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禁固365年の男  作者: 獅斬武
第3章 300年くらいの間に
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301年、平凡でいて幸せな

俺が葵さんと言葉を交わし、堰を切ったように会話を始めた。俺が会話をするのは葵さんのみだが、というか話し掛けるのは葵さんだけだが。


看守は交互に交代で俺を見張っているから、葵さんと話せるのは三日、無いしも四日になる。葵さんと交代する看守は可もなく不可もない、至って今まで通りの看守だ。葵さんだけ、俺に話し掛けてくれる。


「私は世界KANのシチューが好きなんだ、あ、世界KANって言うのは最近流行ってる店でね」


「へー、そうなんですね」


「今度こっそり持ってこよう」


「へ?だ、大丈夫なん、ですか?」


「平気、平気。私が食べるで通せるよ」


本当に他愛ない会話なんて、何百年振りだろうか。


外の世界が今どうなってるのか、俺に教えてくれている。本来、会話をしてはいけないらしい、そして俺と言う存在は歴史的犯罪者というのになっているらしい。


そんな犯罪者だと言われてる俺に話し掛ける葵さんは、可笑しいのかお人好しなのか何とも言いづらい人だ。


ただ、声を聞く限り良い人そうではある。


俺の看守になるには、色々な縛りがあるらしい。らしい、らしい、って何度も言っちまってるが、らしいしか言えない。結局俺は聞くだけしか出来ないからな。


まァ、兎も角、俺の看守になると破格の給料、それなりのポストっていうのが用意されるようだ。これも葵さんから聞いた情報である。


小難しい契約を交わすらしいが、俺の看守をする人には俺が300年生きている事を最初に告げられそれからどうするか、契約するかを結ぶようだ。


「葵さん、怖く…ねーの?300年、生きてる…し」


「いや、別に。言い方は悪いかも知れないけど、長生きする大洋くんに興味はあるよ?私はこれでも研究者でね。大洋くんの体の構造が気になると言えば気になるかな」


「怖くねーなら、良かったと」


「最初、話してくれなかった時くらいかな、怖いとちょっと感じたのは。今は何処にでもいそうな、青年と感じるよ」


葵さんがどんな顔をして話しているかは、想像でしかないが、きっと柔らかい笑みを纏ってるだろうと思った。


話している感じは俺より年上の、大人な女性というか、葵さんには悪いが同性と話しているようにも感じる。捕まる前までまともに異性と話した記憶はない俺が話せるなんて奇跡に近い、異性と話したのは記憶にある限り妹くらいだ。


「お、そうそう、メモも書かないと。大洋くんと話しているのは駄目らしいからね、メモを書かないと同僚に怪しまれる」


ふと、葵さんの声に意識がドアへと向かう。小さなドアから差し出されたやり取りをする紙、それに俺は手を伸ばした。


「……達筆過ぎて読めない、です」


「おっと、すまない。一応書いてるのは、今は弥生の10日だよって事だ、大洋くん」


茶目っ気っぽい言葉の語尾に、俺は何とも優しい気持ちになった。

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