第9話 キモいが死語なら大丈夫だ
地獄車を回し過ぎて、おもしろになっちゃってる時が人生にはある。
エルダートレント。
まず、トレントという木の魔物がいる。
生物のように動いたり、枝を触手のように伸ばして攻撃して来たりするのだが、エルダーと冠するだけに、並みのトレントとはその大きさも強さも比べ物にならない。
そして初心者がヤンカ村経由の北上ルートを取ると、アセル草原の魔物とは比べ物にならないその強さのために、エルダートレントは一種の、初心者戦士卒業のための試練と見なされる傾向がある。
そして今、ここにその試練に立ち向かおうとする若者がいた。
ピュクト=アイダンス。
帝都に向かって旅をする、新米の男戦士だ。
そして、その近くには老婆が佇んでいる。
ガベーデン=ゾッタ。―――実は彼女はとんでもない力の持ち主だが、第一印象ではそうした印象は微塵も見られない。むしろ無力でおしとやかな淑女然としている。
鎧に身を包み、いかにも戦士というピュクトに対して、老婆・ガベーデンは一見、無防備でしかない旅人用のローブを纏い、粗末な杉の杖を手にしている。白髪まじりで、初老という年頃なのだろう。それもまた、ピュクトが水色のサラサラした髪を自慢気に鋤いてあるのとは対照的に、幾分、雑な手入れでところどころに寝ぐせが残っている。
そして、ツニナル=サカエチカ街道も終盤の正にエルダートレントが出没するエリアにて、ピュクトからやや離れた芝生の上で、ただ立ち尽くし、じっとしているのだ。
「ピュクト坊っちゃま。エルダートレントはエントとも呼ばれ、通常のトレントとは勝手が違いますぞ。お気をしっかり持つのです」
「1ヶ所に留まるのは愚行ですぞ。相手は魔物。背後に気配なく立たれたら、それは死を意味しますのじゃ」
「剣の手入れは大丈夫ですかの。切れ味が落ちていては、ただでさえ硬いエルダートレントに全く攻撃が通りませぬでのう」
ただ見守っているのに耐えきれなかったのか、エルダートレントを待つ数分の間にそうした励ましや助言を、ガベーデンはピュクトに対して何度も送った。
「うるさい、うるさ~い。ボク、…俺はもう一人前の戦士なんだからね…、なんだぜ」
ピュクトもまたそうした賑やかしにうんざりし、あっさりと口を開いた。が、戦士たるべしという気概を口調だけでも表現しようとしているのが、却ってその台詞を滑稽にしてしまっている。
と、その時である。
「真空斬」
ピュクトの背後で何かが現れ、しかしその瞬間にそれが真っ二つに、いや、真っ二つにする剣圧が強すぎて粉々に砕けていく音がした。
「へ…?」
ピュクトが振り返ると、そこにはかけらほどになった、おびただしい数の木片。そしてピュクトと同じ青銅の鎧を着こなす1人の戦士がいたのだ。
藍色の髪が風に吹かれて棚引いても、なお戦士は微動だにしない。
その左手には魔物を切り裂いた剣、それは、―――驚くべきことにピュクトが持つのと同じ、ただの青銅の剣だ。
「キャスク、キャスクぅー」
「速い。速過ぎるよキャスっち。街道の出だし、俺っちたちが頑張ってたの見えてた?」
キャスクと呼ばれた藍色の髪の戦士が、声のする方を向いたため、ピュクトにようやくその表情が見てとれた。
珍しい真っ黒な瞳を宿す、やや切れ長だが柔和な感じのする眼。平凡だが嫌みのない鼻筋。そして、笑顔を絶やした事がないかのような穏やかな口元。
やや色白だが、不健康そうには見えないその戦士こそがキャスク=ベータだ。
「ご、ごめん。目の前の魔物に必死で」
キャスクの言葉に、来た道を振り向いたピュクトは唖然とした。
エルダートレントと戦うという目的で精一杯なためにピュクトが避けてきた魔物たちは、三つ首トカゲ戦士もカエル・タイガーも、稀少種らしき銀色のオークさえ皆、一様にその原型を留めていないのが遠目に分かったのだ。
「…ビビりの坊っちゃまとは段違いですぞ」
「う、うるさいよ。ガベばあ」
見慣れない2人を一瞥したキャスクたちだが、特に聞くべき事もないので先を急ごうとする。
ツニナル=サカエチカ街道は、しかし間もなく日が落ちようとしていた。
日が出ていた間ははっきりしていた、石で舗装された道や名も知らぬ広葉樹がこんもりと生え並ぶ道の両端。
しかし夕日が持つ特有の色合いが逆光となり、それらをあらゆる存在物を影に見せていた。
この季節にしてはよく晴れた日が続く毎日だが、日が暮れるにつれてうすら寒くなってくるのは夏が秋に移ろう証拠だ。
スズムシなどが鳴くには、まだ少し早い季節の夕暮れは、魔物さえいなければとても静かなのだろう。
「あ、あの。キャスク…さん」
ピュクトは不意に、キャスクに声を掛けた。
「はい。キャスクはボクですけど…なんでしょう」
知り合いでもなんでもないが、マジメなキャスクは見ず知らずの者に聞きかじっただけの名前を呼ばれても、不快な表情ひとつも見せず、にこやかに返事した。
「もうすぐ、ここらは夜になりますよね。ボクらはここで野営するつもりですけど、皆さんもどうです?」
「いえ、お邪魔になるといけないので…」
そう謙虚に答えたキャスクの足が踏まれた。
プルーツの仕業だ。そして、ひそひそ声でキャスクに耳打ちした。
「(バカヤロー。あんなイケメンをスルーしている時点で、気が利いてないんだよ…! それに見て、お婆ちゃんの手荷物。どう見ても手作りのご馳走でしょうが)」
「(う、うん。そうだよね、それに折角だから、―――厚意には甘えようか)」
こうしてライドーンの意向は完全に聞かれる事すらなく、ピュクトたちと野営を共にする事になったのだ。
「夏とは言え、もう夜は冷えますね」
キャスクはなんとなく敬語で、ピュクトに話題を振った。するとキャスクと同年代か、少し若いように見えるピュクトも彼に倣い、先ほどまでの俺という一人称をピュクトはすっかり忘れ、敬語で会話を始めた。
「はい、全くです。キャスクさんは、何年旅をしてるんですか?」
「えっ、いや。えーと…5日、かな」
「む、5日であの強さですか」
暫く仰天するしかないピュクトだったが、やがてニヤリとその、男の割にはつぶらな瞳を輝かせ始めた。
「ははあ、分かりました。帝都の方ですよね。帝聖騎士様が武者修行として回ってらっしゃるというのは、耳にしますよ」
「いや。父は確かに帝国騎士ですけど、―――」
するとライドーンが珍しく、キャスクに注意した。
「キャスっち、な~に油売ってんだ。焚き火の準備もテントを張るのも、俺っちたちの役目だべ」
ただ注意されたのはキャスクだが、ピュクトが気を遣って代わりに答えた。
「実は折り畳み式のゴエモン風呂もありますからね。男女別に用意してあるので、…あ、ボクじゃなくガベばあが気にするんです」
野営の準備が着々と進んでいく。道中に礼拝塔があったので、街道を少し戻り、中ほどあたりの道の端でだ。
そして礼拝塔の効果で魔除けが働く。
魔物は遠巻きに唸ったりはするものの、決して手出しは出来ないようだ。
「村なんかにある礼拝塔は何倍も大きいですじゃ。さしずめ、この礼拝塔は野営する人たちのために最低限、用意されているといった所ですかのう」
ガベーデンが自慢気に説明を始めた。
「ワタクシが今まで見た中で最も大きな礼拝塔は、やはり帝都のそれですのう。帝都は幼い頃を過ごしたきりじゃが、それはそれは街並みの美しゅう、清い風が吹く良い所でしたじゃ」
「凄いじゃん、ガベーデンさん。帝都に住めたって事は…相当な貴族なの?」
プルーツの明け透けな質問に一瞬、むっとしたガベーデンだが、すぐに元のおしとやかな表情を取り戻した。
「ほほ…昔々、そのまた昔の夢の暮らしでした」
「いいないいな~、俺っちたちも帝都に着いたら永住するべか」
「うんうん、アンタと帝都に永住するくらいなら泳いで北陸に帰るわ!」
野営の準備が完了する頃には、すっかり日が暮れていた。
適当に狩っておいた、オークやトロルの肉をそのまま焚き火にかざして焼いていく。
「けけけ。この香り…この香りがたまらんですのじゃあああ」
「本当にお肉が大好きだよね、ガベばあ」
突然にキャラが崩壊した老婆に面食らう一行だが、ピュクトだけは平然としている。慣れているのだろう。
「そう言えば、アンタたちってどんな関係?」
ガベばあという、まるで下働きのばあやに対するような呼び名が妙に気になり、プルーツはそこを直球で追及した。
「ガベばあは、下働きのばあやだよ」
そのままの、予想通りの答えだ。
アイダンス家は代々、ワーマルンク大陸の南西部にあるヒューナフ農国で働く農家だ。
ヒューナフ農国は王帝戦役においては、敵兵にも有り余る食糧を差し出した事で最も被害が少なかった事で有名な大農業国家だ。
しかもそのために今でも他大陸からのイメージがよく、近年になってますます作物が、飛ぶように売れるらしい。
そしてピュクトが生まれたアイダンス家にいつしか仕えていたのが、ガベばあことガベーデン=ゾッタなのだ。
アイダンス家は王帝戦役で得たヒューナフ農国の恩恵を大きく受けており、かなり資産を持つ。そのためガベーデン以外にも召し使いや下働きの者はたくさんおり、ある時は家事、またある時は農作業に従事するらしい。
「ガベばあ、今年で何年目だっけ?」
「さあ…なにせ人生は、あっという間にございますでの」
ただ、ガベーデンはピュクトが最も重用する下働きの1人だ。それは見た目にそぐわぬ、卓越した働きぶりを見せる彼女こそ、ぐうたらでだらしないピュクトに遣わそうというピュクトの両親、―――特に母の判断らしい。
「じゃあ重用してるんじゃなく、完全にお世話されてるべ。使ってるんじゃなく、入り込まれてるべ!?」
ライドーンが今度は珍しくツッコミを入れた。それはそれだけピュクトの発言はなんとなく辻褄の合わない、ぼんやりした内容が多いという裏返しだ。
「はは。確かにガベばあは、何かとボクのお世話をしてくれるんです。現に今日だって、エルダートレントを倒して一人前の戦士になるっていうのに、こうして着いて来てしまったんですからね」
ピュクトがそう言うと、ガベーデンはにっこりと微笑んだ。
「ほっほ。ワタクシはピュクト様にお仕えする身の上。そのくらいは当たり前ですじゃ」
しかし、ライドーンには1つの疑問がふと頭に浮かんだ。
「ピュクっち。確かヒューナフの周りの魔物って、ドラゴンやらミノタウロスやらが普通に出るべ。どうやってここまで来た?」
ヒューナフ農国付近の魔物は、魔物が強いキキマン大陸から流れてきたと言われている。
それは、陸路ならちょうど、中陸と南陸の継ぎ目となるララク岩橋という天然の橋があるがゆえに、そこからキキマンの魔物が進出してきたからだと言われている。
自然発生するだけの魔物が大陸を実際に越えるかは不明だが、仮説としてはそれ以外にないために、キキマン大陸由来説はピュクト農国付近の魔物が強い正式な理由とされている。
「ガベばあですよ。ばあは、魔法使いなんです」
一同は驚いた。魔法使いは滅多に会えるものではない。以前にも述べたように、魔法使いはせいぜい世界に30人いれば良いと言われるほどに稀少なのだ。
「そこの娘さんからも強い魔気を感じるが、おかしいのう。不思議に魔力が…」
他者の魔気や魔力を感じ取るのは難しいが、魔法使いであれば、ある程度は分かるのだ。そして今、ガベーデンが言っているのはプルーツの魔力や魔気の事である。
「えっ、ああ。ほら、アタシは存在感がスゴいから魔気が自然と迸ってるだけ」
プルーツとしては苦しい言い訳ではあるが、幸いガベーデンとて魔気だけが高い人間など初めて会うので、理由までは探りようがない。
これも前に述べたが、プルーツの魔力はその左手首に装備している緑水晶の腕輪によって封印されており、それがプルーツの魔法が封印されている仕組みだ。
つまり、強制的に魔力をゼロにして魔法を使えなくしているのである。
「惜しいのう。魔力さえあれば、オヌシは今ごろとんでもない魔法使いになっておったぞ」
と、キャスクが話題を変えた。
「あの…ガベーデンさん。あなたは正統魔導師ですか?」
「…いえ」
「お、おーい。キャスっち」
「正統魔導師でないと、やはり迫害が?」
「キャスっちってば。そんなデリケートな質問は俺っちでもしねえべ」
しかしガベーデンは、その穏やかな表情を崩さない。プルーツの時と違う事があるとしたら、それはキャスクの眼差しがあまりに真剣だからだろう。
(ベユルも、こんな眼をしていた…)
ライドーンは密かにベユルを思い出し、悲しくなったのを隠すためにさりげなく、皆から背を向けた。
それを気にしたガベーデンだったが、多数決の原理とも言うべき皆の視線に気圧されるように、ぽつり、ぽつりとその半生を語り始めた。
ガベーデン=ゾッタ、20歳の冬。
まだニクツによる神官政治体制こそ敷かれていないものの、王帝戦役の爪痕はいまだ凄まじい時代。
魔法使いは、そうであると知られるだけで騒がれ、白い目で見られ、差別された。
それは特別な力を持つだけで戦争の火種になるという、強固な保守思想が強い帝都ならではの風潮が色濃く影響するという状況でもあったのだが、ガベーデンはそうした迫害に耐えられるほど精神は強くなく、社会人として自立するためもあり帝都を離れる決意をした。
「寒い…」
雪はそんな彼女にも容赦なく吹きすさぶ。
何もそんな日に帝都を発たなくても良かったのだが、一言で言うなら自暴自棄だ。
「もう嫌。何もかも、…私自身すら」
当てどなくガベーデンは歩いた。目的地などない。帝都を出るという事を余儀なくされるという前提は帝都にはなく、それゆえに当時、帝都では世界地図は特別高価な代物だったのだ。
今でこそ緩和されたものの、地図はガベーデンごとき若い女性には手が出せなかった。
つまり、そうして意識を帝都の内に向けさせ、女たちに結婚を強いる国政だったのだ。
そこまでは国政に詳しくない彼女にも、そうした事情が災いして、言われのない中傷や嫌がらせを受けた事は何度もある。結婚を迫る脅迫状という気違いじみた書面まで目にした事も、人には言わないが過去にはある。
そんな、華美で優雅な見た目に反して中身は荒れつつあった帝都を表さんとするかのような吹雪は、ガベーデンという不幸な身の上にすら容赦しない。
「どこが北なの…南はどこなの…」
魔法を使えると言っても、当時ガベーデンが使えたのは密かに両親から教わった火の魔法のみ。
方角を知る魔法が使えるとしたら、かの伝説的な魔導師ローデル=マデフワンだが、もう故人である。
それに、ガベーデンはマデフワン家が彼以降どうなったのかを知らない。彼女が不勉強だからではなく、帝聖国の方針としてマデフワン家の動向を、その生存すら秘匿としたからだ。
「お父さん、お母さん。親不孝を許して…」
両親は帝都に置き去りにしてきた。帝都にいても帝都から出ても、どちらだろうと守れる自信がなかったからだ。
そして、そんな彼女の前に、豪雪にもかかわらず逞しくドラゴンが現れた。しかもそれは、時にパーティーを組み戦った経験ならなくはないガベーデンにさえ敵う気がしない超級のドラゴン、―――バハムートだったのだ。
「いやあああああ」
必死に走り去ろうとするが、深く積もった雪に足を絡め取られながら動くのは至難の業だ。
しかしその直後、ガベーデンはとんでもなく熱を感じた。バハムートの灼熱の吐息、フレア。それがバハムートの口に急速に充満しつつあり、今にも放たれようとしていたからだ。
「おい、そこのお前」
不意に、ガベーデンは誰かに呼ばれた。
そして、気付くとバハムートとガベーデンの間に、屈曲な肉体の男戦士が立っていた。
手には大斧を携え、しかしその顔は、お世辞にも美しいとは言えない。
頭髪から髭まで伸ばしっぱなしのだらしない顔、ひどく垂れた眼、デキモノだらけの皮膚、極太のたらこ唇、―――何よりも、不自然なほどに上下のバランスが悪い顔の輪郭は、見る人によっては笑ってしまうだろう。
「お前、俺の顔はキモいだろ」
それは全く戦いにも、ガベーデンにも関係ない問いだが、随分と真摯な言葉だった。
「まあ、綺麗ではないでしょうけど」
「けど?」
「まず、キモいは死語よ」
男はしばしの逡巡の後で、深く頷いた。
「キモいが死語なら、大丈夫だな」
「何がしたいの、あなた」
男はまたほんの少し間を置いた。
バハムートのフレアは、男のすぐ背後にある。
「助けて欲しいか?」
シンプルで的確な質問がようやく来たので、ガベーデンは答えた。
そこに一瞬の迷いもなく。
「そうね。助けてくれるなら、毎日1度は誉めてあげましてよ」
「…。は?」
唐突な沈黙を打ち破ったのはライドーンだ。そしてその一言がスイッチだったかのように、老婆は再び口を開いた。
「これでお話はおしまいですじゃ。さあ、もうすっかり暗くなりました。お湯を頂いて今日は休むとしましょう」
ガベーデンは、風呂の周りに魔法で不可視の膜を張った。
「あなたも後でおっしゃい。これをしてさしあげますぞい」
「は、はあ…。どうも」
プルーツはあまりの冒険譚にすっかり心を打たれていたので、むしろ生返事になってしまった。
「つまり、…結局バハムートは戦士に倒されたのか、という問いかけ…なのかな?」
首を捻っていたキャスクに、ライドーンが答えた。
「キャスっち、まずはピュクトをさっさと風呂に入らせよう。後な、―――バハムートは倒れたに決まっていて、おっさんが婆さんの旦那、どうせ…そうだべ!」
ピュクトを風呂に入らせ、その後もガベーデンの昔話の真相を語り合うキャスクたち。
やがて、話の関心はガベーデンからグンドに移った。
「グンド、あれからずっとサカエチカにいるのかしら」
「さあ。そもそも何の商売をするつもりかも聞いてないよ」
「ああ…グンドっちなら、未来に変える資金を稼ぐために発明家…とか言う物作り屋さんをしてるみたいだべ」
あれから、というのはサカエチカの町を出た後、実はヒュドラを通じてグンドから連絡があったのだ。
『ジュニア。俺はしばらく、この町を拠点に発明家として稼いで、他の町でも稼いで、稼いで稼いで稼ぎまくる。次にいつ会えるかは分からないが…まあ、本当に何かあったらヒュドラで連絡してくれ。あ、ちなみに発明家というのは物作りをするプロフェッショ』
【再生ガ、終ワリマシタ】
「録音…とか言う仕組みらしい。最大3件って、何なんだべな?」
「さあ」
「アタシたちにも分かるわけないでしょ? ていうか、ミラーイーカモネじゃなかった?」
経済のメッカ出身というキャラが面倒になったのかは定かでない。
「お先でございました…ふう、いいお湯でしたよ」
風呂上がりで妙にしっとりしたガベーデンが帰ってきた。
「ガベーデンっちさん、…魔法が使えるって事は、この木の杖って」
そう言って、ライドーンは地面に置いてある杉の杖を見た。
「ガベーデンっちさん!?」
と、続いて風呂から上がったばかりのピュクトが驚いた。
「ガベーデンっちさんは、ガベーデンっちさんだべ。そんな事より…」
「ああ、はいはい。あなたのそういうしつこい所は、あの人そっくりですわね」
「え…、俺っち、バハムートのおっさんっちにそっくりか?」
(バハムートのおっさんっち…!?)
今度ばかりは誰もが心の中でツッコミを入れた。
「あら、ワタクシ…そんな事までお話ししたかしら。さあ、皆さんもお湯を頂いたら、もう休みますぞ」
余談だが、ガベーデンが持つような杖は魔法使いの必需品だ。
杖には少なからず魔力を増幅する作用が込められている。つまり、たとえば回復力1の回復魔法を強さ3の杖で増幅すると、回復力は3倍の3になる。
これも魔法の説明の時のように、現実には単純計算ではない。しかしおおよその原理は、そうなのである。
「それ…俺っちが聞きたかったヤツ!」
たまにはこのような、いわゆるメタ要素も入るのだ。
「伏線は? 色々張りまくって作者が忘れ去った伏線はどうなっていくの?」
矛盾本が出るほど売れないので、問題ないのだ。
「え…出版決定したの?」
それは定かではない。
全ての可能性は、ゼロではないのだから…。
8/29 キャスクの旅日数が6日になっていたのを、さりげなく5日に修正。メイチカには1日もかからなかったとします。