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017,初仕事



 ちょっとドキドキしながら初仕事の朝を迎えた。

 決して昨日の富裕層への覗き……情報収集ですごいものをみたからじゃないよ?


 呼びにきたミネルバとともに食堂へと行き、昨日と同じメニューの朝食を摂ってから荷物を回収するために街の門へ向かう。

 昨日と同じ朝食といっても、スープに入っている具がちょっと違っていたり、ジュースに使われている果物が違っていたりと、変化はある。

 でも、総合的な評価はかわらないので大した問題ではないだろう。

 やはり、調味料が問題だ。

 ボクのためにも調味料をなんとかしてほしい。

 もし、ムーンシーカー島の復旧が進んだら、調味料を大量に生産して安価で卸したいくらいだ。

 そうすれば毎日美味しいものが食べられるだろうし。


 ミネルバとの契約もあるし、新鮮な魚介類がとれるダンズならしばらくは滞在するだろうけど、その間に調味料を大量生産できるだろうか。

 やはり魔石や物資の入手量次第か。

 購入するためのお金も必要だし、まずは今日の仕事に集中するとしよう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「では、こちらの荷物を頼むよ」

「わかりました。既定の量に収まっていますね。ではお預かりします」

「ああ、よろしく」

「ええ、おまかせください」


 港街ダンズの門の近くには、荷馬車が三台ほど待っていた。

 荷台には収納大袋に包まれた木箱が入っており、その中に様々な物資がうまく詰め込まれている。

 木箱の空きスペースを無駄にしないように、かなりギュウギュウに詰めたようだ。

 亜空庫に入れてしまえば、運搬中に木箱へ負荷がかかることはないからできることだろう。

 荷馬車一台につき木箱二箱が積まれており、合計五箱分が今回の運搬量になる。

 こうしてみると、結構な量にみえるが、亜空庫に仕舞ってしまえばなんてことはない。


「じゃあ、ソラさん。あの五箱をお願いね」

「わかった」


 ミネルバの挨拶が終われば、ボクの出番だ。

 荷台がちょっと高くて手が届かなかったので、車輪に足をかけて収納大袋に包まれた木箱に触れていく。

 亜空庫へ収納するには、こうして触れる必要があるが、ボクの場合は魔糸でも同じことができる。

 でも、魔糸については話していないし、手の内をこんなところで晒す必要もない。

 五箱すべて収納し終われば、荷物の持ち主の男が感心したような顔をしているのに気づいた。

 ボックス持ちは貴重らしいからね。

 大荷物があっという間に消えてしまう光景はそれなりに見ものなのだろう。


「聞いてはいたが見事なものだねぇ。収納大袋五袋を収納できるのは一流のボックス持ちの証と言うが、いや大したものだ」

「ええ、うちの(・・・)ソラさんは一流ですから」

「ははは。心配しなくてもとったりしないよ。それよりもこれからもよろしく頼むよ」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 どうやら収納大袋五袋を収納できれば、ボックス持ちとして一流らしい。

 そういえば、ミネルバは三袋が一般的だといっていたっけ。

 まあ、一流といわれて悪い気はしないし、契約上も五袋なんだから問題ない。

 それよりも、今のちょっとした会話でも、商人として牽制をしているのだからなかなか商売は大変だ。

 でもその辺はミネルバが頑張るところだから、おまかせしておこう。

 商売のイロハも知らないボクがしゃしゃり出ても邪魔になるだけだし、何よりそんなに喋れないもの。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 荷物を収納したあとは、ミネルバが門の横に併設されている大きな厩舎から毛深いダチョウのような鳥を連れてきた。

 どうやらこれに乗って迷宮まで行くらしい。


「ソラさんは紹介するわね。この子はパーニックスのミーグス。私の愛鳥よ。パーニックスに乗るのは初めてかしら? 大丈夫よ。この子は特に大人しいし、私のいうことをよく聞くいい子だから。安心してね」


 騎乗用鳥型魔獣パーニックス。

 ダチョウのような巨体を誇り、空は飛べないが騎乗用の魔獣の中でも速度と体力に優れているそうだ。

 ダチョウよりも羽毛の量が多く、首より上も毛に覆われいる。

 正確は穏やかだが、肝も据わっており、弱い魔獣程度が空いてなら訓練をせずともパニックになることはない。

 力は馬などに劣るため、馬車などを引くのには向かない騎乗専用の魔獣なのだそうだ。

 ミネルバが連れてきたミーグスは、見上げるほどに大きく、体高は二メートルを遥かに超えている。

 白を基調に、黒い模様がなかなかに格好いい。


 パーニックスのように、人間に飼いならされている魔獣は結構いる。

 街の中でも、荷馬車などを引いているのは馬よりも魔獣のほうが多いくらいだ。

 馬はどちらかというと、高級な馬車などに使われていることが多いようだ。

 それぞれに見栄えや得手不得手があり、適材適所で使われているのだろう。


 ミーグスは、普段ダンズの街の厩舎に預けていて、必要なときに連れ出しているそうだ。

 商談で別の街に行くことはよくあることなのだそうで、そういったときにミーグスが活躍していたのだとか。

 ボクたちがこれから向かう迷宮は、馬車で向かうと三時間ほどかかるが、パーニックスなら一時間でつくらしい。

 舗装すらされていない土を踏み固めただけの道を行くので、馬車はどうしても速度を出せない。

 その点、パーニックスなら悪路も苦にしないし、スラっとした細身のミネルバと、幼女寄りの少女であるボクなら、合わせても一般的な成人男性くらいの重量しかない。

 三倍の差が出るのも頷けるというものだ。


「さあ、行きましょう。ソラさん、乗って」

「ん」


 体高二メートルを超えるミーグスに乗るには、馬以上に大変かと思ったが、脚を器用に畳んでしゃがんでくれたので楽ちんだった。

 鞍もしっかりとふたり乗り用のものを装着しているので、ミネルバの後ろに腰掛けると、彼女の合図とともにミーグスは立ち上がる。

 一気に高くなった視点は、普段見慣れているものとはまた違った光景をみせてくれる。


「すごい」

「ふふ、でしょ? じゃあしゅっぱーつ!」


 ミーグスの背は広く、ふたり乗り用の鞍を載せても十分な広さがある。

 そのためか、後ろの席には掴まるための取っ手があり、ミネルバの腰に手を回して掴まる必要はない。

 ちょっと残念なような、そうでないような。

 まあ、一時間も密着したままというのもどうかと思うし、気楽でいいだろう。


 ちなみに、ミーグスの羽毛はふわふわで鞍なしでも乗れそうな気がするほどだった。

 いや、さすがに無謀かな?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 始めは並足で速度を抑えて走っていたミーグスだが、どんどんと速度を上げていき、迷宮へ続く道を歩く冒険者たちを次々と追い抜いていった。

 朝早くから冒険者や荷物を満載にした馬車などが、大勢迷宮へ向かっている。

 そんな彼らをごぼう抜きにして駆け抜けていくのはなんとも気持ちがいい。

 ちょっとした優越感に浸りながら、通り過ぎていく人間と景色を眺めていたが、十分も走ればだんだんと飽きてくる。


 港街ダンズは、聖竜湖と広大な草原と挟まれた地形に位置しており、迷宮が発見された森までは、しばらくの間草の海しかない。

 時折、大きめ岩やちょっとした丘などもあるが、基本的には草原だ。

 森まで続く道は、迷宮発見から一ヶ月の間に整備が進み、今では魔獣避けにも使われる薬なども撒かれて、比較的安全になっているそうだ。

 それでも、確実に魔獣がよってこないかといえばそうでもないらしいが、大勢の人間を襲うほど魔獣も馬鹿ではない。

 朝は特に迷宮に向かう冒険者と、それに便乗する荷馬車の群れなどで、大所帯になるため安全度がかなり高い。

 夕方なども迷宮から帰ってくる人間たちで朝同様の規模になるため、安全だそうだ。

 一番危ないのがその間の時間帯となる。


 ただ、ボクたちはすでに朝の大所帯から抜けて先行してしまっている。

 そうなると、魔獣の格好の獲物となるのだが――


「心配いらないわ! ミーグスの速度についてこれる魔獣なんてそうそういないもの!」


 パーニックスは足が速い。

 しかも、普通は何かしら荷物を載せて走らせるものだ。

 特に魔獣がいる外に出るのだから、最低でも武器や防具を身に着けているので、重量がさらに増していることが多い。

 だが、ボクたちの場合は、ミネルバは商人なので軽い短剣に鞄をひとつだけだし、ボクはボックス持ちなので手ぶら。

 成人男性ひとり分程度の重量しか乗っていないのだから、さらに早く走ることが可能となっている。

 元々、魔獣を相手にするつもりは毛頭ないので、逃亡前提なのも効いているだろう。

 そんな状態だから、人数の少ないボクたちを狙って追いかけてきた魔獣は追いつくどころか遥か後方に置き去りだ。


 まあ、一応念のために魔糸を使って四肢を切り飛ばしたり、脳を貫通させたりしてこれ以上追いかけてこれないようにしておいた。

 もちろん、死骸は魔石をくり抜いたら緑の海にポイしてある。

 ミーグスの足に自信があるミネルバは、後方をほとんど振り返らないので、その様子をみてはいないけど。


 たまに追いかけてくる魔獣の相手をして暇を紛らわせていると、目的地の迷宮がある森がみえてきた。

 周辺探知の距離を拡張して捉えた情報によれば、森の中に入って数キロの地点が大きく切り開かれており、そこに大勢の人間がいる。

 そして、その中心には特殊な魔力パターンを捉えることができた。


 あれが、ボクたちの目的地――迷宮だ。


 森の中に入ると、さすがに速度を落とし始めたが、それでも徒歩や馬車なんかよりはずっと早い。

 すぐに迷宮を中心とした切り開かれた場所がみえてくる。

 そこには、ちょっとした村ほどの規模もある建物の群れが待っていた。



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