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第33話 燃えない気持ちも宝だよ

ネッシーにハマってます。

 星馬暦1000年、ピアリハ74年。10月4日早朝。


「1、2。1、2」


 キャスクは朝も早くから木刀で素振りしていた。


「ふう。あと97000回くらいは30分あれば出来るな」


 アウコーンに来て、もう10日ほどだ。

 それもこれも全ては城絡みの依頼のため。


 しかしキャスクたちはようやく解放されたのだ。つまり、次の目的地に向かって出発することが出来るのである。


「でも決めてないんだよな。これからどうするのか……」


 キャスクはとりあえず素振りに集中する事にした。彼の場合、数々の剣技の多くは素振りの合間に閃く。

 よって素振りが出来る時間は、キャスクにとって貴重なのだ。


(真空の剣技だけでは、今後は厳しいかもしれない)


 アウコーン付近の魔物はキャスクには、まだ余裕だ。だが裏を返せば少しでも余裕がなくなれば、それは即死の可能性を意味する。

 なぜなら魔物は常に全力で、かつ殺意を持ち襲ってくるからだ。そのため、わずかな隙でも致命傷に繋がってくる。


 山にいる熊を想像してみてほしい。熊に絶対に負けない鋼鉄フルボディーアーマーでも着ない限り、普通は一瞬の隙でもあれば熊は人を殺める。


 つまりは、それと同じだ。


(ライやプルが死んでないのが不思議なくらい、厳しくなってきた)


 経験則から無闇に襲われない移動を身に付けていると普段から言うだけあり、キャスクどころか一般市民より少し強い程度のライドーンとプルーツなのに確かに死んでない。


「テリトリーとか、そう言う概念を知って足跡をよく見てりゃあ、大体は大丈夫だべ?」

「キャスクは強すぎるから知らなくても無事だったかもだけど、これからは気を付けるべきね。だって、ここらの魔物はまだ弱い」


 朝食のフレンチ・トーストを頬張りながら、ライドーンとプルーツはキャスクに説教した。


(まさかボクがライたちに怒られる日が来るとは)






 そして、キャスクたちは闘技場にやって来た。


「なんで!?」

「キャスっち最近、頑張ってんべ。だからだ」

「尚更、なんで!?」


 ジュランガル・ドーム。


 外観はギリシャ建築を思わせるアートな雰囲気で人に興味を沸かせる佇まい。

 そして中は名前の通りドーム状になっており、受付や待機用のフロア以外は客席と競技用スペースのみという質素な構造だ。


 アウコーンは魔公国を掲げる割に、ボナレンクが心配するように魔導師が少ない。


 そのためかヒューナフにあったような小さな建物ではなく、魔公国の名に良い意味でふさわしくない大規模な闘技場だ。


 ルーイフタンの町にある、この闘技場は世界でも有数の大きさを誇る。


「レイナ=ジュランガル。王帝戦役後の世代の中で最強の女戦士と言われる者が私財を投じて建てたと言われている」

「ボナレンクさんまで来ちゃったんですか?」


 星馬暦917年。まだ戦役の傷跡を癒しきれない時代に生まれたのがレイナという女性のようだ。

 しかし彼女が築き上げた数々の武勇伝は絵本や大河小説にもなるほどの影響を持つ。


「ルマ様もアタシも、レイナ神の絵本はバッチリ読んだ世代よ」

「そうね。あと、サボりの罪は重いわよ」


 レイナは神格化されているわけではないが、フィールからすれば神に等しいらしい。


 神格化されると、その霊体は神となり世界の外側に行ける。これは通説でなく、キャスクたちの暮らす世界では実在する現象だ。

 よってハバムール帝カイゼヘーブは、神であるがゆえに世界の外側にいる。


 一方、フィールに説教をしたのはルマールだ。

 フィールの帰りが遅いと騎士団から催促され、アウコーンまで再びやって来ていた。


「で、どうすんだ。やっぱり全員、出場にするべか?」


 ライドーンがその場にいる者に確認を取ると、既にライドーン以外は受付を済ませたらしい。


「お、おう。なら俺っちも、ちょっくら行ってくるべ」


 キャスクたち一行、ルマール、フィール、そしてボナレンクにグンド。


「なんで!?」

「どうした、キャスクくん」

「いや、あなたですグンドさん」


 グンドの行動には謎が多い、それだけは確かだ。


 ヒューナフと違い、この闘技試合に賞金はない。しかしその分、純然たる戦士のみが集うハイレベルな大会だ。


 試合はトーナメント方式。

 ただしこちらもヒューナフの時とは違い、ここでは団体戦だ。

 最大で5人までメンバーを先鋒、次鋒、中堅、副将、そして大将に振り分ける。


 団体戦は勝ち抜き方式。

 つまり先鋒が強ければ、1人で相手チームの先鋒から大将まで全て勝ってしまえるわけだ。


 キャスクのチームはキャスク一行、フィール、ルマール。

 ボナレンクのチームはボナレンク、グンド、ライドーンだ。


「なんで!?」

「キャスク。今日はどうしたのよ」

「いやいや。ボナレンクさんとグンドさんが、かわいそう過ぎない?」

「えっ、俺っちは一行じゃねえべか。そこはツッコミなし?」


 よく見ると、お忍びで魔公も来ていた。


「それは別に大丈夫だな」

「ははは。キャスクくん、なんで!?を言いたすぎね」


 キャスクのチームについては先鋒プルーツ、次鋒キャスク、中堅トリティ、副将ルマール、大将フィール。


「なんで!?」

「女子を守るのが、男の子。キャスクくん、しっかりな」

「えっ、じゃあなんでアタシは先鋒?」

「お姉さまは兄貴だから……」

「フィーはフィーで気を遣え。もう始まるからいいけど」


 ボナレンクのチームについては中堅ライドーン、副将ボナレンク、大将グンド。


「なんで!?」

「キャスク、流石に騒がしいぞ」

「いやいや、グンドさん大将なんですか?」

「俺っち1番なのもツッコもう!」

「いや、ライが先鋒は妥当だよ」

「わ、私もそう……思います」


 トリティがようやく会話に乗り出した所で、キャスクチームの試合が始まる時間になった。


 ちなみにバイトは期間満了で退職したようだ。


 闘技試合で使用する武器については、ヒューナフの闘技場と同じだ。つまり攻撃部分が魔法の光になっている安全な武器が貸し出される。

 勝敗を決する部位は剣道と同じで顔、腕、胴、そして、のどだ。また格闘系の技も併用が認められており、審判が投げ技も含めアナログで判定する。


 プルーツには魔法光の矢が支給された。矢に限っては無限に魔法矢を生成する筒が与えられる。

 近距離武器との不公平感をなくすために作られた、魔公国発祥の魔法アイテムだ。


「チーム・レディーズ。先鋒、プルーツ=アロニス」


 レディーズというチーム名はルマールの案だ。キャスクはさておき、単に女性ばかりだからである。


「チーム・グランソード。副将、コルビル=ハーシキン」


 大丈夫なのかと心配になるほど、やせ細った長身の老人だ。

 サーベル型の魔法武器の使い勝手を確かめつつ、


「ふぁふはは。こんなオモチャしかないとは、戦がないのも考え物じゃのう」


 と、白々しく皆に聞こえるように唸った。


「あら、おじいちゃん。2人で優勝しようなんて、それこそ考え物よ?」

「なっとらんの~。最近の若者は初対面に馴れ馴れししい。それともワシが忘れっぽいか?」

「初対面だろうし、馴れ馴れしいのは余計なお世話……。さあ、戦いで会話しましょ」


 2人の会話が終わったのとほとんど同時に、試合準備の合図がかかった。


「制限時間は3分。出場者。両者、前へ」


 プルーツとコルビルは白線から一歩前に出た。


「始め!」

「……えっ」


 試合開始から1秒も立たずして、プルーツは敗北した。胴を打たれたのだ。

 有効打が入ると、魔法武器から一定の効果音がなるのだ。

 これは地味ながらヒューナフになかった仕様を備えた、最新の魔法武器であるためだ。


 ピンイョピンイョ。


 間抜けた効果音。気づけば彼女の背後で老戦士は、魔法サーベルの使い心地をまた確かめながら呟いた。


「オモチャの国で村娘と戯れる悪徳商人か、ワシゃあ……」

「そこまで。勝者、ハーシキン」


 まばらな拍手が起きた。

 だがキャスクや騎士、トリティだけが追える程度のスピード・アタックによる、とんでもなくハイレベルな勝利には違いない。

 そうなるのは、客席にほとんど人がいないからだ。


 ただ試合会場は盛り上がっている。7つもあるコートは全て埋まっていて、闘技場というよりバトル・スポーツ場とでもいうような気楽ささえ伺える。


「さあ、次だ次。次の村娘はどなたかな」

「ははっ、ボクです」


 レディーズなだけに男が歩いて来ると、コルビルは腰を抜かした。


「どっからどう見ても男性じゃ!」

「はは……」


 だが、キャスクはいつになく緊張していた。


(バンザを思い出す。この人、とんでもなく強いぞ)


 選手紹介や入場の案内の間、キャスクは千通りほどの初手を素早く思案した。


「始め!」


 闘技試合で本気を出すと、真空の斬撃は相手を痛め付けてしまう。

 それもありキャスクの構えはヒューナフの時と同じ、盗賊ビカートの構えだ。


(ギリギリまで相手を引き寄せるんだ)


 キャスクは、コルビルが先ほどのように速攻で来るならカウンターで勝てると踏んでいた。

 いくら強くても相手は老人。動きを目で追える以上、相手の太刀筋に合わせ、こちらも剣で切り返すだけと考えたのである。


 しかし同時に、そうはならないだろうとも考えていた。

 雰囲気からしても間違いなくコルビルは歴戦の戦士。同じ攻め方をするのは手の内を晒す事と同じ。

 ましてキャスク相手に敢えてそうするとは、考えにくいわけだ。


 そしてコルビルは案の定、戦法を変えてきた。


「どう出る?」


 キャスクを試すかのような問いかけをしつつ、コルビルはほとんど動かない。

 いや、キャスク自身にしか分からないが、ギリギリで剣が届く間合いを的確に読んだ上でほんのわずか前進したのみ、というコルビルの初手だ。


(そんな隙だらけで何のつもりだろう?)


 間合いギリギリというのは、むしろ一般的には最悪の間合いだ。普通なら間合いを近くか遠くにして攻めづらくする。

 そうでないと駆け引きが生まれない。きっちりした間合いは現実の対人戦では愚策なのだ。

 つまりコルビルはどこを斬っても大丈夫と主張しているも同然なのである。


 適当にキャスクは腕を狙い、剣をほとんど突き出す形で攻めに出た。


「勉強せい」


 コルビルの細剣はキャスクの喉元を狙った。なまじ腕を狙うために剣先が低く、剣では防御が間に合わない。


(異種武器戦か、しまった……)


 キャスクはうっかりから焦った。しかし深読みしすぎたわけでもない。

 単にコルビルの剣がキャスク並みに速く、どうしようもないだけだ。


 超人的な回避でかろうじて避けたキャスクだが、自らの攻撃も中断を迫られた。

 その直後、再び間合いを取るか引き際に攻めるかの一瞬がキャスクに訪れる。そしてそれはコルビルも同じだ。


(いや、更に何かあるかも。思い付きもしない奇策……)


 コルビルはキャスクの視界から消えた。

 しゃがんだのだ。そしてしゃがみながらも残しておいた腕の高さで相手の胴を狙った。


 剣道では反則かもしれないが、これはあくまで判定部位を剣道などに準じて限定した試合というだけだ。

 よって、回転斬りだろうが残像を残す動きをしようが自由。

 最近では、より実戦に則して全身を有効部位にせよという声が強いほどだ。確かに、足や肩を斬られたら戦意を失うのは有り得る。

 しかしあくまで競技であり、審判を要するという現状により、いまだにそこには改善は見られないわけだ。


 キャスクはサイドステップで素早く避けたが、ぐんとコルビルの細剣が伸びた、―――ように見えた。


「そこまで。勝者、ハーシキン」

「嘘だろ。キャスっちが負けた……?」


 またしても胴を打たれ、キャスクも敗北した。


(今のは何だったんだ?)


 サイドステップと言っても間合いを取るため相当に遠くに避けたはずが、追撃を受けた。その事を疑念に思ったキャスクだが、コルビルは何も語らなかった。


「くっ。人との戦いは、ボクはまだ勉強不足だな」


 無理もない。どんなに様々な状況を想定出来ていても、キャスクの練習相手は長きに渡りドンスレンただ1人だったのだ。

 限界を見た。

 キャスクにとって、それが実戦経験の差から来る紛れもない現実だ。


 トリティはやはり負けた。

 目視で動きを追えるだけ大したものだが、やはり魔導師であるためか身体動作はキレが伴わないのだ。


「まあ、まあ。あの時、ピュクトに勝てただけで大したモンよ。リティちゃん」

「うっうっ。負けちゃいました」

「聞いてはいたけど、トリイが年上なんだからちゃんとなさいね……」


 さりげなく、しかし痛烈にトリティにダメ出ししながらルマールは試合へと向かった。


「始め!」


 キャスクは目を見張った。

 そこに自分が放てるレベルの技は1つもない。


(す、凄いレベルの戦いだ)


 キャスクの場合は、長剣使いでありながらどちらかと言えば一撃必殺を求める重戦士寄りの戦いだ。

 だからこそ、機敏と機敏がせめぎ合う戦いには観察が精一杯なのである。


 膠着状態を知らない、押した引いたにとどまらない激しい剣の応酬は筆舌に尽くしがたく、試合は3分を越えて延長戦に入った。

 なお、延長戦で決着が付かない場合は判定で勝敗が決まる。


「始め!」


 斬撃を飛ばすような超人的な技術こそないものの、相手の反射神経を逆手に取るような体捌きや効果的な牽制などを互いに豊富に持つ両者。


 気付くとその間断なき攻防は、他のコートの選手たちも見に来るほど盛況を博し始めていた。


「すげえ。剣を払われる事まで計算に入れて、あのタイミングで寄るのは普通なら無理だな」

「そこかなあ。むしろあり得ないほどぐるぐる相手の周りを動くあの異常なステップがなんなのでしょ?」


 観客たちも、にわかに盛り上がってきたようだ。


 蝶のように舞い、蜂のように刺す。


 俗に言われる戦いの極意を、キャスクはここに来てようやく目の当たりにしたのだ。


 さて、結論から言うとルマールが延長戦を制した。

 胴を得意とするコルビルのわずかな傾向を的確に捉え、胴打ちを誘導した上で顔を打つという高度な勝利であった。


「ふう。燃えないわ」


 勝ってなお、ルマールはクールである。


「燃えない気持ちもトレジャーだべ」

「え? 何?」

「う、うん。ライは燃えない気持ちも宝だよって言ったみたい」


 年長らしく締めようとしたライドーンだが、まだまだのようだ。


「次はあのコ……か」


 ルマールは次に控える、相手チームの大将を見た。

 どう見ても少年である。いや、むしろ幼児だ。


「出れるのかしら、試合」


 ラブー=タイトカンザ。

 見た目は幼児だが、今年で30歳だ。


「本当に?」

「呪われたんでちゅ。仕方ないでちょ!」


 年齢を聞きながらも疑ったルマールが怒られたところで、試合は始まった。


(……え?)


 まるでプルーツが負けたように、ルマールは一瞬で敗北した。

 コルビルと同じく胴打ちにより、ルマールの背後で魔法槍を振り回し、ラブーははしゃいでいたのだ。


「ちー。アンタしゃん、出だしにまだ油断があるでしゅ。次から頑張りなしゃいよ」

「うっ。……押忍」


 押忍と書いてオスと読む。

 体育会系ならではの気合いの挨拶で、どこか清々しくルマールはコートを下りた。


「げえ。アタシがルマ様より強いわけないんですけど~。もう、やけくそだわ」

「まあ、みんな頑張ったよ」

「キャスクくん。励ましてよ」

「えっ、う、うん。頑張って……!」


 試合が始まる前に、余裕の笑みでラブーはハンデを与えた。


「残り10秒まで、ボックンは攻撃ちまちぇん。好きなだけ、かかってきなちゃい」

「ガーン。しこたまバカにされてます、ルマ様~」

「ま、しゃあない」

「えー。酷くないですかぁ?」


 試合が始まった。

 ルマールほどではないが、かなりの技量の持ち主と誰もが分かった。あるいは、行く行くはルマールを超える器を感じさせた。


(強いでちゅね。本当に素晴らちい)


 ラブーも感心するレベルだ。

 しかし感心しながらも、全ての攻撃を軽々と避けるラブーの様は修羅を思わせた。


(間違いない。この子、いや、このオジサマは地獄を知ってる!)


 回避を見るだけで十分にフィールばかりでなく、試合を見ていた誰もがラブーの底知れなさを実感していた。


「なんで強いの、どいつもこいつも!」


 フィールは叫んだ。どいつもこいつもの中にはルマールなどの猛者が含まれるのだろう。


 残り10秒。

 そこから本当の戦いは始まる、―――そう思われた。


「きゃあああ」

「勝者、タイトカンザ。チーム・グランソードの勝利です」


 実戦ならともかく、闘技試合ではその名を知らぬ者はいない2人組。

 それが彼らなのだと一行が知ったのはその直後だ。


「ま、そんなコトもあるわね」


 フィールはため息まじりにそう苦笑いした。


「お、そろそろ俺っちも出番だ」


 銃などという科学兵器はないので、ライドーンは格闘で勝負を挑む。


「チーム・ハンサムボーイ。中堅、ライドーン=ジュニア」


 会場から笑いが起きた。おそらくハンサムボーイに対してである。


「いや、つーかジョニア……まあ、いいべよ」

「チーム・キング。大将、ボッガム=ズドラブレズ」


(ボッガム=ズドラブレズ……?)


 なんとなく聞き覚えがあるような気がして、キャスクはただ1人の敵チームのメンバーを見た。


 ポッカム=ストラブレス。

 濁点を付けた偽名にしただけで、ポッカム魔公でしかない人物がそこにいたのだ。


「がががが。さあ、いざ尋常に勝負するガム」


(勝負するガム……?)


 ポッカム、いやボッガムの独特な口調のためか、ライドーンたちは正体に気付いてなさそうだ。


(えっ、明らかに魔公なのに。嘘でしょ……?)


「ああ。尋常に勝負だべ、ボッガムっち」


 そして試合は始まった。

 ボッガムは斧使いのようで、魔法の手斧を右手に握っている。


「いくぞジュニアくん」

「いや、ジョニア……」


 試合は延長戦にまで、もつれ込んだ。


「なんで!?」

「ええ。なんででしょうね」


 それはボッガムが、そんなに強くないからだ。


「くわーっ」


 常に相手正面から攻め込む、潔さが過ぎるボッガムに対してライドーンは多岐に渡る多彩な攻めを持つが、ちっとも有効打にならない。


「ふん、流石はキャスクの従者。決して無能でないがまあ、あの程度だろうな」


 ボナレンクは鼻で笑いながら試合運びを見届けている。


「くわーっ」


 遂に真正面からの斧が有効打になり、ボッガムが勝利した。


「あー、良い勝負だったべ。やっぱりコレが俺っちの本来の実力よ」


 いつしか城から従者たちも来ていた。

 魔公が試合に出るから見てこい、とでも命ぜられたのだろう。


「次はボナレンク様と魔こ……ボッガムさんの戦いですか」


 ロマカトは不安げにコートに目をやった。

 なぜなら2人とも魔導師が本分。特にボナレンクは正統魔導師を隠さずに出ているので、恥ずかしい所業は許されないからだ。


「始め!」


 ボナレンクのサーベルと、ボッガムの斧がかち合った。

 そしてそこからは、まさに王族の模範演舞のように妙に優雅な戦いが始まったのだ。


(うーん、こうして見るとやっぱり弱くはないけど……)


 キャスクは冷静に分析したが、それでもロマカトたち従者と良い勝負だろうという結論になった。


 その後、開始2分ほどでボッガムが勝ったが、接待といった感じでボナレンクがわざとらしく負けたのには皆が気付いた。


「チーム・ハンサムボーイ。大将、グンド=バイセン」


 グンドは槍で戦うらしい。


「始め!」


 今度もなんだか王族の演舞のような華麗な時間だ。


「きゃー。グンド様すてき~」


 プルーツの目が心なしかハートだ。

 そう。イケメン・ハンターはボッガムなど眼中にない。


「たあーっ」


 グンドの槍術は決して一流ではないが、独自の動きが多いのが特徴だ。

 たとえば槍で剣のように面を打ったり、引き寄せ気味に構えて攻撃を陽動したりする。

 素人槍術ではあるが創意工夫もある。そんな印象の戦いというわけだ。


「くわーっ」


 ボッガムの斧を受け止めたかと思いきや、さりげなくいなしつつ腕に有効打を放ちグンドが勝利した。


 その後、第2試合はあったが敢えなく敗退。チーム・ハンサムボーイも優勝ならずで、アウコーンの闘技試合、そのハイレベルを実感した一行だ。


「ボッガムとかいうジイちゃん、相当な達人だべな。一体どこの戦士だべ」


 試合を通じて次第に魔公と気付いていった一行は、ライドーンがただ1人のみ鈍感なのを生ぬるい目で見守るのだった。

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