301年、そうです、俺は経験ないです
本気で俺は考える。
葵さんが聞いてきた、童貞かい?の問い掛けに、あの時は恥ずかしさからか黙秘と話を流したが、
「や、やばく、ね?」
捕まったのは二十歳の頃、あの時は禁固365年と言われ、最初の100年くらいはあれ?な状態、200年くらいは荒れまくりそれどころではなく、所謂ヤンでた状態、300年くらいで無気力の中から葵さんと言う人間的にも素晴らしい女性と出会い、一息吐いたなァと冷静になれば、321歳童貞とか…………やばくね!?
いつもの定位置、体育座りで一点を見つめる俺の額や顔からは滝のような汗が出ている、ような感じはする。
実際汗は出てないが、そんな気はする。
多分、俺はこのまま行けば365年生きて、この場所から出る筈だ。
今まで深く考えた事が無かったが、葵さんのお陰でまともな意識を保ってる状態だからこそ考えると、321歳童貞……やばくね!?大事、これ大事だから二回考えるし!
「まさか、魔法使い説…」
ふと、俺は俺にしか聞こえない声で呟いた。呟いた声はガツンと頭に響く。これはあくまで仮説な話だが、よく聞く話で30歳までに経験がないと魔法使いになれるという、俺はそんなアレな状態だった訳か!?
ハッとした表情で顔を上げ、鉄格子先の空を見上げた。俺の心とは反対に、快晴と言う言葉が似合う空色をしている。
321歳、童貞、魔法使いというより大魔導師レベルなんじゃないか?だから、321年も俺は生きてるとか!?
視線を鉄格子から床へ向け、床に手を付き項垂れる。
そうか、全ては童貞だったから321年も生きてる、そういう訳なんだな。なら、あれか、童貞捨てた時点で……、
「…っ、し、…ねるのか?」
床を見詰めた侭、これも俺にしか聞こえない声で呟いた。
童貞捨てたら死ねるという説……かっ!?
拳を床に叩き付けたが、余りの痛さに身悶えた。しかしそのお陰か、またしても冷静になれた。
「童貞だから321年生きたとか、他に童貞いるだろ、うん。俺だけじゃない、俺だけが童貞じゃない、童貞だけど童貞じゃない」
ぶつぶつと呟いていると、食事が差し出されるドアがカタリと音を立てた。今日の看守さんは葵さんではない。
痛めた拳を自分の掌で撫で痛みを緩和させつつ立ち上がり、出された食事のトレーを持ち上げる。
童貞、童貞と呟いて考えていたら、早くも昼間になっていた。一日、一体何を考えてんだ、俺は。
定位置に戻り、食事をしつつ視線をカレンダーへと向けた。
「神無月の31、ああ、今日は味噌汁と飯か、夜は」
この呟きも、俺にしか聞こえていなかった。




