俺の告白
「看守の任が解かれるんだ」
「へ?」
葵さんの突然な言葉に、俺は絶句した。俺の耳が可笑しいのかと耳を叩いてみたら、再度葵さんが言葉を告げた。
「聞き間違い、ではないね。私は大洋くんの看守から離れる事になってしまったよ」
「何でか、聞いても?」
「実はね…、結婚する事になって」
「へ?」
葵さんのまたもやの発言に絶句、と言うか無の感情になった。その頭の中で葵さんの言葉がこだまする、けっこん、血痕?けっ……結婚!?
「け、け、け、け、けっ、ごほっ、ごほっ!」
「だ、大丈夫かい!?や、そんな噎せるような事かな?」
心配そうな葵さんの言葉に俺は大丈夫だと告げる、一旦落ち着かせる様に深呼吸を一回行った。
「そりゃ、結婚って聞けば驚くんじゃないかと、でも、その、喜ばしい事だしおめでとうございます、葵さん、うん」
「ああ、ありがとう大洋くん」
「そ、れで、結婚と看守を辞めるっていう関係は…?」
俺の問い掛けに葵さんはきちんと答えてくれた、話しによると看守になる為の契約内容に、結婚する場合は看守の任期は更新しない事になっているらしい。
「本当は、大洋くんの無実を何とかしたかったんだけどね」
申し訳なさそうな声に、俺の方が申し訳なくなってしまう。葵さんと結婚するのは勿論、あの研究仲間の人だろう。付き合って結構な年数を重ねてるとは思う、俺は時間の感覚が可笑しくなってはいるが、葵さんも30歳は過ぎているだろう、結婚するタイミングが今かも知れない。
更に詳しく聞くと、俺の無実を調べたり体の謎を調べたりしたいからって、プロポーズの返事をかなり先伸ばしにはしていたらしい。な、何だかいたたまれない気持ちになるが、そこまで俺を気にしてくれた事には嬉しくなった。
「俺は少しでも、俺の事を無実だって思って調べてくれた葵さんに感謝してますよ、だから俺の事は気にしないでくれたら良いです。折角結婚するんですし」
「うん、ありがとう大洋くん。前に大洋くんが言った、いつか会えなくなる、って言葉を思い出してね、結婚を受ける事にしたんだ。彼奴と付き合うのも、結婚するのも、きっと大洋くんのお陰かなって思ってる、だから君の罪が無罪だと証明したかったんだけどね、投げ出す様な形になってすま……」
「謝る必要はないですって、葵さん。俺も、葵さんの言葉に、声に救われたんでそこはお互い様ですよ」
俺は葵さんの言葉を遮って、言葉を重ねた。謝る事は本当にない、それこそ感謝しかない。葵さんが居たからこそ、俺は今も気力がある状態だ、声を掛けて貰えなかったら狂った無気力状態だっただろうし。
「ふふ、私達はお互いに感謝みたいだね」
「そうですね、感謝してます」
葵さんが笑ったようだったので、俺も自然と笑みが溢れた。
「結婚はいつですか?」
「水無月の最後の日だね、大洋くんの誕生日と一緒の歴だね。看守の任はその前に終わるから来週が最後になる」
「そ、うですか、ちょっと寂しくなりますけど、その、最後まで話してくれたら嬉しい、です」
「勿論、これからも私が任を解かれたとしても、君は大洋くんは大切な友人だ。……大洋くん、私は君を助けるまではいかなかったけれど、君の無実は証明出来ると信じてるよ」
葵さんの言葉に、俺は曖昧な返事しか出来なかった。返事が曖昧になったのは、無実が証明されるのか疑問だったからかも知れない。
それと、葵さんの任期が終わるまでの間、なるべく綺麗なカレンダーの裏に、葵さん宛の手紙を認める事にした。
葵さんへの感謝と、祝いの言葉、花の絵を添えて。
これを読んでくれるのは、外に出てからだろう、もしかしたら他の誰かに見つかって没収されるかも知れない、読まれなかったら読まれなかったでも構わない。けれど、伝えたかった事を書いて葵さんに渡したかった。
そう考えながら、俺は暗い独房内で頭を回転させ手紙を書き上げた。




