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禁固365年の男  作者: 獅斬武
第6章 禁固365年まで
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信じるも信じないも己次第

佐渡さんの言葉の意味は、竜馬の言葉で理解した。


「大洋!刑期を終える日の朝は食事はするでないぞ、朝に迎えに来るからな、一緒に食事をする、世界KANのシチューだ!」


どーんっと音が聞こえそうなくらい胸を張った竜馬を、土産に貰った高そうなクッキーを頬張りながら告げられた言葉を聞く。刑期を終える日まで、もう数週間を切っていた。


その間、俺は看守さんから貰ったメモ紙の言葉にかなり悩んでいたのだが、結局まだ迷ってはいる。


誰かに相談なんて出来る筈もなく、相談出来そうな相手を思い浮かべても、相談する手段がない。


洋子ちゃん経由で、美月や健次にでも手紙を書いて渡して貰おうかと考えたが、洋子ちゃんに渡す為には竜馬経由になる為、手紙の内容を確認されたらそれこそ変な事になりそうだ。


話す相手はもっぱら竜馬しかいない中で、メモ紙に書かれたであろう本人相手に聞くのもまたそれも変な為、自分で考え答えを出すしかない現状である。


「聞いてるか、大洋。世界KANのシチューを店で食べられるんだぞ!」


考え事をしていた頭を、竜馬の言葉で意識が相手の方に行く。反射的に俺は首を縦に振り、頷いた様な仕草を見せた。


俺の返事に、竜馬は嬉しそうなキラキラした表情で頷き返す。


この表情を嘘だと思いたくないが、看守さんの書いたメモ紙の文字をどうしても思い出してしまう。それと同時に、禁固を言い渡した神宮司の顔も思い出した。


俺は友人関係を築けていたと思っていた、それが笑みの裏側で、俺を王にさせない為に罪をでっち上げられ捕まえられた。俺に禁固を言い渡した時の表情は友人へと向けた表情ではなかった。


竜馬も、今の表情と違うかも知れない。


ネガティブな思考は俺の気持ちを暗くさせ、そしてそう考える思考に嫌気もさす。


竜馬を信じてはみたいが、神宮司の様に裏切られたらと思うと何とも言えない。あの頃、特に気にしていないと俺は思ってはいたが、心の奥底では傷付いたのかも知れない。


楽しげに、いつものように話す竜馬の顔を見ながら俺は考える。いつの間にか、俺は竜馬を友人認識にしていたんだろうなぁ、と。


パキン、とクッキーを口内で噛み砕く。


甘いクッキーを食べる中で、ふと、洋子ちゃんの言葉と健次が伝えていたであろう言葉を思い出した。


『選ぶのは看守さんだ、出されて選ぶランチは看守さんで』と最初は健次が伝えていた、まさか、これがその選択肢か?


洋子ちゃんは、『今なら学園を、竜馬さんを選んで下さい。』って書いてあった、よな?


噛み砕いたクッキーを飲み込み、楽しげに話す竜馬の表情を再度見詰め、それから重々しいドアへと視線を傾け外に居るであろう看守さんへ意識を向けた。


俺は、今、きっと、刑期を終えるその日までに、選択を迫られている。

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