俺の謎と看守の悩み
「え?マジですか?」
「ああ、同僚はロボットだよ」
俺は衝撃の事実を突き付けられている、想像していたウイッスくん、又はウイッスちゃんだと思っていた葵さんじゃない方の看守。ウイッスくんは男性ではあるが、人間ではなくロボットであった。
他愛ない会話の中で、葵さんに聞いてみたもう一人の看守さんについて。本来は言ってはいけない案件らしいが、葵さんは俺に色々と話したり聞かせたりしてくれる。一応、葵さんにも見返りはある、俺の体の一部を渡す事での情報を提供。
体の一部とは髪とか爪とか痛い思いはしない物だ、血も提供しようと思えば出来るが葵さんは丁重に断ってきた、傷を付ける気はないと。
俺の体の謎も、葵さんは出来うる限りで調べてくれている。だから体の一部を渡していて情報を貰っていると言っても、最終的に俺しか得をしてない状況でもあった。
葵さんは優しく、人として本当に素晴らしい女性だと改めて思っちまった。
「葵さん、その、俺に何か出来る事とか、捕まってますが、出来る限りの…」
感謝で一杯になった俺が、途切れ途切れの言葉で伝えると、葵さんが暫く黙る。き、気まずい…い、言わなきゃ良かったか?けど、何か礼をしたいのは確かだ、貰いっぱなしは悪い。でもやっぱり気まずく、俺から言いたくなければ、と切りだそうとした時に葵さんが声を発した。
「そ…だね、なら、少し話を聞いて貰える?こんな話を大洋くんにするのも、って思うけど。折角の大洋くんからの申し出だしね」
「お、俺で良ければ!」
言ってみるもので、葵さんは俺に話をしてくれた。
要約すると、葵さんを好きであろう研究仲間の人と喧嘩をしたみたいだった。深く聞くと俺の罪やら体について調べるのは止めた方が良いんじゃないかと言われ、怒ったらしい。
「前までは一緒に手伝ってくれたりもしたさ、けど最近は私が大洋くんの話をして発見があった事に喜んだら何とも言えない顔してね、一緒に喜んでくれると思ったから、何でそんな複雑な顔をするんだい?って聞いたら危ないからもう止めるべきだ、とね?それで言い争いになって、喧嘩をしてしまってまだ仲直りはしていないよ」
「そ、そんな事が…」
葵さんは怒っている口調だが、何処と無く言葉の端々に後悔に近いニュアンスも感じた。喧嘩の原因が俺だというのも、申し訳ない。それに、俺は全く恋愛関係に疎く得意でもないが、これは、多分、可愛いヤキモチ的な話ではないかと感じた。
俺の所為で、葵さんと研究仲間さんが喧嘩したなら何とか仲直りをさせたいと思う。俺にとったら恋敵に塩を送る形になるが、結局俺では葵さんを幸せに出来る筈もなく、葵さんも研究仲間さんに好意はあると感じているからどうにか取り持つような事はしたい、で、出来るかはあれだが。
「た、多分…ですが、葵さんが俺ばかり構ってるのが、い、嫌なんじゃないかと」
「彼奴が?何故だい?」
「や、俺から言うのも、と思いますが、うん。その研究仲間さんは葵さんが、す、す、好きで、俺ばかり構っていると感じてるんじゃないかと思ってます、俺は」
「…あ、彼奴が私を!?そ、そ、そんな事…っ、だ、だとしても、無実かも知れない大洋くんをほっとけよ、はないと思うよ。彼奴も私と同じ気持ちで、大洋くんの無実を一緒に探してくれてるかと」
「好きな相手には、好かれたいと思うんじゃないかなと。だから手伝ったんじゃないかなと俺は思いますよ」
俺の言葉に慌てた様な声を上げた葵さん、ちょっと、いやかなり珍しいなと思いつつ言葉を続けた。
「可愛いヤキモチだと俺でも解るんで、このまま喧嘩するより仲直りを進めます、葵さんも、研究仲間さんと喧嘩した侭は嫌でしょう?色々疎い俺でも葵さんがその人の事を信頼して、好きなんだなって言うのは解ります、俺を気にかけてくれんのは凄ェ嬉しいです、けど、その、うん、仲直りした方が良い。いつか、会えなくなるとか、あるかも知れねェ、し」
「大洋くん…」
俺の言葉は、きっと葵さんに届いたと思う。300年捕まった俺の会えなくなるとか、の言葉はかなり重い筈だ!ほんと、俺は急に捕まって美月や健次に会う事も無くなっちまったし、きっと伝わった筈!
「そ、うだね。私から彼奴に話してみるよ、お互いじっくりね。ありがとう大洋くん、こうやって言葉を聞くと君はやっぱり私より長生きなんだなって実感したよ。ふふ、お年寄りの言葉は聞くとしよう」
「お、お年寄り!?ひ、酷いです、葵さん」
「はは、ごめんごめん」
謝る声は謝ってる感じには聞こえないが、葵さんが元気になったのは感じた。
後日、仲直りした葵さんと研究仲間さん。そしてどうやら、男女のお付き合いが始まったと照れたような口調で報告を受けた。俺の失恋は確定だが、それでも葵さんが幸せで何よりだとも思う事にした。
けど、それが、俺と葵さんの別れでもあるのだが、今の俺には知り得ぬ話しであった。




