緊張は通り過ぎると無になる
小屋と呼ばれる南国リゾート家に押し込められ、数十分。竜馬は王の職務があるやらで一旦自分の城に戻るようだ。
勿論、佐渡さんも竜馬に着いていく、そりゃそうだ、竜馬を護衛する立場だ。護衛の立場なのに竜馬の仕事のサポートもしてるようだった、信頼からくるものかも知れない。
……そう、そうだ、佐渡さんだ。
佐渡さんが去り際にあんな事を言ったのが悪い。意地の悪い、蛇のように絡み付くような視線で見詰めた後、俺の耳許に近付く唇、告げられた言葉。
『あ、姫川は何でもオッケーだぜェ?大洋ちゃん、どーてぃ、だもんなァ?』
思い出した言葉に頭を抱える、いやいや、ちょっと、佐渡さんナニ言ってんだ!?
慌てた俺に佐渡さんがおかしそうに笑うと、竜馬に続いて出ていったのを思い出す。
残された俺と姫川さん。
でかく広いリビングみたいな部屋に備え付けられたソファー、そこに座る俺と背後に立っている姫川さん。
生まれてから今まで、妹以外の女の子と二人きりになった事もなければ、話すのもなかった。
これは俺に与えられた試練か?そもそも世話係りとか王族関係にしかないものだろ、俺はこれまで生きてきた感覚は一般市民、今更世話係りですと言われ、はいそうですかと納得出来ない。しかも何故に女の子、女性を世話係りにしたのか、やっぱり試練かこれは。
頭を悩ます俺に姫川さんが声を掛けてくる。
「大洋様ー、寝室行きます?」
「……………………………し、寝室?」
因みに水無月様から大洋様へ呼び方がレベルアップ、竜馬が佐渡さん達にも言っていたが、水無月で呼ぶと月名の子孫達が気付く恐れがあるやらなんやら…、名前で呼んだ方が気付かれる確率は下がるだろう事で姫川さんが俺を名前呼びする事となった。
いや、それよりも、し、寝室って!え、や、ちょっ、まて、いや、え?寝室!?
目下混乱中な俺である。しかし、心の中で混乱中であったとしても、俺の表情は悪役顔を更に険しくさせただけであり、姫川さんは首を傾げてきょとんとした表情を俺に向けた。
「うん!寝室ですよ、大洋様。お疲れだと思うんでー、行きましょ!」
美少女笑顔は強烈で、姫川さんに手を引かれ立たせられる。手を引かれ歩いて連れてかれた部屋はタブルベッドが置かれた広い寝室。どこかのお貴族様が寝るような豪華な施し、この部屋で寝るのか?いやいや、落ち着かないからね!?
しかも薄暗く、ムーディ漂う雰囲気で、今から男女のあはんうふんを匂わせる雰囲気だ。佐渡さんの言葉がガンガン何度も頭に響く。
姫川さんの、な、何でもオッケーという言葉を。
「大洋様ー?きゃは!すごーい表情ですよ、無表情?大丈夫ですかー?」
ハッと意識をはっきりさせれば、いつの間にかベッドに座らされていた。目の前には美少女な姫川さんの顔。思わず体がビクンと跳ねる。
「だ、…い、丈夫で、す」
「了解でーす!なら、えいっ!」
姫川さんの掛け声と共に、俺は押し倒された、お、押し倒された!?や、や、やっぱり、そ、そんないやんな展開が…あるのか!?
ごくり、と喉を鳴らしてしまう。目の前に広がる姫川さんの顔と柔らかい体と良い匂いと、童貞には色々鼻息が荒くなる案件だ。385年生きた俺だが、中身がおじいちゃんだったとしてもそーいうのに興味がない訳じゃない。独房に捕まってコミュ症で出会いもなければそんな機会は巡ってこない。
興味がない訳ではない。
黙る俺と見詰める姫川さん、姫川さんが美少女笑顔を見せる。
「大洋様ー、緊張してます?」
「…っ、あ、ま、まぁ…はい」
「ですよねー!大丈夫です、私に任せて貰えれば一瞬で気持ち良くいけますから!」
何処に!?とは言わず、胸の高鳴りが強くなる。俺はついに、大魔導師を卒業するのか。緊張で悪役顔は無表情に近いかも知れない、いや、鏡がないから見れないが。
「それじゃ、大洋様」
「…は、はい」
笑った姫川さんが手を上げる、ん?手を上げる? 今度は俺がきょとんとなる番だ。そんな顔にも雰囲気にも気付かない姫川さんが告げる。
「寝る所が変わると眠れないですよねー、私はちゃんと解ってますよ。だから私が寝かしてあげますね、大洋様。それじゃ、お休みなさい!」
「…っぐ、っ!?」
鳩尾一発、見事に決まり俺は一瞬で意識を失った。




