本当に良いのかしら?
魔状虹彩という、勝ってな設定あるけど、魔力のバロメーター的な物です。気にしないでください。
狼の群れが動く。
闇夜に光る幾つもの双眸。
その闇に紛れて黒いマントを纏った男が一人。
一頭の狼の横に立ち尽くしている。
怯えている様子はない。
ただ、狼たちを見守っているのだろう。
狼たちは、獲物を誘導し、狩りを始める。
獲物は、短く断末魔の声を上げ地面に伏した。
辺りに立ち込める、噎せる様な鉄の臭い。
男は、マントの襟を掴みその中に鼻先を隠した。
ホントにいいのかしら?
サーシャは父王から、レオン=フェルド候の話を聞くのは、久しぶりだった。子供の頃は、よく彼の狼のことを面白く語ってくれていた父だったが、この頃はまったく無いといってよかった。サーシャは子供心に父はフェルド候のことが嫌いになったかもしれないと感じていた。ところが、実は未だに父は彼のところに通い親交を深めてるらしい。父ジークニア=ウル=キングスレイには、サーシャしか子供がいない。父は、王として尊敬できる方だ。漆黒の髪とサファイアの瞳。魔状虹彩が美しい。野性味溢れるその風貌も女性を虜にしてやまないのだが、彼にとって、愛しい女性は母アマンダ妃だけだったらしい。お陰で、子供の頃から、イチャイチャと愛し合う二人を目の当たりにしながら、次期女王となるべく厳しくマナーや、勉学に励んだ。
「それで、お話とは何ですか?」
父はレオンのことを話題にした後、実に言いにくそうにサーシャを見ていた。
「…ふむ…これからの話だが、もしお前に降りてこなければのことだ…」
意を決めて話し出した父は、神獣のことをいっている。神獣。それはこの世界にとってとてつもない意味を持っている。神の獣達はその力を人々に貸す代わり、人にある魔力を食べるのだ。魔力が大きければ大きいほど、力の有る神獣を従えることができる。父王は、黒龍と契約している。その意味は、他国から武力による牽制にも、領土の繁栄にも影響を与えるのだ。そして、大体の神獣を迎える時というのは、16才までと決まっている。それまでに、神獣と契約できなければ、一生無理だと言うことだ。私は今15才。期限を考える時期ということだろう。深くため息をつきながら、父は言った。
「もし、契約出来なければ、お前はレオンを婿にもらいなさい。」
はあ?と思わず声が出た。今なんと?フェルド候を婿にと?けれど彼の爵位はあってないようなもの。
「彼は、神竜と契約したんですか?」
思わず声が上ずった。許せん。しかし父は緩やかに首を横に降った。
「違う。だが、神獣持ちだ。しかも同時に数体と契約できているのは彼だけだ。それだけでも、資質はあるだろう。」
そう、いいながらも、苦い顔をしている。確かに、大抵の人は神獣と一対一の契約となる。増えれば増えるほど魔力が必要となり、魔力の枯渇は、生命の危機とも言える。2体以上持つ者の魔力はとてつもないと言うことになる。
「確かにそう聞いていますが…本当なんですか?契約されているんですか?」
話には聞くが、疑わしい。それに、父に話は聞いていても、会ったことの無い人物との結婚などごめんだった。ただ、彼のところに居る美しい狼にはあってみたいと思っているが…。彼、フェルド候は一度も社交界に顔を出したことがない。それもそのはずで、自分の領地の近くから離れないとのことだった。深く息をしながら父は言う。
「あいつはいいやつだよ。ただそれは、自分の領地内でしか見せないが。いいやつだ。」
父の言い方に、少しだけ嫉妬した。フェルド候はいいな。父に認められ、わがままも通せる。羨ましい。自分が男だったらもっと違ったんだろうか?だんだんとうつむくサーシャに、
「まあ、竜と契約できれば、そんなことにはならないだろうけど。」
と、肩を竦め軽く父は言った。でも、無理だと思ってるんでしょ?だから、今こんな話をなさったんでしょ?疑心暗鬼の心は、止めることができなかった。そして、気づいてしまった。フェルド候が社交界にでなかったんじゃない。父がそれを許さなかったのだ。自分の懐に入れて、大事に大事に人目から遠ざけて来たのだ。それほど、彼には価値があるのか?ズキリと痛んだ胸の奥に気がつかない振りは、もうできそうになかった。
「わかりました。」
そう、サーシャは頷いた。そして、父を見据えて、
「私、フェルド候に会ってきます。そして、彼が王にふさわしいか確かめてきます。」
そういい放つと、失礼します。頭を下げ部屋を出た。父が何かいっていたがもう聞かないことにした。打倒フェルド候。そう胸に誓い、一路フェルド候領地を目指したのだった。
父ならば、神竜で一っ飛びのところを、馬車に揺られ、おしりがいたくなってきたところでやっとついた領地は本当に狭かった。連れの騎士に聞いたところ間違いないそうだ。煉瓦で、囲まれた屋敷一帯が、質素な花で咲き乱れている。庭園と思われる場所には、小さな四阿屋があった。屋敷横には、馬屋があり、サーシャと同じぐらいの男の子が、馬の世話をしているようだ。庭園の向こうには緑が広がっている。良く観ると、規則正しく並んでいる。畑なのかもしれない。田舎だった。本当にのどかなド田舎だった。狼がみれるかもと馬車の窓に張り付いていたが、無理だったようだ。御者が扉を開けると、護衛の騎士が手を差しのべてくれた。その手に引かれ領内に降り立つ。屋敷からは、美丈夫な執事が出てきていて。慇懃に頭を下げた。どうやらフェルド候の迎えは無いらしい。ふと、そういえば、先触れを送ること無く、訪ねたのだった。フェルド候が居るかどうかを伺い、大きく頷いた執事に客間に通された。彼はどんなひとだろ。急に、あれほど感じていた嫉妬心が萎んでいき、不安が顔を出す。彼は自分との結婚をどう思っているのだろう。サーシャは、自分の考え無しの行動力を呪った。そもそも、彼はこの話を知っているのだろうか?なかなか現れない、屋敷の主に嫌な予感を感じながら待っていた。ところが、何やら部屋の前が騒がしい。どうやら、騎士と誰かがもめているようだ。フェルド候が、この来訪を怒っているのかも知れない。そう思うと苦しくなった。なんだか自分の向けていた敵意が跳ね返って来ているようで落ち着かない。サーシャは、自分が緊張していることに気づかなかった。突然、扉が開き、先程の執事が入ってきた。その後ろには、執事の頭ひとつ分小さな青年が続く。部屋の前に、待たしてい騎士達は微妙な顔をしている。執事について入ってきた青年は、サーシャの向かいの椅子にゆっくりと腰かけたが、サーシャをみることはなかった。執事はワゴンに乗せた茶器を使い、紅茶をいれ始める。その間も一言も発すること無く、うつ向いている青年に困惑する。サーシャは、こんな扱いを受けるのは初めてだった。名前も告げず、挨拶を交わすこと無く視線も合わせない。はっとして、サーシャは立ち上がり、スカート少しつまみ、綺麗に頭を下げ挨拶の礼をとった。
「私は、ジークニア=ウル=キングスレイの娘、サーシャともうします。今日は突然の来訪申し訳ありません。」
と頭を下げた。けれど、やはり青年は動かなかった。暫くして、漸く青年は口を開いた。
「知ってる。ジークがいつもあんたの話してたから。でもなんで、本人がくるんだ?」
そういい、心底不思議そうにしている。やはり、結婚のことを知らないようだ。何だか腹が立ったので、今日父に聞いたことをそのまま伝えてやった。
すみません。本当にごめんなさい。個人の趣味です。




