閑話 314年、俺様の親友
俺様の、俺の気持ちなんて解る筈がないと、生きてきた中でずっと感じていた。
神宮司家に生まれ、無理矢理食わされたあの肉は、俺に永遠の生を与えた。
周りは俺様を称え、賛美し、王として崇めそれを俺様は受け入れた。
無理難題を言おうとも、俺には逆らわず、無論俺も庶民の声にも反応し、王として政治も行った。誰にも文句は言わせんために。
賛辞する周り、どこか空しくなる自分、時折俺様はふらりと一人になる時間が欲しく王しか近付けぬ場所へと引きこもる時間も増えた。
例え引きこもろうとも、真面目に王のツラをかざしておけば、文句は言われん。神宮司家で不老不死となる王は今まで生まれた事は無かったからな、文句もないであろう。
そして、それが俺様の孤独になる。
そんないつも通りに引きこもる俺様の前に、一人の少女が現れた。
俺は驚き、SPを呼ぼうと口を開けると同時少女は言葉を発した。
「孤独は辛い?一人で生きるのは、辛い?」
紡がれた言葉を理解し、俺様は目を見開き少女を見詰める。
陽の光が少女の茶色に近い髪色を照らし、輝かせる。
「何故、知っておるのだ?」
少女は笑い、指先を王宮に備わるとある部屋を指差した。
「禁固365年の歴史的犯罪者と空白の王様、そして最初の王様」
少女はそれだけ言うと、ひらりとスカートを揺らしていなくなった。俺様は少女の指差した方向へ視線を傾ける。
少女の言葉に促される様に、俺様は王宮の図書館へと足を運ぶ。
少女の言った言葉、本のタイトルであろうその本の二つは直ぐに見付かった。
閲覧禁止の本と禁固365年の男の本。
この二つを手にとり、俺様は引きこもるいつもの場所へと戻り本を読みふける。読んでいる間はかなりの時間が経ってはいたが、俺様の時間はたっぷりある為に特に気にする事はしなかった。
時折、宰相やSPの責任者が呼びに来たがその時ばかりは公務を全うし、そして直ぐに引きこもる場所へと戻る。
二つの本を読むうちに、俺は禁固365年と言い渡された水無月大洋に興味が湧いた。もしかしたら、彼は俺様と……。
不意に視線を感じて顔を上げれば、そこには本を教えてくれた少女が立っていた。
「貴様、どこから入るんだ?」
「ふふ、内緒だよ。ね、見付かった?」
「ああ、二つはな。最初の王は見付からん」
「ふーん、あ、大洋おじさんだ」
「知っておるのか?」
「ううん、知らない。本物は見た事ないよ」
「そうか」
少女は俺様に近付き、禁固365年の本をちらりと盗み見る。本来、見せてはいけない物だがどうにも少女の雰囲気に呑まれ咎める行為は行わなかった。
「長生きしておる、俺様は怖くないのか?歳はとるが、見た目が変わらんのだぞ」
思わず洩らした言葉に、俺様は驚愕する。見知らぬ少女に何を話してるのかと。けれども少女は目を瞬きさせた後に笑顔で首を振った。
「ううん、金の王様、キラキラして格好良いと思うよ。あ、でも大洋おじさんの方が優しくて格好良いかも、お母さんやお父さんが言ってたかな?」
少女の言葉に嬉しくなる反面、大洋と言う名前の男を褒めた事に何故か俺様は不機嫌になってしまった。ただ、不機嫌になるのもおかしな話でもあるため、直ぐに我に返る。
禁固365年の男の本に貼られた白黒の写真を指先でなぞり、俺は少女に告げる。
「ふん、なら今度見てきてやる、俺様とどっちが格好良いか」
「うん!」
後日、会いに行った俺様は、実在で生きていた水無月大洋に感極まるが、何を言えば良いか分からず捨て台詞らしき言葉を吐き出し逃げ出した。
暫くし、少女は俺様の前から姿を消した。水無月大洋と言う歴史的犯罪者と俺様が会ったと同時に。
少女が消え、ぽっかりと心に穴が空いたようになり、同じ孤独であろう水無月大洋に興味が失せてしまった。
暫く、あの独房には近付かず淡々と公務をこなし、いつもの場所に足を運ぶ変わりない日常を過ごす中で、非日常な出来事が360年目に起こる。
「まだ、孤独は辛い?」
その声に、俺様は顔を上げる。そこには、成長したあの少女がいた。あれから46年経っているが少女の年齢は十代に見える。驚きに声が出ずにいる俺様に少女は告げる。
「これから話す事、信じてくれる?」
俺様は、無意識に頷いた。




