すから誘拐に変わった。


誘拐したお嬢様を助け、大事にして好かれて、アルフォード様に取り入ると言う芸の細かさ!

本気か?もう、なりふり構わないな!


その7 王子がお嬢様に接触。


なかなか会えないお嬢様を連れて来いと命令したそうだ。

うん、一度会ったらいいんじゃないかな。アルフォード様、会わせてあげないからこんなことするんですよ?

え?会いに来いって?そうですけど、相手は王子ですよ?


その8 まだあるんかい!!アルフォード様の心を盗む作戦!


アルフォード様は確かにイケメンで、かっこいいけど、亡き奥様を今も愛してる。カッコよすぎ。

この親子、マジないわ。誘拐策謀まだ何かあるのか?もうほっといてあげて!!


まだちっさい事件もあったようだけど、もういいよ。お腹いっぱいだよ。




と言う訳で、守りましたよ。

悪い奴は、リップに食わせましたよ。私は容赦ないですからね。


もうね、私、この親子を守ってやらないといけないかな〜?まで思っていますよ。

男前で、キリッとしたアルフォード様に、綺麗で可愛いレオリア様。

守るわ、うん。


彼ら親子と嗜むお茶の時間が、貴重で。


親子が楽しそうに話して、私は少し離れた椅子で魔道書を読む。


優しく微笑むアルフォード様。

楽しそうに笑うレオリア様。

家族の幸せを見つめて・・


私はここに、居る。







私は・・・抜かった。


アルフォード様は有能だった。

だから、政敵も多かった。


お命を狙う輩もいた。


私はなぜ留守にしたんだ。

私がいたら・・・いや。いない時を狙われたんだ。


私が帰って来たら、館はズタズタで。執事のオードリさんも、タナッカも、ヤマネンも息をしていなかった。

いつもお茶を楽しんでいた、居間に急ぐと・・・


血だらけのアルフォード様と、動かないレオリア様。


側には10人余りの兵がいて。


「食い尽くせ!!リップ!!!」


よくも、よくも!!

よくもやってくれたな!!!

私の家族の形を!!

私の大事な、輝ける太陽を!!


ああ、アルフォード様。

素晴らしい方で、父親としても憧れで、何もかもが羨望の!!

愛らしく可愛い、娘、レオリア様・・

私の家族を返せ!!

返せ!!!


どこのどいつが企てた、切り刻んでやる。すぐには殺さない、痛い思いをさせてやる。

アルフォード様やレオリア様と同じ、いやそれ以上の痛みを、苦しみを!!


「アン・・ガ」

「アルフォード様!!」


生きてる!!

私は駆け寄り、あらん限りの術で治療をするが、


「レオリ、アを、先に・・」


お嬢さんも息をしている、だがもう微かだ。


あ。あああ・・・

同時には出来ない。

どちらも虫の息だ。

どちらかだ。

どちらかしか治せない。


「嫌ですよ・・・どっちも生きて・・」


死なないで!

もう、これしか無い。


「リップ、すまない」

『うん。まあ、途中だけど、仕方がないね』


私は呪いを解放した。


呪いとは・・・

リップは獄卒で、この世に出て来た悪しき魂を地獄に送る命を受けていた。

ある事件で死にかけたリップを、口だけの体にし、獄卒としての使命を果たさせていた。

私の目を媒体にして、リップは存在しているのだ。呪いを利用した方が早く整ったので、強引すぎて目とリップを離せなくなってしまった。

リップの魂を、目から解放。これで元の世界に魂は戻れる。


今まで任務を手伝った代償、報奨はまだ決まっていない。それを貰う。

リップを解放したのは、私に代償が返ってきたら、リップにも被害があるからだ。

私の報奨が対等でなかったら、負の分を受ける事になる。


「エリクサー。1本でいい」


エリクサーは本当に稀少な薬だ。対価は計り知れない。

でも私の命を掛けてもいい。


「お願いだ・・!!私の眼もくれてやる!!」


お願いします、お願いします、私から家族をとらないでください、私の一番大事な、家族を、お願いします・・


ことん


私の足元に、小さなボトルが落ちていた。


「あ、ありがとう、ありがとう・・ありがとう・・ありが・・・」



レオリア様に飲ませ、私の術でアルフォード様を治し、私は・・・泣いた。


オードリさんも、タナッカも、ヤマネンや使用人みんなが死んだ事も、アルフォード様に伝えた。


「アンガ、ありがとう。レオリアも助けてくれた」

「ありがと・・」

「いいえ、お二人が生きていたなら・・」


ああ、ありがとう、ありがとう。リップ。


「アンガ、眼・・・」

私はリップがいる筈の右目を触る。

口では無い、眼だ。


「そっちの目、紅い」


ああ、リップの唇の紅だね。

途中で手放したけど、大丈夫かな。あいつの身体。

もしも戻れなかったなら・・あいつの命を使ったのなら・・

代償はなんだろう。

私は家族さえ生きてくれれば良いのだ。


『すまないね、じゃあ、遠慮なく。今度は左手で』


気がつくと左腕に包帯が巻かれてあった。


『まだ任務は完了していないんだ、それまでもう暫く』


「じゃあ、今度はなんて名前だい?」


『じゃあ、パルムで頼むよ。やっぱり対価には足らなかったそうだから、頑張って』


見ると、掌に口があった。




侯爵の館を引き払い、王城の街に屋敷を構えて住む事にした。

来年はお嬢さんは学園に通う。

私も一緒にいく。


「アンガも私達の家族だからね。一緒に行くのは当然だよ」


アルフォード様が仰ったのだ。


今度こそ、家族を守る。




pixivにアンガさんを描いてみた。

https://www.pixiv.net/artworks/82360377

ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。

どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。

pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。

https://www.pixiv.net/users/476191

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