閑話 365年目、俺様とSPと親友と
「学、大洋に何を言ったのだ?」
ハウスーに乗り込み、仕事用の眼鏡を掛けた俺様は書類を片手に背後に立つ学に声を掛る。
気配で学が笑ったのに気付いた。学は大洋を気に入っているのは解っていた、何かの拍子で道が違えば学は大洋側に付き、護衛に回っていただろうとも。
「いやァ、大洋ちゃんをからかうのは楽しいってねー、悶々してるぜ、きっとォ」
「……知らんぞ、俺様は」
「大丈夫だってェ、そん時は俺が色々教えてやるしィ。男の遊びってやつを」
書類に向けていた目線を、俺様は学の方へと向ける。視線を受けた学は、肩を竦め笑う。
「竜馬ちゃんもしますぅ?」
「竜馬ちゃんと呼ぶでない」
相も変わらず俺様をちゃん付けで呼ぶ、ただ、口で言う程嫌ではないのは長い付き合いだからだろう。
俺様も寛大になったと言う訳だ!心の中での思いつつ、学に向けていた視線を書類に戻し作業する。書類作業をする中で、学は再度俺様へと話し掛ける。
「でェ、どうするんですかー、王様」
「何がだ?」
「また、またァ、解ってるっしょー?王妃様ですよォ、王妃様ー」
学の言葉に自然と眉間に皺を寄せた。俺様の歪んだ表情に学は唇端を歪めた笑みをする。この笑みは正直不気味でもあった。言うならば、蛇のような視線だ。
「大洋ちゃんを朝早くに迎えに行ったのは、そーいう事かァって。いやァ、まさか、あの看守は王妃様と関連あったとはねェ……、確かに胡散臭かったけどォ、いつ気付いたんですぅ?」
「洋子に聞いて、だな。後は学も気にはしていたであろう、女の方の看守を」
「……ほんと、神出鬼没女は何者なんだァ…?まァ、俺の言葉も気にしてくれてるんだったら嬉しいですけどォ」
「信頼はしておる、信用はしておらん」
書類を纏め終え、眼鏡を取ると眉間に指先を置き目の疲れを取る様に摘まむ。俺様の言葉に学は肩を揺らして笑った。
「ひゃっひゃっ!まァ、ビジネスパートナーだしィ?色々思う所はってねー。護衛する立場からしたら良い傾向、良い傾向ォ。で?結局王妃様はどーするんですかー」
「………嗚呼、考えてはおる。ただ、アレはアレで囚われておるのだ、神宮司……いや、神無月に。幼き頃からの言葉にも、な」
このまま放っておけば、何か間違いが起きると意識はしておる。だが実行に移せないのは、少なからず気持ちを理解出来るからでもある。
「りょーかい、でェすぅ。ただ、事態を悪化させないでくれよォ、王様。護衛する身になって下さーい」
「解ってはおる……、アレにも、俺様のように信用出来る相手がおれば……」
最後の方は小さく呟く、俺に洋子や大洋が出来たように、王妃にも出来ればと願うばかりだ。




