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007,冒険者ギルド港街ダンズ壁外第一支部



 大きく開け放たれた冒険者ギルドの扉からみえる限りでは、中にあまりひとはいない。

 詳細探知の結果で事前にわかっていた通りだ。

 でも、一階をふたつに分けている受付カウンターのような場所から奥には、冒険者ギルドの職員なのか、人間が何人も机に向かって作業をしている。

 明らかに待合スペースになっている手前側にいる人数より多いので、これから忙しくなるのだろうか。


 少しずつ暗くなってきている冒険者ギルド内は、照明としてランタンが各所に置かれているが、すべて中に入っているのは蝋燭だ。

 しかもまだ火が灯されていないので、ぶっちゃけギルド内は薄暗い。

 それでも大きな明り取りの窓から夕日が差し込んでいるのでマシだが、灯りにすら魔導技術が使われていないのは不便すぎないだろうか。


 無意識に眉間に皺がよっていたのを揉みほぐして気を取り直す。

 不便だろうけど、まだボクにとっては無視できる範囲だからね。

 魔導技能『夜目』なんかを使えば真っ暗闇でも十分視認は可能だし。


 旅装用のフード付きマントを被り直し、冒険者ギルド内に足を踏み入れる。


 冒険者ギルドといえば、テンプレートとともいうべきお約束がサブカルチャーではあるのだが、そもそもギルド内にひとがあまりいないのではどうしようもない。

 そういうお約束が異世界ものでは醍醐味なのだが、仕方ない。


 ちなみに、今回の場合は、先輩冒険者がボクのような幼女か少女かもわからないようなやつが、冒険者をやれるわけがないとかいちゃもんをつけてきて、ボクの力を見せつけてボクすげーといったパターンだ。

 ……まあ、実際にはただのトラブルだよね。

 メラ姉さんに目立つ行動は控えるようにという教えを破ることにもなるし、トラブルを回避できるならそうしたほうがいい。


 ちょっとだけ残念だけどね、ちょっとだけ!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ガラガラのカウンターのひとつの前まで進み、受付の人間に声をかける。


「あの」

「あん? なんだ、嬢ちゃん。ここはおまえさんが来るようなところじゃないぞ。帰った帰った」


 受付にいたのは美しい女性……などではなく、座っていても見上げるような筋骨隆々のクマのような大男だ。

 一応獣人ではなく、普通の人間のようだけど、盛り上がった筋肉がすごい。

 普通こういう場合、受付は綺麗な女性と相場が決まっているのに意外だ。

 まあ、ボクのイメージと違って活気があって、スラムらしくない場所でも一応スラムだから受付を女性にさせるのには問題があったりするのかな?


「街に入りたい」

「あ? 街に入りたいならよそのギルドをあたれ。嬢ちゃんに冒険者なんてつとまらねぇよ」


 取り付く島もない受付の大男。

 冒険者ギルド以外にもギルドがあるようだが、せっかくだから冒険者になってみたい。

 どうにかならないだろうかと少し考えてみるが、ボクの冒険者という職業へのイメージが正しければ、魔獣なんかを狩れる戦闘能力をみせればいいはず。

 実際、ギルド内の端に掲示板のようなものがあり、そこにたくさんの木札が掛けられていた。

 木札には、様々な依頼が書かれており、そのほとんどが魔獣と思しきものの討伐や素材の納品に関することだった。

 冒険者はおそらくあの木札に書かれた依頼を受け、解決することを目的とした職業だろう。


 詳細探知で、掲示板に掛けられている木札の情報はすべて取得してある。

 湖を走って渡ったときに水棲型の魔獣はかなりの量を確保しているし、ひとつくらい依頼の魔獣がいてもおかしくない。

 ただ、問題はどの魔獣が依頼にあるか、だ。

 当然、魔獣の名前なんてまったく知らないからね。

 データベースにある魔獣とボクが確保した魔獣は、一致するものがほとんどないくらいに別物になってしまっているのだ。


 とりあえず、一番美味しそうな魔獣を出してみよう。

 きっと美味しそうな魔獣なら、依頼を出してでも手に入れたいと思うひとがいるはずだ。


 受付のカウンターはボクにとって微妙に高い位置にあるのに、踏み台も椅子もないという不親切さだ。

 でもボクには魔糸という反則技があるからね。


「うお!? な、なんだ!?」


 亜空庫からとりだした、マグロのような肉質と成分を持つ三メートルほどの水棲型魔獣をカウンターの上に取り出すと、受付の大男は驚愕の声をあげて椅子から転げ落ちてしまった。


「な、ななななんで突撃マグロが!?」

「ボクが獲った」

「はぁ!?」


 頭部に堅牢な鱗が集中していて、襲い掛かってきた中でもそれなりに強い魔獣の上に、味も良さそうだったので選んだけど、大男の反応からみても正解だったかな?


「じょ、嬢ちゃんがこれを……? いやまて、というかどっから……そうか! 俺が悪かった。嬢ちゃん、いや、あなたは当ギルドへの入会を希望するということでよろしいでしょうか?」

「ん」


 ボクが取り出した魔獣――突撃マグロを椅子から転げ落ちた態勢で呆然とみていた大男だったが、何かに気づいた思いきや、その態度を一変させてきた。

 もしかして、この突撃マグロという魔獣はそれだけすごい魔獣だったのだろうか。

 まあ、どちらにせよちゃんと受付をしてくれるならそれでいい。


「あの、受付の前にこちらの突撃マグロを一度収納していただけると助かるのですが……」

「わかった」


 さすがに三メートルもある魔獣がカウンターに乗ったままでは、邪魔でしかたないようだ。

 カウンターも微妙にミシミシいっていたし、大男の言葉に従い亜空庫に再度しまっておく。

 亜空庫に突撃マグロをしまったとき、大男の目が鋭くなったような気がするけど、まあ別にどうでもいいだろう。


 そこからは冒険者ギルドの基本的な説明と、非常に簡単な書類記入が始まった。

 冒険者とは、簡単にいえば何でも屋であり、依頼を受けて解決し、報酬を得る職業だそうだ。

 ただ、依頼も簡単なものから、遂行できるものがほとんどいないほど難しいものまで千差万別。

 そういった依頼を難易度別に仕分けるためにも、冒険者にはランクが付けられている。

 それが、あの少々汚れていた男の子が言っていた、木証や鉄証といった単語だそうだ。

 冒険者ギルドに登録すると、まず初めは木証から始まり、これは読んで字のごとく木でできた登録証になる。

 木証は、新米である証だが、それ自体では冒険者ギルドの一員という意味しかない。

 木証の次は、銅証、鉄証、魔鉄証、銀証、魔銀証となっている。

 ランクがあがるとその都度、登録証の材質が変化していく。

 依頼をこなして冒険者ギルドに貢献し続けることでランクがあがっていくそうだ。

 だが、ランク別に仕分けされている依頼も、受けるだけなら木証でも魔銀証の依頼を受けることはできる。

 そのあたりの判断はすべて自己責任となるが、依頼を失敗すればペナルティがある。

 もちろんランクが高い依頼ならペナルティも大きくなり、奴隷落ちなどという目にあうこともあるそうだ。


 というか、奴隷なんて制度があることに驚きだ。

 統一大陸時代には、人権の基本的な保証がなされていたので、奴隷などという人権を無視した制度はとっくに廃止されていた。

 地球の日本育ちのボクとしても、サブカルチャーとしては奴隷は有名でも、やはり実際にそういった制度があると言われると驚きを隠せない。


 まあでも、そうそう滅多に奴隷に落ちることはないという話なので気をつけていれば大丈夫だろう。

 もし奴隷に落ちそうだったら全力で逃げればいいしね。


 冒険者についての簡単な説明を聞き終え、受付の大男が持ってきた木札に記入を済ませる。

 ぶっちゃけ木札に文字を書くなんて初めてだったが、思った以上に書きづらかった。

 しかも、大男は文字が書けるかの確認までしてきたし。

 いや、そういう質問をしてきたということは、識字率が低いということなのかもしれない。

 統一大陸時代だったらありえない話だ。

 当時は、地球の日本同様、義務教育が完全に浸透していて、識字率なんて百パーセントが当たり前だったわけだし。


 そう考えると、今現在の教育環境や人権などの社会制度がうっすらとみえてくる。

 ぶっちゃけた感想は、劣悪、の一言だろうけど。


 まあ、具体的にボクには関係のない話だし、今は置いておこう。


「――はい、確かに。ではこれで登録は完了です。こちらがソラ様のギルド証となります。ようこそ、ソラ様。冒険者ギルド港街ダンズ壁外第一支部はあなた様を歓迎致します」


 木札への記入は、名前や出身地や特技などといったものしかなく、名前以外は未記入でも問題ないそうなので、名前だけ記入して出してみた。

 言葉通りにそれだけで問題なく、こうしてボクは冒険者になることができたらしい。

 冒険者の証となるギルド証も、冒険者ギルドの名前と支部名の焼印が入った木製の板に、ボクの名前が書いてあるだけの非常に簡素なものだ。

 サブカルチャーではお馴染みの冒険者になれたのに、あまり実感がないのは手続きが簡単すぎるし、ギルド証があまりにもしょぼいからだろうか。

 まあ、依頼を受けたりすればあとから実感できるものなのかもしれない。

 今はそれよりも、聞きなれない単語についてだ。


「ダンズ?」

「はい、この港街は名をダンズといいます。そして、ここはダンズの石壁の外にある街、通称壁外と呼ばれています。ご存知ありませんか?」

「知らない」

「そ、そうですか……」


 街の名前なんて初めて聞いたからね。知らないものは知らない。

 ただ、それなりに有名なのか、大男のがっかり具合はみてわかるほどだった。

 でも、そんなにがっかりされてもなぁ。



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