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第32話 王様は人を知るもの

エクストラ・ヴァージンオイル!

 星馬暦1000年、ピアリハ74年。10月3日午後。


 事態は解決していなかった。


 魔王を倒した事にすっかり気を取られていたが、王冠がないのだ。


「正確には、魔王討伐後に返ってきた我が輩の王冠がまたなくなったのだ」


 ポッカムは面目なさそうにキャスクたちを見た。

 トリティはたこ焼きのバイトを復帰しており、アウコーン城の書斎にはキャスク、ライドーン、プルーツがいた。


「マジか。グンドっちはもう行っちまったべよ」


 グンドは「気になる事がある」と言って既にアウコーンを発っていた。


 アウコーン城は王が不在の城だ。

 そのため王冠こそ持つものの、ポッカムはあくまで敵襲など有事の時に威厳を放つために、王冠を被るのみだ。

 玉座の間もなく、書斎が魔公に面会するために用意された唯一のスペースだ。


「まあ、食事の席を設けるべき立場には、しかるべき部屋に通すがの」


 キャスクたちは内政などには通じない、戦士あるいは冒険者だ。

 ポッカムでなくとも、国家を背負う立場が依頼の1つ2つ解決しただけの者を来賓として招いたなら、むしろそれこそが国際問題であろう。

 たとえそれが国の存亡に関わる依頼であってもだ。


「それとだな、王冠の在りかは調べが付いておる」


 アウコーンを南東の関所から出ると、国境に近い所に洞くつがある。


 シリークの洞くつ。

 シリークという有名な魔導師が根城にして様々な悪事を働いたと言われている。

 また相当に古い人間であり、星馬暦20年の生まれとも星馬暦80年の生まれとも言われている。

 それはシリークが取り扱われる歴史資料もまた古い時代のものに記述の統一性がないためだ。

 そこからはただ、星馬暦300年頃と思われる資料編纂の時代に、嘘を嘘で塗り固める地獄の時代だったであろう事が伺い知れる。


「これが犯人からの手紙だ」


 ボナレンク=ジャルアーデン。

 筆跡からしても彼が王冠泥棒らしい。そして以下が手紙の内容だ。


『拝啓

 まずは拙い筆をお許しください。

 ただ、やはり先般におけます殿下の私への挑発的な言動を愚弄であると考え及ぶに至りました。

 王冠は、本来ならば王の証。

 そしてこれは一般論ですが、王様は人を知るものです。よって王冠がふさわしいのは私ではないとしても殿下でもありません。

 敬具』


「拝啓とか敬具とか、律儀な癖に他の敬語がへったくそね……」

「かかか、それは仕方ありません。まともに学問を積んだ優れた人間を我々は知らない。知らないままに国を営んで来た我々の中では、まだヤツは上等です」


 心底、楽しそうにポッカムは笑った。


(コイツも一歩間違えりゃあデボンでねえべか。ケッ、くだらねえ)


「期待しているぞ、諸君」






 シリークの洞くつに向かうためだけに、ある人物が召還されていた。


「あー、バイトくんじゃん。って、アタシは分かんないよね」


 女騎士はバイザーの付いた兜を脱いだ。

 するとキャスクと同じ藍色の髪である事がまず目に付く。

 ルマールと違い、ショートヘアなので変に手入れしなくてラクだ、と暗に語るその顔にはいつも隠しきれていないのであろう、お茶目さが少し見える。


 フィール=トラブカム。

 ツニナル洞でフィーと呼ばれていた方の女騎士だ。


「人遣いが荒いのよね、騎士団って。特にウチの騎士団は最悪。ジャンプ・コールは一度来た所じゃないとイメージ出来ないからって、なんでアタシなのかな。あなた分かる?」

「え? いえ、さっぱりです」


 フィールは相手が話を聞いていようがいまいが早口でまくし立てるように話すスタンスらしい。

 わりかし聞き手に回る事が多いキャスクでも半分くらいは何を言っているのかが、そもそも分からない。


 シリークの洞くつとだけ聞くとツニナル洞のような一本道を想像するかもしれないが、実際には複雑に入り組んだ迷路だ。

 更に、ボナレンクは習熟した魔導師の技で気配を断っていた。

 それでどうなるかと言うと、デボンも使っていた生命探知魔法サーチ・コールでも気配を追えないのだ。


「念のため従者たちも連れて来て正解だったわね。さ、分担して探索よ」


 そう仕切りだしたフィールのジャンプ・コールは強力なので、エビル・オーク戦で従者が使っていたジャンプ・コールと違う。

 何が違うかと言うと、フィールは最大で100人まで同時に転移できるらしい。


「アッシにはせいぜい3人が限度ですぜ」

「まあ、普通ね」


 フィールに一蹴された古風口調従者―――レンレフはしかし、妙に嬉しそうだ。


「アンタ、気持ち悪い」

「えっ、すいやせん。アネゴ」

「姉御とか言われたの生まれて初めてなんだけど」


 プルーツはレンレフにとって、そんな立ち位置というどうでもよい情報が分かったところで、


「ほらー。分担しないならアタシが勝手に分けていくから」


 結局、魔王捜索と同じ分かれ方になり、キャスクの班にフィールが加わる形になった。


「なんでだべ。弱い俺っちやプルっちを救済せえっちゅうの」

「従者ちゃんたち強いから、最悪、盾になさい。じゃ」


 なぜかキャスクもフィールを受け入れ、探索が始まった。


「トリっち。今からでも来てくれだべ~」






「へっくしゅん」

「風邪かい、トリイちゃん」

「おかしいですね。常に栄養には気を遣うのですけど」






 中央ルート。


「キャスクくん。いや、キャスクさんか。いざ同い年って知るとね。だってバイトしてたら10代と思うじゃん?」

「はは。それを言ったらボクもフィールさんかフィールかで迷うよ」


 ルマールは23歳、フィールは20歳らしい。


「呼び捨てなんてやめなさい。年齢が同じでも、それは浮気。ねえ、浮気って何か分かる?」

「えっ、分かるけど。ボクは別に誰とも……」

「ふうん。じゃあトリティ=マデフワンは眼中になし。ルマ様に報告案件っと」

「な、なんでかな?」


 自称恋の天才であるフィールは、その手の話題になると人格が変わる。

 それはもう、プルーツのイケメン・ハンターのごとしだ。


「なんでだって、アハハ。キャスクくん面白いね」

「えっ、そ、そうかな?」

「アハハハハ、真に受けてる。おもしろ~、ね、ロマカト」

「おっしゃる通りであります!」

「そう。じゃあ、もっと面白くなるね!」


 キャスクが意外なほどマジメに返すので、フィールもロマカトもその他の従者も、一様に微妙な苦笑いを浮かべた。


「キャスクくん、えっと……誰か紹介したげよっか?」

「なんで?」

「……ごめん」

「ええっ。いや、なんかこっちこそごめんね」

「どちらも悪くないであります!」


 あろう事か従者のロマカトにまとめられた2人。だがまあ、そんな事もあるのだ。


 道中の魔物は、キャスクがいる上にルマールに次ぐ実力者であるフィールがいるために何の苦もない。


「アッシに荷物くらい持たせてくだせえ」

「あ、そっか。私にもお願いします」

「俺も」「ボクも」「ムナにもですぅ」


 手持ちぶさたになりがちな従者からすれば、後は気配り合戦というわけだ。


「ところどころに宝箱がある。昔は冒険者の修練の場だったんだね」


 今でこそ原則封鎖されているが、昔のシリークの洞くつは確かにそうした場であった。

 からになった宝箱は冒険者が中身を入れては別の者が預かるという、特殊な使い方がなされていた。

 それはシリークの洞くつに限らず、たとえばヤンカ村近くのヤンカ洞という、村に匹敵する狭さの洞くつにさえ宝箱は1つだけある。


「へえ、キャスクくんも戦士のたしなみ程度はあるのね。ごめん、ちょっと意外」

「なんだと思ってたの?」

「えっ。パワーごり押しマン?」


 合っているので、従者たちも含めて笑いだしたのだった。


 西ルート。


(そういえば、ロマカトくんだっけ。すっごいイケメンだったなあ。へへへへへ)


 ところで先の話ではないが今まさにこんな風に、プルーツの脳内では妄想が爆発しているのだ。


「プルーツ様。前方にサイクロプスであります」

「へへへ……じゃないや。ま、任せた!」

「「「えっ」」」


 従者の反応に反して、従者はライドーンやプルーツ並みには強い。

 4人もいればサイクロプス程度なら確かに勝てるのだ。


「ね、アタシは策士だから分かるの」

「恐れながら、プルーツ様に対しそのような印象を持っておらず、誠に申し訳ありませんでした!」

「お、おう。まあドンマイ!」


(エルフに偏見ないからいいけど、なんかメンドクサイこの子たち……)


「プルーツ様。キャスク様にはそ、その、奥様はいらっしゃいますか?」


 女従者が顔を赤らめながら聞いてきた。明らかにキャスクを好きなのである。


「えー。そこは正直に言いたいけど、まあ、アンタの淡い思いくらいは伝えてあげる、でオッケー?」

「は、はい。その、えっと、ありがとうございます!」


(またカワイイのパターンか。くっ、これだから人生は愉快ね)


「失礼ながらプルーツ様は、お一人のみエルフなのをおツラくないですか?」


 今度は男従者が質問した。


「おツラいと言っても誰も助けてくれない結果、こんな感じなのよね……」

「はあ、それは失礼しました」


(終わりかい)


 その後も他愛ない、差し障りない質問が従者たちから注がれ、プルーツのパーティーは今ひとつ盛り上がりに欠けるのだった。


 東ルート。


「ライドーン隊ぃ。ゴー、ゴー、ゴーー」


 まず、掛け声があるのが奇異だ。


「リーダー殿。あちらに魔物がたくさんおりますな」


 マインドフレア。

 冒険者によってはボス格の強敵だ。イカ人間の見た目の割には知性が高く、魔法を使ってくる。


 幸い、マインドフレアは1体しかいないが周りにいるインプも炎魔法に長けており、ライドーンだけなら確実に死んでいる。


「よし、みんな。頑張れ!」

「「「ゴー、ゴーー」」


 同じような状況なのに、プルーツ班とはとんでもなくノリが違うのだ。


「うおー、ソード・フォール」

「受け止めな、フレイムシャワー・コール」

「なんでだよ、アイスドーム・コール」

「別に火耐性ないから。激燕斧連撃」


(技名を叫ぶの、絶対アイツっちの影響だべ)


 ライドーンはキャスクを思い出していたが、よく考えてみれば大体みんな技名を言う派だ。


「リーダー殿。1つ聞いてよいですか?」


 マインドフレアたちを3分ほどで倒した従者たちの1人が質問してきた。


「なんだ、隊員」

「キャスク様とリーダー殿はどちらがお強いのでしょうか?」

「あっはは。なんだそんな事? 俺っちだ」

「「「おーー」」」


 上官なのを良い事に、好き放題に話を盛るライドーンであった。






 皆の予想に反して、各ルートは一点で合流した。


「あ、あれ? 魔公から聞いていたのとは違いま……」


 そう告げる従者が消えた。

 そして従者の姿は次々に消えていき、キャスクたちだけが残った。


「罠……か?」


 キャスクはポッカム魔公の性格を甘くみていたかもしれない、と後悔した。

 なぜなら、振り返ると来た道はひとつ残らず消えていたからだ。


「キャスクくん、罠って?」

「魔公は優しくなかった。結局は政治家だったという事さ」


 何人いるか分からないほど大量の盗賊たちが、正面に1つだけある道から湧いてきた。


「やっぱりデボンかよ、ポッカムっちもよ」

「まず目の前に集中しな。みんな、生き残るよ」


 盗賊たちは攻撃をある程度受けると魔気に蒸発した。


「魔物が化けてるのか?」

「それか、誰かが魔気を人型に具現化しているか、かな」


 キャスクとフィールはそれぞれに盗賊の正体を予想した。

 しかし実態を知るような余裕はない。盗賊たちはとても素早く、一行は少しずつ消耗していった。


「キャスク、先に行きなよ。ここはアタシたちで食い止める」


 プルーツは覚悟を決め、キャスクにそう言った。やはり最も強いキャスクでないと、ボナレンクには通用しないであろうためだ。


「そうだべ。キャスっち、かましてこい」

「キャスクくん。頼んだわね」

「みんな……分かった。行くね」


 1人キャスクは、洞くつの最奥に進んでいった。


「ん、やはりキミが来たか。キャスク=ベータ」


 そこだけは他とは異質な空間、というより明確に人が暮らす施設だった。


「どうだい。ボクが密かに作っていた魔法研究のための秘密基地さ。だって変だろう、こんなに広い天然の城を封鎖して放置するのは」


 ボナレンクは1人語りを始めた。


 没落貴族の成り上がり。

 魔公国とは名ばかりの、騎士崩れのごろつき戦士だらけだった厳しい時代を生きてきたボナレンク。

 世界の一切を信用出来ないままに学業にだけは専念し魔法を修め、どんなにイジめられ、死にかけても成り上がったのだ。


「ボクはねキャスク。本当は神になりたい」

「なんだって?」

「神になれば、こんな世界を脱出して他人事に出来る。人は勝手だ。少しの事ですぐに人を蹴落とす。ボクが望んでいるのは圧倒的強者が平和をもたらす世界だが、そんな都合の良い世界はどうやら来ない」

「それは、まあ」

「まあ、か。なぜキミほどの強者が世界を変えない。魔公以上に理解が出来なかった。それとも言い訳があるか?」


 キャスクはしばし逡巡して答えた。


「どんなに強くても万能には、なれません」

「分かった。決闘しようか」


 サンダーサーベル・コール。

 雷の細剣を握り、ボナレンクはキャスクと向かい合った。


(……ダメだ。峰打ちでも下手したら、この人は死ぬ)


 キャスクはむしろ手加減に苦しんだ。

 ボナレンクの魔気はトリティの3分の1。いや、今はもうトリティのたゆまぬ努力で10分の1ほどだ。

 それに加えて、盗賊召喚の魔法を維持する魔気。ボナレンクはそれだけで、実際にはほとんど手一杯である。


(雷のサーベル、よく出せたな。精神力は本物だ)


 今のトリティの10分の1なのだから、一般的にはボナレンクは強者だ。


「ぐああああ」

「何い……よ、弱い?」


 キャスクはボナレンク自身の強さを分からせるため、彼にわざと負ける事にしたのだ。


(神を倒した勇者より強いなら、魔公になりますよね……ボナレンクさん)






「かか。ボナレンクの坊っちゃん、もといボナレンク魔公には恐れいった。最後に笑うのは真に聡明で強い、ああいう男だったんじゃなあ」


 出過ぎたキャスクたちを戒めるための茶番劇。

 いつの間にかそうだった事になっていたのに驚いたキャスクだが、ひとまずは従者たちが無事だった事を安堵した。


「ボナレンク様にやられましたな、流石のキャスク様も!」


 ロマカトも魔公国側に分が出来たため、そんな風に態度に余裕が出てきた。

 ボナレンクさえもだ。


「いや、中々に良い勝負だった。楽しませてもらったぞ、キャスク」


 嘘から出た真ではないが、キャスクの思いつきはひとまず良い向きに転がったようだ。


「本当にキャスクは剣術が出来る。くく、はははは」


 ボナレンクは嫌味のこもった口振りで、更にそうダメ押しした。


 もっとも、爵位というのは基本的に生前贈与は出来ないものらしい。

 つまり、今回の依頼をどんなに頑張ってもボナレンクが魔公になる事はなく、先ほどのポッカムの発言も気持ちばかりの言葉だったのだ。


「まだ時間があると考えれば悪いことばかりではないさ。それに、私は別に魔公にしてくれと頼んだ覚えはない」

「言われてみりゃ、確かにそうだべな」


 同調するライドーンだが、ここでプルーツが口を挟んだ。


「別のスゴい魔導師に、取られちゃうかもよ。魔公の椅子」


 椅子とは、ここでは魔公の座を言っているわけだ。

 実は近年増え始めているという魔導師によって、今後魔公の座を巡る政争が起きるという噂を耳にしたプルーツは、そのように考えたのである。


「ははははは。その程度は想定しているさ。嘘で国を動かすのがポッカムならば、やがて嘘で世界を動かすのが、このボナレンクだ」

「まず嘘は良くないと思います……」


 なんとなくドンスレンに内面が似るボナレンクに、キャスクは似たようなツッコミを入れるのだった。






 星馬暦1000年、ピアリハ74年。10月3日午後。


「おかえりなさい、みなさん」


 トリティはたこ焼きをテイクアウトして、一行の帰りを待っていた。


「というか、1日で解決して本当に良かったですね」


 テイクアウトという事は、科学がほとんどない世界では冷めている事を意味する。


「全く不合理だな。関所の魔道書は科学を越えている。あの要領で電子レンジならぬ魔気レンジでも発明してやろうか」

「あれっ、―――グンドさん?」


 出国したものの、忘れ物を取りに宿に戻ってきたらしい。


「おっちょこちょいなグンド様もステキです」

「う、やっぱりキミは苦手だ」

「ルマ様ずるいわ~。熱かったらもっと美味しいじゃん。……ハッ、ジャンプ・コールでこっそりまた来れば良いか。やったね」


 なぜかフィールも宿にいた。


「だんだん賑やかになってきたべな」

「アハハ。その内、帝都のヤツらが全員キャスクに下る日が来るわね」

「プルお姉様、それとんでもなく最高」


 フィールからすれば確かにプルーツは年上だが、キャラなども考慮した結果なぜかお姉様になったようだ。


「よう、ボクも労いに来てやったぞ」

「あー、ボナル。何しに来たの?」

「なっ……良いだろ別に。全ては茶番。ボクはキミたちの敵じゃないのだぞ」


 貴族にしては戦士や冒険者に偏見のないボナレンクの態度は、従者たちから実は大層な評判だ。


「でも急に怒り出して打ち首とか言い出す友だち、俺っちはイヤだべよ」

「はははは。もう過ぎた事だぞ、忘れたまえ」

「えーっ」


 キャスクやライドーンだけでなく、数々の打ち首未遂騒動はボナレンクの伝説となっているらしい。


「気持ちが熱い人はどこかしら、そんな所はあるよね」

「もしやキミの友だちにもいるのかい、ボクのような熱い魂の真の貴族が!」






 同じ頃。


「ぶわ~くしゅらっ!」

「プーッ。ドン、なんてクシャミをしてる」

「くく、バカなのに風邪ひくんだな」


 テーサ湖にようやく辿り着いたそばから、ドンスレンは噂をされてクシャミしていた。


「ワフー。面目ない。ワンが方向音痴なばかりに」

「くくく、それについては詫びる必要はない。全員そうだからな!」


 自信満々に道案内を買って出たクドスに着いていった結果ではあるのだ。


「しかしよう。俺氏たちが来るのを最初から知っていたかのようだが」


 そう。今、ドンスレンたちは大量の魔物に取り囲まれていた。

 ドラゴン種、オーガ種、そしてなぜか今さらスライム種だ。


 というのは、一般的な剣と魔法のファンタジー世界と違い、スライムは淘汰されて絶滅の一途を辿っていた。

 その結果、魔気が豊富なテーサ湖など一部地域での生存に特化しだしたのだ。


「よし、野郎ども。行くぞォ」

「ボクは女だ!」


 カベルのツッコミで台無しになりがらもドンスレンの合図で、それなりに戦いは始まった。


 魔気が豊富、といったばかりだが、人間の体内にある魔気とは別に大気中にも魔気はある。

 普通はその濃度が無視できるレベルで薄く、気にする必要がないのだ。


 しかしテーサ湖では様子が変わってくる。


「ぐっ、な、なんだコイツら。魔物の癖に魔法を?」

「まるでマインドフレアだワン」


 10日間ほど、ボロボロになりながら戦い続けてかなり強くなったクドスは、知識だけは異常にあったために大変に冷静だ。


「くわーっ。危ない危ない、跳躍剣!」


 ドンスレンは銀の大剣を使って、キャスクがたまにやるように跳躍した。

 ちなみに動作はほぼ同じだが、たまたまそれぞれが独自に編み出した動きだ。


「はあああ、ドンスレン・ボンバー!」


 ドンスレンは光魔法しか使えない。

 そのため、ボンバーと言っても爆発などは起きず、単なる強そうな言葉の響きだ。


「ぎゃあああす」


 しかしその単なる上空からの突きはたまたま赤龍の目に刺さったので、結果オーライだ。


「連毒の呪い」


 その幸運に続いて、カベルはその赤龍に向かい手を翳した。すると、遥か遠方の標的に突如として、あらゆる毒状態に共通して見られる黒い発疹が現れた。


 そして毒の強さに比例して増える発疹は、指数関数的に広がり、やがて赤龍は黒龍のようになり突っ伏した。


「毒魔法の後に別の毒魔法を唱える、それを瞬時に繰り返す。相手は死ぬ」


 カベルの呪術の本質は、毒魔法の組み合わせだ。


「素晴らしい。カベル=トライ、貴様のその呪い……やがて世界を狂わせる」

「当たり前だ、ハルバード。ボクは魔王だぞ」


 意気投合する2人に、ドンスレンは(呼び名長いんだが)と心でツッコミを入れたのだった。

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