第8話 ホームレスより人権ないから
人は人、命は命、道はそこになく、いつもそこにある。
サカエチカの町、2日目の朝。
キャスクたちは、いまだ、トウとの戦いを余儀なくされていた。
「さあ、今から魔気拳の真髄をお見せする。とくと味わうである」
トウは魔気を炎に変えた。そして、炎の拳でまた、次々にキャスクたちを殴り始めた。
「おやおや、最初の威勢はどうしたのであるか…?」
キャスクは青銅、プルーツは革、そしてフィフラは鉄の防具に身を包んでいるので、衣類が燃えるような事はない。
しかし、髪の毛は本当によく燃えてしまう。
(あちちち…。仕方ない、魔法を解禁する)
プルーツは強敵に対し、緑水晶の腕輪の封印を解く事にした。水魔法で消火していかないと燃えてしまうのだ。
「魔女ウィラーバを刻みし器よ、今こそ、―――その魂を解き放て」
魔法が使えない状態のプルーツが魔女を解放するには、自らの血を腕輪に捧げなければならない。
そのため、プルーツは解放の文句を唱えた後に指を噛み、そこから滴る血を腕輪に捧げた。
するとその時、プルーツによく似た緑髪の、しかし長髪の女性が姿を現した。
魔女ウィラーバだ。魔女らしく漆黒のローブに身を包んでいる。
『ンンン…ここは…?』
ウィラーバは、まだ封印が解かれたばかりで状況を飲み込めていないようだが、見た目に反してプルーツとは似ても似つかない不気味な声が周囲に響き渡った。
「ラッキー…。それじゃあ行くわよ、…雨よ。我の言葉に応えたまえ。そして全ての火を治めたまえ」
そして「レイン・コール」というプルーツ掛け声と共に、突然、雨が降りだした。しかも急激な大雨だ。
燃えかけていたキャスクたちは、一命を取りとめた。
「ウィラーバ、再びこの器に戻りなさい。リターン・コール」
そしてすかさず、プルーツは魔女を緑水晶の腕輪に再び封印するための魔法を使った。封印にはプルーツ自身の魔気を使えば良いので、血は必要ないのだ。
『オオン…なぜ私が』
「ごめんなさい。―――私には、まだあなたを救えない」
ウィラーバの影響で、周囲の時間は止まっていた。彼女には、その存在自体にそうした作用があるようなのだ。
そしてそれゆえに、プルーツが魔法を使ったのはトウですら気付かなかった。
だがウィラーバが腕輪に戻った事で、時は再び動き出す。
(あくまで、今のは対症療法。キャスク、…アンタが頼みの綱だ。盗賊なんてやっつけてくれ…!)
プルーツは心でそう祈った。時が止まる以上やはり魔法が使える事はキャスクらに、なんとなく言えないのだ。
「な、何が起きたのであるか。…火が消えているである」
驚いているのは、トウばかりではない。キャスクもフィフラも、てっきり燃やされて死ぬとばかり思っていた。
そのため、いつの間にか雨が降った後のようになっていて、自分たちの顔も雨でびしょ濡れになっているのが不思議なようだ。
「何か、奇跡が起きた。これは、―――勝てという啓示なのか?」
キャスクは信仰心が強く、何かとドンスレンと比べるのと同じくらい、何でも神に関連付ける傾向があるのである。
「ならば、やむを得まい。出来ればこれは使いたくなかったが…」
キャスクはそう言うと、青銅の剣を地面に突き刺し、柄をしっかりと握り締めた。
「一体、何を…。正気ですか、キャスクさん?」
戦闘中に剣を地面に刺すなど、やはり正気の沙汰には見えない。フィフラの懸念はもっともだ。
しかしその直後、その懸念は杞憂に変わった。
キャスクは動き出した。
剣を軸にして跳躍し、跳躍の勢いで剣を引き抜き、そこから斬撃を飛ばしたのだ。
更に、飛んだ斬撃に何重にも斬撃を重ねていく。
アセル草原での黒い獣との戦いで偶然に繰り出した多重真空十字斬。キャスクはあれから、いつでもそれと同等の技を繰り出すためのイメージを頭の中で作り続けていた。
不安があるとすれば、殺人の可能性だ。
相手が魔物であれば躊躇いは必要ない。しかし今、戦っているのは悪人とは言え人間である。
強い技を惜しみなく出すしか勝つ道はないのに、殺してもならない。
キャスクといえども、その両立は賭けだ。確かに彼の剣術は最強と言えるが、不殺の太刀筋が見えているわけではない。
そう。もはや賭けの境地で攻めるしか、キャスクに出来る事はなかったのだ。
「うおおおおお」
キャスクはあらん限りの気力を振り絞り、斬撃を重ね続けた。
わざわざ跳躍したのも無意味ではない。
意識して動かずとも攻撃の起点がずれるために軌道が読みにくくなり、相手の回避率を下げる事が出来るのだ。
(振り抜いたら次の準備を既に終える、延々とその繰り返し…!)
そして、必死にかわすトウに遂に1つの斬撃が届いた。そこからは斬撃の連鎖反応だ。
「くお、おぉおおお」
血が飛び散る。魔物ではないからだ。
「な、な、なんだこの強さ…は…」
トウは血飛沫と呻き声を上げながら、地面に突っ伏した。
「烈嵐弩連衝。…フィフラさん、至急この盗賊を町の診療所へ。急いでください」
キャスクに言われるがまま、フィフラは血まみれの盗賊を抱えてサカエチカに引き返していく。
「キャスク。ごめんアタシ、…何も力になれなくて」
プルーツは魔法の事は言いそびれたまま、キャスクに謝罪した。
「そんな事ないよ。だって」
「だって…?」
「いや、やっぱり…なんでもないよ」
「えーー。ど、どういう事ぉ!?」
プルーツの連射弓、特に矢を放った後の隙をなくす時の間断をなくす素早さが剣技のヒントになったのだが、照れ臭いのでキャスクは言うのをやめたのだった。
「…ふう。ようやく、これで全員だな」
一方、ライドーンたちは岩を取り除く作業が完了した。
「まさか、ベユルたちだけで出来るとは思わなかったです」
手をじんじんと痛ませながら、ベユルは涙目でそう言った。岩のかけらは時に鋭利で、しばしば肌が切れてしまうのだ。
「人殺しになってはならない、―――か。無茶にも程があるべ。開き直った悪党でも、絶対に殺しちゃならないなんて」
改めて、殺人禁止の原則とも言うべき、人間社会に定められたルールの重さをライドーンは痛感したのだ。
「ええ。…本当に、本当にそうです」
なぜか俯きながら、ベユルは小さな声で呟いた。そして、遂にベユルが抱える真実をライドーンに告げた。
「でもベユルは…私は、人を殺しました」
ベユル=スカイトーン。
サカエチカの戦士ギルドの看板娘にして、ギルド長クドブェフ=スカイトーンの娘だ。
「おーい、ベユル様」
依頼をこなす、ベユルが属するパーティーの1人である年下の女戦士がベユルに声を掛けた。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、だなんて…相変わらずベユル様は、ベユル様ね」
年下の女戦士はふふん、と無邪気に鼻を鳴らした。
「ベユル。―――おっす」
リーダーの男戦士だ。髪の毛を逆立て強そうに見せてはいるが、実力はベユルと良い勝負である。
「リーダーさん。今日は皆さん、お揃いですのね」
気付いてはいたものの、ベユルはギルド大広間にもう1人待機している、年長の男格闘家を見た。そしてパーティーが珍しく全員、揃っているのを改めて確認した。
「え。あ、ああ。実はその事で話があるからよ、時間、適当に作ってくれるか」
ベユルはフィフラと違い、バイトとして受付嬢をしている。
スカイトーン家の意向でベユルには、むしろ戦士としての修行を積んでもらおうという運びになっている。
「待っててくださいね。ベユル、すぐ受付を抜けて伺います」
しかしパーティーに合流したベユルに待っていたのは、痛烈な宣告だった。
「ベユル=スカイトーン。お前は、足手まといだ」
リーダーの言い分は、こうである。
パーティーの誰もが、ベユルには実力がないにしても、せいぜいリーダーと同等だと認めている。そして、それだけならば他の強いメンバーのアシストに徹するなど道がないではない。
リーダー自身、サポート要員だからだ。
しかし、ベユルは受付で多忙なのを言い訳にして意図的に鍛練しておらず、努力しても前線に立てない自らに対して失礼な上に他のメンバーのやる気をも削いでいるというのだ。
「そ、そんな。ベユルは、ベユルなりにちゃんと…」
「言い訳は、いらない。まだ戦士でいたいならオークを今日中に倒して来い。俺らの目の前で、3体だ」
ベユルが口を挟む隙を与えず、更にリーダーは続けた。
「いいかベユル。出来なかったらパーティー追放だ。そして、更に俺はお前を戦士とは永遠に認めない」
どこまでも邪魔して、潰してやるからな。―――そう言い渡すリーダーの瞳は、怒りに満ちていた。
ベユルは途方に暮れたものの、リーダーに逆らえば即刻追放だ。それでサカエチカの町すら追われた若い戦士たちを、ベユルは幾人も見てきた。
これにはリーダーの生い立ちが関係している。すなわち、単にリーダーを務める男戦士が大富豪なのだ。逆らえば、大金で工作し本物の実力者すら追い払う。
そんなリーダーに着いていくベユルも悪いのだが、人との絆は選べないという考えを持つベユルである。だからこそ、そんなリーダーだとしてもこれまで懸命に着いてきたのだ。
ちなみにベユル以外のメンバーもまたリーダーに大金で雇われた実力者である。そしてパーティー結成当初からのメンバーは最早、ベユルだけだ。
そんなベユルだが、しぶしぶ戦士の装備に着替え、街道に向かうためにスーツム山に向かった。
「はあ…。ベユルの価値って一体…」
憂鬱な気分で山道を下っていく。
サカエチカの町は、そう高くないスーツム山の山頂にある。しかし、なだらかな斜面が続くために街道までの道のりは思ったより長い。
そして慰霊碑の前を通りかかった、その時である。
「おらー。カネを出せや、カネ、カネ」
盗賊だ。ベユルは、リーダーの発言に動揺するあまりにスーツム山に盗賊が出る事をすっかり忘れていたのだ。
(しまった。いつもならメンバーの皆さんが倒してくれるから、―――)
そう思う間にも、盗賊はベユルからしたら途方もない速さで斬り掛かって来ていた。
「ま…、とりあえず死んどけやあああ」
「ひ、ひいい」
ザクッ。
それは全くの偶然だった。
しかし、ベユルは不安を拭うためにずっと両手に構えていた槍で、盗賊を突き刺していたのだ。
「が…げぶっ」
ベユルが思うより、その攻撃は急所を突いていたらしく、盗賊は手にしていた短剣を落とし、間もなく完全に息の根を止めた。
「えっ、…えええ?」
ベユルは狼狽えた。殺人をしてはいけないとは、なんとなくは知っていたのに、目の前で盗賊は確実に死んだらしかったからだ。
「そん、な…」
そして山道からは見えずらい洞穴から、首領のトウはその一部始終を見ていたのである。
トウからすれば、それは首領の責務として新人を監督している間に起きた事件だ。
「お嬢さん、やってくれたねえ、…である」
それが盗賊と、ギルドの娘の間に生まれた接点なのだった。
「おいおい、ちょっと待てベユっち」
ライドーンは冷静に、その説明を反芻した上で答えた。
「そりゃ、オメエっちは悪くねえよ。だって、襲ってきたのは向こうさんだろ?」
しかしベユルは首を横に振る。
「殺人は魂を汚す最も悪徳な行いゆえに、許されないんです。だから、―――どんなに繕っても、神官様はごまかせません」
殺人が禁止になったのは、ハバムールが帝聖国になってから。つまり、王帝戦役より後からだ。
そしてニクツ=テルを始めとした神官には、もれなく、ある特性が備わっていた。
それは謎に満ちた力ではあるが、確実に人の魂の汚れを評価出来るらしいのだ。
噂だけでなく、帝聖国が始まり礼拝律制と呼ばれる、神官中心の新体制に以降してからというもの、数知れない犯罪者たちがその罪を潔く認めて摘発されていったと言う。それも、ひとえに神官の力による物であるらしい。
「そ、それは…でも、そうだとしたら戦うのすら魂が汚れるべ。何も出来ねえ」
ライドーンの言い分にも一理ある。確かに命に対して暴力で立ち向かうのも、厳密には魂を汚す行いにあたる。
ただ、その汚れの度合いは殺人よりは確実に軽い。
「十字架を背負う、という言葉がありますね。人は知らない間にさえ、他者の命を不当に奪う十字架を背負うと聞きます。それでも裁かれない人も少なくないのは、人は健全ならば十字架を背負いながらも、自らと他者を清めようと正しい行いをするからなのだそうです」
ベユルのこの考え方は帝聖国以前からある伝承に基づく、精神の理論だ。
「十字架…。なら盗賊を一緒に倒そうとしてくれたベユっちはさ、やっぱり正しいべ?」
殺人を許すかなんて、ライドーンに決定する権限はない。しかし話を聞けば聞くほど、ベユルには何ら罪がないように彼には思えた。
「そう…でしょうか。私、ちゃんと生きているって、言って良いのですか?」
真っ直ぐな眼差しで、ベユルはライドーンを見た。その真剣味は、嘘と暴力の世界を長く見てきた彼には、―――いささか、眩しい。
「…嘘で人を守るなんて、俺っちに出来るかな」
「えっ、ライドーンさん。今、なんて」
と、その時だ。
「ライ、それにベユルちゃん」
プルーツの声が洞穴に響いた。その後方にはキャスクの姿もある。
そして、洞穴では奇跡的に死者を出さなかったライドーンたちは、仲間たちの到着により、ようやく安堵の感情を思い出したのだった。
サカエチカの町、2日目の昼。
「ベユルは、やっぱり罪を償おうと思います」
盗賊たちの処遇を帝都から来た帝聖騎士に任せることになり、盗賊トウたちに関して一段落した矢先、ベユルはキャスクたちが今後を話し合っている最中に現れ、そう告げた。
「ベユル…ちゃん?」
ライドーンから経緯を聞いたものの、ショックをいまだに隠しきれないプルーツは、悲しそうに、そして遠慮がちにベユルに声を掛けたのだ。
「帝聖騎士様に自首しました。騎士様は、驚いてらっしゃいました。神官の力をお持ちの騎士様がおっしゃるには、ベユルには魂の汚れが人を殺したとは思えないほど、ないそうです」
我々の世界で言う、正当防衛にあたるからだろう。つまり不可抗力で起きた以上、キャスクたちがいる世界の神もそう判断したらしい。
「じゃあ、…償うっていうのは」
キャスクもまた、どこか恐る恐る尋ねた。繊細な心を傷付けてはならないという思いが、皆にベユルに対してそうさせるのだろう。
「修道院にお勤めする事になりました。サカエチカにある、あの修道院です。神父様に、それをお認め頂きました。それだけでもありがたい事です。…それが許されない可能性だってありましたから」
「ベユっちは、それで良いのか? そんな事で、悪い盗賊を殺した事で、戦士まで辞めちまうのは…俺っちは、なんか違う気がする」
珍しく「べ」のない言い回しで、真剣にライドーンはベユルに尋ねた。ベユルの何事にも真剣な性格は、他者に影響を与えてしまうらしい。
「ライ…」
プルーツの不安げな一言だけが、ギルド2階の、キャスクらが滞在する小部屋に妙な余韻を残した。
「諸君、ちょっと良いかな」
しんと静まり返った小部屋にクドブェフがそう言いながら訪れたのは、しばらくしてからだった。
「君たちを悪く言う者がたくさんいる。そりゃあ、君たちは悪くないかもしれん。ただ、…その、つまり…悪いかもしれんよな。それに、私にもギルド長という以前にベユルの、―――ベユル=スカイトーンの親であるという立場がある」
時折、言葉を慎重に選びながら、しかし迷いのない言い方でクドブェフは、キャスクらにそう告げた。
そしてベユルの父、クドブェフ=スカイトーンはそのまま冷酷な決断をも下す。
「今すぐ、出ていってくれ。この町は、君たちを受け入れない」
「お、お父様!」
「お前のワガママは、これ以上は聞けん。もし私に従えないのなら、…お前も同罪。彼らと共に町を出るか?」
―――こうしてキャスクたちはサカエチカの町を追い出された。異例ではあるがギルド長の娘を犯罪に誘導した疑いにより、原則として恒久的にキャスク、ライドーン、プルーツの3名が立ち入る、…そうした警告を、サカエチカは町として出したのだ。
「随分、強硬だべ。つーか、普通におかしいべ?」
「あくまで町としてだから、世界的に全ての町に入れないわけではないわ。つまり、最悪ならそうする事も出来る。そう突き付ける事で、あの町の、…サカエチカの住民は尊厳を保ったのさ」
プルーツには何度もそうした苦い経験があるのか、キャスクやライドーンよりも内情を分かっているようだ。
「アタシらは、良くも悪くもただの旅人で部外者だ。だからどう扱うのも自由。―――長年あの町でホームレスしてるジジイの方が、まだ人権があるの」
「なんだ、…そーゆう事だべ。本当にそう。ホームレスより人権ないから、だからか。なるほどな…なるほど」
そう言うや否や、近くの大木に向かってライドーンは突然、拳を何度も突き立て始めた。
「なんでだべ。なんで…なんでなんだ。ベユルの気持ちはどこに行く?」
ライドーンは泣いていた。
「ラ、ライ。アンタ、…、…」
プルーツは、そんなライドーンを初めて見たのだろう。ベユルの事を聞いた時と同じくらい動揺した。
だからキャスクは、ライドーンをそっと嗜めるしかない。
「ライ。プルが怯えてる。気持ちはとても分かるけど、―――もう居られないなら、進まなきゃ。そうだろ?」
「そうだけど、そうだけどよお」
「何も取り上げられなかっただけ、その場で捕まらなかっただけマシ。そうだよね、…プル?」
冷静に現状の本質を聞かれ、プルーツはかえって躊躇ったけれど、少しの間の後にこくりと頷いた。
「くそ。くそ、くそ、くそっ。本当にホームレス以下かよ、俺たち…」
まだ木を殴り足りないライドーンをキャスクは羽交い締めにした。
「やめよう。やめてくれ、ライ。ライドーン=ジョニア。そんなライ、見たくない。見たくないんだ…」
そう言うキャスクも泣いていたし、プルーツもとっくに泣いていた。
その場には1つとして笑顔はなく、ただ涙だけがあった。
しばらくして、皆の感情が収まってきた時、プルーツがようやく口を開いた。
「きっとベユルは祈ってくれるよね。アタシたちの、旅の無事を。だから本当、前に行かなきゃ。キャスクの言う通りだね」
そしてキャスクたちは歩き出したのだ。
帝都へと続く道を、そして生きていくための、長い長い道を。
さて、帝都までに残るのは1つの洞窟である。
「ツニナル洞。俺たちが目指すのは、そこだ」
ライドーンは遥か遠方にわずか見える、その入り口を指し示した。
「ふう、俺っちも強くならなきゃな。キャスクみたいに」
「アタシも。もっともっと、足を引っ張らないように練習しないと」
「みんな。…うん、行こう!」
三つ首のトカゲ戦士や巨人、そしてカエルとトラの合の子。
今までに見た事もない魔物たちが蠢いていた。
帝都には陰謀も渦巻くと言う。まるで魔物たちは、その権化かのようにキャスクたちの行く道に群がっていた。
「行くぞ、魔物たち。…真空十字斬ッ!」
「ヒュドラ、コマンド。―――カスケード・ブロウ!」
「やられる前に…五月雨ノ雲矢!」
進めど進めど、そこには出会いもあれば戦いもまた終わらない。
だが彼らは立ち止まらない。やめてしまえるとしても、決して彼らは旅をやめる事などないのだろう。
道が道である限り、そして道すら見えなくなったとしても、進む事こそが彼らの答え。
洞窟の更に向こう、靄がかった帝都はまだ、キャスクたちの存在など気にしないかのように夢まぼろしの姿。
何かを見失ったとしても、また何かを見る。そんな旅の道を突き進む若者たちが3人。
その旅の果てに待つのは幸福か不幸か、―――それは誰にも分からない。
ただ分かるのは、彼らはまだ戦えるという事。仲間であるという事。そして、何よりも生きているという事なのだ。
「見守っていてくれ、ベユル。俺っちは、―――いや、俺たちはもっと強くなる。そして、いつか…」
それは舞いにも似た、戦いの花道。
彼らには見えていたのだ。勝ち続け生き続け、そしてその先に見るべき希望が。