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禁固365年の男  作者: 獅斬武
第4章 罪と罪
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閑話 311年、私と歴史的犯罪者

彼と会った、いや、声を聞いたのは約10年前の出来事だ。


私は歴史研究者で、研究にはお金がかかり、研究費欲しさに歴史的犯罪者と言われた彼を監視する看守としてやってきた。


歴代の看守達は彼と一度も声を交わす事もなく、契約期間を終えていたみたいだった。


確かに私は研究費欲しさに看守にはなったが、歴史研究者として300年近く生きている彼に研究対象として興味も出てしまい、本来は契約違反になるが私は彼に声をかけてみた。


……しかし全く反応されなかった。


それでも、彼から彼が生きた300年前はどうだったのか、探求心が勝り無視され続けても声をかけ続けた。


1年かかり、私と歴史的犯罪者と言われた彼、大洋くんと会話をする事に成功した。


歴史的犯罪者と言われるくらいの彼だ、最初は怖いのだろうかと思ってはいたが、話すと普通の青年だ、いや、草食系男子の様な雰囲気を声から感じた。


他愛ない会話、偶に揶揄やゆり、反応を楽しみ、弟の様な友人の様な、そんな風な感情を彼に感じ始めていた。親愛、友愛、彼との間にはそんな感情が渦巻いていたかも知れない。


声だけの関係、彼の顔も見た事もないが、彼の人と成りは数年で理解出来る。だから私は彼が罪を犯す人間とは到底思えなくなってきた。


研究の傍ら、私は彼の犯したであろう罪と彼が何故300年近くも生きているのか調べる事にした。


その過程で、研究仲間だった彼奴と私は付き合う事になった訳なんだけれどね。これも大洋くんのお陰だ。


彼を調べる数だけ、謎が多くなる。空白の王、神宮司家の閲覧禁止の本、彼の、大洋くんの体の構造も。


研究に没頭し、彼奴にされたプロポーズの返事も先伸ばしにして彼の事を調べ続ける。それもやはり限界がある、助けてあげられない自分に心は折れる。


折れる心と助けたいと願う心、彼の歴史に私は取り憑かれた様だったかも知れない。これは、意地なのか執着なのか私には解らなかった。


見かねた彼奴が私を叱咤し、そして優しく包み込む。彼奴の綺麗な赤い髪がゆらゆら揺れ、何だか悲しくなって、そして私は彼奴のプロポーズを受け入れた。


彼に伝えた結婚と、解決出来ない彼の罪と体。


彼は案の定、優しい言葉で私を咎める事もなく感謝の声をあげた。やはり、彼が歴史的犯罪者とは考えにくい。


私と彼の残り少ない時間、他愛ない会話で過ごす。


最後の日、彼は私には手紙を渡してくれた。


手紙はカレンダーの裏に書かれた物で、恥ずかしがった彼は私に手紙を読むのは看守室を出てからにして欲しいと頼んできた。


その場で頷いた私だが、それは嘘で直ぐに手紙を読んだ。


感謝と、祝辞、そして綺麗な花の絵だ、何の花かは私には解らなかったが色とりどりの綺麗な花の絵。


私はそれを大事に、看守室を出て奪われない様に隠してしまう。


感謝は心の中で告げ、私は看守室を出ていく。


私は彼に、一つ言ってない事があった。


看守になる契約内容に、契約を終えた場合、看守内で起こった出来事は《《全て忘れる事》》になっている話を。


歴代の看守は皆、ここで彼を監視していた記憶を別の記憶にすり替えられる。だから私は此処を出た時点で彼を、大洋くんを忘れる事になる。


思い出すのは、彼の気弱な声と楽しいやり取り。少し泣きそうになるが、私は頭を緩く振って耐える。


大丈夫、タダで転ばないのが歴史研究者の望月葵だ。


例え私の記憶が隠蔽されたとしても、私には彼奴がいる。彼奴も最後には彼を気にしてくれていた、契約違反になるがそれは今更だ。


「いつか、君の無実を証明するから待っててよ、親愛なる大洋くん」


そっと、呟いた。

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