王妃様のお喋り
「…………」
「…………」
王妃様に促され、断れず、座らされてから早数十分。 沈黙だ。 図書室だし、沈黙なのは、静かなのは俺も良い事だとは思うが……気まずいのは確かではある。
実は促されていなかったとか、か?俺の思い過ごしとかだったとか、か?それだったらかなり恥ずかしいんだけど!?
本を読む王妃、ちらっと見るが王妃様と言う認識だからか、その姿は綺麗だと思う。竜馬の周りにいる男女は俺を抜かせて顔面スペックは高いと感じた。
「貴方……水無月ですわよね」
「…………へ?」
急に言葉を掛けられ、俺の体がビクリと跳ねる。魚のように。 本を読んでいた王妃様の視線が、俺の方を真っ直ぐと見詰める。
「みなづきですわね?」
真っ直ぐとした視線、水無月と問う言葉。確かに水無月なため、そして強い威圧感に俺は頷いた。
そして思い出すが、水無月って言って良かったんだったっけか?確か、竜馬達は余り口外は何て言って無かったか?ぐるぐると頭の中で考える。
ただ、王妃様は王族関係者でもある、だから俺が水無月だと知っていても可笑しくはない、か?だとすると、問い掛けてくるのも可笑しな話にもなるが。
俺が頷いてから、何も話さない事に王妃様の気配が少し不機嫌になるのが解った。慌てるも、何を話して良いか解らず視線を向けるのみ。
「まぁ、良いですわ。貴方が水無月、だったら竜馬様が一緒に居るのは許容範囲内としますわね」
視線を俺から本へ再び向き直す。そして俺はただ、相づちを打つのみ。
「竜馬様は私にお話を余りされません、ただ、私もお飾りの王妃ではありませんの。この国の歴史は多少知っていますわ」
「……はあ、あ、はい」
淡々と話す王妃様、俺が返す言葉はいらないようで、相づちだけでも良いらしい。
「私としては、あの汚らわしいアレをどうにかしたいのですけれど」
「……汚らわしい、アレ?」
「そうですわ、あのSP。嗚呼、汚らわしい」
苦虫を潰したような表情を見せる王妃様、前に食堂で会った時に呟いた汚らわしいの言葉。あれは俺ではなく、佐渡さんに言ったようだと、今、理解した。
そして少しだけホッとする、いや、ほら、美人に何もしてないのに嫌われるとか、昔もこの凶悪な顔の所為でよくはあったが、ない方が良いに決まっている。
「それと、あの庶民の子……貴方好きなのかしら?好きならちゃんと捕まえておかないと困りますわ、竜馬様が興味を持たれて……まぁ、側室でも構いませんけれど、庶民の子ですと問題も……」
「……え?」
俺の間抜けは声には気付かず、王妃様は本を読みながら一人何やらぶつぶつと言っている。ある意味、器用だ。
庶民の子、きっと洋子ちゃんだ。え?俺が洋子ちゃんを好き?ま、まぁ、姪なら好きは好きだが、王妃様の問い掛けは親族の好きではない気がする。
「ですから、庶民の子。好きなら竜馬様に取られないようにしないと駄目ですわよ?あのSPも気に入っている様子……私は貴方を応援しますわ」
「……え?」
「そうですわね、いくつか作戦会議ですわね、貴方、マイディー持ってますわよね?」
俺の間抜けな言葉は完璧にスルーされ、呆然とする中で意外とアグレッシブな王妃様は俺の鞄を引ったくりマイディーを勝手に取り出す。
前に秋葉原で会った執事の子と同じように、マイディー交換というのを俺は王妃様にされる。
「では、私はこれで。作戦会議の日が決まりましたら呼び出しますわ」
マイディーを返され、本を持ち、立ち上がった王妃様は俺を残し図書室を後にした。
「……え?」
目下、俺は混乱中である。暫く俺は図書室で微動だに動く事も出来ずの状況となった。




