戻った日常、やってきた非日常
葵さんが看守を辞め、俺は今までずっと変わらずだった日常に戻った。
違うとするなら、もう死ぬという行為を自ら行う事はしないという事だろう。罪についても葵さんのお陰で少しだけ進展はした、だから数十年後に独房を出たら俺は何としても調べるつもりだ。
変わらずな日常に戻ったが、俺の意識は少しだけ変わったと思う。
ただし、未だに葵さんが居なくなったという寂しさは消えず今日も動くのが面倒臭いのもあり、俺はいつもの定位置に横たわりながら鉄格子へ視線を向け空を眺める。
そーいや、二人体制な筈の看守さんは今はウイッスくん一人だけ。ウイッスくんがロボットだから一人で充分とかになったのか?鉄格子に向けていた視線を、重々しいドアへと向けた。相変わらず、ウイッスくんの返事はウイッスだけだ。
やることもなく、何かを考えるのも先伸ばし、先伸ばしという感じになり、こんな俺を見たら葵さんは苦笑しそうだと思うが、どうにもまだやる気が起きる気配はない。
「自分なりに意識は変わったと思うけど、うん、まだ時間があるし大丈夫、大丈夫」
また明日、また明日とずるずると面倒臭がりが頭を出す。本来、自分から何かをするような俺じゃない、まだ出るまでに50年くらいはある、だからまだとやる気無しな考えを浮かべつつ、うとうととしだす。
睡魔に負けた俺は、毛布にくるまり目を瞑った。
何か、音がした。
未だに覚醒しない俺は、気にせず目を瞑り続け微睡みの中にいる。
音が大きくなる、いや、声なのか?まさか声な訳がない。眠気が勝る俺の耳に幻聴か、願望か何かの音が聞こえた様な気もするが、目を開けず毛布を頭まで被った。
そして、大きな音と共に聞こえた大きな声。
「ほう、此処に我が王族にたてついた歴史的犯罪者がおるのだな!」
「お、王子~、だ、駄目っスよぅ」
瞑っていた目を開ける、目の前は被った毛布だが気配でこの独房内に誰かいるのが解った。
「おい、何処だ?その歴史的犯罪者は、おらぬではないか」
足音が近くに聞こえ、俺は尋常じゃない冷や汗が出る。声からして男のようだった、偉そうな口調、さっきもう一人が王子と言った。
それで推測するに、彼は……、
「む、此処か!」
毛布を捲られる。
目の前に広がったのは、金。薄暗い独房内で光る金色の髪、次に目に付いたのは意志の強そうな目、その目が俺を捉え見詰める事、数秒。
そして、彼の目が見開かれ直ぐに離れたと思うと開かれていたドアに駆け寄り、一度止まる。
振り返った彼が放った一言。
「貴様、勝ったと思うなよ!」
そしてドアは閉められた。
「え?何が?」
一瞬の出来事だった。




