お父様私死にそうです
すごく久しぶりです。
お父様私死にそうです。
サーシャは思わず自分の両手をきつく握りしめて立ち尽くした。明らかな殺意が彼?セレブロから滲み出ていたからだ。軽い言い方だったが、その美しい瞳は刺すようにサーシャを見つめている。きっと誰も彼を止める事など出来ないだろう。生きてきて初めて向けられる悪意に、サーシャの緊張は極限を迎えようとしていた。歯はガチガチと可笑しいくらい鳴っている。それなのに逃げるという選択肢が思い浮かばなかった。強く握りしめすぎて鬱血しかけた手に誰かが優しく手をのせた。耳元に「大丈夫」と囁かれた途端肩から力が抜けていく。サーシャの右隣にレオンが立っていた。
「セレブロ。冗談でもここではそんな事言わないで?彼女は僕のお客様だよ。」
そう優しくセレブロに話しかけている。セレブロは直ぐに殺気を霧散させた。サーシャはへたり込みそうになったが、レオンが肘を強く支えていたので、辛うじて立っていることが出来た。先程までの雰囲気が嘘のように、セレブロは上機嫌になっている。
「レオン、外に来たね?出掛けようよ!」
そうはしゃぎ出していた。アンバーも、ウキウキしているのが伝わってきた。銀色に輝いた瞳が喜びに満ちている。
「良いけど。オーロに言ってからじゃないと…。」
レオンがここに来て初めて外出について話している。どうやら、彼らはレオンにとって、特別らしい。ええーっと不満の声が上がったが、レオンはそれを無視して、ホワイティを呼んだ。
『お帰りセレブロ、アンバー。向こうはどうだった?』
呑気に話すホワイティに、レオンがおでこにぺしりと手を上げた。痛くはない程度だったが、側にいる皆が驚いて動きを止めてしまった。アンバーはあわあわといいながら、挙動不審になっている。神獣は神の使いだ。そう信じられている。たとえ契約者で、魔力を与えていたとしても、それは変わらないのだ。
「黙って見ているとか、意地悪だ。」
そう言って、もう一度ホワイティのおでこに手を当てた。
私の所為で、神獣が怒られている。非常に気まずいのだけど。
『ごめんなさい。何だかどうなるか興味が湧いてね?それはイケないこと?』
人の機微など気にする筈もない彼らにとって、正当な言い分だった。しかも契約者でも何でも無い人間なのだから…。
けれど、コクリと頷いたレオンが、
「僕は嫌だな…。」
ポツリと呟くと、今度はホワイティが慌て出した。
『ごめんなさい!レオン』
そう言うと、レオンがゆっくりと首を振りながら、
「僕に謝ってどうするの?嫌な思いをしたのは彼女だよ?」
とちらりと私を見た。思わずぶるぶると首を振った。何でそこで私に振るによ!とんでもないことしないでよ!泣きたい気持ちをぐっと堪えた。私偉くない?
『ごめんなさい。セレブロの気配がそんなにお嬢さんに影響すると思わなくて。恐ろしい思いと不快な思いをさせてごめんなさい。』
ホワイティが綺麗な澄んだ瞳でこちらを見ている
。七色に輝く円な眼が潤々している!
思わず何度も頷きながら「こちらこそ申し訳ございませんでした。」
謝り続けてしまったのだけど。
「セレブロは謝らないの?」
そこにまたもや、余計なことを言わないで!思わず肩が跳ね上がってしまった。
「...ごめんなさい...」
不本意な気持ちがダダ漏れだけど、セレブロが謝ってくれたが、小さく「いえ...」と返すだけになってしまった。
だがこちらも不本意です。




