第5話 幽霊が見えるヤツはモテる
毎日更新出来ると…いつから錯覚していた?
メイチカの町での、3日目の朝だ。
「起きろーーー」
プルーツの声が響き渡る。そして声だけでなく、強烈なドロップキックの音もだ。
「う。…目は覚めるけど、近所迷惑になるよ」
「ちょ、おま。どんだけドロップキック大好きだべ」
お互いに、徐々に旅の仲間という感覚が芽生えてきた3人である。
今日の朝食はレーズンロール、ハンバーグ、ベークドポテト、シーザーサラダ、そしてコーンポタージュと相変わらず質素だ。
ちなみに、キャスクたちが泊まっている宿はレストランがあるような広いホテルではない。食事は宿の店員が客室に直接、持ってくるようになっている。なお、朝食はサービスだ。
「そういや、昨日は昼も夜も飯、食ってねえべな」
「んだんだ。なんか知らんけどそういう日もあるんだよ」
「えっ。ボクは食堂でまかない食べたから、お昼は頂いたけど…」
冷静に考えてみれば、貧乏人2人に、剣術が出来るだけの村人が1人。会話が成立しているだけで奇跡だ。
そして、宿の店員に聞こえないよう、プルーツは昨日の件をひっそりと、改めてキャスクに確認した。
「アタシ、エルフだけど本当にこれからも仲間でいてくれる?」
「え?うん、もちろん」
プルーツの真剣味を帯びた問いに対して、はっきりとキャスクは答えた。
「それどころか村人でしかないボクを、旅に誘ってくれたんだから。感謝しているくらいさ」
キャスクのそのあまりに模範的で優しい答えに、再びプルーツの目は潤み始めた。
「うう…。アンタ、本当にいいヤツなんだねえ」
「だべ。キャスっちってマジメでいいヤツなんだよ~」
昨晩は結局、プルーツを励ます機会を得なかったキャスクとライドーン。というのも、2人が部屋に戻る頃にはプルーツはもう眠っていたのだ。
「なんで寝てんだべ。明らかに2人が素晴らしい励ましの言葉を告げるという流れだったべ~、だべ?」
「いや、それは知らん」
ライドーンの半分ちゃかしたような説教を、プルーツはこなれた冷徹さで一刀両断した。
そう。すっかり元通りという意味では、もはや一安心なプルーツである。
ひそめていた声もまたいつしか、すっかり元通り。すると、ライドーンが2人に、ある噂話を切り出した。
「なあ、2人とも知ってっか。レウト島の亡霊のウワサ」
「いや、それも知らん」
「ボクも聞いた事ないなあ」
レウト島の亡霊。
ハバナール帝国の第3代帝王と言われているカイゼヘーブが祀られる帝神廟がある島だ。
そこに近ごろ、その帝王の亡霊が出没するのだと言う。なんでも青白い炎に包まれた人らしく、亡霊でなければそんな状態では存在しないだろう、というのだ。
「それで、だ。帝神廟の亡霊をなんとかした者には、なななんと。帝聖国からスゲー報酬が出るらしいんだべよ」
「おおー。しっかり仕事してんじゃん、アンタ」
「はんっ、まあな」
「…で、ボクたちでそれを?」
「おうよ。キャスっちの最強の技なら一瞬だべ? 期待してっからさ」
どうやらライドーンは、キャスクの強さなら亡霊だろうが簡単に倒せるという発想のようだ。
しかし、キャスクは冷静に反論する。
「幽霊に物理は効かない。おそらく、―――魔法じゃないと無理だ」
「…へっ、そ、そうなんか?」
「まあ…言われてみれば、そうかもね。アタシたちでは誰も魔法なんて使えないから、なんとも言えないけど」
プルーツは魔法を封印している事は、2人には隠している。そして、あくまで弓使いの狩人としてパーティーに参加しているのだ。
それは意図的というより、あえて説明するような機会に恵まれなかった成り行きという側面が強い。しかし、ともあれプルーツは結果としては、キャスクたちに隠し事をしている。
「なーんだ。なら、帝聖国をわざわざ目指しても無意味か」
「ライ。今ってレウト島の話じゃない?」
「知らんのかね、プルくん。レウト島に直通の船は、ハバナール帝聖国からしか出ないのじゃよ」
「ど、どうしたんだ、ライ」
「キャスっちくん。グライドーン博士と呼びなさいじゃ」
「キャスク。―――単にコイツ、頭おかしいだけだから」
会話も盛り上がりを見せた所で、キャスクのバイトの時間が近づいてきた。
「いっけない。ずっとギリギリで入ってるから、また怒られちゃうよ。じゃ、また後で」
キャスクは身軽なチュニックにレザーズボンという出で立ちで宿を出た。
「本当、頑張り屋さんだよねえ。キャスクは」
「惚れたか?」
「バ、バッカじゃないの!」
心なしか頬を赤らめながら、プルーツはライドーンをビンタした。
「くくっ、つまり図星ですな」
「ふふ、だとしたら年下の男って事になるのね」
20歳のキャスクより、2人とも年上。ライドーンは25歳、プルーツは22歳だ。
「若いのに俺っちより、しっかりしてっからなあ。アイツっち」
「多分、そのなんとかっちをやめたら良いんだと思う」
「えっ、これはアイデンティティだから無理だべ」
食べ終えた朝食の食器をカウンターに運びつつ、話はレウト島の亡霊に戻る。
レウト島の亡霊のみならず、キャスクらのいる世界でも一般に幽霊は目に見えない。
魔法使いならば魔力が霊視を可能にするが、魔法使いは王帝戦役以前から、そもそもその人数が少ないとされる。
現代においては、せいぜい30人いれば良いとされる。
実際に実在が確認されている魔法使いは5人。隠れ魔法使いの可能性や、王帝戦役で行方知れずの者たち、その子孫を含めても5倍程度はいるだろうという帝聖国の試算らしい。
「じゃあ、なんでレウト島のユーレイは目撃されてるのよ」
「……、……なんとな~くだべ」
「はいはい、都市伝説」
するとその時、客室のドアを誰かがノックした。
「あいてますよ~」
「ちょ、それじゃトイレみたいよ」
ドアを半開きにしつつ、顔を覗かせたのはグンドだ。
「おいキミ、忘れ物だ」
そう言うと、グンドはライドーンにヒュドラを渡した。
「お、ありがとな」
「えーっ、アンタそんな派手な銃なんて忘れて来ないでよ。バカなのアホなの、どっちなの?」
漫才のようなライドーンとプルーツのやり取りだが、ここでライドーンがある事に気付いた。
「あれっ、俺っち…ここに泊まってるなんて言ったっけ」
グンドはなんという事もなく答えた。
「俺、隣の部屋にいるんだけど…知らなかった?」
「いや、そんなん知るかッ!」
何度か宿で見かけたので、同じ宿なのだと気付いたらしい。
「というか、メイチカに宿は1つしかないぜ。ジュニア」
「あ、ジョニアです。一応」
そしてグンドはさっさと部屋に戻ろうとしたが、ここに来てプルーツのイケメン・ハンターとしての血が騒いだ。
「あ、あの。どちらから旅を?」
「えっと、…み、未来」
「未来?」
「…いや、ミラーイーカモネっていう経済のメッカから来ました」
(グンド。何の嘘なんだべ、それ…)
プルーツが目をキラキラさせ出したので、ライドーンは「あ、これ半分くらいガチなヤツだ」と理解したのだ。
「良ければ、お食事でも…」
「いや、俺、朝飯でおなかいっぱいだから。じゃあな」
グンドは去ってしまった。
「あの方は、どんなお仕事を?」
「まだがっつり探るの?!」
プルーツはエルフという同族が少ない反動でか、とても異性に飢えているという危険な一面を持つのだ。
だが異性に飢えている自分に正直な人にありがちだが、なかなか巡り会えてはいない。
「モテたいんだけど。アタシ、思わず自然にお食事に誘われる女子になりたいんだけど」
「そ、そうだべね。…一応、女の子だもんね」
「なんで一応やねんキーック」
恒例の蹴り技、今回は足払いだ。
そして、何事もなかったかのようにプルーツは1人、狩りへと出かけた。
「俺っちって、一体…がくぅっ」
キャスクの今日のバイトも、モーニングの皿洗いから始まる。
キャスクはほんの数日の間に随分、慣れた手つきでそこそこのペースの皿洗いを維持する事が出来るようになってきた。プロには及ばないが、端から見ても安心感のある仕事が板に付いてきたのだ。
「キャスク!注文も取れるか」
「あ、はい。…見てたので大丈夫です」
見よう見まねで、ホールの仕事も任されるようになった。
多少は店長なりの、短期バイトへの接待という側面があったかもしれない。しかし、それでもキャスクの吸収力と頭の回転の良さは紛れもない本物。
たまに来る、客からのクレームにも、鮮やかに対応していく。
「ちょっとこれ、注文したのと違わないかしら?」
「伝票を確認致します。…モーニングのセット2ですね。セット2ですので、ベーコンエッグ、海老の白海風サラダ、わんぱくフルーツケーキ、それからポテトカレーとなります」
「え?…じ、じゃあ気のせいね。ごめんなさいねえ」
「スープはスープバーにて、お好みの物をご自由にお取りくださいませ」
「すみませーん、ウチらが先に注文してなかったですかあ」
「唐揚げうどんをご注文のお客様ですね、申し訳ございません。当店はモーニング、ランチを早くお出しする関係で、少々お時間を頂いております」
「あっ、そう。まあ、ならいいけど」
「カラうどん上げまぁす」
「はいっ。お客様。唐揚げうどん、すぐお持ちしますね」
「あっ、…はい」
「あのー、追加で注文していいです?」
「はい、すぐお伺いします。お待ちください」
ホールを回しつつ、洗い物を片付けていく。おかげで店長は料理に集中する事が出来て負担が少なくなったのだ。
「よし、モーニング終了。キャスク、お疲れさん」
「そういえば店長…名前、覚えてくださったんですね!」
言われて今日は、店長の方が照れた。
30代くらいであろう、痩せてはいるが普段から鍛えて引き締まった筋肉でスラッとしたナイス・ガイだ。
「ふん。…よし、キャスク。いよいよお前に、アレを任せようかな」
「アレ、とは…」
「ふっ、ちょっと着いて来い」
言われて、店長に着いてキャスクは店の裏手に回った。
「漬け物を出すから手伝え」
「漬け物…ですか」
メイチカの食堂の目玉商品のひとつだ。自家製の漬け物は、味がしっかり滲みていると評判らしい。
漬け物を出すから、と言われたが、結局キャスクは出した分だけ補充するのも手伝わされた。
とは言え、塩漬けなので単に浸けるだけだ。しかし1週間ほど浸けるため、本日付のビンにハスカップを詰めていく。
「果物を浸けるなんて、変わってますね」
「お、なら食ってみるか」
そう言うと、店長は塩漬けされたハスカップを一粒、キャスクに差し出させた右手に乗せた。
「あ、どうも。…ではちょっと、頂いてみますね」
「おう、遠慮なく食べちゃって」
「―――。お、なんだか梅干し? うん、優しめの梅干しって感じですかねえ」
「ほほう。梅干しみたいとは言われるけど、優しめとは珍しい言い方するねえ。でも確かにそうだな」
そして程なく、昨日、上がり際にちらっと見かけた新人も到着し、午後の仕事―――ランチの時間が始まった。
「あ、どうも。一応、社員なんでよろしくっす」
「えっ、そうなんですか?」
「自分、料理学校出たばっかりなんス」
見た目にはキャスクと同年代っぽいので念のため敬語で話したようだが、実際、キャスクと同年齢だ。
「新人。キャスクが今後、料理人になってみい。思うに、かなりの強敵だからな」
「お、おっす」
「おいおい、お前まで親方とか言うなよな?」
束の間、食堂は男たちの笑い声に包まれた。
「じゃあ、簡単な料理と表は任せるからな。キャスク、また皿担当でよろしく」
1日である程度は調理も仕込まれたらしく、力強く新人は頷いた。
モーニングと同じ、いや、それ以上にランチも忙しい。働きざかりが、昼休憩がてら利用するケースも少なくないからだ。
「いらっしゃせ~」
「お客様3名様です」
帝都にある大手フランチャイズで学んだという店長だけあり、仕事内容がしっかりと頭の中にマニュアル化されているらしい。
しかし、いや、だからこそ昔かたぎの喫茶店の主などからは、やっかまれているらしい。けれども、それはそれだけ店長の手腕を評価する古参もいるという表れなのだろう。
「くそったれぇえ」
皿が割れる音がした。
「マズくて仕方ねえんだよ、いつもテメエのランチはよお」
店長の話によると、どうやらその喫茶店の主らしい。
「ケンカ売ってんのか、ああん?」
「お客様、お静かにお願いしま…ウッ!」
顔面を張り倒され、店長は本棚に体全体でぶつかる形で倒れてしまった。
バサバサッバサッと、本が何冊か転げ落ちた。
「やめてください、お願いします」
キャスクも頭を下げた。それで主の気が済むなら、時にはそれもやむを得ない判断。キャスクはそう考えたのだが、逆効果だ。
「おいおいおい。謝って済むと思ってんのか。表に出ろテメエ、若造の癖に調子こいてんじゃねえぞ」
そしてなぜかキャスクが、喫茶店の主と格闘対決する事になったのだ。
審判は柔道歴3年の常連、スロントさんだ。
(どういう流れなんだ、これ…?)
ただキャスクには、実はこんなめちゃくちゃな展開には心当たりがなくはない。
ヤンカ村だ。
ヤンカ村の住民の、時にはなんとなくで何かを始めるノリによく似た流れをキャスクは痛切に感じ取った。
(スレンの理由なきケンカとほぼ、根拠が一緒…!)
そんなキャスクの心情とは裏腹に食堂の客も、食事より面白い事を見つけたとばかりにぞろぞろ表に出てきた。
しまいには店長や新人まで出てくる始末だ。
(じゃあ、せめて店長が戦ってよ…)
ただ、ヤンカ村より人口が多いとは言え、道徳や価値観が似ているのだろうなとキャスクは思った。
ドンスレンがキレてケンカする時も、なんだかんだで人が集まる。それと一緒なんだ、ここはほぼヤンカ村なんだ、とキャスクは少し悟った。
そして、そんなキャスクの考えている事など知らない喫茶店の主が遂に口を開いた。
「おし、じゃあ構えな」
(え~…、なんでこうなるんだよ)
キャスクは渋々構えた。まあ、とは言ってもせいぜい喫茶店の主である。強いわけがなく、適当に相手をしていれば勝てるはずだ。
少なくとも、キャスクはそう思っていた。
「しっ、しっ、しっ。オラオラァ、ガードが甘いガードがァ」
スロントさんの合図で試合が開始して早々、猛烈なラッシュをかましてきたのだ。
(なんだ、このおっさん。とんでもなく強いんだけど…!?)
「さあ始まりました、喫茶店のおじさん得意の必殺パンチ祭り。一方の若者はなんだかツラそうだッ。どうなる、これはどうなる」
スロントさんが、ご丁寧に試合の実況まで始め出したのだ。
よく考えたら、柔道の経験しかないスロントさんにケンカの審判をさせている時点でルールなんてない。強いて言うなら敗北を認めた方が負け、なんとなくそういう事なのだろう。
(おじさん、ちょっとだけ本気出しますね…!)
脇を締め、足を踏み込んでの強烈なアッパー。普通なら、少なくともドンスレンならこれで倒れるはずだ。
だが、喫茶店の主は一味違った。
「ぶはっ。へっ…、ちょっとはやるじゃん」
ほんの一瞬、主が笑ったような気がした。
そして次の瞬間には、キャスクの視界は一面の青空だ。
「えっ…?」
懐に入り込まれ、持ち上げられたのだ。そして、主のとんでもない腕力によりキャスクの体が宙に浮かんでいた。
「イエーーーーイ」
客からは拍手が起こった。
そしてなぜか優しく地面に降ろされたが、直後にはまたラッシュ、そして今度は時折、これまた強烈なストレートが飛んでくるようになった。
(痛い痛い痛い。ていうか…何してるんだボクは)
一周回って、キャスクはなんだか不意に冷静になった。実際、キャスクがこんなケンカを買う理由は全くないのだ。
(よし、さっきより少しだけ更に本気だ。倒しちゃったらごめんなさいね)
キャスクは大きく息を吸い込み、そして吐く息と同時に相手の懐に入り込み、掌底を何発か叩き込んだ。
しかも何発かとは言っても、やられた本人にしかそうと分からないほどの速さで、である。
「ぐへえっ」
呻きながら、喫茶店の主はよろけた。追撃するほど本気を出すかキャスクは迷ったが、別に強さを隠す理由は特にない。
「これで終わりです!」
そう言うとふらふらしている主に、キャスクは猛烈なラッシュをお返しした。
「はいはいはいはいはいはい」
喫茶店の主は無言で打撃を浴び続け、やがてその場に崩れ落ちた。
なんとなくアウェーだった空気はキャスクが喫茶店の主を倒したという事実で逆転したようで、客たちはキャスクに盛大な拍手を送ったのだった。
「いやあ、キャスク。やるじゃねえか」
「凄かったっス、…キャスクさん」
新人にも名前を覚えられ、メイチカでのキャスクの名声がほんのわずか上がった。
「で、割れたお皿は弁償してもらったワケ?」
プルーツは夕食のグラタンをつつきながらキャスクに尋ねた。
「うん。本当に店の味が気に入らなかったみたいで、お金はちゃんと持ってたんだよね」
「はん、カネがあればなんでもやっていいわけじゃねえべ」
「うん。そうだね」
今日の夕食は、キャスクがピザ・マルゲリータ、ライドーンはトンカツ定食だ。
「いやあ、一度くらい俺っちたちもそのお店…行ってみっか?」
「え、無理。恋人と思われるでしょ」
時にプルーツは、お金が命のライドーンより現実的だ。
「うっ」
「どうした、ライ。もしかして…ショックなの?」
「カツが、むせただけじゃい!」
夕食を平らげる頃には、ライドーンとプルーツの旅の始まりに話は移った。
そもそもは、プルーツが1人で各地を転々としながら狩人として生活していた。元はラノヴェス大陸のデラマという村の出身らしい。
「だからアタシはね、キャスクの気持ちはたまに、少しだけ分かるんだ。―――アタシも村人だから」
そしてプルーツは、しばらくはラノヴェス大陸の各地を旅した。その後、船旅でキキマン大陸のフロスワーコルという町に辿り着き、そこからは陸路でワーマルンク大陸に向かった。
「なんで船旅だったの?」
「それはね、キャスク。ワーマルンク大陸にラノヴェス大陸から行くのは、今はとても難しい事だからさ」
王帝戦役の影響である。
戦後、2つの大陸を直通する道はラノワーマ巨橋ただ1つとなり、しかも通行には高額な手数料を必要とするようになった。
一般市民程度ではとても払えない金額のため、実質的には直通のルートは完全に遮断されたのだ。
「そんで、なんやかんやで、―――そういえばライ。アンタがアタシの下僕になったの、いつからだ?」
「誰が下僕だべ。だってソウル・メイトじゃん?」
プルーツはあまりよく覚えてないらしいが、ライドーンはキキマン大陸のかなり発展した都市で暮らして来たらしい。
「ま、とは言ってもスラム育ちだから自慢にゃならねえけどな」
「都会かあ…。ねえライ、でもアタシってそんな都会は避けてきた気がするんだよね。どこで会ったんだっけ?」
「ああ、その頃には俺も村人だったからな」
王帝戦役の影響が少なく、比較的文明が保たれたキキマン大陸にある数少ない村、フチャ。そこでライドーンは、自称・運命的な友情をプルーツに見出だしたらしい。
「そうだったっけ?―――しかも、戦えないアンタがよく引っ越しなんて出来たね」
「まあまあ、地獄の沙汰もってヤツだべね~」
そう言うと、ライドーンは得意のジェスチャー―――カネを表す、親指と人差し指のリング―――をして見せた。
夕食を全員、粗方食べ終わったので片付け、ついでにライドーンの思い付きでグンドの部屋に遊びに行く事にした一行。
ドアをノックすると、グンドが顔を出した。今日は酒場には行ってないようだ。
「いよう、天才博士」
「博士ではない、科学者だ」
「キャアアア、グンド様…!」
(ど、どうしたんだプル)
キャスクはプルーツがイケメンをこよなく愛するイケメン・ハンターである事を知らず、ただただ当惑した。
「大丈夫かキミ、こんなむさ苦しい男だらけで。警戒心がなさ過ぎるんじゃないか」
そしてそこからの、グンドのプルーツに対するマジメな説教である。
「いや…故郷でも割と男だらけで、これくらいは普通ですけど」
特に深い会話もなく、その日はまったりと過ぎていった。