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第2話 旅の仲間はカネに目がない

『アクセス数が爆発的に増える物語』の主人公になりたいです。どうぞ。

「ライ。本当にこの道で合ってるの?」

「少なくとも方向音痴のオメエっちよりは、考えて歩いてるべ」


 もじゃもじゃした赤髪をカウボーイハットで隠し切れない男と、緑髪のボーイッシュな髪型の女。

 2人の若者がルケ国を抜け、隣国のハバナール帝聖国の領土に足を踏み入れた。


「そう。―――ねえ、ライ」

「なんだよ、気に入らんなら…」

「そうじゃないだろ。ねえ、もしも旅が終わったら、アタシたち…」


 女はライと呼ばれる男の袖を、そっと掴んだ。しかし、


「うっ、やめろよプルっち。マジ気色悪い」


 男は、とりつく島もなくプルっちと呼ばれた女、―――プルーツ=アロニスの手を叩き払った。


「ひどい…」

「だ・か・ら、なんなんだべ。たまにやるイタズラも大概にしてくれ」

「―――チッ」


 ドカッ、と音がした。何事かと思えば、男の背中をプルーツが蹴り上げたのだ。


「はあ? なんなんだよ。俺っち、なんか悪い事した?」

「ハア…。どうせ見た目だけで選んだアタシも悪い」

「何か言ったか」

「ううん、なんでもない」


 2人が目指しているのは、ハバナール帝聖国の帝都。彼らに目的があるとすれば、それは、―――。


「カネだぁ」

「始まったね、幻覚症状が」

「カネカネカネ。カネさえあれば俺っちは」

「アンタは?」

「金持ちになれるべ」

「はい、当たり前よそんなの」


 またしても男の背中に蹴りが飛ぶ。

 もっともそれはプルーツの手加減であり、いわゆるツッコミなので別段に痛いほどの蹴りではない。

 心なしか、蹴られるたびに男の目玉が白黒している気がするが、きっと気のせいだ。


「帝聖国で稼げるのって、どんな仕事なの?」

「ああ、―――知らん」

「エーーーーッ」


 男はバカではないが、詰めが甘いところがある。プルーツはいつもそんな男に振り回されているのだ。


「違う違う違う。情報網が少ないからだから」

「つまり、実力不足なんだなテメエはよォ」


 怒りモードの彼女の、いささか本気の飛び蹴りが、今度は男の後頭部にクリーンヒットした。


「うげェーッ!?」

「え。ご、ごめん。本当に大丈夫?」

「…ここはどこだべ」

「茶番はもういいわッ」


 寸劇も一段落した2人がとぼとぼと歩いていると、小さな村を発見した。


「ライドーン=ジョニア。ねえ、あの村ってなんか…カモって感じあるよね」

「え? まあ、―――そう、だな」


 ライドーン=ジョニア。それがライと呼ばれていた男のフルネームだ。


「ちょっとだけ、探り入れとく?」


 プルーツは、ライドーンのある才能だけは抜群に評価している。それは、ペテンの才能―――そう、詐欺の才能である。


「おいおい、どーすんだよ。まーた丸儲けだったら、マジメに働くのが馬鹿馬鹿しくなんべ、だべ?」

「そんなに自信あるのも、どうよ? ま、でもアタシ、ライの頭が良いのは嫌いじゃないよ」

「だーかーら、気色悪いっつうの」


 そしてグダグダした会話を続けながら、2人は村に入っていった。


「待て。ユーたちは何者だ」


 ドンスレンだ。


「えっと、えっと。帝都から観光に来たんスよ。な、プルっち」

「―――ええ、そうなの。帝都って退屈だから、こうしてたまには田舎の空気を吸いたくって」


 口調まで都会らしくする辺りがライドーンという男の慎重さとあざとさを表している。しかしそれに瞬時に合わせるプルーツも中々の手練れだ。


「ほう、物好きもいるものだな。ここはヤンカ村だが。たまに盗賊が白昼堂々と入って来るものでな、気を悪くしたならスマン」


 なぜか主にライドーンの方を見ながら、ドンスレンは挨拶した。


(もしかしてだけど、俺っちのハット見て泥棒扱いしてる流れ?)


 しかしドンスレンは怪しみながらも旅人を歓迎し、村に1つだけある宿屋、村に1つだけある食堂、そして村に1つだけある役場を紹介していった。


「それと、あれはキャスクと言って俺氏の一番弟子だ」


 木刀を熱心に素振りしているキャスクを見て、プルーツが微笑んだ。


「かわい~。どこ行っても田舎者って本当、イモかわいいわあ」

「イ、イモだと」

「ドンスレンさん。いい意味、いい意味だから。プルっちはこう見えて、田舎の専門家としてちょっとした有名人なんだ。なっ、プルっち」

(無茶ぶりするなよ…!)「え、ま、まあ。特にこの木製のおうちなんて、帝都のブリガラ芋並みの高級なイモ感がありますわよ、ほ、ほーほほほ」


 ドンスレンの、つまりマグ家の屋敷である。名家ぶらないために敢えて質素にしているので、見た目だけならベータ家の一軒家より、ショボさは否めない。


「ほほう、ユーは見所があるのだが。俺氏も、いつ燃えても大丈夫な心構えが出来る最高の仕事をしていると思うぞ。ハッハー!」

「え、ええ」

「あのー。もう自由行動で良いべ?」


 ドンスレンたちが会話で盛り上がっていると、とうとうキャスクもやって来た。


「スレン、こちらの方々は?」

「こら青髪、人前ではちゃんと、師匠と呼びなさい」

「人前だけで良いんだ…」


 キャスクが会話に入って来たので、ライドーンたちも流れに合わせる。


「えっと、キャ、キャ、…キャタスくん?」

「キャスク。キャスク=ベータって言います」

「そうなんだ、キャタスくんか。俺っちはライドーン。ライで良いぜ。で、こっちがプル、プル、…プルミポナだ」


 うげえ、と声がしてライドーンの目玉が飛び出そうになった。蹴りまでは人前では憚られるからと、ドンスレンたちの死角から拳骨を後頭部に、したたか当てたのだ。


「プルーツよ。プルさんって呼んでね」

「よろしくな、ライドーンにプルミポナ」

「スレンっ、プルミポナさんじゃないよ」


 締まりのない自己紹介タイムも終わり、なんとなく各々の時間に移っていく。

 が、しかし、ここからがライドーンのペテンの始まりだ。


「なあ、プルっち。さっきのアイツ、―――キャスクとか言ったっけ」

「足音もなく近寄るなって、いつも言ってるでしょ。それで、何なの」

「アイツ、相当な強さだよな。素振りの速さが尋常じゃねえべ」

「まあ、それはアタシも思ったけど」


 村人はまるで気付かないが、キャスクの強さは確かに素振りで丸分かりだ。

 だがヤンカ村は辺境の地にも程がある。そのため今日に至るまで、ドンスレンを除いては誰一人としてキャスクの剣術の凄さに、まるで理解を示して来なかったのである。


「アイツはきっと、金持ち、―――だべ」

「うんうん、だべだべよね」


 強い戦士は裕福、そうした単純な発想だ。純粋な戦士は儲からないとか、戦士が下級職業というのはライドーンたちの知るところではない。

 ただキャスクに関して言えば、父が帝聖騎士であるために確かに裕福なのである。


「じゃあさ、じゃあさ、俺っちに考えがあるんだけど…聞く?」

「うんうん、聞く聞く」


 そして、夜になった。


「これで良し。常備している下剤で、めでたく俺は食あたりのかわいそうな旅人だべ」

「そうね。そしてアタシがそれをキャスクの坊っちゃんに知らせに行き」

「ヤツはどうもお人好し。よって俺を家で休ませるべ」

「なんて完ぺきなの、本当、アンタの才能って罪深いよね」


 簡単に説明すると、ライドーンたちはキャスクの家になんとかして忍び込み、財産をちょろまかすことにしたのだ。


 ドアをノックすると、キャスクが出てきた。


「どうしたんです。何かありましたか」

「キャタスさん、大変なんです。ライが、ライが…!」


 キャスクが目をやると、ライドーンがうずくまり、腹を抱えて震えていた。


「うっう。腹が、腹が痛いよお」

「大丈夫ですか? 家で良ければ休んでください。お医者さまは帝都にしかいないので、すぐには呼べませんけど…」


(思い通り!)

(チョロい。宿もあるのに、判断力ゼロね!)


 そして、ちょろまかし作戦は着々と続いた。

 キャスクの部屋のベッドで休ませてもらえた上に、部屋の主は用事でドンスレンの家に向かったのだ。


「思い通りすぎだべ」

「天運なんだろ。ほら、さっさと頂くモンを頂くよ」


 タンスを漁ると、財布らしきものが出てきた。部屋は居間とキャスクの部屋しかない。おそらく全財産なのだろう、と2人は判断した。


「ま、改めて稼いでくれよな」

「毎度ありぃ」


 容赦なく家を出ようとした、その時だ。


「強盗だ。手を上げろ」


 ドアを打ち破り、強盗を名乗る3人組が入って来たのだ。


「うわーっ」


 ライドーンが驚いてキャスクの部屋に引き返そうとするのを、プルーツが肩を掴んで止めた。


「こら、アタシだけにするのはおかしいだろ」

「ひいい」

「アタシにビビるのは、もっとおかしいだろ」


 怒りモードが入りそうになるプルーツの胸元に、ナイフが突き付けられた。強盗の仕業だ。


「うるさいぞ、女」


 残る2人の強盗もそれに続く。


「おい、手に持ってるのはカネだな。そのまま寄越せ」

「そうだ、そうだ。そうすりゃ、命だけは助けてやってもいい」


 プルーツは弓矢を得意とするが、家屋での至近距離では何の意味も為さない。

 かと言って、ライドーンは戦いをそもそも得意としない。戦闘そのものを避けて生きてきた2人は、ここに来て窮地に追い込まれたのだ。


「まさか警備兵じゃなく、強盗に殺されるなんて、―――ヤキが回ったなあ」

「まあね。ライ、はみ出し者のアタシたち、これでも頑張ってきたよね」


 プルーツの普段の勇ましさは今は見る影もなく、憔悴の2文字が彼女そのものであるかのようだ。それほど、彼女は短時間で見る間に疲れていた。


(それとも魔女の代償を、―――ううん、たとえアタシが死んでも、それはダメ)


 プルーツの左手首には、彼女の髪色と同じ緑色の水晶の腕輪がされていた。そしてそこに封印されている魔女を解き放つか否かを、彼女は天秤にかけたのだ。


「おい、カネを、早く、渡せ」


 ナイフをトン、トンと軽く突き当てながら、強盗は一言ひと言を強調した。

 プルーツはそれに応じるように、金貨や紙幣をおずおずと差し出そうとした。

 しかし、である。


「や、やっぱり無理。これ、アタシたちのお金じゃないから。誰か、誰か助けてぇ!」


 プルーツは力の限り、叫び声を上げた。


「やめろぉオ」


 予期せぬプルーツの行動に、強盗がそう叫びながら手にしたナイフを振り上げた、その時。


 カラン、サクッ。


 そのナイフは地面に落ち、跳ね返って木の床に刺さった。


「キャスクさん!」

「はぁ、はぁ。―――2人とも、ケガはありませんか」


 キャスクは2人の強盗を体当たりで退け、ナイフの強盗に素早く近づいた。そしてその手元を素早く木刀で叩き付けたのだ。

 体当たりされた強盗は不意を突かれ、共に尻餅を付いた。

 また、プルーツの悲鳴を聞いたドンスレンも、少し遅れてやって来た。木刀しか持ってないキャスクと違い、戦闘のために青銅の剣を携えている。


「ユーたち、大丈夫か」

「ドンなんとかさんまで。―――そんなことより、コイツらをやっつけちゃってください」


 ライドーンの懇願に答えるかのように、キャスクとドンスレンは強盗たちと戦い始めた。


 キャスクはナイフを拾い上げ、二刀流で一切の隙なく強盗のリーダー格―――ナイフを持っていた、とりわけ大柄な覆面男―――を打ちのめした。

 また、ドンスレンも負けじと、まず起きあがりざまに飛び蹴りを食らわせようとしてきたのを冷静に回避し、彼のみぞおちを、剣の柄で強く突いて気絶させた。

 残る1人は臆病らしく、逃げようとしたのでドンスレンは慌てて追いかけ、峰打ちを何ヵ所かに当てて身動きを取れなくしたのだった。


「ふう、これで全員か?」

「あ、は、はいィ。家にいたのはソイツらだけっぽいっス」

「ご苦労。では俺氏は、―――そうだな、とりあえずコイツらを訓練所にでも預けて帝都の連行を待つ。青髪も手伝え」


 そして、あっという間に強盗は退治されてしまった。


「す、すげえ。想像していた通り、いや、それ以上だべ」


 ライドーンは興奮冷めやらぬ様子で、キャスクの戦いをマネていた。


「ふうん、キャスク=ベータにドンスレン=マグ、か。2人とも、面白い男」

「面白い?」

「強い男って、絶対に面白いわ。どっちかだけでもいて欲しい。アンタだけじゃ、先行き不安」


 結局、ライドーンたちはお金泥棒を見送りとし、むしろキャスクらを仲間に誘う方向に軌道修正したのだった。


「キャスっち。昨日は何から何まで、ありがとな」


 起床して早々、目玉焼きにソーセージ炒め、ブロッコリーの煮物にトーストといったしっかりした朝食が3人分用意されていた事にびっくりしつつ、ライドーンは馴れ馴れしさを早速全開にしながらキャスクに礼を言った。


「そんな。とんでもないです。強盗に襲われるなんて、むしろ申し訳ない。安い家だから…」


 キャスクは礼儀正しく、律儀な反応を見せたが、調子に乗った2人はもう止まらない。


「敬語はやめて。アタシたち、もうト・モ・ダ・チ。でしょ?」

「え?いや、それは何のことだか分からないですけど」

「マジメだなぁ、キャスっちは。俺っちなんてコイツに会った日にソウル・メイトだべし」

「そ、ソウル・メイト。…だべし?」

「ソウル・メイトは親友って事なの。いや、親友よりも、もっと深い、―――」

「な、なるほど。えと、いわゆる付き合ってらっしゃるんですね」

「「それは絶対ない」」


 その後、話は弾むには弾んだが、一向に旅の仲間に誘うタイミングをライドーンもプルーツも見出だせなかった。


「じゃあ、お2人とも。引き続き観光、楽しんでくださいね」


 とうとうお別れの時間っぽくなってしまいそうなので、無理矢理にライドーンが勧誘を掛けた。


「あのさキャスっち、いや、キャスク。実は俺たち、一緒に帝都まで旅する仲間を探してんだけど、良かったらキャスクも来ないか?」


 ライドーンはカッコ付けた、キリっとした表情でそう熱く力説した。しかし、


「あれ、…スレンからは帝都から来たって」


 と返された。そう、初めて自己紹介した時には、仲間に誘うつもりもないので、2人ともドンスレンを相手に出自などを適当に語ってしまっていたのだ。

 それを思い出し、慌ててプルーツが助け船を出す。


「ああ、それはアレよ。なんかロン毛のゴツい兄ちゃんが来て、危険な気がしたから…つい嘘を、ね?」

「そうだよ。決して村人なんてカモだとか、やましい気持ちは一切ないから。マジでマジで」

「はあ。まあ、なら良いんですけど」


 しかし論点はがっつりずれたので、ライドーンがさりげなく話を戻し始めた。


「で、で、でだ。キャスっちは旅したいの? したくないの?」

「ボクは、―――。まだ全然、強くないから」

「はあ? いや、めっちゃくちゃ強いじゃん。ライなんて、強盗が来て漏らしてたからね、大と小の便」

「漏らしてねえよ! 仮に漏らしてたとしても、せいぜい小を少々だよ」


 ちなみに、また話がずれ始めたわけだが、最終的にはなんだかんだでキャスクが仲間に加わる事になった。


「そうだ、スレンも誘っていいですか?」

「もちろん。俺は戦えないし、プルっちは弓矢しか使えない。戦士の仲間は100人いたって困らんだべ」

「困るわ!さすがにそんなにいたらアタシの役目が何もないでしょ」


 しかし、スレンは旅に出るなら1人が良いらしい。


「それに、男の旅に女はいらんのだが」

「大丈夫。女はいないべ」

「いるわ! どう見ても絶世の美女がここにな!」

「まあ、まあ。プルーツさんは、本当におきれいですよ」

「キャスクのその気遣いは逆に傷付くのよ!?」


 またどちらにせよスレンは村に用事が残っており、まだ旅には出れないらしい。よって、キャスクらが先に村を出る事になった。


「じゃあ、スレン。また会う日まで」

「青髪。お前は強いが、戦いでは甘さを捨てろ。―――それだけだ、達者でな」


 そして、キャスク、ライドーン、プルーツのパーティーはヤンカ村を出た。

 ハバナール帝聖国、その帝都への旅が始まったのだ。


「本当に良かったのか、ドンスレンと一緒じゃなくて」


 村を出てしばらく北に歩いてから、プルーツはキャスクに尋ねた。


「うん。―――旅に出るなら、少なくとも師匠と弟子はやめよう、っていうのは前から話してました」

「そういやドンスレンが言ってたな、一番弟子のキャスクって」

「そうだったわ。一番弟子なら、他にお弟子さんはいたの?」


 聞かれて、キャスクは居心地が悪そうに頭をかきながら答えた。


「いや、ヤンカ村は小さな村で、そもそも戦士なんてボクとスレンしかいなかったです。まあ、最近になって帝都から3人来たから旅に出れるけど、別に彼らはスレンの弟子ではないし」

「…んだよぉ、ヤツはヤツで話、盛ってんじゃーん」

「そういえばさ、キャスク。話は変わるんだけど」


 話の腰を折る形とは知りつつ、プルーツにはどうしても気になる事があった。


「キャスク、―――アンタ、水くさいね」

「な、何の事ですか?」

「それよ。なんで、です、ますでしゃべるかな。アタシたちはもう、旅の仲間なの。アンタだけよそよそしいのは、違うじゃん?」

「おー、たまにはオメエっちも、良い事を言うべな」


 そして「たまにが余計じゃ」と、プルーツの飛び膝蹴りがライドーンの臀部にヒットした。


「です、ますをやめる、―――う、なんか恥ずかしいな」

「イモかわあああ。やっぱり田舎のイモって本当、良いわよね」

「いや、知らん」


 凸凹トリオのたどたどしい会話は、まるでこれから待ち受ける幾多の困難を象徴するようである。

 しかしそんな事はまだ、誰1人として知るよしもない。


 さて、一行が取ろうとしている進路は、ヤンカ村を北上して2つの町と1つの山、そして1つの洞窟を経由して帝都に向かう道だ。

 ヤンカ村からなら、西のアセル草原を抜けて以降、ひたすら安全な平原を進むルートもあるのだが、そちらはやや遠回りになる。

 強いキャスクがいるがゆえに、少々戦いもあるようでも近道が得策、と地理に詳しいライドーンがそう決めたのだ。


「次はメイチカの町だ。ほら、もう見えてきたろう」

「アンタ、記憶力だけは凄いよね。地図なんてないのに」

「そうだよ、ちゃんとした道なら俺っち、強いよ。国境越えたからって調子こいて変な道を進ませる、誰かさんとは違うんだべ、ここが」


 そう言ってライドーンは、自身のこめかみをとん、とんと指で叩いて見せた。またも蹴りが来たが、今度は避けてみせる余裕ぶりだ。


「やっと成長したわね、ライ」

「けっ、俺っちを誰だと思ってる」

「ライドーン、キミは誰なの?」

「え?―――そりゃ、俺っちは俺っちだべ」


 メイチカの町は、ヤンカの村の3倍から4倍ほどの広さだ。買い物する店も幾つかある上に、宿さえ2つある。


「おっし、じゃあキャスっち。オメエっちは何の仕事する?」

「えっ、働くの?」


 キャスクのパーティーは、キャスクの所持金である金貨5枚と紙幣1枚を除いては、すっからかんだ。

 キャスクは裕福の出とはいえ、それはヤンカ村における豊かさだ。物資が何かと入り用な旅路において、現在のパーティーの財政はとてもじゃないが金欠なのである。


「そうねえ、キャスクは食堂のアルバイトなんてどうかな。ご飯作るのうまいし」

「はは、それはありがとう。そうしてみようかな。ライドーンは?」

「キャスっち、ライで良いよ。俺っちは、―――まっ、適当に探すから気にするな」

「アタシは宿で依頼受けて、適当に無双してくるから」


 どの町にも依頼は大抵、宿で募っている。そしてある程度の規模の町なら十中八九、魔物退治の依頼があるので、戦いに慣れている旅人の資金稼ぎには、もってこいだ。


「キャスクはまだ、やめときな。アタシらのパーティーで、戦いの経験を積むまではキッチンで修行しなさい」


 キャスクは強いが、どちらかと言えばそれは、あくまで試合などの対人戦における強さだとプルーツは見抜いていた。

 アセル草原ほど平和な環境ならともかく、普通の魔物は人外ならではの様々な攻撃をしてくる。

 それに慣れているという意味では、魔物との戦いに限ってならプルーツの方が上、という理屈だ。


「まあ、そういう事なら仕方ないかな」


 キャスクも渋々ながら納得し、三者三様の稼ぎが始まった。


「さて、キャスクはきっと裏の仕事なんて知らないからな」


 情報屋。

 ライドーンは危険なその本業を、まだキャスクには打ち明けられないでいるのだった。



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