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禁固365年の男  作者: 獅斬武
第6章 禁固365年まで
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365年目、禁固365年の男の選択

明日、俺はついに刑期を終える。


そして、選択をしなければならない。


竜馬を選ぶのか、看守さんを選ぶのかの選択を。


「何か……眠れねーなぁ…」


ついに明日、俺は刑期を終えると考えると妙に目が覚めてしまい眠れない。明日修学旅行だ!と興奮して翌日遅刻しちまうパターンと一緒っぽいな。眠らないと、と強く思う度に目がギンギンに覚める感覚だ。


取り敢えず毛布を被り横たわる、今日でこの位置で寝るのも最後かと思うとやはり眠れない。


「……無理に寝る必要はない、うん、ない」


そう思い、俺は体を起こした。何か考えたりやったりしている最中に眠くなるだろう思いながら。


立ち上がり、俺はゆっくりと独房のドアへ近付く。手を置き、ゆっくり撫でてみた。そう言えば、ドアに近付くのは飯が出る時だけだったな。最初の頃、トイレがあるのか解らず強く叩いて知らせたのが懐かしい、いや、懐かしい年月ではないが、既に365年経ってるしね、うん。


ドアから離れ、独房真ん中に立つとグルリと回って周りを見渡す。


独房に入り、最初は何処を見ていたか。今となっては思い出せないが、一回上を見上げたのは覚えている。鉄格子越しに見えた、空。今は夜の為に暗いがあの時は晴れ空だったのか、色々な空の色を見たし満月や星、夕刻のオレンジ色、快晴の空、雨。普通に生きていたら、空なんて俺は見なかったかも知れない。


視線をボタンへ向ける、赤、青、そして黄色。黄色のボタンには眉を寄せる、俺は電気を点ける時間を無駄にした!と思ってみたが、それもまた独房内の思い出だ。


見渡した独房内に完備された、風呂とトイレ。こう考えると俺は優遇されていたかも知れない、普通に風呂は完備されないだろうな、と。これは俺が水無月の家系で、王だったからなのか、もう居ない神宮司に確かめようはない。


地面を見る、未だに消えない赤い染み。これは俺が狂った時に首をかっ切った時に流れた血だろう。まだ残ってるのか、と苦笑した。あの頃は本当に気が可笑しくなって毎回、毎回死を望む。


それを救ってくれた葵さん、俺の中での葵さんは声だけしか解らないがきっと幸せに暮らしただろう、俺の渡した手紙とは程遠い、カレンダー裏に書いた文字は読まれたのか、確かめようはない。


そして、俺を禁固365年と言い渡した神宮司家の子孫、竜馬が現れたり、美月と健次が結婚して姪っ子が出来てたり、俺の名前を取って洋子ちゃんだとか、自分で最強SPとか言っちゃう佐渡さんとか。看守のウイッスくんと、俺への選択肢を迫る看守さんとか。


「……竜馬か、看守さんか」


難解な問題の答えは、未だに出ていない。どちらも選らばない選択とかあるんだろうか。現実逃避をしたくなるが、選択を迫る時間は迫っている。


俺はいつもの位置に戻り、毛布を掴むと再度横たわった。


俺は……、俺が選ぶのは……、そして意識を飛ばし深い眠りについた。

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